第2章 決 算1
(1)決算と営業年度
 企業は営業年度末ごとに,その間の純損益を計算し,期末の資産,負債および資本の状態を明らかにし,帳簿を締め切って,当期と次期の記録内容を区別 し,損益計算書と貸借対照表を作成することになる。この計算の事務的手続きを決算という。
 企業の営業年度とは個人企業の場合は,歴年による年間を営業年度と定められて,事業所得税の確定申告を行うことになっている。この年度を別 の呼びかたとして,会計年度,事業年度ともいうが,何れも同じことで,決算日から次の決算日までの期間のことである。
 法人企業は,その会社の定款によって定めているが,年1回もしくは2回が普通 である。
(2)決算の手続き
 本年度の利益金はどれだけか,赤字にはなっていないか,すなわち決算期までの取引内容について,総売上高がいくらで,仕入材料費や人件費,諸経費の合計はいくらか,こうした普通 営業の取引内容のみの合計額が,そのまま決算額ということであれば,決算の手数はかからないが,これだけでは正しい決算額とはいえない。その期に属する未収,未払の分や収益,経費なども計上していないものもある。例えば商品,材料などの在庫有高が帳簿残と一致しているか,またその価格の面 はどうか,各種の設備,備品など購入当時の価格と同じく評価するわけにはいかない。その他,全資産,負債の内容を調査することが重要であり,こうした棚卸調査によって正しい評価に修正しなければならない。この修正事項を一般 の取引額に増減して最終残高,すなわち決算額を算出することになる。この手続きの計算を決算の手続きという。
 手続きの項目を次に区分してみる。
1.予備手続
@ 試算表(一次)の作成
 前記したとおり,一般営業取引の合計内容が正確に計算されているかどうかを試算してみる。
A 棚卸表の作成
 全ての資産,負債の内容について調査評価してまとめる。
B修正記帳
 棚卸の結果,帳簿残高と異なる事項や未記入事項などを修正して記帳する。
2.本手続
@ 最終残高試算表の作成前項の修正された残高表を再度試算する。
A 帳簿の締切り 主要帳,補助帳の全部を整理し締切る。
B 損益計算書の作成試算表,元帳の内容から損益性のもの,すなわち収支計算の部をまとめて損益計算書を作成する。月別 集計表の最終残高の収支計算の部に属する勘定科目の内容である。
C 貸借対照表の作成前項の要領のとおり,全資産,負債,資本の内容をまとめて貸借対照表を作成する。月別 集計表の財産計算の部をまとめることになる。最後に,元入金計算書を作成する。法人企業は剰余金計算書,剰余金処分計算書などの財務諸表を作成し,新事業年度への繰越記帳を実施することになる。
(3)決算の修正事項
 前記の棚卸表に整理された,勘定科目のうち内容の変化があったもの,未収,未払のもの未記帳のものなど修正して記帳するが,その主なるものを,次に例記してみると,
 主なる修正事項
@ 商品,材料,消耗品(棚卸価値のあるもの)などの整理
A 固定資産の減価償却の計算
B 売掛金,その他の債権に対する貸倒れ見積額の計上
C 従業員の退職給与引当金などの計上
D 経過勘定の修正記帳
E 各種の準備金,引当金の計上
F 現金過不足の整理
(4)決算諸表
 帳簿整理が終わると,損益計算書と貸借対照表を作成することになる。損益計算書は損益勘定をもととして作成され,貸借対照表は資産,負債ならびに資本勘定の残高をまとめて作成することになるが損益の差額と資産負債の差額は一致する。この差額は純利益金または純損失金の額である。
1.損益計算書
 本年度はどれだけの利益金がでたか,また損失になっていないかを計算する書表を損益計算書という。利益の部(収益)と損失の部(損費)を左右に対比して記入するが,元帳で損益性の勘定科目のみをまとめて作成する方法と試算表もしくは直接損益計算書で求める方法がある。何れにしても右側,貸方の方に利益関係の科目残高が計上され,左側,借方の方に損失関係の科目残高が計上される。その差額を合計の少ない方に記帳して左右合計を一致させる。利益の方が多ければ利益金勘定として損失の方に計上することになり,損失欄が多ければ当然当期損失金として利益の方に計上して合計を一致させることは前記したとおりである。
 損益計算書の書式に報告式と勘定式の二とおりがあり,報告式は各項目を上より下にならべ加算,減算して最下段に純利益金(または純損失金),所得金額を示すものである。勘定式は左右の両側に対比して表示する方法である。別 表を参照されたい。
2.貸借対照表
 貸借対照表は損益計算書とちがって,営業年度末時点すなわち12月31日の財産の状態,具体的には,資産負債調査の表で,それぞれ借方(資産)貸方(負債ならびに資本)欄に科目金額を記帳し,現金残高はもちろん資産の方に記帳し,前記損益計算書の純利益金(または純損失金)を加算して合計を一致させる。資産の部が多い場合は負債の部の下段に純利益として計上し,反対に負債,資本の部の方が多い場合は当期損失金として資産の部の方に計上することになる。貸借対照表の書式も上記のとおり報告式と勘定式があるが別 表を参照されたい。また小規模企業の場合はこの貸借対照表を資産負債調ともよんでいる。
3.財務諸表と元入金計算書
 企業は前記したとおり,1か年間を営業年度と定め定期的に決算を行い,その営業の成績を各種の表にまとめるが,これらを総称して財務諸表といっている。前項で述べたとおり,年度内の営業利益の状況をみる損益計算書,財産の状況をみる貸借対照表があるが,法人企業の場合は別 途に剰余金計算書,剰余金処分計算書その他の明細書などを必要とするが,個人企業の場合は,そのような規則的なものはないが元入金計算書については,作成することが重要であろう。前年末の元入金額に対して本年度計の利益金や事業主貸借の額を加減して本年末の元入金有高をみるものである。書式は次の内容が標準となろう。

元 入 金 計 算 書

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