生活衛生営業の経営診断 4
(1)はじめに
 店は利益金をできるだけ多く得るために,あらゆる営業の活動を展開する。その営業活動の中心はもちろん販売であるが,売るためには条件よく商品や材料を仕入れ,評判のよい技術とサービスが必要とされる。
 こうした販売活動から得られる収益と仕入活動による商品仕入代やその他の費用の支払いが発生してくる。この他,従業員の給料,営業活動に必要な資金の借入に対する利息の支払い,店舗に要する家賃,修繕費,保険料並びに水道料,光熱費など利益獲得について直接働く経費や間接的な経費などを区分して利益計算をするものが損益計算書である。
 まず販売活動によって得られる売上高から仕入活動の結果,発生する売上原価を差引いた額を荒利益(売上総利益)という。
 続いて商品仕入,材料購入の売上原価以外の営業上の費用を前記の荒利益から差引して営業利益を算出する。
 次に直接営業活動と関係のない営業外の損益や預金の受取利息,借入金の支払利息,車輛の売買損益などを前期営業利益より差引して経常利益を算出する。
 最後に必要経費とならない所得税などを差引して純利益を求めることになる。
 この純利益が店主のふところに入る純然たる利益金という。
 損益計算書は,以上のような過程を経て一定期間における店の営業活動の成果 を明らかにし,収益と費用を表示して期間中の利益金を算出し,この利益の生まれる経営を記録したもので,その経過を分析検討することによって,さらに無駄 を省き合理化を図れば,一層利益を増加することになる。
 これが損益計算書を診断する目的で,収益性の分析という。
(2)各種利益金の判定
 前期のとおり売上によって,どれだけの利益金が出たか,各段階ごとの利益が区分されて算出することができるか,各段階ごとに,その利益の能率を測ってみよう。
 次表の事例を中心に荒利益,営業利益,経常利益及び純利益の比率を求めて,検討してみることにする。
@ 荒利益の判定
 荒利益とは売上高より材料費(販売業は商品仕入)を差引きしたもので付加価値ともいう,利益計算の第一の門といえる。
 売上に対する荒利益の百分比をもって判定するが,これを荒利益比率といい別 に粗利益率,売上総利益率ともいう。
 荒利益率 = 荒利益額 ÷ 売上高 × 100%
 事例の数字を取り上げてみると,
 700万円 ÷ 1,000万円 × 100% = 70%
 基準65%以上(業種によって相違する)
 同業種店の平均値や前期と比較し,さらに基準以上に努力していかねばならない。また仕入条件やその他の原因を探究する必要がある。事例は70%であるので基準より上回っているので良好といえよう。
A 営業利益の判定
 これは通常の営業活動をとおして,いくらの利益の歩留りがあるかを見るもので,一般 の営業経費を支払った残額であるので,前段の荒利益率より一層正しい意味の利益判定といえる。
 営業利益比率 = 営業利益額 ÷ 売上高 × 100%
 200万円 ÷ 1,000万円 × 100% = 20%
 基準15%以上といわれるから事例は良好といえよう。
B 経常利益の判定
経常利益算出は一般の営業経費を差引した残額になお直接営業(本業)以外の特別 収益,特別損失などを加減した残額で税引前の利益金であるから通常でいう利益金と考えてよい。
経常利益比率 = 経常利益金 ÷ 売上高 × 100%
150万円 ÷ 1,000万円 × 100% = 15%
基準は10%以上となっているので,事例は一応良い方である。
特に経常利益算出については,営業外の損益の加減であるので,営業外について検討する必要がある。
C 最後の純利益の判定
純利益とは店主の手許にのこる利益金で税金(所得税,住民税)を差引した残りである。
もちろん店主の給与すなわち生活費が含まれることになる最後のしめくくりというだけで対外的にはあまり意味がない。
売上純利益率=純利益 ÷ 売上 × 100%
80万円 ÷ 1,000万円 × 100% = 8%
基準5%として,事例8%の純利益率は良い成果といえる。

損益計算書事例

単位万円

(3)営業費の診断
 営業費について,第7.費用のつかみ方の項でも述べているが,ここでは前記の各利益金算出の段階における営業費比率に含まれている営業費内容を中心に述べることにしたい。
@ 営業費比率
 荒利益率はよかったが,営業利益率が下がっているとすればこの営業費を検討してみなければならない。営業費とは,普通 に販売一般管理費ともいう。一部は固定経費となり一部は変動経費であり,金融費などの営業外費用は除かれる。営業費のうち,特に重要だと考えられる給料賃金,家賃,減価償却費などの固定経費は経営判断の対象になる重要な費目である。
 営業費比率 = 営業費 ÷ 売上高 × 100%
 500万円 ÷ 1,000万円 × 100% = 50%
A 家賃の診断
 家賃は土地,建物の賃借料で,不動産費用とも呼び,駐車場使用料,倉庫など附属設備の借用料を含む。
 設備に関する経費なのでこれに減価償却費を含め,人件費,材料費の三つを飲食店の場合は三費といっている。
 売上賃借料比率 = 家賃 ÷ 売上高 × 100%として,5%以下にありたい。
B 減価償却費
 減価償却費は営業費のうちでも金額はかなり多い方で,かつ設備投資の内容を示すものとして重要な事項であるので常に注意を払ってほしい項目である。
 一般設備10年,什器備品5年と平均耐用年数を頭に浮かべると,おおよそ経営上の判断ができる。
 売上対減価償却費比率 = 減価償却費 ÷ 売上高 × 100%
 一般的に損益計算書によって,減価償却診断については次の点に注意してほしい。
(イ)償却方法は定額法,定率法いずれがよいか。
(ロ)正しい方法,すなわち耐用年数,償却率など正確に計上しているか。
C 金利の診断
 金利は営業外費用の中にふくまれるのが普通であるが,重要な内容であるから常に注意して正常な経営のあり方にもっていかなくてはならない。手形割引料をふくめて利息割引料として勘定科目は設定している店が多い。
 売上対支払利息率 = 支払利息 ÷ 売上高 × 100%
 基準として3%以下とされたい。
 特に金利で気を付けたい点は折角営業ルートを持ちながら過小資本のため金融政策のまずさから,一般 的な高利の金にたよっているものがあるが,正常な金融機関を活用するようすすめたい。
 営業費の中で最も重要なものは,人件費であるが特に労働生産性,労働分配率などについては費用の分類の項を参照されたい。
(4)利 益 率
 営業の収益増減の原因について二つの方法で求めることができる。
 まずその一つは,売上高対純利益の率で,利益は売上高の何割に当たるかということを見る比率で,もちろんその率を高くすることが必要であろう。
 次の二つ目はその使用資産すなわち投下された資金に対する純利益の効率を見るもので,総資産額に対する純利益の割合である。
 この二つの問題を更に深く掘り下げていけば,これらの企業の収益増減の原因はおおよそ把握されることができよう。
 こうした原因をつかめば,当然その店の営業対策の方針は考えられるので,この総資産対純利益率が最大で最終の見方として意味があり,また重要視されているのである。

 

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