生活衛生営業の経営診断 5

 前述の分析の方法のところで常識的な項目をあげてみた。またその診断の作業のものさしとして,実数法と比率法を説明したが,比率法が最も多く使用されており,次にそれらを中心に述べることにしたい。

(1)支払能力の判定
 支払の能力とは短期借入金,買掛金その他の経常費支払について,その準備が出来ているかどうかを見るもので,その方法として流動比率と,当面 の支払能力に対する当座比率(当座とは預金など現金と同じ性質のもの)に分けることが普通 とされている。
 そこで流動負債(買掛金や一時借入金のように早い機会に支払わなければならない債務などのこと)に対して,どの程度の流動資産(現金や銀行預金並びに売掛金などのようにすぐ現金化される資金などのこと)があるかということを百分率で見ることになり,これを流動比率といい,次の算式であらわされる。
 基準は150%(業種によって異なる)以上とされ,この比率は,特に基本となる重要な比率項目といわれるもので細かく基準を求めてみると,
 150%以上は優良な経営で
 150%以下は普通
 なお100%以下は経営について注意を必要とされることになる。
 即ち流動資産は流動負債の2倍程度になることが理想だといえる。もちろん店の規模や業種によって若干の違いはあることは当然であろう。
 別表実数で例をとってみると,

貸借対照表事例
平成 年 月 日現在 (単位万円) (報告式)

当期利益金は元入金にふくむ。
 この事例は基準割合より以下で支払うべきものが多くてその準備ができていないことになる。また流動比率がよいとしても,その支払までには時間的に若干の日時を要する内容のものであるとすれば,急ぎの支払には支障をきたすこともあり,こうした場合の判断比率は現金比率をとることになる。これを当座比率ともいう。
 返済や支払いすべき額250万円に対して,すぐ支払の準備ができるものは,現金,預金を合わせて70万円であるから28%の割合しかないといえる。
(2)売掛金と買掛金のバランス
 売掛けと買掛けのバランスを見るには,次の売掛仕入比率というものを使う。正確には売掛債権,仕入債務比率という。掛買仕入と掛売の対照を見るもので資金繰りを左右する両極となるもので,この比率の良し悪しも支払能力に大きな影響を及ぼすので,この動きについては絶えず注意をする必要がある。
 基準を100%以上とすると例題ではやや悪い比率になる。売掛債権には受取手形をいれ,仕入債務には,当然支払手形を加算することになる。社交業のように業種によっては売掛がわずかの間に多くなる店もあるのでこの項目についても特に注意を要したい。
(3)設備投資の限度の判定
 設備投資の限度はどれ位か,いったん設備をしたらそれを縮少することは困難である。不況の場合を考えて,資金繰りを十分検討しておかなくてはならない。この判定には次の固定比率を用いて判断することになる。
 基準は100%以上
 自己資本と固定資産の百分比である。即ち投資は自己資本の範囲内でまかなうのが常識である。借金で設備をすることは,なるべくさけたいものである。やむを得ない場合は,せめて長期かつ低利の資金を利用することは,当然である。設備資金には利息がかからないものが良い。  すなわち自己資本の範囲内が理想であり,万やむを得ない場合は,次の固定長期適合率において検討していかなくてはならない。
 約半分の割合である。固定設備の半分は他人資本,すなわち借入でまかなっていることになる。
 例えば飲食店はこうした例は多いのであるが,この借入金は長期的なものが理想である。その判定がこの固定長期適合率である。
 もちろんその基準は100%以上としたい。いまの算式に例題の実数をあてはめてみると,
 基準を100%とすると,やや悪い比率といえよう。
 またこの算式を反対にすると次のとおりになるが,この場合は,基準割合はもちろん以下とする。
(4)負債の限度の判定
 普通の店舗で借金のない店は少ないようであるが,この借金はどれくらいまでが安全な限度かということは,なかなかむずかしい問題である。 一応基準となるものも考えてみよう。負債総額に対する自己資本の百分比をとると,
 即ち負債比率なのでその算式は
 例題の算定は,
 45%になるので,やや悪い感じといえる。
 これを負債過多といって,もう少し自己資本増強対策を講じていくべきであろう。
(5)資産の構成割合の検討
 折角,調達された資本が,形を変えてどのような資産内容となって稼働されているか,一部にかたよっていないか,均衡が保たれているかどうか,固定設備を中心とする企業態は,この問題は一般 的には非常に説明が困難で具体的判定が下しがたいが,その規模,業種によって若干の相違はあっても,資本負債比率や固定比率等から検討して最大限に固定資産は総資産の100%以内ということが言えよう。
 次に比率法によって,いままでの項目から検討して理想的な貸借対照表を作成してみる。
(6)比率法の理想基準について
 例として飲食店等について理想とされる貸借対照表を求めてみよう。
@ 自己資本は50%とした。
A 固定長期適合率を100%とする。
B 固定資産は総資産額の75%として,自己資本と固定負債額の合計額程度とした。
C 流動資産と流動負債額を同額程度としてみた。

理 想 基 準 貸 借 対 照 表 例

(単位万円)

 

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