生活衛生営業の経営診断 6
(1)均衡をたもつ成長性
 売上が増加していれば,その企業は成長しているということになる。しかしこの成長に均衡成長と不均衡成長と名付けられる二つのものがあり,すなわち売上の伸びと使用資金の増加とが均衡を保ちながら企業の発展をつづけていく場合,均衡成長と呼ばれ,売上高の伸びを使用資金量 の増加が超えた場合には不均衡成長といわれ,売上高の上昇率を資産の増加率が超えては折角の売上の増加が収益性の向上に結びつかなくなる。売上対純利益率が低下の傾向にある場合だけに特に重要だといえる。
 いうまでもなく,設備の改善やその他の企業発展のための設備投資が,一時この現象を招くことがあったとしても,長期の計画で何年か先に必ず均衡成長に戻るという確信がある場合において初めて,一時的な不均衡成長と認められ,売上の伸び率(増加率)が投下資金量 の増加率を越えている場合を最高成長ということができる。
 不均衡成長になるのは,例えば売上高を伸ばしたいため販売促進の面のみを重視して,その内容を軽視したり,売掛代金の回収を怠ったりすると,売上は異常に伸びていくが,悪い結果 を招く原因になり,また必要以上の内装,外装工事や,設備増加をすると,いたずらに資金を寝かせる結果 になるといえよう。
 売上高の増加率を資産の増加率が上回り,その結果は使用資金の効率が悪化して諸経費もかさみ,企業の健全性がそこなわれることになり,だからたとえ売上高が増加していても,資産の増加が売上の増加を上回れば,不均衡拡大であり,正常な営業状態とはいえない。こうして企業収益は当然低下の傾向をたどると赤字経営に転落していくことになる。
成長均衡の状況のA表

 上の表をみてもわかるように基準年度平成元年のA店,B店,C店はいずれも資金総額1千万円で,その売上高は同額で2千万円とする。
 2年目,3年目の状況はそれぞれ検討されたい。ここでは5年目,平成5年度の内容について述べてみよう。
 すなわち,3店それぞれ同額の投下資本で開店したが,A店はその資産総額を3千万円として3倍の増加となった。B店も同じく4.5倍,C店も6倍の伸び率である。
 これに対して売上高はA,B,C店とも同額として5倍の売上増となり,即ちA店は売上高5倍増に対して,資産増は3倍程度でおさえることが出来ているから最高成長店舗といえよう。反対にC店は売上高は5倍に伸びたがその反面 資産増加率はそれを上回って6倍であるとすれば,あまり良好なる結果でないことは明瞭である。
 B店はもちろんその中間店として,売上高増加率5倍に対し,資産増加率はわずかながら下回って4.5倍,一応均衡成長といえる。
(2)異常な設備は反省を
 前記のとおり不均衡状態が続くと資金的に苦しくなり,必要以上の経費も増大することになり,これらは何れも売上高の増加に対して,その反面 設備投資の異常な増大である場合が多く,もちろんこうした固定資産過大だけでなく,売掛誘発や不良在庫誘発なども原因である場合が多い。次表の設備投資,売上異常増加に伴う状況のとおり,不均衡成長となると,次にはかならず赤字を生み,資金繰りが悪化する。当然ながら借入金の返済,商品,材料の買掛金の支払遅延となる。
 1年,2年と損失金が継続することによって,支払不能,当座手形の店舗は不渡をまぬ がれない。すなわち倒産となる。
 縮小再建のうきめをみることになるので,十二分なる反省検討が必要で,これが経営の自己診断,予防対策といえよう。

設備投資,売上異常増加に伴う状況

(3)理想的な成長性を
 再び成長均衡の状況について次表のB表を参照されたい。設例を掲げてみた。平成2年を基準年度として,3年度は売上増加率120%,資金総額増加率120%で可もなく不可もない順調であったといえる。
成長均衡の状況のB表

 4年度は売上高が150%,資産増加が120%であるから理想の成長と考え,5年度は使用資金効率がやや悪くなってきた。設備投資の限界が考慮されず,好況のあまさが悪さを生んだ結果 と見てよい。もっとも固定投資が行なわれた年度は悪い数字が見られるが,これは平成6年度を見なければ結論を出すわけにはいかない。
 企業がおかれている最近の経済環境は急速に悪化をたどっているといえよう。かかえている問題点はあまりにも多い。激しい競争の社会であり,変動する業界であり,当然ながら,自分の営業は自ら維持,存続と発展のために努力していかねばならない。売上高,投下資本,利益,人員,設備などの成長,増大を成長性の側面 として検討していくことが重要である。

 

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