生活衛生営業の経営診断 7

 企業経営の費用をいろいろの立場によって分類することができる。
 先ず何といっても最初にあげるものは仕入もしくは材料費と人件費であり,次に営業販売費それに一般 的な管理費として四つに大別することができる。
 借入金など他人資本を必要とする店はその金融費が別に入用になり,仕入れ材料は必要以上に節約することは困難であろう。人件費と販売経費はおしまずに,管理費や金融費は極力制限することが普通 の考え方だといえる。
 販売対策のための広告費,例えば従業員募集のための広告,類焼見舞の広告費などは,いずれも広告費として処理してもよいが,つき合い上必要な広告は初めから管理費または交際費となる性質のものである。
 人件費は固定給を固定費に,臨時歩合の給与を変動費用として分類することが理想である。このような諸経費について次の表のとおり分類してみると,@の分類は財務諸表準例によったものである。
 Bは最近はとくに損益の分岐点を算出するため活用されている。Aの分類を内容的にはすすめたい。

 

 

(1)固定経費と変動経費
 固定費と変動費は,それぞれの性質がまったく相反する経費といえる。変動費は売上の増加に関係して増加する経費であるが,固定費は営業の変化や大小に関係なく発生する費用である。そのかわり売上高が多くなると割安になるという面 もある。
 このように利益を左右する重要なポイントになる費用であるから,したがって,固定費を割安にするには,上手に使って売上げを増加させるとともに,具体的な売上目標をたてて,できれば現在の固定費の範囲内で賄うよう努力することになる。しかし固定費のなかでかなりの部分を占めるのは人件費であるということを忘れてはならない。
 以上の二つの費用の性質について,実際的にまた具体的に分類しなければならないが,サンプルとして,H料飲店の平成6年度収支計算書を別 表のとおり,分割の割合基準を定めて計上したので研究されたい。
@ 水道光熱費,冷暖房費
 これは調理に関連して売上高に影響する変動費であるが,管理を厳格にすれば十分にムダを省くことができ管理可能な経費と考えられる。
A 消耗品費,備品費,衛生費
 これらは接客に関連し,売上に関係して変動する経費で管理を厳格にすれば前記のもののようにムダが節約されるので管理可能費といえよう。
B 宣伝広告費,接待交際費,音楽諸経費,組合費
 これらの項目は,広い意味では宣伝費的な経費で,その金額は政策的に決めるべきものであり,売上高と関連して決める変動費ではなく固定費と考えることがよい。
C 旅費,交通費,通信費,サービス費,研究費,租税公課,雑費
 これらは変動費とも固定費ともつかないもので,またムダを省くことはできるので,管理可能費とも考えられる。
D 地代家賃,固定資産税,減価償却費,支払利息,修繕費,保険料,開業費償却
 これらはいずれも完全なる固定費で店を休んでも休まなくてもかかる経費といえる。
即ち,@は変動費で管理可能経費である。Aは同じく変動費で管理可能経費。Bは固定費で政策費といえる。Cは変動費と固定費ということになるが,管理不可能費といえよう。Dは完全に固定費である。
(2)人件費の分析
 人件費は,経費のうちでも最も大きなウェイトを示している。日々の売上げの多少にかかわらず,また家族者の従事についてもやはり毎月固定的な経費として正しく把握し,営業年度の当初より人件費計画を樹立しておく必要がある。
 そこで小規模店においても,他人を採用するについては,その給与体系が必要となり,従業員個々の支払賃金を決定するについて,いろいろとその要因の組合せをして月収いくら,または手取りいくらということが普通 のようである。
 賃金体系を改善する場合は,詳細に現状を分析して,問題点,改善すべき点をしっかりとつかみたい。次に人件費が営業費の中にどれだけの割合を示し,また従業員1人当りの利益はいくらか,などを分析検討することは最も重要なことである。
 ここでは料飲店の事例を示して説明してみよう。例題数字としては,
売上高100万円
材料費 30万円
荒利益 70万円
人件費 28万円
 人件費は経営者をふくめて4名とし平均7万円の計算とした。

H店平成6年度収支計算書による分割基準表

(単位:千円)

@ 労働生産性
 労働生産性とは1人当りの荒利益のことで,別の言葉で付加価値ともいう。売上原価以外の諸経費を従業員数で割ると1人当りの付加価値が算出される。
ここでは荒利益 ÷従業員数としてみよう。
70万円 ÷ 4名 = 17万5千円となる。
A 労働分配率について
 労働分配率は荒利益の中に人件費の割合はいくらかということである。
総人件費 ÷ 荒利益額
28万円 ÷ 70万円 = 40%
即ち荒利益の中から人件費にどれくらい分配されているかの指標で,分配率が高くなっていくに従って利益を圧迫し,収益性を大きく左右する要因となっているが,その反面 給与額を不満とする場合も考えられるので,従業員給与改善には注意を要したい。
B 賃金生産性
 賃金生産性とは人件費1円について,いくらの荒利益をかせいでいるかという生産性効率をみるものである。
算式は前の労働分配率の反対になる。
荒利益 ÷ 総人件費
70万円 ÷ 28万円 = 2円50銭ということである。

 

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