生活衛生営業の経営診断 11
(1)資金運用表の作り方
 商店,飲食店の経営活動は,資本の投下にはじまり,その資本の回収に終る。経営はこうした状態を持続することになるが,このような経営の資金の動きをたどってみると,多少の時間的なズレはあっても,その店の経営の実態は正しく判断することができる。
 利益は,売上げがあれば,その売上げに対する仕入れ,支払い経費の幅だけ計上されるが,その売上げは,その代金を回収しないことには資金化すらできないのである。
 また,売上げが増加しても,資金の回収が円滑に運ばなければ,経営の健全な持続発展はむずかしいといわなければならない。こうした経営のなかにおける資金の運用状況を見るために,これから述べる資金運用表がある。
 この資金運用表を作成するためには,今期と前期の貸借対照表を比較し,併わせてその増減額を算出した表を作成することが必要で,次表の『U店の2年度比較貸借対照表』を参照されたい。
 この比較貸借対照表の増減額を,さらに,具体的にまとめてみたのが別 表『U店の資金運用表』

U店の2年度比較貸借対照表

(単位:万円)

U店の資金運用表

(単位:万円)

で,この表を主体として分析評価することになる。
 まず,資本および負債の増加が,資金調達の源泉として考えられ,資産の増加および負債,資本の減少が資金運用の使途として計上される。経費の支払いは,もちろん資本の減少である。
 こうしたことが,資金運用表にまとめられることになる。さらに具体的に説明してみると次のようになる。
 まず,資金の源泉についてみると,

@の資本の増加は,資本金(元入金)の増加,純利益(これも資本の増加)の増加などである。
Aの負債の増加は,借入金や買掛金,仮受金などの増加をいう。
Bの資産の減少は,現金・預金を除き,売掛金,商品・材料その他の流動資産の減少,設備・備品など諸固定資産の減少である。
 これに反して,資産の増加(現金・預金以外の資産),負債の減少,資本の減少は,いずれも資金の使途になるが,列記してみると,
Cの資産(現金・預金をのぞく)の増加は売掛金,その他の資産増加をいう。
Dの負債の減少は,買掛金,借入金その他の流動・固定負債の減少である。
Eの資本の減少は,資本金の減少,また,純損失(資本の減少)となる。
 以上の項目の増減額をそれぞれ,資金の使途(運用)の方と,資金の源泉(調達)の方に計上し,今期の増加・減少額を算出し,その動きを分析評価することになる。
 U店の資金運用は増加額307万円となっている。
(2)資金運用表の評価
 まず,比較貸借対照表によって,いろいろと経営内容の変化を知ることができ,今後の経営方針の樹立に役立つことになる。
今期の資産増加額である307万円は,
流動資産の増加額106万円
固定資産の増加額201万円
同じく負債資本の増加額は307万円で,
流動負債の減少額29万円(赤字)
固定負債の増加額79万円
資本の増加額257万円
の加減算出となっているが,さらにこれらの内容から検討しなければならないことは,次の事項があげられる。
1)総資本が307万円増加している。
@ そのうち257万円が自己資本の元入金として増加している。ここでの元入金は税引き後の純利益金を元入金に繰り入れしたものである。この年度の営業成果 はよいと評価したい。
A 流動負債総額から29万円減少している。これは短期借入金を80万円返済しているからである。
 さらに固定負債が79万円増加していることは,前記の短期借入金を長期借入金に切り替えたことになり,この場合,資金の安定性を得たと考えられる。
2)流動資産の増加106万円に対し,固定資産201万円の増加は,一応,固定化の不安が考えられよう。
3)しかし,この固定資産201万円の増加は,結果的には利益元入金より賄われていることになる。固定設備の拡充は,全額を自己資本で賄うことが理想であると解したい。
4)商品(材料)在庫高83万円の増加は,販売実績の成長からして当然ということができよう。
 そこで,この比較貸借対照表の増減額の実数を整理して,資金運用表が作成されている。これは,具体的には,資金の源泉(調達)の面 と,資金の使途(運用)の面からみて,同額の307万円となっていることはあらためて述べるまでもない。
 この資金運用表の分析は,経営診断の一つの重要事項といわなければならない
 
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