従業員の雇用 1

1 労働力確保の方法等

 バブル崩壊後、労働力の需給状況は大幅に緩和され、就職難(特に大卒・短大卒 女子)=買手市場の状況が続いているといわれますが、生活衛生関係営業では、賃金・労働時間をはじめとする労働条件面 での大企業等との格差から、依然多くの事業者において労働力の不足が指摘されています。また、労働基準法の改正(「労働時間の短縮」の項目を参照してください。)に代表されるように、労働環境改善に関しては社会的な規制も年々強まっいます。

 このような状況下で労働環境、労働条件の改善は経営者にとって当面する最も大きな経営課題の一つとなっています。し かしながら、賃金アップや時間短縮、あるいは福利厚生施設等の充実はいずれも相当の資金負担を伴うものであり、多くの中小企業者にとって一朝一夕にできるもの ではありません。したがって労働環境・条件の改善を地道に図っていくと同時に、こういった環境下で効果 的に労働力を確保していくためには、地元への密着度、家 庭的な人間関係、責任ある仕事を任されるといった「やりがい」感等中小企業固有のメリットを積極的にアピルする採用活動や、パートタイマー、高齢者雇用等の有効活用を図っていくことが求められてきます。

 そこでここでは従業員採用時における基本的留意事項の他、項をかえて、パートタイマー雇用、高齢者雇用、外国人労働者雇用の基礎知識についてみていくことにします。

2 従業員採用時の基本的留意事項

  (1) 労働基準法の規制

 一般に、従業員(家族従業員等は除きます。)を雇用する場合には労働基準法の適用を受けることになります。労働基準法は強行法規であり、違反していた場合には罰金や懲役が課せられることもありますから経営者としては最低限の知識は身につけておかなければなりません。以下労働基準法の主だった規制を列挙しておきます。

ア.労働契約    
  • 労働基準法に定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について無効となります。
  • イ.労働時間
  • 原則として、週に40時間、1日に8時間(休憩時間を除く)を超えて労働させてはいけません。これを超える場合には、労働組合や労働者の代表と書面 によって協定し、労働基準監督署に届出なければなりません。

    (詳しくは「労働時間短縮」の項目を参照して下さい。)

  • ウ.休憩
  • 労働時間が1日6時間を超えたら45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩時間が必要です。
  • エ.休日
  • 少なくとも1週1日以上か4週間に4日以上必要です。
  • オ. 時間外・休日
    深夜労働
  • 通常労働の2割5分以上の割増賃金を支払う必要があります。
  • カ.解雇
  • 30日以前に予告するか30日以上の平均賃金を支払わなければなりません。
  • キ.最低年齢
  • 原則として満15才に満たない児童を労働者として使用することはできません。
  • ク.有給休暇
  • 継続勤務年数等に応じ一定の有給休暇を与える必要があります。
  • ケ.就業規則
  • 常時10人以上の労働者を使用する企業は就業規則を作成し、労働基準監督署に届出なければなりません。      (就業規則の内容は次項参照)
  •  (2) 就業規則の作成

    ア.意義

     就業規則とは、労働者の賃金や労働時間等の労働条件、職場における規律その他種々の定めをまとめたものです。

    イ.作成義務

     常時10人以上の労働者を使用する場合に作成する義務があります。この場合「労働者」とは正規の社員だけでなく、常時勤務しているのであればパートタイマー等も含まれます。またこの作成義務は事業所単位 にあります。
     この作成義務がない場合であっても、各基準等を明確にしておくことは、社内秩序の維持に役立ち、労使関係を安定させるためにも作成しておいたほうが良いでしょう。また労働者にとっても安心して働ける等のメリットがあり、人材確保や従業員の定着といった観点からも効果 があるでしょう。

    ウ.記載事項

     記載内容としては、必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項、定めがある場合には必ず記載しなければならない相対的必要記載事項、記載するかしないかは任意である任意的記載事項があります。

    ◎絶対的必要記載事項 −−− ・始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇に関する事項等
        ・賃金の決め方、計算方法、支払方法、昇給に関する事項等
        ・退職に関する事項
    ◎相対的必要記載事項 −−− 退職手当や賞与手当などの定めをする場合にはそれらに関する事項等

     (3) 採用時の注意点

    ア.女子の募集

     募集・採用については男女雇用機会均等法により、「事業主は労働者の募集・採用について、女子に対して男子と均等な機会を与えるように努めなければならない。」と努力義務が課されています。したがって次のような募集内容に対しては改善努力が求められることとなります

        ex.女子は未婚者に限る。営業マン(男子のみ) など

    イ.採用時の提出書類

     履歴書、住民票記載事項の証明書、身元保証書などがあげられますが、戸籍謄(抄)本は出生による差別 につながるということから提出書類に含めないように行政指導がなされていますから注意が必要です。

    ウ.労働条件の明示

     労働基準法では、採用の際労働条件について労働者に明示するように規定されています。明示すべき労働条件の範囲は労働基準法施行規則に規定されていますが、その内次の4項目は必ず明示すべき事項とされています。

    • 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
    • 始業及び就業時刻、休憩時間、休日休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
    • 賃金(退職手当、臨時に支払われる賃金・賞与及びこれらに準ずる賃金を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
    • 退職に関する事項

     これらの明示は口頭で足りますが、賃金に関する事項の内、賃金の決定、計算及び支払の方法、並びに賃金の締切り及び支払の時期に関する事項については書面 によることとされています。

    エ.試用期間

     試用期間とは採用後の一定期間をいい、その間に人物等をみて本採用とするかどうかの判断を行なうというものです。試用期間中の解雇については労働基準法上もすぐ解雇できるような特別 な取扱が認められていますが、その期間は14日とされています。

     

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