従業員の雇用 5

 1 労働環境の変化等

 労働者を取り巻く環境は近来目まぐるしく変化してきました。女性の職場進出やパトタイマーの増大、人材派遣業の誕生などはその代表と言えるでしょう。こうした中で働く労働者の意識も多様化してきました。以前は高賃金にのみ関心を寄せたり、働くことに生きがいを求めたりといった労働者が大多数でしたが、生活様式が変わり価値観も多様化した現代にあっては、自分の家庭や趣味など個人の時間を大事にし別 の意味で「生活の豊かさ」を志向する人々が増えてきました。加えて、我が国の経済力向上に伴い、多額の貿易黒字に対する批判が高まり、その一つが「日本人の働き過ぎ批判」となって現れてきました。こうした流れの中で、政府でも年間総労働時間の短縮に向けて法整備等に動き出したわけです。またこういった観点とは別 に、社会問題化した過労死の多発や、コンピュータ機器の利用増大による視覚障害、慢性的な腱鞘炎の発生など現代の労働疲労等に対処して行くためにも時短の必要性がクローズアップされてきたのです。

 2 時短推進にあたっての問題点等

 労働時間は賃金とともに重要な労働条件の一つです。この労働時間を短縮させるということはそのまま労働条件の向上につながり、これを推進していくことによって次のようなメリットを享受できると考えられます。

ア. 労働災害の減少
労働疲労の減少により作業能率もアップし結果として災害の減少に寄与すると考えられます。
イ. 人材確保の容易化
労働条件の向上は企業のイメージアップにつながり、人材確保の面 で有利になります。特に労働時間は賃金と並んで労働者の関心を集める事項ですからかなりの効果 が期待できるでしょう。
ウ. 時間管理意識の向上
時間短縮に伴いこれをカバーするための業務改善意欲が全社的に高まり、従業員の時間管理意識の徹底につながります。またQC等を併せて活用することにより問題意識の醸成も図られ生産効率のアップにつながります。
エ. モラールアップ
仕事の充実と生活のゆとりの両立という最近の労働者の志向に合致し、勤労意欲の向上に資することになります。

 ただし、こういったメリットや時短に向けての官民一体となった取り組みにもかかわらず、多くの中小企業者でなかなか時短に踏み切れないといった現実が有ります。こういった背景には、安易に時短に取り組むと次のようなデメリットが発生する可能性が有るためと思われます。

ア. コスト増による採算悪化
労働時間を短くした分だけそれを補うために残業時間が増加したり、人員を増加させたりしなければならなくなり、結果 としてコストアップにつながる。
イ. 生産量、販売量の低下
時短に対し何の対策も採らなければ労働時間が短くなった分だけ必然的に生産量 等が減少することになります。
ウ. 取引先や顧客へのサービス低下
自社だけが時短を進めることにより、取引先との業務の連携に齟齬が生じたり、日々の業務に追われ顧客サービスが疎かになったりする懸念が生じます。

 経営者としては以上のようなメリット・デメリットを十分認識したうえで時短に取り組む必要が有ります。それでは如何にして時短を進めて行くべきか以下で見ていくことにしますが、まずは労働基準法で定められている労働時間に関する種々の規制等を見ておきましょう。

 
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