従業員の雇用 6

 1 モデルケースでみる労働時間短縮の方法

  (1) 完全週休2日制の採用

 時短を実現するための最も典型的な勤務形態は、完全週休2日制です。
 〇1日の所定労働時間を8時間とすると、週所定労働時間は
  8時間×5日=40時間となります。

  (2) 1カ月単位の変形労働時間制の採用

 一時に完全週休2日制に移行することが困難である場合などは、所定労働時間の短縮と週休制を併用する方法が考えられます。
 〇1日の所定労働時間の短縮と週休2日制を併用する場合(変形期間2週間)
   1日の所定労働時間を8時間のままで隔週週休2日にすると
   (8時間×5日+8時間×6日)÷2=44時間
   となり週の法定労働時間を超えてしまいます。そこで1日の所定労働時間
   を45分短縮し1日7時間15分とすれば
   (7時間15分×5日+7時間15分×6日)÷2=39.88時間
   となり週40時間をクリアーすることができます。
 〇所定労働時間を日によって変更する場合(変形期間1カ月)
   1日の所定労働時間8時間、隔週週休2日の勤務態勢の場合の平成9年7月分を
   例にとってみると次のようになります。
   8時間×{31日−(6日+1日)}=192時間(7月の総労働時間)
   ※7月の休日は日曜4日、隔週土曜2日、祝日(海の日)1日の計7日になります。
   192時間÷(31日÷7日)=43.36時間
   ここで月間の業務状況をみて、恒常的に月末付近に仕事が集中するような
  業態であれば、月末近くの労働時間を長くし、その他の日の労働時間を短縮
  する方法が考えられます。
   平成9年7月の場合、前半を7時間労働、最後の4日間を9時間労働とすると
   7時間×20日+9時間×4日=176時間(7月の総労働時間)
   176時間÷(31日÷7日)=39.74時間
   となり週40時間の枠内に収まります。

  (3) 1年単位の変形労働時間制の採用

 同様な事例で1年単位の変形労働時間制を導入するケースをみてみましょう。
  〇隔週週休2日、1日の所定労働時間8時間という態勢を維持する場合
   年末年始休暇6日、夏期休暇3日を特別休暇として与えている企業を例に
   すると次のようになります。

週休、祝日等の年間タイムテーブル(平成9年)
週休日 祝日・休暇  
1月
 年始休暇,成人の日
2月
 建国記念日
3月
 春分の日
4月
 みどりの日
5月
 憲法記念日,こどもの日
6月
 
7月
 海の日
8月
 夏季特別休暇
9月
 敬老の日,秋分の日
10月
 体育の日
11月
 文化の日,勤労感謝の日
12月
 天皇誕生日,年末休暇
合計
78日
22日
 

 この企業の場合の年間休日日数は、100日(78+22=100日)となりますが、上記条件で1年単位 の変形労働時間を採用した場合、週の所定労働時間は次のように計算されます。
 365日−100日=265日(年間労働日数)
 265日×8時間÷(365日÷7日)=40.66時間
 したがって40時間をオーバーしてしまいますから、1日の所定労働時間を短縮するか、年間休日日数を増加させる必要があります。この場合1日8時間労働態勢を維持したければ休日日数を増やすことになります。
 上記のケースの場合は、夏期休暇日数の見直しやゴールデンウィークの連休化等の工夫で休日をあと5日増やす必要があります。
 365日−(100日+5日)=260日(年間労働日数)
 260日×8時間÷(365日÷7日)=39.89時間≦40時間

 ※1日の所定労働時間と週40時間を実現するために必要な年間休日日数
  の関係は次のとおりとなります。(年365日の場合)
   1日の所定労働時間   必要年間休日日数
      8時間         105日
      7時間30分       96日
      7時間          68日

〇季節によって業務の繁閑が異なるが1日の所定労働時間は維持する場合
 年末期に業務が集中するような業態の場合、10〜12月の四半期を週休 1日とし、その他のシーズンは完全週休2日とするような方法が考えられま す。このような調整をした後に、1日の所定労働時間が8時間の場合であれば上記でみたように年間休日日数が105日以上になっていればよいわけで す。もちろん季節毎に1日の所定労働時間を変更して調整する方法も考えら れます。

 ※自社の労働時間を次のような手順でチェックしてみて下さい。
(ア) 上記のようなタイムテーブルを書いてあなたの会社の1年間の休日日数を計算して下さい。
(イ) 年間労働日数を算出します。
365日−(ア)=年間労働日数
(ウ) 週当たりの所定労働時間を算出します。
(イ)×1日の所定労働時間÷(365日÷7日)=週の所定労働時間
これが40時間以内に収まっていなければならないわけです。
ここで40時間を超えているようであれば次に進んで下さい。
(エ) 週40時間をオーバーする時間の合計
((ウ)−40時間)×(365日÷7日)=オーバー時間の年間合計
(オ) 必要な休日増加日数(休日の増加で対応する場合)
(エ)÷1日当たりの所定労働時間
  ここで求められた日数を休日として業務の繁閑をみながら各月に配分して下さい。

 2 時短推進のポイント

  (1) 業務内容・態勢の見直し

時短に取り組むに当たっては、まず自社の業務内容等をチェックし、次のような点を改善していくことから始めなければなりません。
ア.人の配置と時間配分
 過去の労働時間、残業時間の推移等を分析し、誰がどのような種類の仕事で忙しいのか、仕事や人の配置に偏りがないかといったことを把握します。
イ.業務のマニュアル化と効率化
 中小企業にありがちな「その人でなければできない仕事」の存在は業務の効率化にとって大きな障害になります。このような場合、各業務をマニュアル化し、均等化していく事が求められます。またこのような作業を通 じて各自の仕事を再度見直すことにもつながっていきます。
ウ.業務手続き・組織の簡素化
 組織が必要以上に肥大化していることは、そのまま不必要な業務の発生につながっています。
以上のような見直しを行うことによって、場合によっては所定内労働時間の短縮に直結することも有ります。いずれにしても、会社として本当に必要な仕事だけを残し、それ以外のものはすべて廃止するといった姿勢で業務改善に望まなければ、週40時間態勢にはとても対応出来ません。

  (2) パート等の活用

 業務内容等を見直す過程で、次のような仕事を峻別し、これらについては出来るだけパートやアルバイトを活用していくことも時短推進のうえで有効です。
  • 比較的単純な業務、繰り返し作業等
  • 特に熟練を要しない業務

  (3) 休憩時間の見直し

 1日の労働時間が6時間を超え8時間以下の場合少なくとも45分の休憩時間を与えることが労働基準法で決められています。ただし一般 的には休憩時間は1時間としている企業が多いようです。ここで仕事の状況をもう一度見直し、果 たして連続労働がどれほど必要か検討してみましょう。業態によっては例えば午後3時前後にエアポケットのような時間ができる企業もあるでしょう。またそうでなくとも自然とティータイムのような時間ができてはいませんか。このような場合、作業効率の低下がさほどでないと判断されれば、思い切って短時間の休憩時間を設定するのも一つの方法です。例えば、午前と午後に各15分の休憩時間を設定すれば、生産性を損なう事なく30分の時短ができることになり、さらに1日当たりの所定内労働時間を短縮させるということは今までにみてきたように週当たりの所定内労働時間を計算するうえで非常に有利になるからです。

  (4) 外注の活用

 さまざまな分野の業務について専門の業者が存在し、それらの業者は特化されたその業務について、一定のノウハウや豊かな経験を有しています。そこで、自社業務の一部を外注に委託することも時短を進めて行くうえで検討すべきでしょう。すべての業務を自社でこなす場合に比して、一部の業務を専門業者に外注した方が業務全体の効率が上がるケースもあるからです。

  (5) 振替休日の活用

 中小企業の場合、得意先等との関係で休日出勤をすることも多いようです。このようなときは、できるだけ別 の日を代休として休日を振り替える措置をとるようにし、総労働時間の増加を抑えるようにすることが望まれます。

  (6) 時間管理意識の徹底

 時短の成否を占ううえで最も大事な要素が経営者も含めた社員全体の意識改革であると思われます。従業員がこれまでどおりの方法と姿勢で業務に携わっている限り、労働時間の短縮はイコール残業の増加や生産性の低下ということになってしまいます。そこで労働生産性の低下を招く事なく時短を実現していこうとすれば、労働時間の大切さを十分認識し、時間の有効活用を絶えず図って行くという姿勢が必要不可欠となるわけです。例えば1%の生産性向上を全員が実現すれば、単純に考えて年間の総労働時間を12%短縮しても売上高や生産量 に影響しないということになるのです。実際に従業員の意識改革が奏功し、1%の労働時間の短縮で3%以上の生産性の向上が実現したといったような調査結果 が労働省等から発表されています。しかし、時間感覚というものは会社の長い歴史の中で培われてきたものであり、一朝一夕に是正できるものではありません。まず経営者が自ら率先して旗振り役となり、できるところから具体的な目標を掲げ段階的に粘り強く推進して行くことが肝要です。この場合小集団活動(QCサークル)等を活用することも有効な手段として検討すべきでしょう。
 
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