従業員の雇用 7

 1 労働基準法の改正の流れ

(1) 法定労働時間の短縮
 労働基準法では、1日あたり、1週あたりの労働時間を定めていますが(これを法定労働時間と言います。詳細後述)、昭和22年に制定されて以来1日8時間、1週48時間という規制が永く続きました。これに対し、日本の経済力の向上とともに諸外国の働き過ぎ批判等が高まり、政府も「経済運営5カ年計画において」昭和63年度から年間総労働時間を1800時間程度を目標に短縮して行くことを決定しました。これにより労働基準法も昭和63年に改正され、法定労働時間は1週40時間、1日8時間と定められたわけです。
(2) 猶予措置
ア. 昭和63年改正時
改正法施行後3年間は週46時間、平成3年4月から平成5年3月までは週44時間の段階的短縮を認めた。
事業規模や業種による労働実態を踏まえ、時短の影響が特に強いといえる中小企業については特定の業種、事業規模の企業に対し上記の条件をさらに緩和した猶予措置を講じた。
イ. 平成5年4月改正時
特定の中小企業等への猶予措置について週44時間を限度として引き続き平成8年度末まで認める。
従業員10人未満の一定の商業、サービス業についての労働時間の特例(週48時間)を週46時間に短縮する。
(3) 平成9年4月1日以降の法定労働時間
 以上の法改正を経て平成9年4月1日以降は全面的に週40時間体制に移行することとされました。ただし上記の「従業員10人未満の特例措置」に該当する業種については週46時間まで認められ、生衛業では次の業種が該当します。
[特例措置該当業種](常時使用する従業員が10人未満の場合のみ)
商業 −−− 理・美容業、食肉販売業、氷雪販売業
映画・劇場業 −−− 興業場営業
保健衛生業  −−− 浴場業
接客娯楽業  −−− 旅館業、飲食店営業、喫茶店営業

2 労働基準法の制度内容

(1) 用語の定義等
労働時間 −−− 労基法に労働時間に関する定義はありませんが、一般には労働者が労働するために使用者の指揮監督の下に拘束されている時間」を言い、休憩時間は含まれません。
就業時間 −−− 始業時刻から終業時刻までのを時間を言います。したがって午前9時始業、午後5時終業、休憩時間正午から午後1時、という場合には、就業時間は8時間ということになりますが、上記の労働時間は7時間となります。
法定労働時間−− 労働基準法では労働時間は1日8時間、週40時間以内と定められていることは前述したとおりですがこれを法定労働時間といいます。この労働時間の規制は、1週間単位 の規制を基本とし、1日の労働時間は1週間の労働時間を各日に割り振る際の上限を意味します。
所定労働時間−− 労働時間は法律に違反しない限り就業規則等で企業が定めることができ、これを所定労働時間といいます。この所定労働時間は、もちろん法定労働時間を超えて定めることはできません。また就業規則で規定する場合には、始業時刻、終業時刻等を明示しなければなりません。
所定外労働時間− いわゆる残業のことです。ここは誤解を生じやすいところですが、これには法定時間内の所定外労働と法定時間を超える所定外労働の2種類が有ります。就業時間のところで示した例に基づいていいますと、午後5時から6時まで残業したとしても1日の労働時間は8時間ということになり法定労働時間は超えていません。したがってこの場合法定労働時間内の労働ということになり特に問題は生じませんし、また法的には割増賃金の支払いも不要です。ここで問題となるのは、午後6時以降の残業です。この場合には法定労働時間の8時間を超えてしまいますから労働基準法上では原則として認められません。労働基準法等で時間外労働という場合には主にこちらのことを指しています。それでもこういった時間外労働を行わせる必要が有る場合には、次に説明する「時間外労働に関する労使協定」(労働基準法36条−通 称三六協定)を結ばなければなりません。
三六協定 −−− 労働基準法は、過半数の労働者の意志に基づき労使協定を締結し、これを労働基準監督署に届け出た場合には、一定以上の割増賃金の支払いを条件に、法定労働時間を超えてその協定の定めに基づき労働時間を延長し、休日に労働させることを認めています。この場合次のような項目について協定を結びます。

ア. 時間外労働又は休日労働の具体的理由 など
イ. 業務の種類
ウ. 労働者数
エ. 延長することのできる時間及び休日
オ. 有効期間

(2) 労働時間規制の弾力化
 労働基準法では、週40時間への段階的な労働時間短縮を進める一方で、従来の硬直的な時間規制に対し、国民生活や就労形態の変化に対応して労働時間規制を弾力化するための変形労働時間制を設けています。
 変形労働時間制とは、ある一定の変形期間を平均して1週間あたりの労働時間が法定労働時間(週40時間)を超えなければ、特定の週あるいは特定の日に1週40時間あるいは1日8時間を超えてもよいとする制度です。つまり、繁忙期の所定労働時間は長くしておき、その代替措置として「閑散期の所定労働時間は短くする」といったように業務の繁閑や特殊性に応じて労働時間を配分し、これによって変形期間内の労働時間が平均週40時間に収まるようにしようというものです。この変形労働時間制には変形期間の長短等によって次の4つの形態が有ります。
ア. 1カ月単位の変形労働時間制
 1カ月単位の変形労働時間制とは、1カ月以内の一定の期間を平均し1週間の労働時間が週法定労働時間を超えない範囲内において、1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。
 このような制度を導入するためには次の要件を満たさなくてはなりません。
労働時間を就業規則等で定めること
変形期間は1月以内の一定期間であること
(例えば2週間単位や10日単位など)
変形期間内の総労働時間が平均して週当たりの法定労働時間の範囲内であること
変形期間内の総労働時間÷(変形期間の日数÷7日)≦40時間
変形期間における各日、各週の労働時間を具体的に定めること
使用者の都合によって任意に労働時間を変更することはできない。)
イ. 1年単位の変形労働時間制
 1年単位の変形労働時間制とは、労使協定により、1年以内の一定期間を平均し1週間の労働時間が週法定労働時間を超えない範囲内において、1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。日毎の業務の繁閑の差が激しいもののその業務量 があらかじめ定型的に定まっている場合などに利用できます。
 制度導入のための要件は次のとおりです。
変形期間を1年以内とすること(6カ月単位、3カ月単位でもよい。)
労使協定を締結し次の事項を定めること
(1) 変形期間を平均して1週間の労働時間が40時間以下になるように変形期間内の各週等の所定労働時間を定めること
※変形期間内の所定労働時間の上限
・変形期間が3カ月超の場合
 1日9時間、1週48時間以内
・変形期間が3カ月以内の場合
 1日10時間、1週52時間以内
(2) 対象となる労働者の範囲
(3) 対象期間における労働日と各労働日毎の労働時間
(4) 有効期間 等
締結した労使協定を所定の様式により所轄労働基準監督署に届けること
ウ. フレックスタイム制
 フレックスタイム制とは、1カ月以内の一定の期間の総労働時間を定めておき、労働者がその範囲内で各日の始業および終業の時刻を選択して働く制度です。例えば、完全予約制の理美容業などの場合には、顧客の予約状況に応じた就業が可能となり、業務の効率化が図れます。
 制度導入のための要件は次のとおりです。
就業規則その他これに準ずるものにより、始業および終業の時刻を労働者の決定にゆだねることを規定すること
労使協定(労働組合、該当するものがない場合は職場の従業員の過半数を代表するものと締結する。)により以下の事項を定めること
(1) 対象となる従業員の範囲
(2) 清算期間(1カ月以内の一定の期間)
(3) 清算期間における総労働時間
次の算式で計算される時間内に収まるように設定して下さい。
 週法定労働時間×清算期間の日数/7日
(4) 1日の標準労働時間
年次有給休暇を取得した場合の賃金の算定基準になります。
(5) コアタイム
すべての従業員が出勤しなくてはならない時間帯のことを言います。必ずしも設定する必要はありませんが、設定する場合には開始・終了の時間を定めておく必要が有ります。
(6) フレキシブルタイム
従業員がその選択により労働することができる時間帯のことを言い、開始・終了時刻について定めておきます。
  
エ. 1週間単位の非定形的変形労働時間制
 1週間単位の非定形的変形労働時間制とは、従業員規模が30人未満の小売業(生衛業の場合、食肉販売,食鳥肉販売,氷雪販売が含まれる。)、旅館、料理・飲食店の事業において、労使協定により、1週間単位 で毎日の労働時間を弾力的に定めることができる制度です。日毎の業務に著しい繁閑の差があるものの、そのパターンが定型的に定まっていないような場合に利用できる制度です。なおこの制度を利用できるのは上記に掲げた業種のみで、生衛業の場合理美容業やクリーニング業は導入できません。
 制度導入のための要件は次のとおりです。
労使協定により、1週間の労働時間が40時間以下となるように定め、かつ、この時間を超えて労働させた場合には割増賃金を支払う旨定めること
1日の労働時間の上限は10時間であること
前週末までに1週間の各日の労働時間を定めて労働者に書面 で通知すること
労使協定を所定の様式により所轄労働基準監督署に届け出ること
 
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