共済制度の活用法 5

1 概要

 特定退職金制度とは個人事業主又は法人が、所得税法施行令第73条に定める特定退職金共済団体(商工会議所、商工会、商工会連合会等)と退職金共済契約を締結し加入事業主に変わって特定退職金共済団体から被共済者(従業員)に直接退職金等の給付を行う制度をいいます。
 中小企業退職金共済制度が「中小企業退職金共済法」という法律に基づいて設立されているのに対して、この制度は地域の商工会等が国の承認のもとに特定退職金共済団体を設立して行っているものです。

 **特定退職金共済団体の要件**
 特定退職金共済制度は、所得税法施行令第73条に定める要件を備え、所轄税務署長の承認を得て実施するものです。したがって税法上、中小企業退職金共済制度に準じた多くの特典が与えられていますが、その反面 法令に定める要件を順守し適正に運用することが求められています。この要件の主なものは以下のとおりです。

ア. 掛金の負担
事業主の全額負担
イ. 加入者の範囲 一定の者を除き原則全員加入
ウ. 掛金等の事業主への返還禁止 掛金は加入事業主にはいかなる場合も返還されません。
エ. 掛金の限度 一人について月額3万円(30口)
オ. 不当差別の禁止 掛金の額又は退職給付額について、特定の者につき不当に差別 的な取扱をしないことが必要です。

2 制度の仕組み

 商工会議所(商工会)の地区内の事業主が、商工会議所(商工会)と退職金共済契約を結び、毎月掛金を納付し、従業員が退職したときは、加入事業主にかわって商工会議所(商工会)が加入従業員に直接退職金を支払う仕組です。この制度は各商工会議所(商工会)で標準モデルに基づいて特定退職金共済制度規程をつくり、それに基づいて運用されています。したがって各商工会議所等で制度内容等に若干の違いがある場合がありますが、以下では標準的なモデルに基づいて説明することにします。

3 制度の内容
(1) 加入できる企業(共済契約者)
 商工会議所(商工会)の地区内に事業所を有する事業主であれば、退職金共済契約を締結することができます。中小企業退職金共済のような従業員数等の制限は特にありません。
(2) 加入させる従業員(被共済者)
次に掲げる人を除き全員加入が原則です。
ア. 事業主及び事業主と生計を一にする親族
イ. 法人の役員(使用人兼務役員は除く。)
ウ. 他の特定退職金共済団体の加入者
(中小企業退職金共済との重複加入は可能です。)
また次に掲げる人は必ずしも加入させる必要はありません。
ア. 期間を定めて雇われている人
イ. 使用期間中の人
ウ. 休職期間中の人
エ. 季節的な仕事のために雇われている人
オ. 非常勤の人
(3) 掛金
ア. 基本掛金月額は1口1000円です。
イ. 加入口数の限度は一人30口(三万円)です。
ウ. 加入口数の変更
 中小企業退職金共済制度と同様、増口については上記を限度に自由に行えますが、減口については被共済者(従業員)の同意及び事情を明示した書類を添付したうえで商工会議所に提示し、承認を受けた場合以外はできないことになっていますので注意を要します。
エ. この掛金は被共済者である事業主が全額負担しなければなりません。
オ.  共済契約の解除は共済契約者(加入事業主)の都合で解除することはできないことになっています。やむを得ず中途解約することができるのは次の場合に限られています。
被共済者の同意を得たとき
掛け金の納入を継続することが著しく困難であると商工会議所(商工会)が認めたとき
(4) 給付金の種類
給付金には次のものがあります。給付額については各商工会議所(商工会)にあるパンフレットで確認して下さい。
ア. 退職一時金
被共済者(従業員)が退職したとき、加入口数及び加入期間に応じて計算された金額が支払われます。
イ. 退職年金
被共済者(従業員)が加入機関10年以上で退職し、一時金にかえて年金の支給を希望したとき、加入口数及び加入期間に応じて計算された金額が10年間支給されます。
ウ. 遺族一時金
被共済者(従業員)が死亡したとき、加入口数及び加入期間に応じて計算される金額が支払われます。
エ. 解約手当金
契約が解除されたとき(掛金の払い込みを怠ったとき等)は、被共済者(従業員)に解約手当金が支払われます。なおこの解約手当金の金額は退職一時金と同額です。

4 主な手続き

(1) 加入の手続き
加入申込は、所定の共済契約申込書に所定の事項を記入し、第1回目の掛金(申込金)を添えて商工会議所(商工会)の窓口に提出します。
申込金は申込をした翌月の掛金に充当されます。
契約が成立すると被共済者(従業員)に対して加入事業所を通じて被共済者証が発行されます。
(2) 給付金の請求・受領方法
従業員が退職したとき等は、給付金の種類に応じ次の書類を商工会議所(商工会)に提出します。
ア.退職一時金−−− 退職通知書兼一時金請求書、退職所得の受給に関する申告書
イ.退職年金 −−− 退職通知書兼一時金請求書、年金請求書
ウ.遺族一時金−−− 退職通知書兼一時金請求書、被共済者の戸籍抄本等
エ.解約手当金−−− 解約通知書兼解約手当金請求書、解約手当金申出書
給付金の受取人は被共済者(従業員)です。本人死亡の場合は、労働基準法施行規則第42条ないし第45条に定める遺族補償を受けるものの範囲及び順位 によります。
したがって退職一時金等の請求があった場合、商工会議所(商工会)は退職一時金等を被共済者(退職者)の預金口座に振込むなどの方法により直接被共済者に支払うことになります。
(注)中小企業退職金共済制度の場合と同様、いかなる場合にも事業主は給付金の受取人になることはできません。

 

5 税法上の取扱

(1) 掛金に対する税金
掛金は全額損金又は必要な経費に算入することができます。
詳しくはIIの中小企業退職金共済制度を参照してください。
(2) 給付金に対する税金
ア. 退職一時金
IIの中小企業退職金共済制度を参照してください。
イ. 退職年金
IIの中小企業退職金共済制度を参照してください。
ウ. 遺族一時金
死亡退職金として相続財産とみなされ相続税の対象になります。
エ. 解約手当金
一時所得扱いになり、下記の算式で計算された額が課税対象となります。
課税対象額=(解約手当金額−50万円)×1/2
※特別控除額50万円
他の所得と合算して確定申告をして下さい。

6 その他活用場の留意点等

 掛金の設定の仕方、退職金の相場等についてはIIの中小企業退職金共済制度を参考にして下さい。

 
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