社会保険の基礎知識 2

1 労災保険の目的

 労災保険は、正式には労働者災害補償保険といい、業務上や通勤途中に、労働者がけがや病気で障害が残ったり、 死亡したときに、労働者やその遺族のために必要な保険給付を行います。
 また、保険給付のほかに、被災した労働者の社会復帰を支援したり、労働者や遺族の生活を援助するための 労働福祉事業も行っています。

2 適用事業と適用労働者

 労災保険は、一般の従業員はもとより、パートタイマー、アルバイト、日雇、嘱託など、その事業所で働く 全ての労働者が対象となります。
 このように労災保険は、労働者を使用する全ての事業に強制的に適用されます。ただし、農林水産業の一部は、 暫定的に任意適用事業とされています。
 また、本来労災保険の適用がない者の一部についても、労災保険の保護を図る「特別加入」の制度もあります。

(1) 強制適用事業
 一人でも労働者を雇用して事業を行っていれば、当然に労災保険の保険関係が成立する事業をいいます。 加入・脱退の自由は認められません。

(2) 暫定任意適用事業
 事業主の保険加入の申請があり、認可された場合に保険関係が成立する事業をいいます。個人経営の 農林水産業で、使用する労働者が5人未満の事業が該当します。

(3) 特別加入
 中小事業主、自営業者(個人タクシーの運転手、大工・左官)などが一定の条件を満たしたときに 対象となります。

3 業務災害とは

 労災保険の対象となる業務災害とは、労働者の仕事中の負傷、疾病、障害または死亡をいいます。
 この業務災害に対する保険給付は、労働者が労災保険が適用される事業場に雇われて、働いていることが 原因となって発生した災害に対して行われるものですから、労働者が労働関係のもとにあった場合に起きた 災害でなければなりません。
 そして、業務災害であるかどうかは、@労働者が労働契約に基いて事業主の支配下にある状態(業務遂行性)と、 A業務に起因して事故等が起こり、その災害によって傷病等が発生した(業務起因性)という2要件から判断されます。
 つまり、業務、事故、傷病の間に、相当因果関係がなければ業務上の事由とは認められません。

4 通勤災害とは

 通勤災害とは、労働者が通勤途中に被った負傷、疾病、障害または死亡をいいます。
 この場合の通勤とは、「就業に関し、住居と就業の場所との間を往復すること」をいい、その通勤が「合理的な経路 および方法」であり、「業務の性質を有するものを除く」ことになっています。
 また、「逸脱・中断」があった場合には、その逸脱・中断の間とその後は通勤とは認められません。ただし、 日用品の購入など日常生活上やむを得ない行為を、最小限の範囲で行う場合は、通常の経路に戻った後は通勤と認められます。
 このように、通勤災害とされるためには、その前提として、労働者の住居と就業の場所との間の往復が、労災保険法の 通勤の要件を満たしていることが必要となります。

5 労災保険の給付

 労災保険で受けられる給付には次のようなものがありますが、業務上災害のときは「補償給付」、通勤災害の場合は 単に「給付」という名称がついています。
 労災保険は、本来事業主が行う、業務上災害の補償を肩代わりする保険ですので、業務上災害には「補償」という文字が ついているのです。
 また、労災保険には、労働福祉事業として特別支給金の制度があり、以下の給付に上乗せされて、特別支給金が 支給されるものもあります。

(1) 病気・けがをしたとき → 療養補償給付(療養給付)
 業務上災害・通勤災害により、病気やけがをしたときに、必要な医療を受けることができます。
 業務上の場合は無料で、通勤災害の場合は200円の一部負担金が必要となります。
 原則は、労災指定病院に「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を提出して、現物給付を受けますが、 指定病院が近くになかった場合は、一旦立替払いをして、払い戻しの手続をします。

(2) 病気・けがで会社を休んだとき → 休業補償給付(休業給付)
 傷病の治療のため4日以上会社を休み賃金が支給されないとき、休業4日目から支給されます。
 1日につき給付基礎日額の60%が支給されます。この他に、20%の休業特別支給金が支給されます。
 給付を受けるときは、「休業(補償)給付支給請求書」に事業主と医師の証明を受けて労働基準監督署に提出します。
給付基礎日額とは
 原則として、業務上・通勤災害による負傷や死亡の原因である事故が発生した日(賃金締切日が決まっている場合は、 その直前の賃金締切日)の直前3ヵ月間にその労働者に支払った賃金の総額をその期間の日数で割った、1日当たりの 賃金額をいいます。

(3) 病気・けがが1年6ヵ月経っても治らないとき → 傷病補償年金(傷病年金)
 業務上災害・通勤災害による病気やけがが、1年6ヶ月経っても治らず、傷病の程度が傷病等級に 該当するときは、休業補償給付(休業給付)に代えて年金が支給されます。
 「傷病の状態等に関する届書」に医師の診断書を添えて、労働基準監督署に提出します。

(4) 傷害が残ったとき → 障害補償給付(障害給付)
@ 障害補償年金(障害年金)
 業務上災害・通勤災害による傷病が治った後に、障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残った場合は、 障害の程度により、給付基礎日額の313日分から131日分の年金が支給されます。

A 障害補償一時金(障害一時金)
 業務上災害・通勤災害による傷病が治った後に、障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残った場合は、 障害の程度により、給付基礎日額の503日から56日分の一時金が支給される。

 給付を受けるときは、「障害(補償)給付支給請求書」に医師の診断書等を添えて、労働基準監督署に提出します。

(5) 死亡したとき → 遺族補償給付(遺族給付)・葬祭料(葬祭給付)
@ 遺族補償年金(遺族年金)
 業務災害・通勤災害により死亡したとき、遺族の数等に応じて、給付基礎日額の245日から153日分の年金が支給されます。
 「遺族(補償)年金支給請求書」に死亡診断書等を添えて、労働基準監督署に提出します。

A 遺族補償一時金(遺族一時金)
 遺族(補償)年金を受けられる遺族がいないとき、年金を受けている人が失権し、他に年金を受けられる人がいない場合で、 すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないときは、一時金が支給されます。
 「遺族(補償)一時金支給請求書」に死亡診断書等を添えて、労働基準監督署に提出します。

   遺族補償年金を受けることができる遺族とは、労働者の死亡当時その収入で生計を維持していた配偶者、子、父母、孫、 祖父母、兄弟姉妹です。
 妻以外は、一定の年齢に該当する者、または障害の状態にある者のみが対象となります。

B 葬祭料(葬祭給付)
 葬祭を行った者に315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額が支給されます。
 「葬祭料(葬祭給付)請求書」に死亡診断書等を添えて、労働基準監督署に提出します。

(6) 介護をうけているとき → 介護補償給付(介護給付)
 障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち第1級の者または第2級の者で、現在介護を受けている者に支給されます。

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