社会保険の基礎知識 8

1 社会保険(狭義)とは

 社会保険とは、社会保険の概要で述べたように、広義では、公的医療保険、年金保険、労働保険を合わせたものをいいますが、 狭義で社会保険といった場合は、医療保険である健康保険と年金保険である厚生年金保険を指します。
 社会保険では、事業所の適用、被保険者の資格取得・資格喪失手続、保険料の算定・納付など、健康保険と 厚生年金保険を同時に一枚の用紙で行います。

2 適用事業

 社会保険は、事業所を単位に適用されます。社会保険の適用を受ける事業所を適用事業所といい、法律により 加入が義務付けられている「強制適用事業所」と、任意で加入する「任意適用事業所」の2種類があります。

(1) 強制適用事業所
 常時5人以上の従業員が働いている事業所と、5人未満でも全ての法人事業所は、法律によって、 事業主や従業員の意思に関係なく加入しなくてはなりません。
 なお、5人未満の個人事業所と、5人以上でも次の業態の事業所は、強制加入とはなりません。

 非強制適用の主な事業態
第一次産業 農業、牧畜業、林業、水産養殖業、漁業等
サービス業・自由業 ホテル・旅館、料理飲食店、理容理髪、浴場、洗濯、映画演劇、ダンスホール、競馬競輪、ボウリング、野球場、保養施設等
法務 弁護士、会計士、税理士、社会保険労務士等
宗教 神社、寺院、教会等

(2) 任意適用事業所
 任意適用事業所の対象となるのは、(1)の表にある業態の個人事業所と、5人未満の従業員を使用する個人事業所です。
 任意適用事業所となるためには、従業員の2分の1以上の同意を得て、事業主が申請して社会保険事務所長等の 認可を受けなくてなりません。
 社会保険は事業所単位で加入するので、一旦適用事業所になると、加入を希望しない従業員も含めて適用することと なります。

3 被保険者となる人

 適用事業所に使用されている人は、原則として、すべて被保険者となります。
 この「使用される人」とは、実際にその事業主のもとで使用され、労働の対償として給料や賃金を受け取っている人を 言います。
 事業主との間に使用関係のない、非常勤の顧問、監査役などや、個人経営の事業主は被保険者になりません。
 また、パートタイム労働者の場合は、常用的使用関係にあるかどうかで判断され、所定労働時間と所定労働日数が、 どちらも通常の労働者のおおむね4分の3以上である場合に被保険者となります。
 例外として、被保険者とならない人は、@船員保険に加入している人、A国民健康保険組合に加入している人、 B日々雇い入れられる人、C2ヵ月以内の期間を定めて雇われる人、D季節的業務に4ヵ月以内の期間雇われる人、 E臨時的事業に6ヵ月以内の期間雇われる人などです。

介護保険は40歳から64歳の人が対象
 健康保険の被保険者が、40歳になったら介護保険第2号被保険者となるので、健康保険保険料と併せて 介護保険料を徴収しなくてはなりません。

70歳以上75歳未満の人は健康保険のみの被保険者
 70歳になったら、厚生年金保険の被保険者資格を喪失します。

75歳以上は長寿医療制度
 平成20年4月から、75歳以上の人は長寿医療制度に加入することになりました。いままで被扶養者で あった人も、長寿医療制度の被保険者となります。

4 被扶養者となる人

 健康保険では、被保険者に扶養されている家族が病気やけがをしたときにも、必要な保険給付を行います。 この保険給付が行われる扶養家族を「被扶養者」といいます。

(1) 被扶養者の範囲
 被扶養者となれるのは、被保険者の三親等内の親族で、主として被保険者の収入によって生計を維持している、 次のような人です。

@ 生計維持のみ
 被保険者の直系尊属(父母、祖父母)、配偶者(内縁も可)、子、孫、弟妹
A 生計維持 + 同一生計(住居・家計を共にすること)
 @以外の三親等内の親族(兄、姉、伯叔父母、甥姪などとその配偶者、孫・弟妹の配偶者、配偶者の父母・子)
 内縁関係にある配偶者の父母・子(配偶者の死亡後も可)

(2) 生計を維持されている人とは
@ 被保険者と同一世帯の場合
 原則として、年収130万円未満で、かつ被保険者の年収の2分の1未満であれば被扶養者になります。
A 被保険者と同一世帯でない場合
 年間収入が130万円未満で、かつ被保険者からの仕送額より少ない場合は、原則として被扶養者になります。
B 60歳以上の高齢者・身体障害者の場合
 年収の基準が「180万円未満」となります。この年収には、各種年金なども含まれます。

5 会社で行う各種事務

(1) 従業員を雇用したとき
 被保険者になる人を採用したときは、事業主は資格取得の日から5日以内に、社会保険事務所に 「被保険者資格取得届」を提出します。
 届が受理されると、事業所に「被保険者標準報酬決定通知書」と「健康保険被保険者証」が交付されます。

(2) 被保険者が退職したとき
 従業員が退職して被保険者でなくなったときは、事業主は資格喪失の日から5日以内に、社会保険事務所に 「被保険者資格喪失届」を提出し、「健康保険被保険者証」を返却します。
 資格喪失日は退職日の翌日となります。

その他、次のような事項があった場合は、社会保険事務所に届け出る必要があります。
  届出を提出する時 届出書名 提出期限
(3) 氏名を変更した場合 「被保険者氏名変更届」 速やかに
(4) 被扶養者に異動があった場合 「被扶養者異動届」 5日以内
(5) 賞与を支払った場合 「賞与支払届」 5日以内
(6) 会社の所在地・名称を変更した場合 「適用事業所(所在地・名称)変更届」 5日以内
(7) 代表者の住所を変更した場合等 「事業所関係変更届」 5日以内

6 社会保険料の算定・納付

(1) 標準報酬月額
 健康保険や厚生年金保険では、保険料や保険給付の額を、被保険者が受ける報酬の額を基礎として算定します。
 そこで、毎月の給料などの報酬を区切りのよい幅で区分した「標準報酬月額」を設定して、事務の簡略化、効率化を 図っています。
 標準報酬月額は次の区分で定められています。
健康保険 第1級 58,000円 第47級 1,210,000円
厚生年金保険 第1級 98,000円 第30級 620,000円
 また、賞与の保険料については、上限金額を設定したうえで、「標準賞与額」(1000円未満を切捨てた額)に、 保険料率を掛けて算出します。

(2) 標準報酬月額の決め方
 標準報酬月額の決め方には、次の4通りの方法があります。
@ 資格取得時決定
 新しく被保険者の資格を取得した従業員の標準報酬月額は、被保険者資格取得届を基礎にして決め、 入社の時期によりその年または翌年8月まで有効とします。

A 定時決定
 報酬は昇給などで変動するので、現在の報酬に対応した標準報酬月額とするため、全ての被保険者について、 毎年1回、標準報酬月額の見直しをします。
 これを、「算定基礎届」による「定時決定」といいます。
 対象となるのは、7月1日現在の被保険者で、4月、5月、6月の報酬を平均して新しい標準報酬月額を決定し、 その年の9月から翌年8月まで適用します。

B 随時改定
 定時決定で決まった標準報酬月額は、原則として次の定時決定まで変わりません。
 しかし、大幅な昇給、降給により報酬の額が著しく変動する場合は、標準報酬月額の改定を行うことが出来ます。
 これを「月額変更届」による「随時改定」といいます。
 随時改定は、次の3つの条件全てに当てはまる場合に、変動があった月から4ヵ月目に行われます。
・昇(降)給などで、固定的賃金に変動があったとき
・変動月以後引き続く3ヵ月間とも支払い基礎日数が17日以上あるとき
・変動月から3ヵ月間の報酬の平均額と現在の標準報酬月額に2等級以上の差が生じたとき

C 育児休業等終了時の改定
 被保険者が、育児休業期間を終了して、職場に復帰したときに、時間外労働をしないことなどで、報酬が休業前と比べ 変動する場合があります。
 このような場合、随時改定に該当しなくても「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出して、終了後の3ヵ月間の 報酬月額の平均で標準報酬月額を改定することが出来ます。

(3) 報酬となるもの
 標準報酬月額の算定の基礎となる「報酬」とは、賃金、給与、俸給、手当、賞与、その他名称を問わず、労働者が 労働の対償として受けるもの全てです。
 通勤手当も、社会保険では、全額報酬となります。現物で支給される食事や住宅、通勤定期券も報酬に含まれます。
 ただし、3ヵ月を超える期間ごとに受ける賞与は含みません。

(4) 保険料
@ 健康保険
 政府管掌健康保険の保険料は、事業主と被保険者とが折半で負担します。
 事業主は、被保険者に支払う給料から被保険者負担分の保険料を引いて、事業主負担分と合わせて、保険者に 納付する義務があります。
 政府管掌健康保険の健康保険料率は、一般保険料率は1000分の82、介護保険料率1000分の11.3を合算した率です。
 健康保険組合の場合は、1000分の30から95までの範囲で、その組合の実情に応じて決めることができます。
 負担割合は、事業主負担分を増やすことはできますが、上限が決まっています。

A 厚生年金保険
 厚生年金保険の保険料も、健康保険と同様、事業主と被保険者が折半で負担します。
 現在の保険料率は1000分の149.96ですが、毎年9月に1000分の3.54ずつ引き上げられていて、平成29年に1000分の183となります。

育児休業期間中の保険料免除
 被保険者が育児休業等を取得したときは、健康保険・厚生年金保険の保険料が事業主・被保険者負担分共に免除されます。
 事業主は、「育児休業等取得者申請書」を社会保険事務所に提出します。

(5) 保険料の納付
 事業主は、毎月の保険料を、翌月末までに納付する義務を負っています。
 被保険者の当月分の給与から控除できるのは、前月分の保険料です。事業主は、控除した前月分の保険料を、 前月分の事業主負担分と併せて、月末までに納付します。
 保険料は、被保険者資格を取得した月から、資格を喪失した月の前月分まで、月単位で納めます。
 月単位で計算するので、入社した日が1日でも、31日でも、丸々1ヵ月分が徴収されます。
 また、資格を喪失した日というのは退職日の翌日なので、月末に退職した場合は、退職月の保険料が徴収されます。

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