改定・レジオネラ属菌防止に関する防除指針 (1)
我々日本人は温かいお湯に体を浸す快感と種々な泉質の治療効果を長年に亘り享受してきた。米国疾病予防センター(Centers for Disease Control,Atlanta,Georgia)の意向を受けて米国シアトル-キング・カウンティの公衆衛生部が作成した”あなたのスパと浴槽で幸せと健康を(Staying happy and healthy in your SPA&HOT TUB)”の指針の冒頭には、温湯に浸って心身ともに緊張をほぐし血行をよくする日本のような国の文化が米国民にも好まれはじめていることを記している。それとともに細菌、藻類、真菌(カビ)が温かい湿潤環境で増殖し、感染の原因になることも警告している。
 近年日本でも「スパ」さという用語を使った広告が見られるようになった。キング・カウンティの小冊子によるとスパとホットタブは米国で広く使われている語であって、whirlpool,hydro-therapy,soaking tubeとも呼ばれているがバス(風呂)ではない。水面下のマッサージ用にジェット噴流や泡を立てているものもある。またこの小冊子が対象としているのは、個人用のスパとホットタブであり、公共又は半公共的なものについては当該地の衛生局に相談するよう注意している。また湯の温度、浸っている時間、望ましいpH、飲酒の禁止、皮膚・耳・瞳の感染症や外傷等のある者は疾病の伝播を防ぐため使用を禁止、汚染した湯が原因で起こる毛嚢炎の予防など、驚くほど詳細な注意が示されている。安全度の点では特に幼児について言及し、床等に滑りにくい素材を使うこと、階段や手摺りを設けることを奨めている。
 平成7年3月に「レジオネラ属菌防除指針 −温泉利用入浴施設用−」が、全国環境衛生営業指導センターの委託を受けた全国旅館環境衛生同業組合連合会から刊行されて2年が経過した。この間に行った調査結果 や国内外の研究成果の発表など種々の知見の積み重ねに基づき、この指針の改訂版を公表することになった。
今回の改訂の主眼は以下の通りである。
1) レジオネラ属菌とレジオネラ症とくに温泉関連症例の知見の補完
2) 主としてアルカリ単純温泉の調査結果を基にして記載された初版に続き、これ以外の泉質の温泉を対象とした調査結果 とその考察
3) エアロゾル暴露源として、閉鎖された浴場の方が大気中に開放された冷却塔よりも危険であろうとの考えから、湯の中のレジオネラ属菌管理目標値を湯100ml当たり不検出とした
4) 目標値の変更に伴い、湯100ml全量中の菌数を測定する方法を記載
5) 全国の公的レジオネラ検査機関紹介
6) レジオネラ汚染対策の実際を記載
7) 参考資料として関連法規等を収載
 各自治体は公衆浴場法または旅館業法に基づいて公衆を入浴させる施設の衛生管理等について条例を定めており、保健所等の環境衛生監視員が衛生管理を指導している。各自治体での条例制定や衛生管理の指導指針のため、厚生省は、「旅館業における衛生等管理要領(昭和59年8月28日衛指第24号厚生省生活衛生局長通 知)」、「公衆浴場における衛生等管理要領(平成3年8月15日衛指第160号厚生省生活衛生局長通 知)」、「公衆浴場における水質等に関する基準(昭和38年10月23日環発第477号厚生省環境衛生局長通 達」等を定めている[この指針巻末の参考資料を参照]。
 レジオネラ症の発症を防止するためには、これらの基準や要領の遵守が重要であるが、温泉利用による当該疾患の発生が懸念されている現状を鑑みれば、利用者が安心して温泉等の施設を利用することができるよう、営業者は一層の衛生管理に努めなければならない。
 浴場の衛生管理が不十分であると、浴槽と配管系の内壁に生物膜が形成され、アメーバ等の原生動物の生息と相俟って、そこにレジオネラ属菌が定着・増殖し、循環水をも汚染する可能性がある。

 循環ろ過を採用している施設では、前記および末尾の参考資料中の管理要領の規定等に従って換水・清掃以外の衛生管理を実施しなければならない。特に日常、問題になる温泉水等の衛生管理方法の実際については、別 添の「レジオネラ属菌防除のための温泉浴槽水等の衛生的管理」が有用である。

 

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