改定・レジオネラ属菌防止に関する防除指針 (10)
 エアロゾルは水の攪拌、落下、硬い表面への衝突などによって発生するが、前記のように微小なため肉眼では見えない。
 冷却塔からのエアロゾルは大気中に放出されて拡散する。1976年のフィラデルフィアでの事例や1982年の英国放送(ロンドン)での集団発生のように、当該建築物内の人だけでなく通 行人や地域住民も感染発症しているが、患者の多くは汚染空気が流入する室内で感染している。温泉などの浴湯は原則として閉鎖されており、入浴者はその場所にいて一定時間留まり、前鼻孔の下15cmくらいまで湯にひたってくつろぐことも少なくない。ジェット噴流装置が作動していたり、人々の出入りや浴槽外での湯の使用などでエアロゾルが発生するので、状況によっては汚染した冷却塔水よりも汚染浴槽水のほうがレジオネラ感染の危険度が高い可能性が考えられる。
 1976年のフィラデルフィアでの事例に始まって、旅行関連レジオネラ肺炎が注目されている。特別 な例を除き1泊以上の旅行に出かける人は一応健康に自信のある人と考えられる。このような人たちにレジオネラ肺炎やポンティアック熱の患者が集団発生するのは、旅行による疲労や不摂生が関係しているのかも知れない。
 このような視点から、今後は温泉浴槽水中のレジオネラ菌数の目標値を<1 CFU/100mlとする。これは検水100ml中の実菌数であり、濃縮検水の一部を培養しその結果 をもとの検水100ml中の菌数に換算したものではない。検水100mlをしらべてレジオネラ属菌が不検出であっても、水系全体にレジオネラ属菌が皆無であることを意味していない。またレジオネラ不検出の成績が得られても、それは検水を採取した時点でのことであり、それが将来に亘って持続するものでもない。
 ロンドン北西約200kmの内陸部にあるスタフォード総合病院は1983年に開院して以来、年2回冷却塔水のレジオネラ検査を行って来た。開院翌年の11月に外来棟を空調する冷却塔の水からレジオネラ属菌が検出された。しかし次の年の1月の検査が陰性であったことから特別 な処置を行わなかった。そしてその年の4月の復活祭の連休明けにレジオネラ肺炎患者163人、死亡者46人の大規模集団感染が発生した。このことを教訓として、連合王国政府はその公的指針のなかで、循環または滞留している人工環境水 の検査でレジオネラ不検出の成績がえられても、管理の手をゆるめてはならないと指示している。この事例は建築物が新しくてもレジオネラ集団感染が起こることを示している。
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