改定・レジオネラ属菌防止に関する防除指針 (3)

 属Legionellaは科Legionellaceaeの唯一の属である。この属には現在41菌種が命名されている。この属の基準種は、最初に発見・命名されたLegionella pneumophilaである。グラム陰性、非抗酸性の桿菌で、幅0.3-0.9μm、長さ2-20μ mまたはそれ以上である。菌体の1端には1本、ときには2本の鞭毛がある。喀淡や気管支炎肺胞洗浄液のグラム染色では染まり難い。Gimenez(ヒメネス)染色をすれば赤く染まった多数の桿菌をマクロファージの中に見ることができる。しかしこの方法はレジオネラ属以外の最近も染めるので、信頼しすぎてはならない。

 通常の血液寒天培地やチョコレート寒天培地には発育しない。最初はヘモグロビンと発育因子製品IsoVitalXを加えた培地で培養に成功した(5)。現在はヘモグロビンを水溶性ピロリン酸鉄に、IsoVitalXをL-システインに取り換えたbuffered charcoal yeast extract(BCYE)寒天にα-ケトグルタル酸ナトリウムを加えた培地(BCYEα寒天)が常用されている。αレトークルタル酸は培地上でレジオネラ属菌が分裂増殖を始めるまでの時間を短縮するという。

 BCYEα寒天を用い36±1℃で培養すると、3ー4日後に微小な集落を生じ、5ー7日後には直径3ー4mmとなる。集落は円形、僅かに隆起し、灰白色で湿潤し、大小不同である。培養物には特有の淡い酸臭がある。1部の菌種では発育集落に長波の紫外線を照射すると、青白色または暗赤色の蛍光を発する。

 ブドウ糖その他の糖を発酵も酸化もしない。ゼラチンを液化するが硝酸塩を還元しない。主要菌種のうち馬尿酸塩を加水分解するのはL.pneumophilaである。発育にL-システインを要求する性質がレジオネラ属菌と他の細菌とを区別 するのに使用されている以外には、レジオネラ属内の菌種間の鑑別に役立つ性状試験はない。他のグラム陰性桿菌と異なり、レジオネラ属菌の菌体脂質には分岐脂肪酸の濃度が高い。

 菌体表層の抗原性の差異により、L.pneumophilaは1〜15の、その他の4菌種は夫々2つの血清群に分けられている。分離菌株の血清群は各坑血清(または単クロン抗体液)を用いたスライドグラス凝集反応で決める。日本国内では血清群1〜6の抗血清〔デンカ生検〕が市販されている。先に述べたように、菌種間の鑑別 に役立つ生化学試験がないため、L.pneumophilaに対する抗血清で凝集すればL.pneumophilaと同定し、凝集しないときは必要に応じてDNA−DNA相同性を調べて菌種を同定する。L.pneumophila以外の菌種を抗血清を用いて同定するのは、交差反応があるため確実ではない、

 L.pneumophila血清群1の菌株間の異同を決めるため、国際的に定められた10種の単クロン抗体(Mab)に対する反応性が用いらているが、このMabパネルは日本国内にはない。

 実験室では多くの化学療法剤に感受性を示すが、生体内ではβラクタム剤やアミノ配糖体剤は効果 がない。これらの薬剤は水溶性で、動物細胞膜を通過しないため、細胞内で増殖しているレジオネラ属菌には作用せず、治療効果 がない。細飽内移行性のよいマクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系の薬剤が臨床効果 を発揮する。環境中では他の微生物の代謝産物を利用し、藻類と共生し、アメーバなどの原生動物に病原性である。アメーバの食胞内では外界からの有害作用から保護され、人工培地上より速く増殖し、宿主を破壊して放出される。アメーバなどの細菌捕食性原生動物は環境への有力なレジオネラ供給源と言える。

 近年レジオネラ属菌も「生きているが培養出来ない」(viable but non-culturable,VNC)状態をとり得る細菌の1つと見られている(30,40)。培養不能状態で生息している(VNC)細菌がどのような機序で培養可能状態にもどるのか、またその逆の経路をとる引きがねが細菌の飢餓状態なのか、実質意義と学問的興味の双方で注目されている。レジオネラ属菌はVibrio cholcrac(コレラ菌)とともに環境淡水中に生息する病原菌として、そのVNCの問題は今後の主要な研究課題の1つと考えられる。

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