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これまでに日本国内で温泉に関連して発病しレジオネラ肺炎と診断された症例は13例、サウナ浴場に関連したものが1例報告されている(表3)。
表3 温泉または公衆浴場(症例11)に関連したレジオネラ肺炎症例
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No. |
年齢 |
性別 |
旅行先* |
感染要因 |
発病年月日 |
転歸 |
有病日数 |
原因菌、診断根拠 |
報告者(文献) |
1 |
59 |
男 |
片山津 |
不明 |
1986,7,3 |
死亡 |
30 |
L.dumoffii |
村上ほか(25) |
2 |
37 |
男 |
伊豆下田 |
不明 |
1986,8,6 |
軽快 |
13 |
L.pneumophila SG 5 |
阿部ほか(a) |
3 |
37 |
男 |
|
不明 |
1989,1,2 |
軽快 |
28 |
L.pneumophila SG 1 |
未発表 |
4 |
60 |
男 |
愛知県 |
浴槽内
転倒誤嚥 |
1991,3,11 |
軽快 |
60 |
L.pneumophila SG 4 |
真柴ほか(41) |
5 |
63 |
男 |
札幌 |
不明 |
1992,6,14 |
軽快 |
90 |
L.pneumophila SG 1
尿中抗原のみ陽性 |
吉沢ほか(32) |
6 |
62 |
男 |
|
不明 |
1992,8,8 |
軽快 |
20 |
L.pneumophila SG 1 |
未発表 |
7 |
74 |
男 |
兵庫県 |
不明 |
1994,6,13 |
軽快 |
40 |
レジオネラ抗体価上昇 |
高橋ら(b) |
8 |
71 |
女 |
香川県 |
浴槽内溺水 |
1994,10,23 |
軽快 |
40 |
L.pneumophila SG 3 |
塩田ほか(42) |
9 |
72 |
男 |
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1995,3,25 |
死亡 |
72 |
L.pneumophila SG 1 |
上村ほか(44) |
10 |
61 |
男 |
|
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1995,8,29 |
死亡 |
42 |
PCR法のみ陽性 |
上村ほか(44) |
11 |
57 |
男 |
東京都 |
泥酔、溺水 |
1996,3,12 |
死亡 |
23 |
L.pneumophila SG 6 |
徳田ほか(46) |
12 |
52 |
男 |
岩手県 |
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1996,6,23 |
軽快 |
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L.pneumophila SG 1** |
中館(45) |
13 |
70 |
男 |
岩手県 |
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1996,6,27 |
軽快 |
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L.pneumophila SG 1** |
中館(45) |
14 |
72 |
男 |
岩手県 |
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1996,7,1 |
軽快 |
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L.pneumophila SG 1** |
中館(45) |
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* 症例報告論文に記載されているもののみを示した
** L.pneumophila SG 1に対する抗体価上昇
(a) 阿部美知子ほか、感染症誌 61臨増:31、1987
(b) 高橋良一ほか、日胸臨 54:469-476、1995
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温泉関連の13例のうち1例は片山津温泉1泊旅行後5日目に発病した50歳男性で、Legionella
dumoffiiによる肺炎に肺膿瘍を合併し、生前から菌が培養検出され、そのための治療も強力に行われていたが、約1ヶ月後に死亡した(25)。その他の4例はいずれも軽快治療している。その内、これまでに感染源が追跡されたのは真柴らの1例と塩田らの1例、中館の2例の計4例である。真柴ら(41)は、浴槽内転倒後に発病した患者を患者血清抗体価の有意上昇によってL.pneumophilaSG4による肺炎と診断、その4ヶ月後に同じ浴槽の湯からL.pneumophilaSG4を検出した。塩田ら(42)は、仰臥位
で入る浴槽(寝湯)内で溺れ心肺蘇生後にARDSを発症した71歳女性が、一旦回復後に再びARDSを合併した重症肺炎をおこし、気道分泌物からL.pneumophilaSG3が検出され、血清抗体価が有意に上昇した症例を報告した。
この患者由来株と当該浴槽水から少数検出されたL.pneumophilaSG3株とは遺伝学的に同一であることが立証され、患者が溺れた寝湯槽の湯が感染源と断定された(43)。中館(44)はツアー客としてではなく夫々温泉を繰り返し利用していた近在の男性3人が細菌性肺炎を起こし、そのうち2例をL.pneumophilaSG1に対する血清抗体価の有意上昇からレジオネラ肺炎と診断し、約2ヶ月後の立ち入り検査で貯湯槽内、男女内湯と露天風呂の吐出口の湯100mlあたり103個のL.pneumophilaSG1を検出した。その他の4症例については、温泉浴槽水と因果
関係に考えが及ばなかったため、追跡調査がおこなわれていない。
温泉旅行ではなく、業務出張先の宿泊施設の温泉に入浴し帰着後に重症レジオネラ肺炎を発病した例(32、44)が知られている。温泉ではないが、サウナ浴槽で溺水後にレジオネラ肺炎に罹患し死亡した症例(45)に関連し、調査の結果
サウナ浴槽水が感染源と認められた。
外国でも温泉に関係したレジオネラ肺炎やポンティアック熱の集団発生が報告されている(48−51)。ポンティアック熱の集団発生では、温泉利用者の約50〜90%が発病している。
表4 1968年以降のポンティアック熱集団発生事例 |
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年、月 |
国 |
場所 |
患者数(侵襲率) |
原因菌、血清群 |
1 |
1968,8 |
米国、ミシガン州
ポンティアック |
衛生局庁舎
(蒸発型凝縮器) |
職員 :95/100(95)
訪問者:49/170(29) |
L.pneumophila SG1 |
2 |
1973,7 |
米国、バージニア州
ジェームス河 |
スチームタービン
コンデンサー(清掃) |
10/10(100) |
L.pneumophila SG1 |
3 |
1980 |
イタリア
アドリア海沿岸 |
ホテル |
23 |
L.pneumophila SG1 |
4 |
1981,6 |
米国、バーモント州
中南部 |
イン
(渦流浴) |
34/74(46)
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L.pneumophila SG1 |
5 |
1981,8 |
カナダ、オンタリオ州
ウインザー |
自動車工場
(切削油) |
317 |
L.feeleii |
6 |
1982,5 |
米国、ミシガン州
ロチェスター |
ラケットボール・
パーティ(渦流浴) |
14/23(61) |
L.pneumophila SG6 |
7 |
1988,1 |
スコットランド、
ロホゴイルヘッド |
ホテルとレジャー施設
(渦流浴) |
170/187(90)
(子供) |
L.micdadei |
8 |
1988,4 |
米国、カリフォルニア州
サンタクララ |
ホテルのロビー
(装飾用噴水) |
34 |
L.anisa |
9 |
1994,8 |
日本、東京都渋谷区 |
企業の研修センター |
研修生:43/43(100)
指導教員:2 |
L.pneumophila SG7 |
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