レジオネラ属菌は源泉の湯には生息していないか、または生息していても菌数は少ないと考えられる。とくにpH3.0以下の酸性温泉、65℃以上の高温の源泉、および酸性でしかも高温の源泉には生息しない。しかし湯温が高いので井戸水を混ぜて温度を下げたり、その湯を循環濾過して再利用している浴槽水にはレジオネラが生息し得る。
自然界には我々がまだ把握していない多数の微生物が均衡を保って生息しており、栄養物や無機化合物の種類と濃度、水温をはじめ微生物以外の水質環境との関連もあって、通
常は単一の微生物が優勢を占めることはない。しかし20℃以上の水が循環または対流している人工水環境にレジオネラ属菌が混入すると自然界での菌数以上に増殖するが、100ml当たり106個(104CFU/ml)に達することは稀である。たとえこの菌数に達しても、肉眼では細菌による水の濁りは見えない。このことはレジオネラ属菌を含めた多くの細菌種が適切な人工液体培地で、107-8CFU/mlまで増殖するのと大差があり、自然界と同様、人工環境水も細菌の増殖可能限界が低いことを示していると考えられる。
レジオネラ属菌が温泉浴槽水に混入する経緯は明らかではない。恐らくは土埃とともに、または人体に付着して持ち込まれるのではないだろうか。
循環濾過して湯を再利用している場合、砂濾過によって菌を除去することは出来ない。細菌学実験室で水や溶液中の菌を濾過除去するには、孔径0.22‐0.45μ
mのメンブランフィルターを用いている。我々が肉眼で濁りとして認識できるのは、人工培地で培養した細菌数が1ml当たり1,000万個台の場合であり、100万個台であれば透明に見える。細菌であってもその他のものであっても、肉眼で濁って見える液は、前記のフィルターですぐ目詰まりを起こしてしまう。以上のことから、浴槽水などが肉眼的に透明であっても、細菌学的にはかならずしも清浄とは言えない。
1)アルカリ単純泉での調査結果
アルカリ単純泉の調査結果はこの指針の初版で詳細に述べた。平成9年度に調査したアルカリ単純泉は表6のK群にまとめた7旅館である。源泉水のレジオネラ検査をしたのはK-1,K-2,K-4の3旅館で、このうちK-2(源泉湯温35℃)のみがレジオネラ陽性であった。K−2の浴槽水はレジオネラ不検出であったが、他の6旅館すべての男内湯、2旅館の女内湯から101〜102CFU/100mlのレジオネラ属菌が検出された。
2)各種泉質の温泉での調査結果
平成9年度に東北から九州までの、22旅館の15源泉水と54浴槽水を調査した。この調査では減圧吸引濾過後のメンブランフィルターをGVPC培地表面
に貼付・培養する方法を使用した。泉質別の旅館数は硫化水素泉:5,塩化物泉:4,食塩泉:3,炭酸水素泉・重曹泉・石膏泉:各2,含鉄泉・硫酸塩泉・二酸化炭素泉・鉱泉:各1であった(表6)。
これら、22旅館のうち、源泉および浴槽水がレジオネラ不検出であったNo.1〜6の旅館は硫化水素泉3、含鉄泉1,塩化物泉3であり、含鉄泉を除いて源泉および浴槽水
のpHは1.3から5.0、湯温は62〜90℃、湯量が豊富で循環ろ過していなかった。pH5.0,源泉湯温62℃の温泉ではさらに塩素剤を用いて遊離残留塩素濃度を0.3mg/L(ppm)前後に維持していた。
No.7〜14の旅館では源泉水のpHは6.74〜9.44、測定し得た源泉湯温は40℃と80℃、源泉水はすべてレジオネラ不検出であったが、検査した20浴槽のうち17浴槽から75−1000CFU/100mlのレジオネラ属菌が検出された。
No.15〜22の旅館ではNo.16の重曹線を除いて源泉水のpHと温度は測定されていない。表示の数値は浴槽水のものであり、検査した20浴槽のうち15浴槽からレジオネラ属菌が検出された。
従来の調査結果に今回の成績を加え図7と8に示す。