改定・レジオネラ属菌防止に関する防除指針 (9)

 レジオネラ属菌は自然界の土壌や淡水に生息している。環境水が自然のまたは人為的な種々の理由でエアロゾル化するとき、水中のレジオネラ属菌は我々の肉眼では見えない微小な水滴(直径0.8-10μ m)に内包され、容易には落下せず、湿度が高ければ蒸発せずに空気中に漂う。レジオネラを内包出来る水滴の直径は2μ m以上で、呼吸器に吸入されて肺胞に達するのは5μm以下といわれる(55)。冷却塔から飛散するエアロゾル問題を解決すれば、温泉を含む公衆浴場や家庭用浴槽がレジオネラ汚染はなくなる筈という意見もあったが、冷却塔、温泉浴槽、家庭用24時間風呂から検出されるL.pneumophilaの血清群分布の相違を見ると、この意見に全面 賛成するわけにはいかない。平成9年度に調査した28温泉旅館の18源泉、72浴槽の湯から検出されたL.pneumophila、50菌株の血清群別 を表8に、冷却塔水、温泉浴槽水、24時間風呂浴槽水から検出されたレジオネラ属菌、1361株の菌種と血清群の比較を表9に示す。

表8. 平成9年度に調査した29温泉旅館の18源泉、72浴槽水由来
Legionella pneumophilaの血清群別検出回数

血清群別検出回数 NA 菌株数総計
I II III IV V VI VII VIII IX 1-15 1-6
旅館数 3
2 10 5 8

3 1 2
源泉数 1

2 3


2

50
浴槽数 3
3 11 6 9

2 3 5
NA 抗レジオネラ血清SG1-15または1-6に非凝集.DDHでL.pneumophilaと同定
* 血清群

 土壌中のレジオネラの生息状況のデータは多くないが、土壌の掘削などで土埃とともに飛散すると言われ、病院の敷地内の掘削工事中の暴風雨で入院患者にレジオネラ肺炎が集団発生した報告がある(56)。
 大気中の水滴や土埃とともにレジオネラ属菌が温泉水に紛れ込むことは容易に想像できる。この場合にも最初の菌数は非常に少ないと推測されるが、循環ろ過によって温水を再利用しているうちに、次第に菌数が増加する考えられる。浴場建設当初の資材や、その後入浴する人体に付着したレジオネラ属菌が浴槽水に混入することも否定出来ないが、証明することは甚だ困難である。

表9. 冷却塔水、温泉浴槽水、24時間風呂浴槽水由来レジオネラ属菌1361株の菌種・血清群比較
菌種 血清群 菌株数(%) 菌株総数
冷却塔 温泉 24時間風呂
Legionella pneumophila 1 667
(59.66)
10
(5.0)
7
(16)
2 1
(0.09)
4
(2.0)

3 15(1.34) 19
(9.5)
9
(21)
4 3
(0.26)
49
(24.5)
2
(5.0)
5 10
(0.9)
33
(16.5)
17
(40)
6 38
(3.4)
33
(16.5)
7
(16)
NA 353
(31.6)
63
(31.5)
1
(2)
L.  anisa 16(1.43)

L.  bozemanii 2(0.17)

L.  dumoffii
1(0.5)
L.  erythra 3(0.26)

L.  gormanii
3(1.5)
L.  feeleii 10(0.89)

Legionella sp.
2(1)
合計 1118(100) 200(100) 43(100) 1361
NA 血清群1-6の抗血清に非凝集 (藪内英子.空気調和・衛生学 72:159-167)
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