大衆食堂-1998年
1 概況
1998年
(1) 大衆食堂
 大衆食堂とは、主に主食をその場所で比較的安い価格で一般 大衆に飲食させる店をいい、食堂、めし屋、一膳めし屋、お好み食堂などが含まれる。日本標準産業分類では 「一般 食堂」となっている。
 提供するものは、主食類、副食類、飲料・酒類である。主食類は、和食、洋食、中華食に分かれる。和食には定食、丼もの、めん類など、洋食には皿もの(カレ−ライス、チキンライス等)やライスとのセットもの(とんかつ、ミックスフライ等)などがあり、中華食には手軽に調理できる焼飯、ラ−メンなどがある。
 副食類は魚・肉類(魚の煮付け、焼き魚、フライ、刺身、とんかつ、ハムサラダ等)、野菜類(酢のもの、ぬ た、煮しめ、大根おろし、ほうれん草のおひたし等)、加工品類(納豆、冷や奴、煮もの、漬けもの等)、汁もの類(味噌汁、すまし汁、けんちん汁 、豚汁等)などがあり、家庭料理とほぼ類似した多種の実用向き料理が提供される。
 このように、大衆食堂は家庭料理的な食事を手軽に提供する食堂であるため、専門的、高級的な料理を提供する日本料理店、西洋料理店、中華料理店、東洋料理店などとは業種分類上一線を画されている。
(2) 大幅な事業所の減少の中で進む二極分化
一般食堂の事業所数は、傾向として長期的に後退傾向にある。平成8年の全国の一般 食堂87,129件を昭和61年と比較すると、10年間に27,779件も減少しており、減少率は24.2%と極めて高い。この間の一般 飲食店全体の9.3%減を大幅に上回っての減少である。とくに、従業者数4人以下が32.5%も減少(一般 飲食店全体は19.0%減)したのが影響している。最近年でみても、8年は3年と比べると15,222店減少、14.9%減(一般 飲食店全体3.8%減)で、一般飲食店の中では喫茶店の19.3減に次ぐ減少率となっている。
従業者規模別でみると、従業者数4人以下の事業所は全体の69.1%を占め、一般 飲食店全体の65.7%を上回っており、小規模店が多いといえる。事業所数の推移を従業者規模別 でみると、20人規模を境に明暗が浮かび上がってくる。平成8年を3年と比較すると19人以下は16.0%減、一方20人以上は15.8%増と対象的な増減率を示しているからである。19人以下で特徴的なのは、従業者数4人以下の小規模店が同期間で19.1%減と大きく後退したことである。この5年間に14,203店が転廃業しており、1年間に2,840店、1日当たりでは7.8件も撤退している計算になる。また、5〜9人規模も8.8%減となっいる。大衆食堂業界は、いまや新陳代謝が急速な勢いで進捗しており、今後も従業者規模20人程度を境にした二極分化は一段と進む傾向にある。
事業所数の推移
(単位:件、%)
(参考) 一般飲食店全体

(単位:件、%)
調査年 従業者規模 合計
1〜4人 5人以上
昭和61年 (77.7)
89,256
(22.3)
25,670
(100.0)
114,926
平成3年 (72.7)
74,443
(18.3)
12,711
(100.0)
102,351
平成6年 (73.4)
71,848
(26.6)
26,077
(100.0)
97,925
平成8年 (69.1)
60,240
(30.9)
26,889
(100.0)
87,129
従業者
1〜4人
合計
(73.7)
370,515
(100.0)
503,037
(69.1)
327,643
(100.0)
474,389
(70.0)
326,819
(100.0)
466,835
(65.7)
299,963
(100.0)
456,420
資料: 総務庁「事業所統計調査」(平成6年は名簿整備調査)
(注) ( )内は構成比である。

 

2 最近の動向
(1) 狭められる従来型の大衆食堂の存立分野
 大衆食堂は少ない投下資本、家族労働で営業が可能であり、また高度の専門的な技術を必ずしも必要としないので、新規参入が容易である。一方では、立地的に競合が激化し経営が成り立たなくなれば、簡単に転廃業してしまうなど撤退も容易である。大衆食堂は、専門店にない安さ、気安さ、手軽さなどにより、かつては一般 飲食店の中で主流を占めていたが、日本人の嗜好の変化や外食産業の出現などにより、相対的な地位 の低下が進行している。また、従来の大衆食堂と経営スタイルを異にした新業態の出現が、一層相対的な地位 の低下に拍車をかけている。
(2) 新業態の出現
 従来型の大衆食堂は、ビジネス街や工場地帯、学生街、あるいは街道筋などに位 置して、弁当持参の代わりの昼食や、出張者や工事現場担当者の食事、あるいは不意のお客が来たときに丼ものを出前で頼むという需要に支えられている。したがって、食堂側でも多様な需要に対し、調理できる範囲内の注文なら何でもこなすくらいメニュ−が揃っている。
 ところが、近年では、メニュ−を少種類にしぼりこみ、ファストフ−ド的に迅速に食事を提供する新業態が出現している。これらは、店内設備は簡単であるが、値段も低価格で味付けも並みであり、安さ、手軽さ、気安さからみたら、従来型の大衆食堂以上に大衆性に満ちている。たとえば、積極的なFC展開中の松屋フ−ズでは定食専門ながらメニュ−を売れ筋にしぼり込んでおり、牛丼の吉野屋では、主力の牛丼のほかにさけ定食やけんちん汁定食など少種類の定食を提供している。そのほか、うどんFC店でうどん以外は親子丼のみにしぼり込んだり、丼ものと少種類の定食のみを扱うFC店などがみられる。これら新業態の大衆食堂分野への参入は、このところ年々盛んになってきている。
(3) 競争激化の大衆食堂の需要分野
 従来型の大衆食堂は、片や積極的な参入を図る大衆食堂の新業態と片や同業者同士でし烈な競争を展開する弁当販売業者の双方からの攻勢により、苦戦状態にある。弁当業界では、給食センタ−の職場向けの配送、宅配弁当屋の増加、レストランなどの店頭での弁当販売、持ち帰りずしなどとの競争で混戦状態にある。さらに、コンビニエンスストアの弁当が競争に拍車をかけている。コンビニエンスストアでは、ビジネスマンやOLの昼食市場を狙って、弁当の品揃えを充実させるため、次々に新弁当を発売してる。大衆食堂の需要分野は、この面 からも侵食されだしている。さらに一部のコンビニエンスストアが、最近、電話注文により弁当の配達を始めたが、これが他の同業者にどう波及するのかも大衆食堂にとっては脅威である。
3 経営上のポイント
(1) 待ちの姿勢からの脱皮、積極的な営業戦術の展開を
 大衆食堂の顧客は、店舗の周辺の人たちが主力であるために、限定された商圏内の営業であるとの意識が強く、積極的に営業活動をすることが乏しく、「待ちの姿勢」が業界の体質となっている。しかし、今日では、新業態をはじめ多くの競争相手が現われているだけに、これまでのように「待ちの姿勢」ではますます太刀打ちができなくなるであろう。いま、この難局を乗り越えるには、店の存在をアピ−ルする戦術を展開すべきである。東京のJR水道橋近くの横道の奥に位 置する大衆食堂では、店主の家族が人の流れが多い大通りに出てきて、行き交うビジネスマンや大学生に店の地図を刷り込んだちらしを路上で配り店の存在についての周知を懸命に行っている。競争激化の時代に生き残るには、大衆食堂だから広告も宣伝も不要という意識は払拭すべきであろう。
(2) 売りもののメニュ−は何?
 大衆食堂は、メニュ−に特徴がないのが特徴である。しかし、食べる客は個性化時代を迎え、食事でも個性的なメニュ−を模索する傾向が強まっている。昔懐かしい味のオムレツを食べさせる店があれば、電車に乗ってでも押しかける風潮が、今日にはある。したがって、肝心なことはいかに自分の店の個性を出すかである。
 東京のビジネス街で、ある酒造会社が経営している大衆食堂(夜は居酒屋)の売りものは、豚汁と魚の煮付けか、焼き魚の組み合わせの定食に人気が集中し、ランチタイムには、毎日行列ができている。また、東京のJR神田駅のガ−ド下に軒を並べる2軒の大衆食堂(夜は居酒屋)は収容規模は100人前後だが、昼時はいつ見ても客が立て込み、相当な賑わいをみせている。数多く並ぶメニュ−の中で人気のあるのは、さば、キンキ、カレイなどの魚の煮付けや焼き魚の定食である。
(3) 消えた家庭料理の献立の再現
 現在のビジネスマンの家庭では共稼ぎが多くなり、ウイ−クデ−には主婦が料理する時間が不足する。そこで、魚の煮付けなど調理に時間がかかる料理は、食卓にのらない傾向が強まっている。仕方なく夫は外食で補っているとの見方もできる。
 家庭の食卓における当たり前の献立は、過去のものになりつつある。世の中の変化に連れて家庭料理のメニュ−の中に形骸化するものは、今後も増えるであろう。おばあちゃんの手料理など、家庭の食卓から消えつつあるメニュ−を再現してメニュ−の主力に作り上げるのは、従来型の大衆食堂の役割ではないだろうか。工夫をすれば、画一化された新業態の営業では手を下せないすき間は、たくさんあるはずである。忘れられようとしている家庭料理の献立の復活を再考することも、活路を見出す一手法である。
(4) フリ−客の確保も視野に
 従来型の大衆食堂はどちらかというと店舗が汚い、食堂内は暗い、調理場は雑然としているなどのマイナスイメ−ジが強いが、競合する新業態店は、いずれも店舗の外観は明るい色で飾られ、店内も調理場も整理整頓されており、清潔な感じがする。従来型店と対照的な印象を与えている。どちらかというと、従来型店では、その店舗の状態に馴れきっている長年の固定客に支えられてきたために、設備状況の改善に無感覚になっている傾向が強い。一方、新業態店は競争激化に伴い、経営面 であの手、この手で細かい戦術を打ってくるだけに、いろいろな面でますますイメ−ジの差が拡大しかねない。
 従来型店は、これまで以上に固定客の確保や新たな客層を確保することへの努力が求められる。周辺の固定客だけを対象に限定せず、通 りすがりの若いカップルや女性同士などのフリ−の客も視野にいれ、個性的なメニュ−を店頭に表示するなどして、一味もふた味も違う大衆食堂を強調することである。新大阪駅からやや離れた商住混在地にある大衆食堂は、お世辞にもきれいな食堂とはいえないが、店の前に書いてあるその日の献立をみると、ついつい入って食べたくなる。
 おかずの献立の店頭表示にも工夫が必要である。
4 繁盛店の事例
(1) 徹底した顧客志向で成長
 東京・武蔵野市の繁華街にある大衆食堂は、地元地域に密着した営業を方針としている。モット−は「お客さまに手軽な値段で、楽しい食事を提供する」であり、経営者自身が調理に興味をもち、自分のアイデアをメニュ−にして客に提供することを喜びとしている。メニュ−は、家庭料理的な日常食が主体であり、顧客の対象をサラ−リ−マン、学生だけでなく、若いカップルや主婦、女性の小グル−プ等都市の中間層全般 においている。
 経営自身が「食べるのが好き」「調理が好き」に徹底しているので、味、値段等について、自らが納得するまで追及する。たとえば、カレ−粉やめん類は経営者自らが手作りをするほどである。値段にも、こだわりをもつ。セットメニュ−は1,000円位 まで、一品料理は500円位までを限度に決めている。客単価は昼は800円位 、夜は1,500円位として、手ごろな値段に設定している。
 顧客第一の志向を貫くために、店周の対象層が食に対して、どのようなニ−ズをもっているかを調査し、それに対して当店がどのように対応しているかを分析している。もし、提供したメニュ−が不振になった場合は、その原因を徹底的に追及し、新たな展開をするための材料に、この調査を活用している。
 あくまでも「自分が食べてみて味、ボリュ−ム、値段などで納得できるものはお客さまも喜ぶはず」との信念に立った経営を行っている。創業は昭和45年であるが、今日では、店舗数23店、従業員数260名(うちパ−ト・アルバイト130名)までに成長している。
(2) 売り物は米と野菜と副食の選択
 東京の新宿駅東口を出た繁華街のビルの4階にある大衆食堂(夜はパブ)は、従来型の大衆食堂の多種メニュ−提供とは異なり、毎日メニュ−を変更するが、1日の品数を6品にし、お客は大皿に盛りつけてある6品のうち3品を選択するという、カフェテリア形式を取り入れている。ちなみに、ある日のメニュ−を掲げると、(a)肉じゃが、(b)メンチカツ、(c)ビ−フンいため、(d)卵とウィンナ−のいためもの、(e)ちくわの揚げもの、(f)肉と野菜のいためものの6品である。ご飯と味噌汁がつき、コ−ヒ−は飲み放題として税込700円の料金である。
 売り物は米と野菜である。米は発注してから精米され翌日届く山形直送の有機米を用いているので、常に「新米並みに味わえる」をキャッチフレ−ズにしている。野菜は、生産者氏名入りの産地直送のとれたての無農薬野菜を使用、「新鮮で体にやさしい」を売りものにしている。客層はサラリ−マンをはじめ若者、買物客の主婦等幅広く、ランチタイムには食事客で166席が立て込んでいる。
 今後特徴のない中途半端な店は、ますます生き残りが難しくなる時代を迎えているだけに、このような差別 化への努力は常に欠かせないといえよう。
    資料

    1. 総務庁「事業所統計調査」
    2. 総務庁「家計調査年報」
    3. (財)全国環境衛生営業指導センター「成功事例調査」
    4. 金融財政事情「企業審査事典」
    5. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
    6. 経営情報出版社「業種別業界情報」’98年版

 

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