大衆食堂-2001年
1 概況
2001年
(1) 大衆食堂
 大衆食堂とは、主に主食をその場所で比較的安い価格で一般 大衆に飲食させる店をいい、食堂、めし屋、一膳めし屋、お好み食堂などが含まれる。日本標準産業分類では 「一般 食堂」となっている。
 提供するものは、主食類、副食類、飲料・酒類である。主食類は、和食、洋食、中華食に分かれる。和食には定食、丼もの、めん類など、洋食には皿もの(カレ−ライス、チキンライス等)やライスとのセットもの(とんかつ、ミックスフライ等)などがあり、中華食には手軽に調理できる焼飯、ラ−メンなどがある。
 副食類は魚・肉類(魚の煮付け、焼き魚、フライ、刺身、とんかつ、ハムサラダ等)、野菜類(酢のもの、ぬ た、煮しめ、大根おろし、ほうれん草のおひたし等)、加工品類(納豆、冷や奴、煮もの、漬けもの等)、汁もの類(味噌汁、すまし汁、けんちん汁 、豚汁等)などがあり、家庭料理とほぼ類似した多種の実用向き料理が提供される。
 このように、大衆食堂は家庭料理的な食事を手軽に提供する食堂であるため、専門的、高級的な料理を提供する日本料理店、西洋料理店、中華料理店、東洋料理店などとは業種分類上一線を画されている。
(2) 新業態の進出で促進される新陳代謝
平成11年の全国の大衆食堂の事業所数は82,034件で、8年と比べると5,095件減少、5.8%減(一般 飲食店全体2.9%減)となり、一般飲食店の各業種の中で喫茶店7.5%に次いで高い減少率となっている。大衆食堂は長期的に後退傾向にあり、3年から11年までの8年間に20,317件減少し、1年間当たりで2,539件も退出している。この間の減少率は19.9%で一般 飲食店全体0.7%減を大幅に上回っている。
 従業者数は491,803人で8年に比べ1.4%減(一般飲食店全体0.3%増)となり、事業所数、従業者数とも減少している。1事業所当たりの従業者数は、6.0人(一般 飲食店全体6.2人)となっている。
 平成8年から11年までの新設事業所数は8,413件で、一方、廃業事業所数は13,468件と廃業事業所が新設事業所を5,055件も上回って推移している。開業率は3.5%(一般 飲食店全体5.0%)、廃業率5.6%(同5.9%)となり、廃業率の方が2.1ポイント高くなっている。
 平成11年の法・個人別事業所数は、個人が59,514件(構成比72.8%)法人は11,513件(同27.2%)となり、8年に比べると個人が8.3%減と大幅に減少したのに対し、逆に法人は1.2%増となっている。
 従業者規模別でみると、4人以下の小規模店が全体の68.6%(一般 飲食店全体65.1%)となっており、8年69.1%に比べわずかに減少している。8年対比の増減率でみると、20〜99人と300人以上が増加しているが、それ以外の層はいずれも減少しており、とくに100〜199人は14.4%減、200〜299人も30.4%減と大規模層の減少率が高い。また、1〜4人が6.6%減、5〜9人も8.9%減と、小規模層でも減少している。
  いまや、大衆食堂業界は、新陳代謝が急速な勢いで進捗しており、新業態の進出により、旧態依然の小規模層が業界からの退出を余儀なくされる傾向が強まっている。
事業所数の推移
(単位:件、%)
(参考) 一般飲食店全体

(単位:件、%)
調査年 従業者規模 合計
1〜4人 5人以上
昭和61年 (77.7)
89,256
(22.3)
25,670
(100.0)
114,926
平成3年 (72.7)
74,443
(18.3)
12,711
(100.0)
102,351
平成6年 (73.4)
71,848
(26.6)
26,077
(100.0)
97,925
平成8年 (69.1)
60,240
(30.9)
26,889
(100.0)
87,129
平成11年 (68.6)
56,277
(31.4)
25,757
(100.0)
82,034
従業者
1〜4人
合計
(73.7)
370,515
(100.0)
503,037
(69.1)
327,643
(100.0)
474,389
(70.0)
326,819
(100.0)
466,835
(65.7)
299,963
(100.0)
456,420
(65.1)
288,426
(100.0)
443,216
資料: 総務庁「事業所・企業統計調査」
(注) ( )内は構成比である。
2 最近の動向
(1) 狭められる従来型の大衆食堂の存立分野
 大衆食堂は少ない投下資本、家族労働で営業が可能であり、また高度の専門的な技術を必ずしも必要としないので、新規参入が容易である。一方では、立地的に競合が激化し経営が成り立たなくなれば、簡単に転廃業してしまうなど撤退も容易である。大衆食堂は、専門店にない安さ、気安さ、手軽さなどにより、かつては一般 飲食店の中で主流を占めていたが、日本人の嗜好の変化や外食産業の出現などにより、相対的な地位 の低下が進行している。また、従来の大衆食堂と経営スタイルを異にした新業態の出現が、一層相対的な地位 の低下に拍車をかけている。
(2) 新業態の出現
 従来型の大衆食堂は、ビジネス街や工場地帯、学生街、あるいは街道筋などに位 置して、弁当持参の代わりの昼食や、出張者や工事現場担当者の食事、あるいは不意のお客が来たときに丼ものを出前で頼むという需要に支えられている。したがって、食堂側でも多様な需要に対し、調理できる範囲内の注文なら何でもこなすくらいメニュ−が揃っている。
 ところが、近年では、メニュ−を少種類にしぼりこみ、ファストフ−ド的に迅速に食事を提供する新業態が出現している。これらは、店内設備は簡単であるが、値段も低価格で味付けも並みであり、安さ、手軽さ、気安さからみたら、従来型の大衆食堂以上に大衆性に満ちている。たとえば、積極的なFC展開中の松屋フ−ズでは定食専門ながらメニュ−を売れ筋にしぼり込んでおり、牛丼の吉野屋では、主力の牛丼のほかにさけ定食やけんちん汁定食など少種類の定食を提供している。そのほか、うどんFC店でうどん以外は親子丼のみにしぼり込んだり、丼ものと少種類の定食のみを扱うFC店などがみられる。これら新業態の大衆食堂分野への参入は、このところ年々盛んになってきている。
(3) 競争激化の大衆食堂の需要分野
 昨今の従来型の大衆食堂は、片や積極的な参入を図る大衆食堂の新業態と片や同業者間でし烈な競争を展開する弁当販売業者の双方からの攻勢により、苦戦状態にある。弁当業界では、給食センタ−の職場向け配送、宅配弁当屋の増加、レストランなどの店頭での弁当販売、持ち帰りずしなどとの競争で混戦状態にある。
 さらに、コンビニエンスストアの弁当類などが競争に拍車をかけている。コンビニエンスストアでは、ビジネスマンやOLの昼食市場を狙って、弁当の品揃えを充実させるため、新商品の開発に積極的に取り組んでおり、おにぎり、弁当等米飯類、パスタ類のほか季節商品の生そば類などを発売している。さらに一部のコンビニエンスストアが、最近、電話注文により弁当の配達を始めたが、この配食サ−ビスの今後の展開も大衆食堂にとっては脅威である。いまや、弁当類などの加工食品は、コンビニエンスストアの主力商品となっているだけに、大衆食堂の需要分野が大きく侵食されている。
3 経営上の問題点
(1) 強まる他の飲食店や同業者との競争
 大衆食堂の顧客は、店舗の周辺の人たちが主力であるために、限定された商圏内の営業であるとの意識が強く、積極的に営業活動をすることが乏しく、「待ちの姿勢」が業界の体質となっている。しかし、今日では、新業態をはじめ多くの競争相手が現われているだけに、これまでのように「待ちの姿勢」ではますます太刀打ちができなくなるであろう。いま、この難局を乗り越えるには、店の存在をアピ−ルする戦術を展開すべきである。東京のJR水道橋近くの横道の奥に位 置する大衆食堂では、店主の家族が人の流れが多い大通りに出てきて、行き交うビジネスマンや大学生に店の地図を刷り込んだちらしを路上で配り店の存在についての周知を懸命に行っている。競争激化の時代に生き残るには、大衆食堂だから広告も宣伝も不要という意識は払拭すべきであろう。
 また、店舗施設の老朽化が進んでいる大衆食堂が多く見られ、本部仕立ての店構えのFCなどに比べ見劣りするため、競争面 で極めて不利な条件となっている。このような状況からみて、かつては小零細企業独自の分野は、いまや大手企業の進出により蚕食され、業態のあり方、店構えの形式、経営手法などについて、業界のリ−ダ−シップは後発の大手企業により、牛耳られてしまっている。
(2) 内外の競争相手に苦戦、後発の大手企業の競争激化が拍車
 経営上の問題点(複数回答)を掲げると、1位は「諸経費の上昇」40.3%、2位 が「他飲食店との競合」31.7%、3位「同業者間競争で客数が減少」27.2%、4位 「人件費の上昇」26.2%、5位「設備の老朽化」25.1%、6位 「立地条件の悪化」18.9%と続く。しかし、2位の「他飲食店との競合」と3位 の「同業者間競争」を合わせると58.9%となり、競合問題が1位 に浮かび上がる。両者を合わせた割合により法・個人を比較すると、個人企業55.1%に対して有限会社が63.6%、株式会社になると72.0%と、企業規模が大きくなるにつれて拡大しており、大手企業間の競争が相当激しいことがうかがわれる。特に最近の大手外食企業の競争が価格競争に陥るなどますます競争が激化しており、大衆食堂は好むと好まざるを得ず、後発の大手企業間の競争激化による影響を受け苦戦を強いられている。〔厚生労働省「飲食店営業(一般 食堂)の実態と経営改善の方策」(平成11年3月)〕
(3) 決め手を欠く当面の対応策
 同実態調査により、これらの問題点に対する当面の対応策をどう考えているかみると、1位 は「メニュ−の工夫・開発」で61.6%、2位は「接客サ−ビスの改善」が37.2%、3位 は「店舗・設備の改善等」で31.3%であり、さらに「従業員教育を行う」21.1%、「価格の適正化」16.3%と続く。なかでも、株式会社は「接客サ−ビスの改善」62.4%、「従業員教育を行う」55.7%などが個人、有限会社に比べて圧倒的に多く、差別 化の手段を従業員の接遇に求めているのが目立つ。しかし、これといった即効的な対応策はみられなく、もう一つ決め手に欠けている面 がある。当面の経営方針としては自分の企業にとって最も効果が期待できるものから、効果 測定を行いながら試行錯誤で取り組むよりほかに方法はないといえる。
(4) 長期的な対応策は「施設・設備の改善等」を最重視
 同実態調査により長期的な対応策を見ると、1位「施設・設備の改善等」42.5%、2位 は「専門店化・高級店化」15.9%、3位が「経営の多角化」9.1%であり、「施設・設備の改善等」は2位 を大きく引き離している。これからみて施設・設備の老朽化、陳腐化が進んだものを、やむなく使用している状況がうかがわれる。
 本来、長期的な経営方針は、経営者の今後の事業計画の根底にある根本的な考え方に基づいて行われるべきものであるが、経営環境の変化が激しいだけに具体化する際には、根本的な考え方が時代の変化に対応しているか、再度見直すことが望ましいであろう。
(5) 将来性は「客数減少で悲観的」な見方が多い
 同調査で将来性についての回答(一つのみ回答)をみると、1位 は「客数が減少して悲観的」が33.8%、2位は「今と変わらない」が28.6%であるが、3位 は「設備投資等が順調なら有望」が12.2%と仮定が前提になっての回答であり、不透明さが滲み出ている。「今の経営で有望」は10.7%と全体の1割に過ぎず、客数の減少が経営面 に大きな打撃を与えており、現状維持をするのに最大限の努力をしている姿が浮かび上がっている。
4 経営上のポイント
(1) 待ちの姿勢からの脱皮、大事な営業戦略
 大衆食堂の顧客は、店舗の周辺の人たちが主力であるために、積極的に営業活動をすることが乏しく「待ちの姿勢」が業界の体質となっている。しかし、今日では、新業態をはじめ多くの競争相手が現われているだけに、これまでのに「待ちの姿勢」ではますます太刀打ちができなくなるであろう。いまの難局を乗り越えるには、店の存在のアッピ−ルをいかに行うかの戦術を展開すべきである。競争激化の時代に生き残るのには、大衆食堂だから広告も宣伝も不要という意識は払拭すべきである。今後、いま以上に晩婚化が進めば、大衆食堂を必要とする需要層が増えるので、独身者が一人で気楽に入れる家庭的な雰囲気の店の存在を、積極的にアピ−ルする姿勢が望まれる。
(2) 売りもののメニュ−は何?
 大衆食堂の特徴は、お袋、おばあちゃんが作る家庭料理のメニュ−と味、価格とのバランスである。いま、主婦の勤務者化で、台所に立ち家庭料理を作る機会が後退し、食卓にのるのは、ス−パ−で購入した総菜や半製品を調理したものが多くなり、家庭料理に飢えている人が少なくない。そこに、大衆食堂が狙う「すきま市場」がある。また、大衆食堂は多くのメニュ−をこなしてしまうところに特徴があるが、悪く言えばメニュ−に個性がなく顧客層のタ−ゲットを絞りきれない一面 がある。したがって、「これが当食堂の売り物のメニュ−」というメイン料理を作れば、固定客確保に結び付く。"あのメニュ−ならあの大衆食堂だ"といわれる位 の個性を打ち出すことも必要である。もう一つは大衆食堂という性格上、値ごろ感を前面 に押し出す必要がある。
 東京の大手町のビジネス街で、ある酒造会社が経営している大衆食堂(夜は居酒屋)の売り物は、豚汁と魚の煮付けか、焼き魚の組み合わせの定食に人気が集中し、ランチタイムには、毎日行列ができている。また、東京のJR神田駅のガ−ド下に軒を並べる2軒の大衆食堂(夜は居酒屋)は、収容規模は100人前後だが昼時はいつみても客が立て込み相当な賑わいをみせている。数並ぶメニュ−の中で人気のあるのは、さば、キンキ、カレイなどの煮付けや焼き魚の定食である。副食のおかずもつくので、まるで家庭の食事を場所を変えて食べている献立で、しかも大衆料金であり、値ごろ感が十分に裏打ちされている。
 これは、ビジネスマンの家庭において共稼ぎが多くなり、ウイ−クデ−には主婦が料理する時間が不足し、手間ひまがかかる魚の煮付けなどを敬遠しているために、外食で補っているとの見方ができる。大衆食堂の腕の発揮どころは、家庭内の献立の簡便化のすき間を狙った家庭料理の充実や、郷愁を感じる"お袋の献立"の復活であるといえよう。
(3) 競争力の強化は"こだわり"による差別化策の徹底
 従来型の大衆食堂はどちらかというと店舗が汚い、店内は暗い、調理場は雑然としているなどのマイナスイメ−ジが強いが、競合する新業態店は、いずれも店舗の外観は明るい色で飾られ、店内も調理場も整理整頓されており清潔感があふれ、従来型店と対照的な印象を与えている。どちらかというと、従来型店では、その店舗の状態に馴れきっている長年の固定客に支えられてきたために、設備状況の改善に無感覚になっている傾向が強い。一方、参入してくる新業態店は競争激化に伴い経営面 であの手、この手で細かい部分の工夫を打ち出すことが十分に予想されるだけに、ますますイメ−ジの格差が拡大しかねない。
 これからの従来型店は、これまで以上に固定客の確保や、新たな客層を確保することへの努力が求められるが、それには通 りすがりの若いカップルや女性同士などのフリ−客が目をつけて、気楽に入れる店づくりを心掛ける必要があろう。もちろん、トイレなどの衛生設備面 への配慮も怠りないようにすべきである。
 競争力の強化で強調することは、"こだわり"による差別化策である。"こだわり"こそ「コロンブスの卵」、つまり考え方次第である。店舗の入り口を昔風の障子戸にしたり、内装を経営者の感性により独特のものにしたり、献立も地の利を生かした地物の素材や季節商品を売り物にしたり、「健康ブーム」の追い風の利用や高齢者向けに注力するなど、とにかく口コミで情報が飛び交う"こだわり"の差別 化策に執着することが、生き残る上で極めて大事な経営手法である。
 大衆食堂にとって大事なことは、@入りやすい店構え、A店内、調理場の清潔感、B売り物商品を作る、C家庭的な料理の提供、ただし家庭では出せない味付けなどに集約されよう。
5 工夫している事例
☆本格的なフランス料理店から転換
 
  • 立地:山梨県甲府市 商店街
  • 従業者:3人(うちパ−ト1名)
  • 創業:昭和46年
  • 従業者数:2名(パ−トなし)
  • 稼働率:5回転
  • 経営理念:「うまい料理へのこだわり」
(1) 幅広いメニュ−の中にも個性、飽くなき味の追求
 メニュ−構成は和食系統の料理をすべて網羅している。また、四季ごとのメニュ−を組み立て、季節感を出すことにより個性化を図っている。顧客も季節料理を期待しており、固定客確保に効果 をあげている。味付けは絶対に手抜きをしないことを守り続けている。以前が独自のソ−スで繊細な味をだすフランス料理の調理人だけに手抜きが出きず、どんなメニュ−にしろ味にこだわる。また、創作料理にも余念がない。ありきたりのメニュ−では飽き足らず、メニュ−開発のために夫婦で定期的に食べ歩き旅行をして、新たな料理のネタ探しに努めている。
(2) 手ごろな価格の設定
 味へのこだわりの反面、大衆食堂という業態の手前、価格は大衆料金に徹している。原価率を下げるために、原材料の仕入れは必要な物を必要な量 だけ必要な時に購入し、ロス管理を徹底してコスト削減を図り、他店に比べ価格を安く設定している。
(3) 妻の接客態度が好感を与える
 調理場は経営者が、接客は妻が分担しているが、妻の人柄の良さが大衆食堂の親しみのある雰囲気を助長し、経営者の味付けと並んだ二人三脚が、食事にくる顧客に安心感を植え付けている。これも顧客の定着化、口コミによる新規客の獲得に寄与している。
(4) 合理的な厨房設備
 厨房設備は必要なものだけを、調理しやすいように合理的にレイアウトされている。これにより、厨房内は経営者1人で切り盛りしているが、顧客が立て込んできても、手際良く料理を短時間で調理している。

 

資料

  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  4. 金融財政事情「企業審査事典」
  5. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
  6. 厚生労働省「飲食店営業(一般食堂)の実態と経営改善の方策」(平成11年3月)
× 閉じる