大衆食堂-2005年
1 概況
2005年
(1) 大衆食堂の魅力は「庶民的・安直性・家庭的」
  大衆食堂とは、主に主食をその場所で比較的安い価格で一般 大衆に飲食させる店をいい、食堂、めし屋、一膳めし屋、お好み食堂などが含まれる。「庶民的・安直性・家庭的」に魅力が見出せる。大衆食堂は、日本標準産業分類(総務省)では「一般 食堂」分類されている。また、各種の料理を家族連れをターゲットに提供するファミリーレストランも含まれている。大衆食堂は、従来型、ファミリーレストランなど新業態を問わず、家庭料理的な食事を手軽に提供する食堂であり、専門的、高級的な料理を提供する日本料理店、西洋料理店、中華料理店、東洋料理店などとは業種分類上一線を画されている。
(2)  何でも屋の大衆食堂、洋式大衆食堂「ファミリーレストラン」は家族向けメニュー従来型の大衆食堂のメニューから見た特色は、「安くて、早くて、うまい」の三位 一体が売り物であり、主食類、副食類、飲料・酒類など、何でも提供するのが売り物である。
  主食類は、和食、洋食、中華食に分かれる。和食には定食、丼もの、めん類などが、洋食には皿もの(カレーライス、チキンライス等)やライスとのセットもの(とんかつ、ミックスフライ等)などがあり、中華食には手軽に調理できる焼飯、ラーメンなどがある。副食類は、魚・肉類(魚の煮付け、焼き魚、フライ、刺身、とんかつ、ハムサラダ等)、野菜類(酢のもの、ぬ た、煮しめ、大根おろし、ほうれん草のおひたし等)、加工品類(納豆、冷や奴、煮もの、漬けもの等)、汁もの類(味噌汁、すまし汁、けんちん汁、豚汁等)などがあり、家庭料理とほぼ類似した多種多様の料理が提供される。まさに、お袋の味を提供してくれる庶民派食堂である。
  ただし、洋式の大衆食堂ファミリーレストランは、家族連れで気軽に利用できるレストランとして、お年寄りから子供までが食べられるメニューを提供し、デザート、ジュース類など飲み物の種類を多様化するなど、従来型の大衆食堂とは業態が異なっている。
(3) 事業所の減少数が3番目に大きい大衆食堂
  総務省の事業所・企業統計調査による大衆食堂の事業所数は、平成16年70,438店で13年に比べ5,820店減少(7.2%減)している。8年対比で11年5,095件減少し、11年と13年対比では1,596店減少と減少幅が縮小したが、16年は13年に比べ、11年の減少数を上回り減少幅が拡大している。16年の大衆食堂の減少数は、比較可能な生活衛生関係営業の15業種の中で、クリーニング業、美容業についで3番目に大きい。長期的に見ても減少傾向にあり、3年から16年までの13年間に27,733店も減少し、この間1年平均で2,133店も減少している計算になる。
  常用雇用者なしの事業所数は23,012店で13年に比べ2,162店減少(8.6%減となっており、全体の減少率7.2%より大きい。


2 食品衛生法で見る大衆食堂の法的規制

(1) 食品衛生法の目的
  飲食食品関係の業種については、営業施設の衛生水準を維持・向上させるため、食品衛生法が適用される。もちろん、大衆食堂は、食品衛生法の適用業種である。食品衛生法は、昭和22年12月施行であり、戦後いち早く、食品の安全性確保のための公衆衛生の見地から、清潔で衛生的に営業を行うために、必要な規制、その他の措置を講ずることを目的に策定された。また、飲食に起因する衛生上の衛生上の危害の発生を防止し、それによって国民の健康の保護を図ることも、その目的に含まれている。
(2) 営業許可
  大衆食堂を開業するのには、都道府県知事(保健所設置市または特別 区にあっては、市長または区長)に開業の届出をし、許可を得なければならない。その場合、営業施設は、都道府県が定めた施設基準に合致していなければならない。営業許可の有効期限は5年であり、営業を継続する場合は、刑業営業許可の更新をしなければならない。また、都道府県知事が定める基準により、食品衛生責任者を置くことが義務付けられている。
(3) 提供する商品に対する規制
  食品保健行政の一貫として、食品、添加物、器具および容器包装について規制が設けられている。大衆食堂に関係のある規制については以下のとおりである。
規格基準の設定
添加物、残留農薬、遺伝子組換え食品や器具、容器包装等については、規格基準に違反した食品等の販売などは禁止されている。
表示基準の設定
アレルギー食品材料、遺伝子組換え食品など、表示基準に違反した食品等の販売等が禁止されている。
添加物の指定
成分規格、保存基準、製造基準、使用基準に適応していない添加物の使用等の禁止
(4) 監視指導
  都道府県等の保健所には、食品衛生に関する専門知識を有する食品衛生監視員が配置されており営業施設に対し監視、指導を行っている。

3 大衆食堂の特性

 大衆食堂は、長年、庶民の固定的愛用者層に維持されてきたが、洋風レストラン形式の大衆食堂「ファミリーレストラン」の出現に次第に安住の地位 を奪われ、いまや新旧交代が明白になっている。
(1) 新業態の進出で促進される新陳代謝
  大衆食堂は、昭和40年代半ばに、外資系の外食産業が進出してくるまでは、そば・うどん店と並んで、店内で気軽に豊富なメニューから食べたいと思うものが選択でき、また、来客向けに親子丼、かつ丼など手軽に出前を頼めるなど、日常生活において重宝な存在だった。また、路線のトラック運転手なども多く利用する店であり、飲食業の中で典型的な庶民派の代表であった。しかし、いまや懐かしい「大衆食堂」ののれんをかけた店舗は次第に姿を消し、代わって洋式の大衆食堂ファミリーレストランや、店舗スタイルを斬新にしたFC形式の大衆食堂、メニューをうどんと単品の丼物に絞り込んだ新業態の大衆食堂が、従来型に取って代わりつつある。大衆食堂の業界は、今後、新業態間の競争激化で、新陳代謝が一段と加速される傾向にある。
(2) 個人経営は圧倒的に多い小零細企業、進む経営者の高齢化、
  厚生労働省が実施した「平成15年度生活衛生関係営業経営実態調査−飲食店営業(一般 食堂)」(平成15年10月)により、一般食堂の特色を概観してみよう。
・営業形態 個人経営55.9%、有限会社31.6%、株式会社11.5%で、個人経営が3分の2を占める。
・専業・兼業 専業83.2%、兼業16.3%。兼業の種類は他の飲食店経営6.2%、小売業4.1%、旅館業2.9%である
・創業年次 創業年次別に見ると、最も多いのは昭和元年〜49年が48.3%、次いで昭和50年〜63年が29.9%、平成元年以降15.4%、大正期以前6.1%である。昭和49年以前が大正期以前と合わせると過半以上を占め、半面 平成期以降の創業が少ない。
・立地条件 最も多いのは商業地区で52.2%、次いで住宅地区22.5%であり、商業・住宅地区で全体の約4分の3を占める。郊外の幹線道路沿いは14.8%となっている。ショッピングセンターなどの複合商業施設内は2.5%と今極端に少なく、大衆食堂は近所の事務所、工場などの従業員、住民などへの食事面 での利便性提供を重視している傾向が現れている。
・従業者規模別 法・個人全体では5〜9人が35.3%で最も多い。従業者規模別 に個人経営の割合を見ると、1人規模では100%、2人規模95%、3人規模85%、4人規模75%と小零細企業が多く、生業経営が目立つ。
・経営者の年齢 60〜69歳が36.6%で最も多い。次いで50〜59歳が34.4%であり、70歳以上の10.0%を含めると、50歳以上が81%を占め、経営者の高齢化が進んでいる。一方、30歳未満は0.4%と極めて少ない。50歳以上の経営者について「後継者あり」は58%だが、「後継者なし」が38%も占めている。
・客単価 500〜1,000円未満が63.7%、1,000〜1,500円未満が20.9%、1,500〜2,000円が7.3%である。
(参考) 他の飲食店で客単価が最も集中している範囲
・日本料理専門店2,000円以上77.6%
・西洋料理専門店1,000〜1,500円37.9%、2,000円以上34.5%
・東洋料理専門店1,000〜1,500円35.7%
・昼食事・夜居酒屋2,000円以上54.4%となっている
業態によって客単価は、かなりのばらつきが見られる。
(参考) 地区別客単価
 全国平均1,974円
  1位 近畿−2,551円
  2位 関東・甲信越−2,037円
  3位 東海・北陸−2,029円
  4位 中国・四国2,011円
  5位 九州−1,799円
  6位 北海道・東北−1,300円
食道楽の大阪を含む近畿地区は、北海道・東北地区の2倍弱の高単価となっている。
・施設の収容可能定員
個人経営 株式会社
20人未満 13.5%
20〜40人未満 38.7% 13.9%
40〜60人未満 24.7% 16.5%
60人以上 17.9% 64.6%
 個人では20〜40人未満、株式会社では60人以上に集中しており、従業者規模格差が歴然としている。
(3) 激減の大衆食堂の役割代替の「ファミリーレストラン」
従来型大衆食堂に代わり「ファミリーレストラン」が代替
 「大衆食堂」は、かつて日本の至る所に存在していたが、時代の波に取り残され、店舗数が激減してしまっている。代わりに日の昇る勢いで増勢をたどったのが、大衆レストランの「ファミリーレストラン」である。レストランというものの、提供する料理は、洋風、和風、どちらかというと、なんでもありの洋式大衆食堂である。いまや、ファミリーレストランが、従来型大衆食堂に代わり、全国くまなく店舗網を張り巡らしている。
ファミリーレストランは、従来型大衆食堂の近代版
 ファミリーレストランはモダーンな明るい雰囲気の店内で豊富なメニューを中心に、家族でも手軽に食事ができ、低価格の大衆レストラン形式で客席数も多く、従来型の大衆食堂が和風メニュー中心に古風な店構えとは、打って変わった新業態である。また、統一されたユニホームをまとった若いウエートレスの出現は、普段着で対応する従来型大衆食堂と比較して、従業員のイメージを一新した。また、車社会に対応した立地を選択、駐車場を完備した出店が多いのも特色の一つである。ある農村地帯の国道沿いにあるファミリーレストランで、農家の夫婦が野良仕事に行く前に、農機具を積んだ軽四輪から降り、朝食をファミリーレストランで食べる光景をみたが、ファミリーレストランは、従来型大衆食堂の近代版として、利便性提供の役割を果 たしているといえよう。
横並び式商法の大衆食堂に、衝撃の新風を吹き込んだファミリーレストラン
 ファミリーレストランは、昔からの定型的な商法に安住していた横並び式商法の従来型大衆食堂に、衝撃の新風を吹き込んだといえる。そのファミリーレストランも、平成時代は行ってから、消費者が画一的なメニューに飽きる用になり、客足が鈍り出したうえに、押し寄せる少子高齢化の波で食事全体の量 が減るなど、成長路線の修正を迫られている。最大手のスカイラークでさえも、平成17年12月期の決算は減収減益となり、将来の成長が期待できないため、事業内容の抜本的な見直しを迫られている。

4 従業者規模別に見た大衆食堂の事業所数など

(1) 減少率が拡大する1〜4人規模、増加率が拡大の20〜29人規模
  総務省の事業所・企業統計調査による大衆食堂の事業所数は、平成16年70,438店(13年比7.2%減)であるが、これを従業者規模別 に見たのが、下記の表の「一般食堂の事業所数の推移である。
  従業者規模1〜4人は、平成16年は47,740店で全体の64.0%を占める。13年調査に比べ4,696店減少している。減少率は11年6.6%、13年7.0%、16年9.0%とわずかずつであるが拡大している。
  5人以上は26,878店であり、全体の36%を占めている。13年緒差に比べ1,214店減少(4.3%減)しているが、1〜4人に比べ減少率は約2分の1である。5人以上の規模では、20〜29人のみが、13年に比べ610店増加している。この層の増加率は、11年3.2%、13年33.9%、16年23.1%と11年、13年調査と2度にわたり、大幅な増加率を示しており、大衆食堂では中堅規模の拡大持続が生じている。
  平成16年の法・個人別事業所数は、個人が49,181店で全体の65.9%を占め、13年69.5%に比べ後退している。法人は25,437店で構成比は34.1%である。事業所数を13年と比べると、個人が6,386店減少(11.5%減)、法人は891店増加(3.6%増)となっている。
  従業者数は528,226人で、13年に比べ33,461人減少、13年は11年に比べ14.2%増だった。これは事業所数の減少率よりも大きい。1事業所当たりの従業者数は、7.1人(13年7.0人)となっている。


大衆食堂(一般食堂)の事業所数の推移    (参考)一般飲食店全体
(単位:店、%) (単位:店、%)
調査年 従業者規模別 合計 従業者 合計
1〜4人 5人以上 1〜4人
平成8年 (69.1)
60,240
(30.9)
26,889
(100.0)
87,129
(65.7)
299,963
(100.0)
456,420
  11年 (68.6)
56,277
(31.4)
25,757
(100.0)
82,034
(65.1)
288,426
(100.0)
443,216
  13年 (65.1)
52,346
(34.9)
28,092
(100.0)
80,438
(62.7)
277,694
(100.0)
442,883
  16年 (64.0)
47,740
(36.0)
26,878
(100.0)
74,618
(61.9)
259,706
(100.0)
419,663
(注) ( )内は構成比である。
資料:総務省「事業所・企業統計調査」

5 最近の動向

(1) 狭められる従来型の大衆食堂の存立分野
  大衆食堂は、少ない投下資本や家族労働で営業が可能であり、また、高度の専門的な技術を必ずしも必要としないので、新規参入が容易である。一方では、立地的に競合が激化し経営が成り立たなくなれば、簡単に転廃業してしまうなど撤退も容易である。大衆食堂は、専門店にない安さ、気安さ、手軽さなどにより、かつては一般 飲食店の中で主流を占めていたが、嗜好の変化や外食産業の出現などにより、相対的な地位 の低下が進行している。また、従来の大衆食堂と経営スタイルを異にした大型の新業態や回転ずしの出現が、一層相対的な地位 の低下に拍車をかけている。
(2) 強力な新業態の出現
  従来型の大衆食堂は、ビジネス街や工場地帯、学生街、あるいは街道筋などに位 置して、弁当持参代わりの昼食、出張者や工事現場担当者の食事、あるいは不意の来客時に丼ものを出前で頼むという限定された地域の大衆需要に支えられている。したがって、食堂側でも多様な需要に対し、生そばなどのそば類から丼物などのご飯物類、あるいはカレー、チキンライスなど簡単な西洋料理、ラーメン、チャーハンなどの中華料理に至るまで、手軽に調理ができる範囲内の注文なら何でもこなすくらいのメニューが揃っている。
  ところが、近年ではメニューを絞りこみ、ファーストフード的に迅速に食事を提供する新業態が出現している。これら新業態の多くは、簡単なカウンター形式や出前に代えての持ち帰りシステムの導入により大衆的な低価格を実現するとともに、味付けも万人好みにするなど、安さ、手軽さ、気安さの点で従来型の大衆食堂以上に大衆性に満ちている。なかには、直営店のほかFCの本格展開による多店舗展開の新業態が出現しており、株式公開企業も見られる。また、持ち帰り専門形式の弁当販売、すし店など大衆食堂分野の変形業態の進出も著しい。これら新業態の大衆食堂分野への参入は、年々盛んになってきている。最近は、首都圏、大阪などの人口集積地を狙った大衆食堂の大手チェーン店の出店が加速するなど、新しい動きがでてきている。
(3) 競争激化の大衆食堂の需要分野
  昨今の従来型の大衆食堂は、片や積極的な参入を図る大衆食堂の新業態と、片や同業者間で熾烈な競争を展開する弁当販売業者の双方からの攻勢により、苦戦状態にある。
  弁当業界では、給食センターの職場向け配送、宅配弁当屋の増加、レストランなどの店頭での弁当販売、持ち帰りずしなどとの競争で混戦状態にある。さらに、コンビニエンスストアの弁当類などが競争に拍車をかけている。コンビニエンスストアでは、ビジネスマンやOLの昼食市場を狙って、おにぎり、弁当の品揃、加工パンなどを充実させるため、新商品の開発に積極的に取り組んでおり、季節商品の生そば、冷し中華類などを発売している。さらに、一部のコンビニエンスストアが、最近、電話注文により高齢者住宅向けに弁当の配達を始めたが、この配食サービスの展開も大衆食堂にとっては脅威である。いまや、弁当類などの加工食品は、コンビニエンスストアの主力商品となっているだけに、大衆食堂の需要分野が大きく侵食されている。

6 経営上の問題点

(1) 強まる他の飲食店や同業者との競争で顧客数が大幅に減少
  厚生労働省が実施した「平成15年度生活衛生関係営業経営実態調査−飲食店営業(一般 食堂)」(平成15年10月)により、経営上の問題点(複数回答)を探ってみよう。1位 は「客数の減少」で81.3%と突出している。2位は「客単価の減少」52.2%、3位 「諸経費の上昇」23.1%、4位「原材料費の上昇」5位「立地条件の悪化」18.7%の順となっている。
  これに対して、今後の経営方針は「新メニューの開発」61.7%、「顧客サービスの改善」46.3%、「施設・設備の改善」35.3%、「広告・宣伝等の強化」31.2%、「専門店化・高級店化」10.7%の順となっている。これらを見ると、これといった即効的な対応策はみられなく、もう一つ決め手に欠けている面 がある。当面の経営方針としては、自分の企業にとって最も効果が期待できるものから、一つひとつ効果 測定を行いながら、試行錯誤で取り組むよりほかに方法はないといえる。
(2) 強まる他の飲食店や同業者との競争。脅威、後発の大手企業の参入
  経営上の問題点として最も重視すべきは、新規参入業者の増加、大手企業の進出などによる競争の激化である。競争が激しくなるにつれ、大手企業間の熾烈な価格競争に巻き込まれざるを得なくなった大衆食堂が少なくなく、客単価の低下により収益が一層圧迫されだしている。
  一方では、利用者の好みの変化が進んでおり、大手チェーンの新メニュー開発が好みの変化を促進し、大衆食堂でも従来の定番のメニュー、味付けだけでは対応しきれなくなっている傾向が見られる。
  また、店舗施設の老朽化が進んでいる大衆食堂が多く見られ、本部仕立ての店構えのFCなどに比べ見劣りするため、競争面 で極めて不利な条件となっている。このような状況からみて、かつては小零細企業独自の分野は、いまや大手企業の進出により蚕食され、業態のあり方、店構えの形式、経営手法などについて、後発の大手企業に牛耳られてしまっている。

7 経営上のポイント

(1) 待ちの姿勢からの脱皮、大事な営業戦略
  大衆食堂の顧客は、店舗の周辺の人たちが主力であるだけに、積極的に営業活動をすることが乏しく「待ちの姿勢」が業界の体質となっている。しかし、今日では、新業態をはじめ多くの競争相手が現われているだけに、これまでの「待ちの姿勢」ではますます太刀打ちができなくなるであろう。いまの難局を乗り越えるには、店の存在のアピールをいかに行うかの戦術を展開すべきである。競争激化の時代に生き残るのには、大衆食堂だから広告も宣伝も不要という意識は払拭すべきである。今後、いま以上に単身世帯が進めば、大衆食堂を必要とする需要層が増えるので、独身者の男女が一人で気楽に入れる家庭的な雰囲気、家庭料理の提供店の存在を、積極的にアピールする姿勢が望まれる。
(2) 大衆食堂は手抜き主婦の強力な助っ人
  大衆食堂の特徴は、お袋さん、おばあちゃんが作る家庭料理のメニューと味、価格とのバランスである。いま、主婦の勤務者化で、台所に立ち家庭料理を作る機会が後退し、食卓にのるのは、スーパーで購入した総菜や半製品を調理したものが多くなり、家庭料理に飢えている人が少なくない。そこに、大衆食堂が狙う「すきま市場」がある。
(3) 売れ筋の名物メニューの開発が業績を左右
  大衆食堂は多くのメニューをこなしてしまうところに特徴があるが、悪く言えばメニューに個性がなく顧客層のターゲットを絞りきれない一面 がある。したがって、「これが当食堂の売り物のメニュー」というメイン料理を作れば、固定客確保に結び付く。"あのメニューならあの大衆食堂だ"といわれる位 の個性を打ち出すことも必要である。
  もう一つは大衆食堂という性格上、値段にあった内容を前面 に押し出す必要がある。東京の大手町のビジネス街で、ある酒造会社が経営している大衆食堂(夜は居酒屋)の売り物は、豚汁と魚の煮付けか、焼き魚の組み合わせの定食に人気が集中し、ランチタイムには毎日行列ができている。値段は850円だから決して安くはない。
  また、東京のJR神田駅のガード下に軒を並べる2軒の大衆食堂(夜は居酒屋)は、収容規模は100人前後だが昼時はいつみても客が立て込み、相当な賑わいをみせている。数並ぶメニューの中で人気のあるのは、さば、キンキ、カレイなどの煮付けや焼き魚の定食である。副食のおかずも付くので、まるで家庭の食事を食べている献立である。しかも大衆料金であり、値ごろ感が十分に裏打ちされている。
  これは、ビジネスマンの家庭において共稼ぎが多くなり、ウイークデーには主婦が料理する時間が不足し、手間ひまがかかる魚の煮付けなどを敬遠しているために、外食で補っているとの見方ができる。
  大衆食堂の腕の発揮どころは、家庭内の献立の簡便化のすき間を狙った家庭料理の充実や、郷愁を感じる"お袋の献立"の復活であるといえよう。
(4) 新規顧客層開拓には店舗の内外のイメージアップが必要
  従来型の大衆食堂は、どちらかというと店舗が汚い、店内は暗い、調理場は雑然としているなどのマイナスイメージが強いが、競合する新業態店は、いずれも店舗の外観は明るい色で飾られ、店内も調理場も整理整頓されていて清潔感があふれ、従来型店と対照的な印象を与えている。
  どちらかというと、従来型店では、その店舗の状態に馴れきっている長年の固定客に支えられてきたために、設備状況の改善に無感覚になっている傾向が強い。一方、参入してくる新業態店は競争激化に伴い経営面 であの手、この手で細かい部分の工夫を打ち出す戦術の展開を積極的に行っており、ますますイメージの格差が拡大しかねない。
  これからの従来型店は、これまで以上に固定客の確保や、新たな客層を確保することへの努力が求められるが、それには通 りすがりの若いカップルや女性同士などのフリー客が目をつけて、気楽に入れる店づくりを心掛ける必要があろう。もちろん、トイレなどの衛生設備面 への配慮も怠りのないようにすべきである。
(5) "こだわり"による差別化の徹底
  競争力の強化で強調することは、"こだわり"による差別 化策である。"こだわり"は考え方次第で生まれてくるものである。店舗の入り口を昔風の障子戸にしたり、内装を経営者の感性により独特のものにしたり、献立も地の利を生かした地物の素材や季節商品を売り物にしたり、「健康ブーム」の追い風の利用し低カロリーのメニューや、高齢者向けメニューの開発などに取り組むことが必要である。とにかく口コミで情報が飛び交う"こだわり"の差別 化策に執着することが、生き残る上で極めて大事な経営手法である。規模大企業が生き残りに必死になっているのに、現状維持で満足しているならば、負けの世界にはまり込んでいるのである。
  大衆食堂にとって大事なことは、@入りやすい店構え、A店内、調理場の清潔感、B売り物商品を作る、C家庭的な料理の提供、D家庭では出せない味付けなどに集約されよう。

【トピックス】

・受動喫煙防止措置とは何か
  健康増進法が平成15年5月1日に施行され、それに伴い集客施設などの管理者は受動喫煙(他人のたばこの煙を吸和させられること)の防止が義務付けられています。健康増進法第25条の対象となる施設は「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店、その他多数の者が利用する施設を管理するものは、これらを利用する者について、受動禁煙を防止するために必要な措置を講じなければならない」と定めている。この法律の施行により、ほとんどの生活衛生関係営業者は、受動喫煙防止措置を講ずる必要性が生じている。
・受動喫煙とは何か
  健康増進法によると、受動喫煙とは「室内またはこれに順ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること」と定義している。他人のたばこの煙は「副流煙」といわれ、喫煙者が吸う「主流煙」に比べ、有害物質が何倍もの濃度で含まれていることが報告されています。非喫煙者が副流煙を吸わされることは、さまざまな病気を発症させる一つの要因となっています。特に発ガン物質ジメチルニトロソアミンが副流煙には多量 に含まれている。そこで、非喫煙者を副流煙から守るため受動喫煙防止措置を講ずる必要があるわけである。
受動喫煙防止措置の具体的方法
  受動喫煙防止措置には、大別して@施設内を全面 禁煙にする方法、A施設内を分煙する方法とがある。
@
全面禁煙
  受動喫煙防止対策の上では、最も望ましい方法である。灰皿の処理コスト、壁紙・エアコンのフィルターの汚れの清掃など費用が不要でコスト削減になる。また、宴会場の畳や床、テーブルクロスなどの焼け焦げの防止につながる。特に、妊婦や幼児、子供連れの顧客に安心感を与え、安心して飲食が出来るなどのメリットがある。
A
完全な分煙
  禁煙エリアにたばこの煙が流れないように、喫煙席(別の部屋)を設置する。特に禁煙エリアや非喫煙者の動線上、例えばトイレに行く通 路、バイキングやフリードリンクコーナー周辺やそこへ行く通路、レジ周辺、禁煙エリアとレジや出入り口との間の通 路などに、たばこの煙が漏れたり、流れたりしないように配慮する必要がある。
・不完全な分煙は違法
 分煙が次のような場合は違法となる。
@
禁煙エリアが指定されていても、禁煙エリアにたばこの煙が流れてくる場合(喫煙席周囲に間仕切りがないなどによる場合)
A
非喫煙者の動線上にたばこの煙が流れてくる場合
  特に注意しなければならないのは空気清浄機や分煙機が設置されていれば、受動喫煙防止対策が実施との誤解である。これらが設置されていても、たばこの煙の中の有害物質は、大半が素通 りしてしまうからである
・北海道庁の「空気もおいしいお店」の推進事業
  喫煙率が男女とも全国平均を上回る北海道では、平成14年度から飲食店に対する受動喫煙防止推進事業として「空気もおいしいお店」の推進事業を始めている。対象は政令都市である札幌市の俗北海道内にある飲食店が対象であり、認証店は平成18年6月末現在で421店に増えている。
  飲食店に対する同様の認証制度の取り組みは、全国の地方自治体でも行われ出しており、受動喫煙防止策を飲食店の経営者のみに任せるのではなく、行政の仕組みとして整備することで、小規模飲食店への浸透を促進することを狙いとしている。
  資料:国民生活金融公庫「生活衛生だより」No.135 2004年10月
資料

  1. 総務省「事業所・企業統計調査」     
  2. 総務省「家計調査年報」     
  3. 金融財政事情「企業審査事典」     
  4. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」     
  5. 厚生労働省「平成15年度生活衛生関係営業経営実態調査−飲食店営業(一般 食堂)」(平成15年10月)
× 閉じる