居酒屋-2008年
1 概況
2008年
(1) 事業所数の推移
   総務省「事業所・企業統計調査」から、遊興飲食店のうち「酒場・ビアホール」の分類区分により「居酒屋」を把握して見たい。総体としては小規模層の事業体が約75%を占めているが、その小規模層が減少傾向にあり、従業者数の多い事業体の増加が続いている。資本力のあるフランチャイズ・チェーン形態を基盤とする事業体の増勢が伺える。
「酒場・ビアホール」の事業所数の推移グラフ
 
「酒場・ビアホール」の事業所数(従業者規模別)の推移表
(2) 「飲食店営業」の施設数、営業許可、廃止取消件数の推移
   「居酒屋」、「酒場・ビアホール」単独での施設(店舗)数の把握が存在しないことから、参考として、厚生労働省「衛生行政報告例」により「飲食店営業」全体の動向を見たい。施設(店舗)数としては減少傾向にあり、新規参入の営業許可と廃業の廃止取消が拮抗しつつ増減を繰り返していることから、参入し易い反面、撤退も著しい側面が窺える。

・「飲食店営業」の施設数、営業許可、廃止取消件数の推移

年  次

施 設 数

営 業 許 可

廃 止 取 消

平成17年度

1,503,459

162,322

165,614

18年度

1,496,480

163,026

170,005

19年度

1,479,218

154,278

171,540

資料:厚生労働省「衛生行政報告例」

(3) 最近の動向
カジュアルな居酒屋との二極化
   居酒屋はかつての「酔うための場」から「酒と料理を楽しむ場」へと、消費者の志向が変化している。女性グループ客や家族同士の利用などの客層がしばしば見うけられ、飲酒主体の居酒屋から低価格で豊富な食事メニューを提供するカジュアルな雰囲気の居酒屋へと、顧客ニーズが多様化してきている。「食が主、飲が従」の台頭であるが、事業所の多い最寄り駅付近には従前スタイルの居酒屋は依然として繁盛しており、客層の違いで棲み分けし二極化する傾向が顕著になってきている。
世帯当たり「飲酒代」家計支出は年間17,000円
 総務省「家計調査年報」により1世帯当たりの「飲酒代」年間家計支出を見ると、平成15年16,851円、16年17,605円、17年17,512円、18年16,664円と推移しており、やや減少傾向にあるが約17,000円程度の年間家計支出となっている。他の飲食関係の家計支出に比較すると、実感として低い支出額に思われる。
世帯主年齢階層別の家計支出では若年層が貢献
 総務省「家計調査年報」により世帯主年齢階層別の「飲食代」家計支出を見ると、「29歳以下」が20,130円と最も多く、次いで「50歳台」19,000円台で続き、以下「30歳台」となる。「飲酒代」支出では若年層が貢献している。

2 居酒屋の特性と現状

 厚生労働省の委託により全国生活衛生営業指導センターが実施した「平成15年度生活衛生関係営業経営実態調査(一般食堂)」から、「昼食事・夜居酒屋」営業の実態の一端を探ってみたい。
 なお、調査対象が、生活衛生同業組合に所属する組合員であることから、多店舗展開する居酒屋チェーンが含まれないことを前提としたい。
(1) 開店時刻「〜12時台」と「13時以降」、閉店時刻「21時以降」
 開店時刻は「〜12時台」が54.4%と最も多く、次いで「13時以降」33.3%となり、昼食事に重点を置く店と夜居酒屋に重点を置く店に営業形態の差が見られる。
閉店時刻は「21時以降」が80.0%を占め、飲酒を伴う長時間営業の実態が浮かぶ。
(2) 平均来店客数67人
 1日当たりの来店客数は平均67.4人であり、一般食堂全体の平均81.4人を下回る。
(3) 平均客単価2,100円
 1人当たりの平均食事単価(客単価)は2,158円であり、一般食堂全体の平均1,973円を上回る。昼食事の客単価と夜居酒屋の客単価が分離されていないので判然としないが、飲酒を伴うことから客単価が上昇しているとみられる。
(4) 客席定員数の平均53人
 1度に利用可能な客数(客席定員数)は平均53.6人であり、客数階層別では「20〜40人」37.8%、次いで「60人以上」32.2%となり、規模の面で2極化が窺える。

3 「食品衛生法」による規制

 飲食、食品に関する営業については、営業施設及び用材の衛生水準の維持・向上を図るため、「食品衛生法」が昭和22年12月法律施行されている。
(1) 「食品衛生法」の目的
 「食品の安全性の確保のために、公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ること」を目的としている。
主な食品営業の他、食品、添加物、器具、容器包装等を対象に、飲食に関する衛生について規定している。
(2) 営業許可
   居酒屋を営業するためには、都道府県知事(保健所設置市又は特別区にあっては、市長又は区長)に届出し、許可を受ける必要がある。また、その営業施設は、都道府県条例に定める設置基準に合致していなければならない。
営業許可の有効期限は5年以内であり、継続して営業するためには更新が必要である。なお、都道府県等の条例により、施設の堅牢性、耐久性が優れている場合や食品衛生上良好と判断される施設については、条件によって更に長期の有効期限となっている。名古屋市の場合、実地審査により5〜8年の有効期限が決定される。
(3) 食品衛生責任者の設置
 居酒屋の営業にあっては、都道府県知事が定める設置基準に準拠して「食品衛生責任者」を置かなければならない。
(4) 提供する食品に対する規制
 食品保健行政の見地から、提供する食品等について規格基準等が設けられ、違反する食品等の販売は禁止されている。
規格基準の設定
 添加物、残留農薬、遺伝子組換え食品や器具、容器包装等については、夫々規格基準が定められており、適応していない食品の販売は禁止されている。
表示基準の設定
 アレルギー食品材料、遺伝子組換え食品等については、夫々表示基準が定められており、違反する食品等の販売は禁止されている。
添加物の指定
 食品添加物については、成分規格、保存基準、製造基準、使用基準が指定されており、適応しない添加物の使用等は禁止されている。
(5) 食品衛生監視員による監視指導
 都道府県等の保健所には、食品衛生の専門知識を有する「食品衛生監視員」が配置されており、営業施設に対する監視、指導を行っている。

4 「食品衛生法」以外の法的規制等

「居酒屋」を営業する場合には、その営業形態により「食品衛生法」の他、関連する法規の規制を受けることがある。
(1) 深夜営業の届出
   午前0時を過ぎて日の出までの間の営業を行う場合、風適法の「深夜酒類提供飲食店」に該当することから、都道府県公安委員会(所轄の警察署)に届出する必要がある。なお、この営業を廃する場合、同公安委員会に廃業届を提出しなければならない。
(2) 改正道路交通法による飲酒運転罰則強化
   平成14年の道路交通法改正により、飲酒運転に関して大幅な規制と罰則強化が施行されたものの依然として改善が進まず、平成19年9月施行により「飲酒運転周辺者に対する罰則の整備」が行われている。飲酒者が運転する車両に同乗した者に対する「同乗罪」が適用され、車両の提供者や運転を依頼した同乗者、更には「酒類提供者」に対しても行政処分の対象となっている。酒類提供者の罰則では、運転者が酒酔い運転の場合、3年以下の懲役叉は50万円以下の罰金が科せられる。酒気帯び運転にあっても、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金が科される。
(3) 著作権利用契約の締結
 営業に際し「カラオケ」を客に提供する場合、日本音楽著作権協会(JASRAC)との間で利用契約を締結する必要がある。原則として、年間契約を締結し、月単位で著作権料を支払う義務を負う。

5 居酒屋の業界よもやま

(1) 江戸時代に遡る「居酒屋」の起源
   庶民への「酒」の普及は、酒屋(酒販店)が量り売りを始めた江戸時代という。酒屋がその場で酒を飲ませるようになり、更に簡単な肴を提供するようになって「居酒屋」の始まりという。酒屋で「居続けて飲む」ことから「居酒(いざけ)」といわれ、このサービスを行う酒屋は「居酒致し候」と店頭貼紙したという。江戸の町衆は地方からの出稼ぎで男性が多く、単身者にとって「酒が飲めて簡便に食事もできる」ことで重宝され、煮売り屋、屋台が参入して広まったという。時代劇の舞台となる「居酒屋」は煮売り屋のようである。当時、やや高級な居酒屋は「蕎麦屋」であった。現代も当時の形態を引継ぐ「居酒屋」が残存して、庶民の親しみが窺える。
(2) 業態によって様々な呼称の「居酒屋」
   庶民派を代表する飲食店であることから、様々な業態が展開され親しまれてきた。提供する主たる「肴」や店舗の形態などで「呼称」も様々であり、営業内容が見える。「焼鳥屋」「おでん屋」「ホルモン屋」「お好み焼屋」「小料理屋」「赤ちょうちん」「縄のれん」「炉端焼き」「ビアホール」「ビアガーデン」など、楽しくてありがたい。
(3) 「突出し」と「お通し」
 酒を注文すると、頼みもしないのに小鉢や小皿に盛った一品料理を添えて出てくる。これは関西で「突出し」、関東で「お通し」と呼ばれ、その他「口取り」とする店もある。予め作り置きし直ぐに出せるようにしてあるが、前日の残り物を別に調理する場合が多いようである。店側は入店の条件としているようだが、最近は客が拒否することもあり提供しない店もある。韓国の料理店ではサービスで大量に提供することから、食べ残しが問題化しているという。
(4) 経営のポイント
 居酒屋に対する「顧客のニーズ」は多様化している。「庶民の憩いの場」であるが故に、社会・経済の変化、世相の変化とともに移り変わることは否めない。厚生労働省「飲食店営業(一般食堂)の実態と経営改善の方策」平成16年10月から、経営のポイントを探ってみたい。
顧客ニーズの変化や多様化を認識する
   飲食店営業に限らず、顧客のニーズにマッチングしない「商売」は成功しない。職人気質的に店作りして「気に入ったら来てくれ」風な営業では最早通用しない。社会・経済の変化はもとより、「顧客の今とこれから」を的確に認識することが求められる。
経営方針を明確にし「強み」を活かす
 居酒屋の多様性は顧客の要請によって形成されてきたものといえる。競合の激化とともに「座して待つ」経営姿勢では生き残りはできない。自ら方向性を明確にする必要がある。
・メインの客層は誰か、明確に認識する。
・その客は何が好み(目的)か、提供するメニューを絞り込む。
・独自性を創出し、提供するサービスを特色づける。
損益分岐点を常に検証する
 売上規模の拡大は多くを望めない。諸経費を検証し、損益分岐点を常に点検することによって経営の安定を維持する必要がある。
「食の安全・安心」へ適正に対応する
 産地偽装その他、食品を扱う業界は消費者の厳しい視線に曝されている。一部の心ない軽挙によって信頼が失われたことは、猛省に値する。経営の根幹として、従業員、取引先等とともに率先して「食の安全・安心」に取り組むことが求められる。



資料

    1 総務省「事業所・企業統計調査」

    2 総務省「家計調査年報」

    3 厚生労働省「衛生行政報告例」

    4 厚生労働省「飲食店営業(一般食堂)の実態と経営改善の方策」平成16年10月

    5 厚生労働省「平成15年度生活衛生関係営業経営実態調査(飲食店営業・一般食堂)」

    6 全国生活衛生営業指導センター「生活衛生関係営業ハンドブック2008」

     

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