居酒屋-1998年
1 概況
1998年
(1) 出店環境が好転、居酒屋ブ−ムで高い伸び率の事業所数
 居酒屋とは、もともと安酒を飲ませる店の意味があり、イメ−ジとしては赤ちょうちんが軒先にぶらさがった酒場を思い出すが、一般 的には大衆酒場、炉端焼き、酒蔵など営業方法による名称や、焼き鳥、おでん、串揚げ、もつ焼きなど主として取り扱う料理品による名称などの大衆に親しまれている飲食店をいう。営業形態別 には、小規模の単独経営の店が圧倒的に多いが、酒造業や飲食店による多店舗展開のほか、フランチャイズ・チェ−ン組織によるFC加盟店がある。近年では、大手FC本部間の競争激化からFC加盟店による出店が多くなり、居酒屋の競争は激しくなっている。
 平成8年の全国の居酒屋(酒場、ビヤホール)の事業所数は153,383件で飲食店全体の18.3%を占めている。平成3年に比べると11.2%増(飲食店全体6.4%減)と日本料理店15.3%増、西洋料理店13.0%増に次いで高い伸び率となっている。その増加数は15,463件で、昭和61年から平成3年にかけて2,474件減少したのと対照的な回復ぶりを示している。これは、平成3年以降、実質的な飲食へのニ−ズの高まりや、保証金・家賃の低下によって出店環境が好転し、居酒屋ブ−ムが生じたことが背景にあるといえよう。
 
事業所数の推移 (参考) 飲食店全体
(単位:件、%) (単位:件,%) 
調査年 従 業 者 規 模 別 合 計
1〜4人 5人以上
昭和61年 (87.5)
122,885
(12.5)
17,509
(100.0)
140,394
平成3年 (83.5)
115,174
(16.5)
22,746
(100.0)
137,920
平成6年 (83.3)
116,937
(16.7)
23,483
(100.0)
140,420
平成8年 (80.3)
123,110
(19.7)
30,273
(100.0)
153,383
従業者
1〜4人
合 計
(77.9)
656,754
(100.0)
842,758
(74.2)
628,037
(100.0)
846,298
(75.4)
632,547
(100.0)
839,122
(72.0)
601,795
(100.0)
836,357
資料:総務庁「事業所統計調査」(平成6年は名簿整備調査)
(注) ( )内は構成比である。
 従業者規模別でみると、居酒屋では従業者数4人以下の事業所が全体の80.3%と飲食店全体の72.0%を上回り、依然として小零細規模の割合が高い。しかし、従業者数4人以上の事業所の構成割合は昭和61年の12.5%から平成8年の19.7%にこの間次第に高まっているので、徐々にではあるが事業所の大型化が進んでいる。
(2) 飲酒支出額は伸び悩み
 総務庁の「家計調査年報」によると、1世帯あたりの一般 外食支出に占める年間飲酒代は、平成2年を底に回復したものの、6年をピ−クに再度2年連続して落ち込んだ。昭和50年から63年までのトレンドに比べ、平成2年を境に近年は支出額の伸び率の鈍化傾向が明らかである。
 飲酒代の支出額は、底の平成2年の17,003円から9年には19,748円へと増え、増加率は1.1614で同期間の可処分所得の伸び率1.1284を上回っているので、他の条件が著変しない限り、可処分所得が増えれば、飲酒代の増加も可能とみられる。
 
1世帯当たりの「飲酒代」支出額
飲酒代 飲酒代 飲酒代
昭和50年 6,073 昭和58年 14,328 3年 18,846
51年 6,627 59年 15,949 4年 19,016
52年 7,780 60年 15,704 5年 19,402
53年 8,907 61年 17,180 6年 19,780
54年 10,413 62年 17,488 7年 19,415
55年 11,344 63年 18,643 8年 19,516
56年 12,211 平成元年 17,419 9年 19,748
57年 13,865 2年 17,003
資料:総務庁「家計調査年報」
 都市別に1世帯当たり飲酒代への支出状況(総務庁「家計調査年報」平成9年)により支出の多い順位 でみると、1位松江市、2位新潟市、3位山口市で、松江市の支出額は36,008円と全国平均の1.8倍に及ぶ。支出の少ない順位 では、最少支出が北九州市、次いで広島市、高松市の順で、北九州市は全国平均の3分の2に過ぎない。
 同じ調査で平成9年の月別支出をみると、1位 は忘年会シ−ズンの12月、2位は新年会の1月と慣例どうりであり、3位 は11月となっている。少ない順では、最低が9月、次いで5月、10月と続き、消費者の支出状況からみると、閑散月は業者側でいうニッパチ(2、8月)ならぬ ゴッキュ−(5、9月)となっている。最高の12月の支出額は3,621円で最低の9月1,110円の3.3倍と大きな変動がある。

2 最近の動向
(1) 居酒屋のカジュアルレストラン化
 近年、幅広い客層をターゲットとした居酒屋の「カジュアルレストラン化」が進んでいる。従来のサラリーマン・学生が酒を飲んで騒ぐ、雑多なイメージ中心の居酒屋が、割安感を武器に、メニュー、店内の雰囲気に趣向をこらし、客層をOLやファミリー層に至るまで幅広く拡大している。
 これは、居酒屋のメニューは種類が多く値段も安いが味もいま一つ、という一昔前のイメージを改善し、料理の質はもちろん、食器や照明、レイアウトなども含めた店の雰囲気、従業員の接客などサービス内容の向上を図り、従来の「赤ちょうちん」的な経営から脱却し、幅広い客層に親しまれる店が増えているためである。
 この背景には、居酒屋は、かつての「酔うための場」から「酒と料理を楽しむための場」としての顧客ニーズの変化があげられる。最近では、居酒屋を家族で利用する光景も珍しくなくなっており、今後ますます「コミュニケーションの場」としての利用価値が高まっていくものと思われる。
(2) 若者層を中心にカクテルが人気
 カクテルが居酒屋の人気メニューとして定着してきている。カクテルは高級な酒というイメージが強かったが、洋酒メーカーの低価格家庭用カクテルの投入により、若者や主婦の間でも人気が広がっている。低価格の上、低アルコールで飲みやすく居酒屋でも売れ筋商品のひとつになっている。注文するのは女性が8割で、20代半ばの人が多い。とくにカルアミルクなどのアルコール度数の低いカクテルに人気が集まっており、居酒屋では欠かせないメニューの一つとなっている。
(3) 居酒屋の低価格性が魅力
 「食のマーケティング研究所」(東京・文京区)が平成7年12月に実施した「居酒屋利用実態調査」によると、居酒屋に行く回数は1ヵ月当たり、男1回、女性2.4回となっており、1回の支払い額は、男性が3,800円、女が3,200円となっている。なじみの店の有無については、63.1%の人が「1店もない」ということであり、その日の気分次第で店を選択する傾向が強なじみの店が「ある」としたのは36.9%で、ほぼ3人に1人の割合に過ぎない。
 また、居酒屋をよく利用する理由としては、(a)「価格が安い」28.8%、(b)「馴染みがある」14.4%、(c)「家に近い」11.9%、(d「行きやすい場所に立地」10.2%、この他に「料理がおいしい」「入りやすい雰囲気」「会社に近い」などが続いている。消費者は低価格を利用要因の第一位 に挙げており、居酒屋でも外食市場の現状に対応したロープライス・エブリイ(低価格・高来店頻度)の店に客が集まっている傾向がうかがわれる。
(4) 「食主、飲従」への変化
 若者の酒離れ傾向により、飲酒主体の居酒屋よりは、豊富で低価格の料理品を提供する店へのニ−ズが高まっいる。従来の冷や奴や枝豆で一杯の飲酒主体が後退し、多くの種類の料理品をたくさん食べながら適量 を飲むという「食主、飲従」へ変化しつつあり、「飲食店」はいまや実態が「食飲店」となっている。
 先の調査でもこの傾向が顕われており、支持の多いメニュー順にみると、1位 は「ヤキトリ」で36.4%、2位は「トリの唐揚げ」23.7%、3位 は「豆腐料理」 (主に冷や奴)21.2%、4位は「野菜サラダ」18.6%、5位 が「焼き魚」16.1%、6位が「フライドポテト」15.8%、以下「おでん」「刺身の盛りあわせ」「枝豆」の順になっており、実質的な料理品が好まれている。
3 経営上のポイント


 従来居酒屋は、他の飲食業に比べ、それほど高度な料理技術は必要とされなかったが、最近は、酒や料理の品質が売り物の「食」をコンセプトとした「居食屋」が求められている。「食主、飲従」となると、料理品のメニュ−の工夫が常に求められ、価格も値ごろ感を打ち出す必要があるほか、食べることが主となると店内の清潔感や雰囲気、サ−ビスなども改善することが重要な要件となっており、差別 化が経営戦略の鍵となる。「食主、飲従」への変化で、収益性の高い酒類の売上減少の反面 、比較的高価な素材を使用する料理の増加により、原価は他の飲食業とほとんど変わらない状態になってきており、従来に比べ収益の妙味は薄れている。「小企業の経営指標」(国民金融公庫1998年調査)によると、酒場、ビヤホールの売上高総利益率は66.9%が標準となっており、飲食店全体の65.3%とほとんど差がなく、原価率が高まっており、今後、原価管理を徹底する必要がある。
(1) メニューのオリジナリティーを工夫
ある大手飲食店のデ−タによると、売上げに占めるドリンク対フードの比率は、フードが6割程度にまでのぼり、ここ数年でフードの占める割合が逆転している。このため、従来の「居酒屋」のイメージは徐々に「居食屋」化してきており、今後ますますフードメニューの充実が必要不可欠となる。多くの居酒屋は、どこも画一的な品ぞろえで、雰囲気も似たり寄ったりとなっているため、料理に、味・価格・素材・盛りつけなど他店との違いを際立たせることで特色を持たせ、その店のオリジナリティーを工夫することが大事である。
(2) 立地条件を生かした店づくり
 顧客動向を把握する上で、立地条件を勘案した店作りは重要な要素である。
 特徴的なものは次のとおりである。
駅周辺 フリー客が多いため、外装、店舗外観にも留意する。また、平均的な価格で、迅速な料理の提供も必要。
盛り場 競合店が多く、他店との差別化を図るユニークな店づくりが要求される。
住宅地 自営者、居住者を対象とするため、客回転率が低い反面、固定客の割合が高く、比較的安定した売上げを確保できる。
オフィス街 やや高級志向があり、くつろげるムードが大切。昼のランチタイムには格安の家庭料理風の提供が人気メニュ−。
学生街 効率と実質本意。低価格設定でコンパ利用を考慮した座敷も必要である。

4 繁盛店の事例
(1) 名物イベントで集客力アップ
地方にあるA店では「利きビール大会」というあまり聞き慣れないイベントでお客の少ない日の集客に成功している。このイベントの手法はいたって簡単で、大手ビールメーカー4社の看板ビールであるキリン「ラガー」、アサヒ「スーパードライ」、サッポロ「黒ラベル」、サントリー「モルツ」の銘柄を隠し、飲んで当ててもらう。94年から6、7月の毎週水曜日に実施しているが、この状況を店内に「実況中継」をするため、かなりの盛り上がりをみせる。正解率は意外に低く100人に1人程度。このゲームを行うようになってから、「利きビール」を目当てに来店する客も多く、客層も若者から年配客まで幅広くなり、行列ができるほどになっている。
(2) 短い周期でメニューを改定、旬をアピール
 都心にあるB店では、メニュー変更をこまめに行うことでお客の目を飽きさせず、固定客を確保している。この店では、客単価が平均して2,700円前後と利用しやすい価格がサラリーマン層に支持されているが、料理メニューのバリエーションは全部で60品と居酒屋としては、かなり絞り込んでいる。そこで「定番」と「お薦め品」をうまく組み合わせたメニュー提案を行っている。60品あるメニューは、グランドメニュー50品、おすすめメニュー10品という構成でそれぞれ90日、45日ごとにメニュー変更を行っている。「90日メニュー」は毎回約10品を、またお薦めの「45日メニュー」についてはすべてを入れ替えている。
 加えて、1ヵ月単位で、スポット的にお薦め品を告知する卓上POPメニューがある。この3種のメニュー構成によって年間を通 して、絶えず季節性や旬を打ち出していき、固定客の確保に努めている。
(3) 接客サービスを重視し、女性客に人気
 大皿料理店のC店では、フリー客の8〜9割を女性客が占めている。これほど女性客に支持されているのは、しゃれた雰囲気のためだけではない。大皿料理店というと料理を盛った大皿をカウンターに並べているのが一般 的だが、この店ではどの料理も一品当たりのボリュームが通常の1.5倍あり、直径が26〜27センチメートルもあるまさに大皿で提供している。店内で手作りする料理は、盛りつけにも工夫を凝らし独創性を強調している。料理の中心価格帯は、600円〜700円程度でこの値打ち感も好評を得ている。また、ボリュームを出すことで、料理の提供回数が少なくなる分、従業員は自分の持ち場をこまめに往き来して、客に気を配る接客サービスを充実させ、女性客に支持されている。
【業界豆知識】
☆   競合するビール市場
 規制緩和の一環として地ビールが解禁されたほか、発泡酒の販売、輸入ビールの増加など消費者にとっては、選択肢が増えている。地ビールについては、平成6年4月にビール製造の基準緩和を受けて以来、急成長を遂げている。各地で新規参入が相次ぎ、全国で地ビール生産の免許所有企業は211社(平成10年5月末現在)に昇り、219の工場がある。地ビールは酵母が生きたままの状態で出荷されるため、賞味期限が短く出荷後1週間程度が目安となり、出荷後も提供するまで冷蔵保存しておく必要がある。
 一方、発泡酒は、平成6年10月に先陣を切ってサントリーが「ホップス」を、サッポロが7年4月に「ドラフティ」を発売した。キリンの「淡麗生」の発売は10年2月と出遅れた。酒税法では、水とホップを除く原料に占める麦芽の重量 が3分の2ならビール、3分の2未満なら、発泡酒と区別しているが製法と同様に味もほとんど変わらないといわれている。発泡酒の免許所有企業は32社(平成9年3月末現在)、59の工場が稼働している。
 
    資料

    1. 総務庁「事業所統計調査」
    2. 総務庁「家計調査年報」
    3. (財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」
    4. (財)全国環境衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
    5. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
    6. 経営情報出版社「業種別業界情報」’98年版
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