居酒屋-2003年
1 概況
2003年
(1)
出店環境が好転、居酒屋ブ−ムで高い伸び率の事業所数

  居酒屋とは、もともと不特定多数の顧客を対象に、安い酒を飲ませる店の意味があり、イメ−ジとしては赤ちょうちんが軒先にぶらさがった酒場を思い出す。しかし、一般 的には大衆酒場、炉端焼き、酒蔵など営業方法による名称や、焼き鳥、おでん、串上げ、もつ焼きなどを主に取り扱う料理品による名称などで、大衆に親しまれている飲食店をいう。

 これまでの居酒屋は、酒類を主とする営業形態が主流で、客層は中高年層が中心であったが、最近では、「食」を主とし、「酒類」を従として若年層、女性グル−プ、ファミリ−、カップルなどの客層の拡大を狙った「居食屋」という新業態が増加している。

  形態別には、小規模の単独経営の店が圧倒的に多いが、酒造業や飲食店による多店舗展開のほか、フランチャイズ・チェ−ン組織によるFC加盟店がある。すでに、居酒屋業界への需要は頭打ち傾向にあるが、それでも相変わらず新規参入が多く、一方、退出も少なくなく新陳代謝は激しい。近年では、台頭目覚ましい新興勢力のチェ−ン店の拡大により、既存の大手FCや従来型の一杯飲み屋型の居酒屋との競争が激化している。

 平成13年の全国の居酒屋(酒場、ビヤホール)の事業所数は160,141店で、11年と比べると3,579店増加、8年3,179店増加を12.6%も上回っている。11年対比13年の増加率は、2.3%増(飲食店全体0.1%減)と、8年対11年比の2.1%増に引き続き安定した伸びをみせている。しかし、3年対比6年18.1%増、6年対比8年9.2%増に比べると、近年は増加率の鈍化が著しい。
  従業者数は649,384人で、8年に比べ9.1%増(飲食店全体0.1%減)となり、事業所数、従業者数とも増加している。1事業所当たりの従業者数は4.1人(飲食店全体5.4人)となっている。
平成13年の法・個人別事業所数は、個人が135,039店(構成比84.3%)、法人25,101店(同15.7%)となっている。事業所数を11年と比べると個人が1.1%増に対して法人は9.0%増と伸び、8年対比11年の7.3%増を上回る勢いで増加している。

 事業所数を従業者規模別でみると、4人以下の小規模店は77.3%(飲食店全体69.1%)となっており、小零細規模の割合が他の飲食店に比べ最も高い。11年と比べた増減数でみると、5〜99人の5階層がいずれも増えているが、なかでも5〜9人2,508店増(12.2%増)、10〜19人1,126店増(14.0%増)と小・中規模層が他の階層に比べ事業所数の増加が目立っている。これに比べ1〜4人は656店減少(0.5%減)している。

 

事業所数の推移 (参考) 飲食店全体
(単位:店,%) (単位:店,%)
調査年 従 業 者 規 模 別 合 計
1〜4人 5人以上
平成6年 (83.3)
116,937
(16.7)
23,483
(100.0)
140,420
平成8年 (80.3)
123,110
(19.7)
30,273
(100.0)
153,383
平成11年 (79.5)
124,392
(20.5)
32,170
(100.0)
156,562
平成13年 (77.3)
123,736
(22.7)
36,405
(100.0)
160,141
従業者
1〜4人
合 計
(75.4)
632,547
(100.0)
839,122
(72.0)
601,795
(100.0)
836,357
(71.4)
574,835
(100.0)
804,957
(69.0)
548,908
(100.0)
794,748
資料:総務庁「事業所・企業統計調査」
(注) ( )内は構成比である。

 

(2)
支出は若手世帯と中高年世帯でほぼ2分
   総務省の「家計調査年報」によると、1世帯当たりの外食としての年間飲酒代は、平成14年は17,306円で前年に比べ3.6%減となっている。2年を底に3年は前年に比べ10.8%と急増したものの、その後は毎年微増で推移したが、10年以降4年連続して減少している。
 世帯主の年齢階級別の年間支出状況を平成14年でみると、29歳以下の世帯が最も多く20,371円であり、次いで多いのは50〜59歳で20,167円とほぼ同額支出で、若手世帯と中高年世帯でほぼ2分されている。最小支出は、70歳以上で10,899円と、全世帯平均の11,344円と大差がないが、最多の29歳以下世帯の約半分に過ぎない。
 都市別に1世帯当たり飲酒代支出を平成14年でみると、最も多いのは松江市で36,467円、次は長野市で35,660円、さらに秋田市が続き26,784円となっている。支出の少ない順では、最少支出が和歌山市で9,883円,次いで神戸市10,975、奈良市11,105円となっている。最多の松江市は、全国平均の2.1倍であり、一方、最小支出の和歌山市は57%の水準で少ない。
2 最近の動向
(1)
居酒屋のカジュアルレストラン化
  近年、幅広い客層をターゲットとした居酒屋の「カジュアルレストラン化」が進んでいる。従来のサラリーマン・学生が酒を飲んで騒ぐ雑多なイメージ中心の居酒屋が、割安感を武器にメニュー、店内の雰囲気に趣向をこらし、客層をOLやファミリー層に至るまで幅広く拡大している。
  これは、居酒屋のメニューは種類が多く値段も安いが味はいま一つ、という一昔前のイメージを改善し、料理の質はもちろん、食器や照明、レイアウトなども含めた店の雰囲気、従業員の接客などサービス内容の向上を図り、従来の「赤ちょうちん」的な経営から脱却し、幅広い客層に親しまれる店が増えているためである。店員にしても教育が行き届き、居酒屋らしく元気だが応対は丁寧な店が多い。これは、大型居酒屋のし烈な競争のなせる技といえよう。
 この背景には、居酒屋は、かつての「酔うための場」から「酒と料理を楽しむための場」としての顧客ニーズの変化があげられる。最近では、居酒屋を家族で利用する光景も珍しくなくなっており、今後ますます「コミュニケーションの場」としての利用価値が高まっていくものと思われる。
(2)
「食主、飲従」への変化
   若者の酒離れ傾向により、飲酒主体の居酒屋よりは、メニュ−が豊富で低価格の料理品を提供する店へのニ−ズが高まっている。従来の冷や奴や枝豆で一杯の飲酒主体が後退し、多くの種類の料理品をたくさん食べながら適量 を飲むという「食主、飲従」への変化をとらえ、「飲食店」はいまや「食飲店」への変化を迫られている。食べ物は、一口ステ−キ、たこ焼き、牛たんなど若者に受けるようなメニュ−が圧倒されるほど豊富であり、しかも大衆価格の徹底を図っている。営業方針が飲酒主体よりは、食事をしに来たついでに飲んでしまったいう行動を起こさせる演出を行っている。また、飲み物にしても酒の苦手な人でも、ある程度たしなめるサワ−、カクテルやトロピカルジュ−スなどを提供しており、従来型の居酒屋が日本酒、ビ−ル一辺倒に対して一線を画し、差別 化している。
  今の若者は、あまり飲まないため、酒、ビ−ルはどこの居酒屋に行っても同じという感覚が支配しているので、食べ物がおいしい店、メニュ−が豊富な居酒屋を選ぶ風潮が強まっている。つまり、居酒屋を選択する際の基準が、食べ物に焦点を当てている傾向が強い。
(3)
若者層を中心にカクテルが人気
 カクテルが居酒屋の人気メニューとして定着してきている。カクテルは高級な酒というイメージが強かったが、洋酒メーカーの低価格家庭用カクテルの投入により、若者や主婦の間でも人気が広がっている。低価格の上、低アルコールで飲みやすく、居酒屋でも売れ筋商品のひとつになっている。注文するのは女性が8割で、20代半ばの人が多い。特にカルアミルクなどのアルコール度数の低いカクテルに人気が集まっており、居酒屋では欠かせないメニューの一つとなっている。
3 経営上のポイント
  従来、居酒屋は、他の飲食業に比べ、それほど高度な料理技術は必要とされなかったが、最近は、酒や料理の品質を売り物の「食」をコンセプトとした「居食屋」が求められている。「食主、飲従」となると、料理品のメニュ−の工夫が常に求められ、価格も値ごろ感を打ち出す必要があるほか、食べることが主となると店内の清潔感や雰囲気、サ−ビスなども改善することが重要な要件となっており、差別 化が経営戦略の鍵となる。「食主、飲従」への変化で、収益性の高い酒類の売上後退の半面 、比較的高価な素材を使用する料理の増加により、原価は他の飲食業とほとんど変わらない状態になってきており、従来に比べ収益の妙味は薄れている。
(1)
メニューのオリジナリティーを工夫
  ある大手飲食店のデ−タによると、売上げに占めるフードの比率は6割程度にまでのぼり、ここ数年でフード対ドリンク割合が逆転している。このため、従来の「居酒屋」のイメージは徐々に「居食屋」化してきており、今後ますますフードメニューの充実が必要不可欠となる。多くの居酒屋は、どこも画一的な品ぞろえで、雰囲気も似たり寄ったりとなっているため、料理に、味・価格・素材・盛りつけなど他店との違いを際立たせることで特色を持たせ、その店のオリジナリティーを工夫することが大事である。
(2)
立地条件を生かした店づくり
 顧客動向を把握する上で、立地条件を勘案した店作りは重要な要素である。
 特徴的なものは次のとおりである。
駅周辺 フリー客が多いため、外装、店舗外観にも留意する。また、平均的な価格で、迅速な料理の提供も必要。
盛り場 競合店が多く、他店との差別化を図るユニークな店づくりが要求される。
住宅地 自営者、居住者を対象とするため、客回転率が低い反面、固定客の割合が高く、比較的安定した売上げを確保できる。
オフィス街 やや高級志向があり、くつろげるムードが大切。昼のランチタイムには格安の家庭料理風の提供が人気メニュ−。
学生街 効率と実質本意。低価格設定でコンパ利用を考慮した座敷も必要。
4 工夫している事例
(1)
企業概況
  • 立   地  :岩手県盛岡市 商店街
  • 業   種  :やきとり居酒屋
  • 創   業  :昭和56年    ・ 店 舗 数  :3店
  • 従業者数  :24名(うちパ−ト16名)
  • 経営理念  :「常にお客さま第一」
  • 具体的方針:「焼き鳥を顧客の五感に訴える」
(2) 従来の焼き鳥屋のイメ−ジ刷新に努力
顧客の五感に訴える内容を吟味
  創業に当たり、まず焼き鳥店を顧客の五感に訴えることを考えた。五感とは視、聴、嗅、味、触をいう。つまり、「視」とはネタケ−ス、「聴」とはホラ貝、「嗅」とは臭いを外に出す、「味」とは秘伝のタレ、「触」とは顧客との対話、握手である。この五感により、同業者との差異性を営業面 でどう生かすのかを検討した。
 焼き鳥屋というと、一般的に暗い、汚い、煙が立ち込めるなどマイナスのイメ−ジがある。これらを改善して、明るくきれいな店内を造ることに配慮した。目的は、顧客層の拡大である。気楽に入れる店造りをすれば、主力の中高年男性層のほかに若年層や女性連れも取り囲めることになる。
  顧客の定着化を図るため、対話を重要視した。新聞、テレビ、雑誌、書籍などをたくさん読み、情報源を一杯もつことに努めている。また、お客さんと飲みに出かける機会をつくり、その都度意見を聞き、それを営業に生かすようにしている。

 

資料
  1. 総務省「事業所・企業統計調査」 
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」(平成7年度)   
  4. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」   
  5. 金融財政事情「企業審査事典」
  6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
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