居酒屋-2001年
1 概況
2001年
(1)
出店環境が好転、居酒屋ブ−ムで高い伸び率の事業所数
 居酒屋とは、もともと安酒を飲ませる店の意味があり、イメ−ジとしては赤ちょうちんが軒先にぶらさがった酒場を思い出すが、一般 的には大衆酒場、炉端焼き、酒蔵など営業方法による名称や、焼き鳥、おでん、串揚げ、もつ焼きなど主として取り扱う料理品による名称などの大衆に親しまれている飲食店をいう。営業形態別 には、小規模の単独経営の店が圧倒的に多いが、酒造業や飲食店による多店舗展開のほか、フランチャイズ・チェ−ン組織によるFC加盟店がある。近年では、大手FC本部間の競争激化からFC加盟店による出店が多くなり、居酒屋の競争は激しくなっている。
 平成11年の全国の居酒屋(酒場、ビヤホール)の事業所数は156,562件で、8年と比べると3,179件増加、2.1%増(飲食店全体3.8%減)となっている。平成3年には昭和61年対比で1.8%減となったが、6年は3年に比べ18.1%増、8年は6年対比で9.2%増、11年は8年に比べ2.1%増と増勢をたどっている。これは平成3年以降、実質的な飲食へのニ−ズの高まりや、バブルの崩壊によって保証金・家賃の低下によって出店環境が好転し、居酒屋ブ−ムが生じたことが背景にあるといえよう。しかし、調査ごとに伸び率が鈍化しているのが目立つ。
 従業者数は595,157人で8年に比べ5.2%増(飲食店全体1.1%減)となり、事業所数、従業者数とも増加している。1事業所当たりの従業者数は3.8人(飲食店全体5.1人)となっている。
 平成8年から11年までの新設事業所数は32,951件で、一方、廃業事業所数は30,799件と新設事業所数が廃業事業所数を2,152件も上回っている。開業率は7.8%(飲食店全体2.6%)、廃業率7.3%(同6.3%)と新陳代謝が激しい。
 平成11年の法・個人別事業所数は、個人が133,517件(構成比85.3%)、法人23,035件(同14.7%)となり、8年に比べると個人が1.2%増、法人は7.3%増と高い伸び率となっている。
 従業者規模別でみると、4人以下の小規模店は79.5%となっており、8年80.3%に比べわずかに減少しているが、飲食店全体71.4%を上回っており、依然として小零細規模の割合が高い。8年と比べた増減率でみると、全部の階層で増えているが、なかでも20〜39人15.7%増、30〜49人19.6%増、50〜99人10.0%増と中規模層が他の階層に比べ伸び率が高くなり、大型化が進んでいる。
事業所数の推移 (参考) 飲食店全体
(単位:件、%) (単位:件,%) 
調査年 従 業 者 規 模 別 合 計
1〜4人 5人以上
昭和61年 (87.5)
122,885
(12.5)
17,509
(100.0)
140,394
平成3年 (83.5)
115,174
(16.5)
22,746
(100.0)
137,920
平成6年 (83.3)
116,937
(16.7)
23,483
(100.0)
140,420
平成8年 (80.3)
123,110
(19.7)
30,273
(100.0)
153,383
平成11年 (79.5)
124,392
(20.5)
32,170
(100.0)
156,562
従業者
1〜4人
合 計
(77.9)
656,754
(100.0)
842,758
(74.2)
628,037
(100.0)
846,298
(75.4)
632,547
(100.0)
839,122
(72.0)
601,795
(100.0)
836,357
(71.4)
574,835
(100.0)
804,957
資料:総務庁「事業所・企業統計調査」
(注) ( )内は構成比である。
(2)
支出の鈍化傾向は働き盛り世帯の支出低迷が影響
  総務庁の「家計調査年報」によると、1世帯当たり外食としての年間飲酒代は、平成12年は18,581円と前年に比べ3.2%減となっている。2年を底に3年は前年に比べ10.8%と急増したものの、その後は毎年微増で推移したが、10年以降3年連続して減少し、支出が鈍化傾向にある。
 世帯主の年齢階級別の年間支出状況を平成12年でみると、29歳以下の世帯が最も多く24,281円であり、全世帯平均の1.3倍となっている。次いで多いのが60〜69歳で20,973円、さらに50〜59歳の20,082円、30〜49歳17,000円台と続く。最少支出は70歳以上の12,316円である。
 都市別に1世帯当たり飲酒代支出を平成12年でみると、1位高知市30,030円、2位 横浜市28,340円、3位佐賀市28,101円となっている。高知市は全国平均の1.6倍となっている。支出の少ない順では、最少支出が高松市で8,477円、次いで名古屋市が11,452円、松山市11,747円が続く。高松市は全国平均の45%の水準であり、また高知市の28%に過ぎない。
2 最近の動向
(1)
居酒屋のカジュアルレストラン化
 近年、幅広い客層をターゲットとした居酒屋の「カジュアルレストラン化」が進んでいる。従来のサラリーマン・学生が酒を飲んで騒ぐ、雑多なイメージ中心の居酒屋が、割安感を武器に、メニュー、店内の雰囲気に趣向をこらし、客層をOLやファミリー層に至るまで幅広く拡大している。
 これは、居酒屋のメニューは種類が多く値段も安いが味はいま一つ、という一昔前のイメージを改善し、料理の質はもちろん、食器や照明、レイアウトなども含めた店の雰囲気、従業員の接客などサービス内容の向上を図り、従来の「赤ちょうちん」的な経営から脱却し、幅広い客層に親しまれる店が増えているためである。店員にしても教育が行き届き、居酒屋らしく元気だが応対は丁寧な店が多い。これは、大型居酒屋のし烈な競争のなせる技といえよう。  この背景には、居酒屋は、かつての「酔うための場」から「酒と料理を楽しむための場」としての顧客ニーズの変化があげられる。最近では、居酒屋を家族で利用する光景も珍しくなくなっており、今後ますます「コミュニケーションの場」としての利用価値が高まっていくものと思われる。
(2)
「食主、飲従」への変化
    若者の酒離れ傾向により、飲酒主体の居酒屋よりは、メニュ−が豊富で低価格の料理品を提供する店へのニ−ズが高まっている。従来の冷や奴や枝豆で一杯の飲酒主体が後退し、多くの種類の料理品をたくさん食べながら適量 を飲むという「食主、飲従」への変化をとらえ「飲食店」はいまや「食飲店」への変化を迫られている。食べ物は、一口ステ−キ、たこ焼き、牛たんなど若者に受けるようなメニュ−が圧倒されるほど豊富であり、しかも大衆価格の徹底を図っている。営業方針が飲酒主体よりは、食事をしに来たついでに飲んでしまったいう行動を起こさせる演出を行っている。また、飲み物にしても酒の苦手な人でも、ある程度たしなめるサワ−、カクテルやトロピカルジュ−スなどを提供しており、従来型の居酒屋が日本酒、ビ−ル一辺倒に対して一線を画し、差別 化している。
 今の若者は、あまり飲まないため、酒、ビ−ルはどこの居酒屋に行っても同じという感覚が支配しているので、食べ物がおいしい店、メニュ−が豊富な居酒屋を選ぶ風潮が強まっている。つまり、居酒屋を選択する際の基準が、食べ物に焦点を当てている傾向が強い。
(3) 若者層を中心にカクテルが人気
 カクテルが居酒屋の人気メニューとして定着してきている。カクテルは高級な酒というイメージが強かったが、洋酒メーカーの低価格家庭用カクテルの投入により、若者や主婦の間でも人気が広がっている。低価格の上、低アルコールで飲みやすく居酒屋でも売れ筋商品のひとつになっている。注文するのは女性が8割で、20代半ばの人が多い。特にカルアミルクなどのアルコール度数の低いカクテルに人気が集まっており、居酒屋では欠かせないメニューの一つとなっている。
3 経営上のポイント
 従来居酒屋は、他の飲食業に比べ、それほど高度な料理技術は必要とされなかったが、最近は、酒や料理の品質を売り物の「食」をコンセプトとした「居食屋」が求められている。「食主、飲従」となると、料理品のメニュ−の工夫が常に求められ、価格も値ごろ感を打ち出す必要があるほか、食べることが主となると店内の清潔感や雰囲気、サ−ビスなども改善することが重要な要件となっており、差別 化が経営戦略の鍵となる。「食主、飲従」への変化で、収益性の高い酒類の売上後退の半面 、比較的高価な素材を使用する料理の増加により、原価は他の飲食業とほとんど変わらない状態になってきており、従来に比べ収益の妙味は薄れている。
(1) メニューのオリジナリティーを工夫
   ある大手飲食店のデ−タによると、売上げに占めるドリンク対フードの比率は、フードが6割程度にまでのぼり、ここ数年でフードの占める割合が逆転している。このため、従来の「居酒屋」のイメージは徐々に「居食屋」化してきており、今後ますますフードメニューの充実が必要不可欠となる。多くの居酒屋は、どこも画一的な品ぞろえで、雰囲気も似たり寄ったりとなっているため、料理に、味・価格・素材・盛りつけなど他店との違いを際立たせることで特色を持たせ、その店のオリジナリティーを工夫することが大事である。
(2)
立地条件を生かした店づくり
 顧客動向を把握する上で、立地条件を勘案した店作りは重要な要素である。  特徴的なものは次のとおりである。
駅周辺 フリー客が多いため、外装、店舗外観にも留意する。また、平均的な価格で、迅速な料理の提供も必要。
盛り場 競合店が多く、他店との差別化を図るユニークな店づくりが要求される。
住宅地 自営者、居住者を対象とするため、客回転率が低い反面、固定客の割合が高く、比較的安定した売上げを確保できる。
オフィス街 やや高級志向があり、くつろげるムードが大切。昼のランチタイムには格安の家庭料理風の提供が人気メニュ−。
学生街 効率と実質本意。低価格設定でコンパ利用を考慮した座敷も必要。
4 工夫している事例
(1)
名物イベントで集客力アップ
 地方にあるA店では「利きビール大会」というあまり聞き慣れないイベントでお客の少ない日の集客に成功している。このイベントの手法はいたって簡単で、大手ビールメーカー4社の看板ビールであるキリン「ラガー」、アサヒ「スーパードライ」、サッポロ「黒ラベル」、サントリー「モルツ」の銘柄を隠し、飲んで当ててもらう。94年から6、7月の毎週水曜日に実施しているが、この状況を店内に「実況中継」をするため、かなりの盛り上がりをみせる。正解率は意外に低く100人に1人程度。このゲームを行うようになってから、「利きビール」を目当てに来店する客も多く、客層も若者から年配客まで幅広くなり、行列ができるほどになっている。
(2)
短い周期でメニューを改定、旬をアピール
  都心にあるB店では、メニュー変更をこまめに行うことでお客の目を飽きさせず、固定客を確保している。この店では、客単価が平均して2,700円前後と利用しやすい価格がサラリーマン層に支持されているが、料理メニューのバリエーションは全部で60品と居酒屋としては、かなり絞り込んでいる。そこで「定番」と「お薦め品」をうまく組み合わせたメニュー提案を行っている。60品あるメニューは、グランドメニュー50品、おすすめメニュー10品という構成でそれぞれ90日、45日ごとにメニュー変更を行っている。「90日メニュー」は毎回約10品を、またお薦めの「45日メニュー」についてはすべてを入れ替えている。
 加えて、1ヵ月単位で、スポット的にお薦め品を告知する卓上POPメニューがある。この3種のメニュー構成によって年間を通 して、絶えず季節性や旬を打ち出していき、固定客の確保に努めている。
(3)
接客サービスを重視し、女性客に人気
  大皿料理店のC店では、フリー客の8〜9割を女性客が占めている。これほど女性客に支持されているのは、しゃれた雰囲気のためだけではない。大皿料理店というと料理を盛った大皿をカウンターに並べているのが一般 的だが、この店ではどの料理も一品当たりのボリュームが通常の1.5倍あり、直径が26〜27センチメートルもあるまさに大皿で提供している。店内で手作りする料理は、盛りつけにも工夫を凝らし独創性を強調している。料理の中心価格帯は、600円〜700円程度でこの値打ち感も好評を得ている。また、ボリュームを出すことで、料理の提供回数が少なくなる分、従業員は自分の持ち場をこまめに往き来して、客に気を配る接客サービスを充実させ、女性客に支持されている。
【業界豆知識】
☆   競合するビール市場
   規制緩和の一環として地ビールが解禁されたほか、発泡酒の販売、輸入ビールの増加など消費者にとっては、選択肢が増えている。地ビールについては、平成6年4月にビール製造の基準緩和を受けて以来、急成長を遂げている。各地で新規参入が相次ぎ、全国で地ビール生産の免許所有企業は211社(平成10年5月末現在)に昇り、219の工場がある。地ビールは酵母が生きたままの状態で出荷されるため、賞味期限が短く出荷後1週間程度が目安となり、出荷後も提供するまで冷蔵保存しておく必要がある。
 一方、発泡酒は平成6年10月に先陣を切りサントリーが「ホップス」を、サッポロが7年4月に「ドラフティ」を発売した。キリンの「淡麗生」の発売は10年2月と出遅れた。さらに宝酒造が10年3月、アサヒビ−ルが13年2月と続けて参入している。酒税法では、水とホップを除く原料に占める麦芽の重量 が3分の2ならビール、3分の2未満なら、発泡酒と区別しているが、製法と同様に味もほとんど変わらないといわれている。

 

資料

  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」
  4. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  5. 金融財政事情「企業審査事典」
  6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
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