居酒屋-1996年
1.概況
1996年
(1) 事業所数は増加傾向 〜零細規模中心だが大型化の波も〜
平成6年の全国の居酒屋(酒場、ビヤホール)の事業所数は140, 420件で飲食店全体の16. 7%を占め、平成3年に比べると2, 500件( 1. 8%)の増加となっている。飲食店全体では、▲7, 176件(▲0. 8%) 減少しており平成3年以降の居酒屋の回復がうかがえる。平成3年から6年までの新設事業所数は、24, 417件(全体の17. 4%)で、飲食店全体の16. 6%を上回っている。これは保証金や家賃の低下などにより、出店環境が好転したことによると思われる。
従業者規模別でみると、飲食店全体では、従業者数4人以下の事業所が全体の75. 4%であるのに対し、居酒屋では83. 3%となっている。依然として零細規模の割合が高いが、平成6年の従業者数4人以下の事業所の構成割合は昭和61年から比べると、4. 2ポイント減少しており、徐々にではあるが事 業所の大型化が進んでいることがわかる。
(2) 飲酒代の支出割合は、 ほぼ横ばい
総務庁の「家計調査年報」によると、年間での1世帯あたりの一般 外食支出に占める飲酒代の割合は、昭和60年の12. 3%、平成2年の11. 1%に対し、平成7年は12. 0%と相対的な支出割合は、ほぼ横ばい状態にある。参考までに飲酒代だけの推移をみると、昭和60年の15, 704円から、平成7年には19, 514円と3, 810円( 24. 3%)増加している。

事業所数の推移

(参考) 一般飲食店全体
(単位:件,%)
(単位:件,%)
調査年
従業者規模別
合 計
1〜4人
5人以上
昭和61年
〈87.5〉
122,885
〈12.5〉
17,509
〈 100.0〉
140,394
平成元年

〈83.5〉
115,174

〈16.5〉
22,746
〈100.0〉
137,920
平成4年
〈83.3〉
116,937
〈16.7〉
23,483
〈100.0〉
140,420
合 計
従業者1〜4人
〈77.9〉
656,764
〈100.0〉
842,758
〈74.2〉
628,037
〈100.0〉
846,298
〈75.4〉
632,547
〈100.0〉
839,122
資料:総務庁「事業所統計調査」(平成6年は「名簿整備調査」)
(注)< >内は構成比である。
2.最近の動向
(1) 居酒屋のカジュアルレストラン化
 

 近年、幅広い客層をターゲットとした居酒屋の「カジュアルレストラン化」が進んでいる。従来のサラリーマン・学生が酒を飲んで騒ぐ、雑多なイメージが中心の居酒屋が、割安感を武器に、メニュー、店内の雰囲気に趣向をこらし、客層をOL   ファミリーに至るまで幅広く拡大している。これは、居酒屋のメニューは種類が多く値段も安いが味も今一つ、という一昔前のイメージを改善し、料理の質はもちろん、食器や照明、レイアウトなども含めた店の雰囲気、従業員の接客など、サービス内容の向上が大きく寄与している。

 この背景には、居酒屋は、かつての「酔うための場」から「酒と料理を楽しむための場」としての顧客ニーズの変化があげられる。最近では、居酒屋を家族で利用 する光景も珍しくなくなっており、今後ますます「コミュニケーションの場」としての利用価値が高まっていくものと思われる。

(2) 若者層を中心にカクテルが人気
   カクテルが居酒屋の人気メニューとして定着してきている。カクテルは高級な酒というイメージが強かったが、洋酒メーカーの低価格家庭用カクテルの投入により若者や主婦の間でも人気が広がっている。低価格の上、低アルコールで飲みやすく居酒屋でも売れ筋商品のひとつになっている。注文するのは女性が8割で、20代半ばの人が多い。特に、カルアミルクなどのアルコール度数の低いカクテルに人気が集まっており、居酒屋では欠かせないメニューの一つとなっている。
(3) 居酒屋の低価格性が魅力

  「食のマーケティング研究所」(東京・文京区)が平成7年12月に実施した、「居酒屋利用実態調査」によると、居酒屋に行く回数は1ヵ月当たり、男性3. 1回、女性2. 4回となっており、1回の支払い額は、男性が3, 800円、女性が3, 200円となっている。なじみの店の有無については、320人中63. 1% の人が、「1店もない」と回答、「ある」としたのは、36. 9%でほぼ3人に1人の割合になっている。

   また、居酒屋をよく利用する理由としては、(a)「価格が安い」28.8%、(b)「馴染みがある」14.4%(c)「家に近い」11.9%(d)「行きやすい場所に立地」10.2%、この他に「料理がおいしい」「入りやすい雰囲気」「会社、学校に近い」などが続いている。消費者は低価格を利用要因の第一位 に挙げており、居酒屋もロープライス・エブリデイ(低価格・高来店頻度)の外食市場の現状に対応した店に客が集まっていることになっている。

   なお同調査では、支持されているメニューについても調査されているが、順に、 (a)「ヤキトリ」36.4%(b)「トリの唐揚げ」23.7%(c)「豆腐料理」(主に冷や奴)21.2%(d)「野菜サラダ」18.6%(e)「焼き魚」 16.1%(f)「フライドポテト」15.8%以下「おでん」「刺身の盛りあわせ」「枝豆」の順になっている。

3.経営上のポイント
 従来居酒屋は、他の飲食業に比べ、それほど高度な料理技術は必要とされなかったが、最近は、酒や料理の品質を売り物に、比較的高価な素材を使用する居酒屋が増加しており、原価も他の飲食業とほとんど変わらない。「小企業の経営指標」(国民金融公庫1996年調査)によると、売上高総利益率は64. 7%が標準となっている(酒場、 ビヤホール)。これに対して飲食店全体では、65. 7%とほぼ同様の比率となっている。
(1) メニューのオリジナリティーを工夫
    従来の「居酒屋」のイメージは徐々に「居食屋」化してきている。ある調査によると、売上げに占めるドリンク:フードの比率は、フードが6割程度にまでのぼり、ここ数年でフードの占める割合が逆転している。これが「居食屋」化といわれる所以であり、そのため今後ますますフードメニューの充実が必要不可欠となる。多くの居酒屋は、どこも画一的な品ぞろえで、雰囲気も似たり寄ったりとなっているため、料理  に、味・価格・素材・盛りつけなど他店との違いを際立たせることで特色を持たせ、  その店のオリジナリテイを工夫したい。
(2) 立地条件を生かした店作り
  顧客動向を把握する上で、立地条件を勘案した店作りは重要な要素を占めてくる。特徴的なものは次のとおりである。
  (a) 駅周辺

フリー客が多いため、外装、店舗  外観に留意したい。また、平均的な価格で、迅速な料理の提供も必要。
(b) 盛り場 競合店が多く、他店との差別化を図るユニークな店作りが要求される。
(c) 住宅地 自営者、居住者を対象とするため、客回転率が低い反面、固定客の割合が高く、比較的安定した売上げを確保出来る。
(d) オフィス街 やや高級志向あり。寛げるムードが大切。昼のランチタイムも可。
(e) 学生街 効率と実質本意。低価格設定でコンパ利用を考慮した座敷も必要。
4.繁盛店の事例
(1) 名物イベントで集客力アップ
   地方にあるA店では「利きビール大会」というあまり聞き慣れないイベントで、お客の少ない日の集客に成功した。このイベントの手法は至って簡単で、大手ビールメーカー4社の看板ビール(キリン「ラガー」、アサヒ「スーパードライ」、サッポロ「黒ラベル」、サントリー「モルツ」)の銘柄を隠し、飲んで当ててもらう。これは94年からの6、7月の毎週水曜日に実施している。このゲーム中は、店内に「実況中継」をするため、かなりの盛り上がりをみせる。正解率は以外に低く100人に1人程度。このゲームを行うようになってから、「利きビール」を目当てに来店する客も多く、客層も若者から年配客まで幅広くなり、行列ができるほどとなっている。
(2) 短い周期でメニューを改定、旬をアピール
 

 都心にあるB店では、メニュー改定をこまめに行うことでお客の目を飽きさせず、固定客を確保している。この店では、客単価が平均して2, 700円前後と、利用しやすい価格がサラリーマン層に支持されているが、料理メニューのバリエーションは全部で60品と居酒屋としては、かなり絞り込んでいる。そこで「定番」と「お薦め品」をうまく組み合わせたメニュー提案を行っている。60品あるメニューは、グランドメニュー50品、おすすめメニュー10品という構成で、それぞれ90日、45日ごとにメニュー改定を行っている。「90日メニュー」は毎回約10品を、またお薦めの「45日メニュー」についてはすべてを入れ替えている。

  加えて、1ヵ月単位で、スポット的にお薦め品を告知する卓上POPメニューがあ  る。この3種のメニュー構成によって年間を通して、絶えず季節性や旬を打ち出していき、固定客の確保に努めている。 (3)接客サービスを重視し、女性客に人気大皿料理店のC店では、フリー客の8〜9割を女性客が占めている。これほど女性客に支持されているのは、しゃれた雰囲気のためだけではない。大皿料理店というと料理を盛った大皿をカウンターに並べているのが、一般 的だがこの店ではどの料理も一品当たりのボリュームが通常の1.5倍あり、直径が26〜27センチメートルもあるまさに大皿で提供している。店内で手作りする料理は、盛りつけにも工夫を凝らし独創性を強調している。料理の中心価格帯は、600円〜700円程度でこのお値打ち感も好評を得ている。また、ボリュームを出すことで、料理の提供回数が少なくなる分、従業員は自分の持ち場をこまめに往き来して、常に気を配り接客サービスを充実させ、女性客に支持されている。

【業界豆知識】

 ●競合するビール市場

   規制緩和の一環として地ビールが解禁されたほか、発泡酒の販売、輸入ビールの増加など消費者にとっては、選択肢が増えている。地ビールについては、平成6年4月にビール製造の基準緩和を受けて以来、急成長を遂げている。各地で新規参入が相次ぎ、地ビール生産者は全国で30社をこえている。地ビールは酵母が生きたままの状態で出荷されるため、賞味期限が短く出荷後1週間程度が目安となり、出荷後も提供するまで冷蔵保存しておく必要がある。

   一方、発泡酒は平成6年10月にサントリーが「ホップス」を、サッポロが7年4月に「ドラフティ」を発売した。酒税法では、水とホップを除く原料に占める麦芽の重量 が3分の2ならビール、3分の2未満なら、発泡酒と区別しているが、製法と同様に味もほとんど変わらないと言われている。

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