居酒屋-2005年
1 概況
2005年
(1)
代表的な大衆に親しまれている飲食店
  居酒屋とは、もともと不特定多数の顧客を対象に、安い酒を飲ませる店の意味があり、イメ−ジとしては赤ちょうちんが軒先にぶらさがった酒場を思い出す。しかし、一般 的には大衆酒場、炉端焼き、酒蔵など営業方法による名称や、焼き鳥、おでん、串上げ、もつ焼きなどを主に取り扱う料理品による名称などで、大衆に親しまれている飲食店をいう。 これまでの居酒屋は、酒類を主とする営業形態が主流で、客層は中高年層が中心であったが、最近では、「食」を主とし、「酒類」を従として若年層、女性グル−プ、ファミリ−、カップルなどの客層の拡大を狙った「居食屋」という新業態が増加している。
(2)
常用雇用者なしの事業所は全体の4割強
  形態別には、小規模の単独経営の店が圧倒的に多いが、酒造業や飲食店による多店舗展開のほか、フランチャイズチェーン組織によるFC加盟店がある。すでに、居酒屋業界への需要は頭打ち傾向にあるが、それでも相変わらず新規参入が多く、一方、退出も多く新陳代謝が激しい。近年では、台頭目覚ましい新興勢力のチェーン店の拡大により、大手チェーン店同士の競争が激化している。
  ちなみに、総務省「事業所・企業統計調査」によると、「酒場・ビヤホール」は平成16年150,719店で、比較可能な生活衛生関係営業15業種の中で美容業に次いで2番目に多い。特に、常用雇用者なしの事業所は16年66,658店で、全体の44.2%を占めている。これを13年と比べると6,055店減少しており、3年間の減少率は8.3%になる。
2 食品衛生法で見る居酒屋(酒場・ビヤホール)の法的規制
(1)
食品衛生法の目的
  飲食食品関係の業種については、営業施設の衛生水準を維持・向上させるため、食品衛生法が適用される。もちろん、居酒屋(酒場・ビヤホール)は、食品衛生法の適用業種である。食品衛生法は、昭和22年12月施行であり、戦後いち早く、食品の安全性確保のための公衆衛生の見地から、清潔で衛生的に営業を行うために、必要な規制、その他の措置を講ずることを目的に策定された。また、飲食に起因する衛生上の衛生上の危害の発生を防止し、それによって国民の健康の保護を図ることも、その目的に含まれている。
(2)
営業許可
  居酒屋(酒場・ビヤホール)を開業するのには、都道府県知事(保健所設置市または特別 区にあっては、市長または区長)に開業の届出をし、許可を得なければならない。その場合、営業施設は、都道府県が定めた施設基準に合致していなければならない。営業許可の有効期限は5年であり、営業を継続する場合は、営業許可の更新をしなければならない。また、都道府県知事が定める基準により、食品衛生責任者を置くことが義務付けられている。
(3)
提供する商品に対する規制
 食品保健行政の一貫として、食品、添加物、器具および容器包装とについて規制が設けられている。居酒屋に関係のある規制については以下のとおりである
規格基準の設定
添加物、残留農薬、遺伝子組換え食品や器具、容器包装等については、規格基準に違反した食品等の販売などは禁止されている。
表示基準の設定
アレルギー食品材料、遺伝子組換え食品など、表示基準に違反した食品等の販売等が禁止されている。
添加物の指定
成分規格、保存基準、製造基準、使用基準に適応していない添加物の使用等の禁止
(4)
監視指導
  都道府県等の保健所には、食品衛生に関する専門知識を有する食品衛生監視員が配置されており営業施設に対し監視、指導を行っている。
3 従業者規模別に見た居酒屋の事業所等の状況
(1)
生衛業種の中で最大の減少、異常なほどの減少数
  表の「居酒屋の事業所数の推移」で見ると、平成16年の居酒屋(酒場、ビヤホール)の事業所数は150,719店で13年と比べ9,422店(5.9%減)も減少している。これは比較可能な生活衛生関係営業15業種の中で、最大の減少数である。この「事業所・企統計調査」(総務省)は3年ごとに行われるので、さかのぼって増減状況を見ると、11年3,179増加(2.1%増)、13年3,579店増加(2.3%増)と順調に拡大してきたが、16年には一転して減少に転じている。しかも8年から13年にかけて増加した6,758店を上回る9,422店の減少であるから、異常な状況である。
 従業者数は649,384人で、8年に比べ9.1%増(飲食店全体0.1%減)となり、事業所数、従業者数とも増加している。1事業所当たり従業者数は4.1人となっている。
(2)
居酒屋全体の大幅な減少は1〜4人規模が足引く
  従業者規模1〜4人規模で見ると、平成16年は114,714店で、全体の80.5%と圧倒的多数を占めている。これを13年と比べると9,022店減少(7.3%減)している。居酒屋全体の減少数が9,422店であるから、その大部分を1〜4人規模が占めている。この減少数は比較可能な15業種の中で最大の減少数である。
(3)
増勢をたどる10〜29人規模層
  5人以上の規模は16年36,005店で、全体の19.5%に過ぎない。増減状況を見ると、11年は1,897店増、13年は4,235と急増したが、16年には400店減少(1.1%減)に転じている。この中で、10〜29人規模層は、11年763店増、13年1,546店増と倍増、16年は増加したが、増加幅は13年の約半減となっている。
(4)
圧倒的に多い個人事業所数の割合
  平成16年の法・個人別事業所数は、個人が122,288店で全対に占める割合は81.5%(13年81.5%)と多い。個人は13年調査に比べ12,751店減少(9.4%減)している。法人は28,430店で、全体に占める割合は18.5%である。
 13年調査に比べ3,329店増加(13.3増)している。


居酒屋の事業所数の推移 (参考) 一般飲食店全体
(単位:店,%) (単位:店,%)
調査年 従 業 者 規 模 別 合 計
1〜4人 5人以上
平成8年 (80.3)
123,110
(19.7)
30,273
(100.0)
153,383
平成11年 (79.5)
124,392
(20.5)
32,170
(100.0)
156,562
平成13年 (77.3)
123,736
(22.7)
36,405
(100.0)
160,141
平成16年 (76.1)
114,714
(23.9)
36,005
(100.0)
150,719
従業者
1〜4人
合 計
(72.0)
601,795
(100.0)
836,357
(71.4)
574,835
(100.0)
804,957
(69.0)
548,908
(100.0)
794,748
(61.9)
259,663
(100.0)
419,663
(注) ( )内は構成比である。
資料:総務庁「事業所・企業統計調査」

4 家計調査で見る飲酒代の支出
(1)
年間飲酒代(外食)は微減
  総務省の「家計調査年報」によると、平成17年の1世帯当たりの外食としての年間飲酒代は、17,512円で前年に比べ0.5%減と微減にとどまっている。平成3,4年のバブルの絶頂期に、年間飲酒代はそれ以前の1万7千円台を一挙に1万9千円台に押し上げた。その後はバブルが崩壊し、不況の度合いを増していったが、年間飲酒代は平成11年までは1万9千円台で推移してきた。しかし、13年以降は再び1万7千台の水準に逆戻りしている。
(2)
最高支出は29歳以下の世帯
  世帯主の年齢階級別の年間支出状況を平成17年でみると、29歳以下の世帯が最も多く24,316円である。次いで多いのは40〜49歳で19,306円、30〜39歳19,306円となっている。最小支出は、70歳以上で13,214円と、次いで50〜59歳17,155円となっている。最多支出の29歳以下世帯は、全世帯平均の1,4倍になっている。
(3)
都市別では飲酒代支出3万円以上は2都市
  都市別に1世帯当たり飲酒代支出を平成17年で見ると、年間飲酒代が3万円を超えているのは松江市で30,971円、長野市で30,057円の2都市のみである。また、2万円を超えているのは佐賀市28,588円、熊本市27,038円、川崎市26,850円の3都市である。一方、津市9,581円、和歌山市11,198円、神戸市11,213円の順となっている。最多の松江市は、全国平均の1.8倍であり、一方、最小支出の津市は全国平均の55%に過ぎない。
5 最近の動向
(1) 居酒屋のカジュアルレストラン化
  近年、幅広い客層をターゲットとした居酒屋の「カジュアルレストラン化」が進んでいる。従来のサラリーマン・学生が酒を飲んで騒ぐ雑多なイメージ中心の居酒屋が、割安感を武器にメニュー、店内の雰囲気に趣向をこらし、客層をOLやファミリー層に至るまで幅広く拡大している。
  これは、居酒屋のメニューは種類が多く値段も安いが味はいま一つ、という一昔前のイメージを改善し、料理の質はもちろん、食器や照明、レイアウトなども含めた店の雰囲気、従業員の接客などサービス内容の向上を図り、従来の「赤ちょうちん」的な経営から脱却し、幅広い客層に親しまれる店が増えているためである。店員にしても教育が行き届き、居酒屋らしく元気だが応対は丁寧な店が多い。これは、大型居酒屋のし烈な競争のなせる技といえよう。
  この背景には、居酒屋は、かつての「酔うための場」から「酒と料理を楽しむための場」としての顧客ニーズの変化があげられる。最近では、居酒屋を家族で利用する光景も珍しくなくなっており、今後ますます「コミュニケーションの場」としての利用価値が高まっていくものと思われる。
(2) 「食主、飲従」への変化
  若者の酒離れ傾向により、飲酒主体の居酒屋よりは、メニュ−が豊富で低価格の料理品を提供する店へのニ−ズが高まっている。従来の冷や奴や枝豆で一杯の飲酒主体が後退し、多くの種類の料理品をたくさん食べながら適量 を飲むという「食主、飲従」への変化をとらえ、「飲食店」はいまや「食飲店」への変化を迫られている。食べ物は、一口ステ−キ、たこ焼き、牛たんなど若者に受けるようなメニュ−が圧倒されるほど豊富であり、しかも大衆価格の徹底を図っている。営業方針が飲酒主体よりは、食事をしに来たついでに飲んでしまったいう行動を起こさせる演出を行っている。また、飲み物にしても酒の苦手な人でも、ある程度たしなめるサワ−、カクテルやトロピカルジュ−スなどを提供しており、従来型の居酒屋が日本酒、ビ−ル一辺倒に対して一線を画し、差別 化している。
  今の若者は、あまり飲まないため、酒、ビ−ルはどこの居酒屋に行っても同じという感覚が支配しているので、食べ物がおいしい店、メニュ−が豊富な居酒屋を選ぶ風潮が強まっている。つまり、居酒屋を選択する際の基準が、食べ物に焦点を当てている傾向が強い。
(3) 若者層を中心にカクテルが人気
  カクテルが居酒屋の人気メニューとして定着してきている。カクテルは高級な酒というイメージが強かったが、洋酒メーカーの低価格家庭用カクテルの投入により、若者や主婦の間でも人気が広がっている。低価格の上、低アルコールで飲みやすく、居酒屋でも売れ筋商品のひとつになっている。注文するのは女性が8割で、20代半ばの人が多い。特にカルアミルクなどのアルコール度数の低いカクテルに人気が集まっており、居酒屋では欠かせないメニューの一つとなっている。
6 経営上のポイント
  従来、居酒屋は、他の飲食業に比べ、それほど高度な料理技術は必要とされなかったが、最近は、酒や料理の品質を売り物の「食」をコンセプトとした「居食屋」が求められている。「食主、飲従」となると、料理品のメニュ−の工夫が常に求められ、価格も値ごろ感を打ち出す必要があるほか、食べることが主となると店内の清潔感や雰囲気、サ−ビスなども改善することが重要な要件となっており、差別 化が経営戦略の鍵となる。「食主、飲従」への変化で、収益性の高い酒類の売上後退の半面 、比較的高価な素材を使用する料理の増加により、原価は他の飲食業とほとんど変わらない状態になってきており、従来に比べ収益の妙味は薄れている。
(1)
メニューのオリジナリティーを工夫
  ある大手飲食店のデ−タによると、売上げに占めるフードの比率は6割程度にまでのぼり、ここ数年でフード対ドリンク割合が逆転している。このため、従来の「居酒屋」のイメージは徐々に「居食屋」化してきており、今後ますますフードメニューの充実が必要不可欠となる。多くの居酒屋は、どこも画一的な品ぞろえで、雰囲気も似たり寄ったりとなっているため、料理に、味・価格・素材・盛りつけなど他店との違いを際立たせることで特色を持たせ、その店のオリジナリティーを工夫することが大事である。
(2)
立地条件を生かした店づくり
 顧客動向を把握する上で、立地条件を勘案した店作りは重要な要素を占めてくる。 特徴的なものは次のとおりである。
駅周辺 フリー客が多いため、外装、店舗外観に留意。また、平均的な価格で、迅速な料理の提供も必要。
盛り場 競合店が多く、他店との差別化を図るユニークな店づくりが要求される。
住宅地 自営者、居住者を対象とするため、客回転率が低い反面、固定客の割合が高く、比較的安定した売上げを確保できる。
オフィス街 やや高級志向があり、くつろげるムードが大切。昼のランチタイムには格安の家庭料理風の提供が人気メニュ−。
学生街 効率と実質本意。低価格設定でコンパ利用を考慮した座敷も必要。
7 工夫している事例
(1)
企業概況
・ 立   地  :岩手県盛岡市 商店街
・ 業   種  :やきとり居酒屋
・ 創   業  :昭和56年
・ 店 舗 数  :3店
・ 従 業 者 数  :24名(うちパ−ト16名)
・ 経 営 理 念  :「常にお客さま第一」
・ 具体 的 方 針:「焼き鳥を顧客の五感に訴える」

 

【トピックス】
・受動喫煙防止措置とは何か
  健康増進法が平成15年5月1日に施行され、それに伴い集客施設などの管理者は受動喫煙(他人のたばこの煙を吸和させられること)の防止が義務付けられている。健康増進法第25条の対象となる施設は「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店、その他多数の者が利用する施設を管理するものは、これらを利用する者について、受動禁煙を防止するために必要な措置を講じなければならない」と定めている。この法律の施行により、ほとんどの生活衛生関係営業者は、受動喫煙防止措置を講ずる必要性が生じている。
・受動喫煙とは何か
  健康増進法によると、受動喫煙とは「室内またはこれに順ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること」と定義している。他人のたばこの煙は「副流煙」といわれ、喫煙者が吸う「主流煙」に比べ、有害物質が何倍もの濃度で含まれていることが報告されています。非喫煙者が副流煙を吸わされることは、さまざまな病気を発症させる一つの要因となっています。特に発ガン物質ジメチルニトロソアミンが副流煙には多量 に含まれている。そこで、非喫煙者を副流煙から守るため受動喫煙防止措置を講ずる必要があるわけである。
・受動喫煙防止措置の具体的方法
  受動喫煙防止措置には、大別して@施設内を全面 禁煙にする方法、A施設内を分煙する方法とがある。
@
全面禁煙
  受動喫煙防止対策の上では、最も望ましい方法である。灰皿の処理コスト、壁紙・エアコンのフィルターの汚れの清掃など費用が不要でコスト削減になる。また、宴会場の畳や床、テーブルクロスなどの焼け焦げの防止につながる。特に、妊婦や幼児、子供連れの顧客に安心感を与え、安心して飲食が出来るなどのメリットがある。
A
完全な分煙
  禁煙エリアにたばこの煙が流れないように、喫煙席(別 の部屋)を設置する。特に禁煙エリアや非喫煙者の動線上、例えばトイレに行く通 路、バイキングやフリードリンクコーナー周辺やそこへ行く通路、レジ周辺、禁煙エリアとレジや出入り口との間の通 路などに、たばこの煙が漏れたり、流れたりしないように配慮する必要がある。
・不完全な分煙は違法
 分煙が次のような場合は違法となる。
@
禁煙エリアが指定されていても、禁煙エリアにたばこの煙が流れてくる場合(喫煙席周囲に間仕切りがないなどによる場合)
A
非喫煙者の動線上にたばこの煙が流れてくる場合
  特に注意しなければならないのは空気清浄機や分煙機が設置されていれば、受動喫煙防止対策が実施との誤解である。これらが設置されていても、たばこの煙の中の有害物質は、大半が素通 りしてしまうからである
・北海道庁の「空気もおいしいお店」の推進事業
  喫煙率が男女とも全国平均を上回る北海道では、平成14年度から飲食店に対する受動喫煙防止推進事業として「空気もおいしいお店」の推進事業を始めている。対象は政令都市である札幌市の俗北海道内にある飲食店が対象であり、認証店は平成18年6月末現在で421店に増えている。
  飲食店に対する同様の認証制度の取り組みは、全国の地方自治体でも行われ出しており、受動喫煙防止策を飲食店の経営者のみに任せるのではなく、行政の仕組みとして整備することで、小規模飲食店への浸透を促進することを狙いとしている。
  資料:国民生活金融公庫「生活衛生だより」No.135 2004年10月
資料
  1. 総務省「事業所・企業統計調査」    
  2. 総務省「家計調査年報」    
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」(平成7年度)    
  4. 金融財政事情「企業審査事典」    
  5. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
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