喫茶店-2008年
1 概況
2008年
(1) 事業所数の推移
   総務省「事業所・企業統計調査」により「喫茶店」の事業所数の推移を見ると、従業者規模の別によらず減少傾向にあるが、特に小規模(従業者1〜4人)層の減少が著しい。
喫茶店の事業所数の推移グラフ
 
喫茶店の事業所数(従業者規模別)の推移表
(2) 喫茶店の施設数の推移
   厚生労働省「衛生行政報告例」により「喫茶店」の施設数の推移を見ると、事業所数が減少しているにも関わらず、新規参入する施設(店舗)が多く、多店舗展開するチェーン店の動きが活発である一方で、従来型の小規模店舗が撤退している現実が窺える。

・「喫茶店」の施設数の推移

年  次

施 設 数

昭和50年

53,767

60年

163,797

平成 元年

205,195

5年

223,885

10年度

245,868

15年度

275,202

資料:厚生労働省「衛生行政報告例」


・最近の施設数、営業許可、廃止取消件数の推移

年  次

施 設 数

営 業 許 可

廃 止 取 消

平成17年度

289,088

30,900

24,665

18年度

293,402

37,636

33,322

19年度

291,587

31,333

33,148

資料:厚生労働省「衛生行政報告例」

(3) 最近の動向
喫茶代の家計消費額は一進一退
   総務省「家計調査年報」により1世帯当たりの「喫茶代」家計支出の推移を見ると、平成14年5,068円、15年5,232円、16年5,355円、17年5,338円、18年が5,131円となり、一進一退の状況にある。
消費需要の中核は中高年層
 総務省「家計調査年報」により世帯主の年齢階層別「喫茶代」家計支出額を見ると、世帯主「60歳台」が6,220円で最も多く、次いで「50歳台」5,472円、「70歳以上」5,069円、「40歳台」4,503円と続き、中高年層が需要の中核を担っている。
新業態で成長する大手チェーン店
 「ドトールコーヒー」を筆頭に、「珈琲館(まなべ)」「UCCフードサービスシステムズ」「シャノアール」「アートコーヒー」「スターバックスコーヒージャパン」など、新業態で凌ぎを削る大手チェーン店が全国主要都市を席捲し、ベーカリーレストラン「サンマルク」や、東海地区を中心とする「コメダ珈琲店」が“シロノワール”“小倉トースト”で首都圏進出を目論む。

2 喫茶店の特性と現状

 厚生労働省の委託により全国生活衛生営業指導センターが実施した「平成15年度生活衛生関係営業経営実態調査(喫茶店営業)」から、喫茶店の現状を探ってみたい。
(1) 進む経営者の高齢化
 経営者の年齢階層では「50歳台」が35.8%で最も多く、次いで「60歳台」31.8%、「70歳以上」12.7%と続く。50歳以上で80.3%となって、調査から5年を経過していることからも経営者の高齢化は否めない。
(2) 「9時前」開店で長時間営業
 営業時間を見ると「12〜14時間」35.8%が最も多く、次いで「10〜12時間」33.1%となっており、合計で68.9%を占める。
 開店時刻では「9時前」が52.8%と最も多く、次いで「9〜10時台」30.8%、閉店時刻は「23時以降」28.3%が最も多いものの、その他の時刻にもバラついている。
 朝早くからの長時間営業であるが、平均の労働時間は8時間前後であり、交代制により運営していることが窺え、人件費コストが負担といえる。
(3) 来店客数平均100人弱、客単価821円
 1日当たりの平均利用客数は98.9人であるが、個人経営の小規模営業では71.1人となっている。また、平均食事単価(客単価)は821円である。
(4) 1店舗当たりの定員客席数は41名
 営業施設の状況では、「土地面積」266.5?、「床面積」115.4?、「客席面積」71.7?が平均であり、1度に利用できる客席数(定員数)は平均41.0人である。
(5) 経営上の問題点、第1位「客数の減少」
 経営上の問題点(複数回答)では、「客数の減少」が85.2%と大多数を占め、次いで「客単価の減少」38.0%、「諸経費の上昇」28.3%、「立地条件の悪化」25.4%と続く。
従業者規模の大きい法人企業(株式会社)では、「人件費の上昇」が第3位33.3%となり、問題点に特徴がみられる。
今後の経営方針(複数回答)では、「新メニューの開発」が55.7%で最も多く、次いで「顧客サービスの改善」39.3%、「他店との差別化」35.3%と続く。

3 「食品衛生法」による規制

 飲食、食品に関する営業については、営業施設の衛生水準の維持・向上を図るため、「食品衛生法」が昭和22年12月法律施行されている。
(1) 「食品衛生法」の目的
 「食品の安全性の確保のために、公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ること」を目的としている。
主な食品営業の他、食品、添加物、器具、容器包装等を対象に、飲食に関する衛生について規定している。
(2) 営業許可
   喫茶店を営業するためには、都道府県知事(保健所設置市又は特別区にあっては、市長又は区長)に届出し、許可を受ける必要がある。また、その営業施設は、都道府県条例に定める設置基準に合致していなければならない。
 営業許可の有効期限は5年以内であり、継続して営業するためには更新が必要である。なお、都道府県等の条例により、施設の堅牢性、耐久性が優れている場合や食品衛生上良好と判断される施設については、条件によって更に長期の有効期限となっている。名古屋市の場合、実地審査により5〜8年の有効期限が決定される。
(3) 食品衛生責任者の設置
 喫茶店の営業にあっては、都道府県知事が定める設置基準に準拠して「食品衛生責任者」を置かなければならない。
(4) 提供する食品に対する規制
 食品保健行政の見地から、提供する食品等について規格基準等が設けられ、違反する食品等の販売などは禁止されている。
規格基準の設定
 添加物、残留農薬、遺伝子組換え食品や器具、容器包装等については、夫々規格基準が定められており、適応していない食品の販売は禁止されている。
表示基準の設定
 アレルギー食品材料、遺伝子組換え食品等については、夫々表示基準が定められており、適応していない食品の販売は禁止されている。
添加物の指定
 食品添加物については、成分規格、保存基準、製造基準、使用基準が指定されており、適応しない添加物の使用等は禁止されている。
(5) 食品衛生監視員による監視指導
 都道府県等の保健所には、食品衛生の専門知識を有する「食品衛生監視員」が配置されており、営業施設に対する監視、指導を行っている。

4 喫茶店の業界よもやま

(1) 日本で最初の喫茶店は明治21年創業
   コーヒー喫茶の起源は、アラビア諸国の回教・イスラム圏において聖職者が修行中の眠気覚ましに使用したとされ、15世紀中頃、一般民衆に飲用の許可が出て巡礼地に喫茶店が誕生した。日本においては、1858年「日米修好通商条約」締結により、コーヒー豆の輸入が始まり、明治21年(1888年)東京・下谷黒門町に「可否茶館」が創業して喫茶店第1号という。
(2) 喫茶店の戦後の変遷
   第2次大戦後の変遷はめまぐるしい。
昭和25年にコーヒー豆の輸入が再開されると「純喫茶」と称し店舗が急増することになる。昭和28年、クラシック音楽を売りに「名曲喫茶」が出現し、以降「ジャズ喫茶」「シャンソン喫茶」などの生演奏の音楽喫茶が現われる。ロシア民謡などを合唱する「歌声喫茶」が出現して、戦後復興期から高度成長期へと学生や勤務者の喫茶店通いが流行し、店舗数が増加していく。昭和54年「ゲーム喫茶」でインベーダーゲームがブームとなり、昭和55年東京・原宿に「ドトールコーヒー」1号店がオープンする。昭和56年店舗数154,630店となり最盛期を迎えるが、以降過当競争の波に押され下降線を辿ることになる。昭和58年「カフェバー」が流行し、平成6年フランス風の「オープンカフェ」、平成7年「インターネットカフェ」が出現する。平成8年には東京・銀座に「スターバックス」1号店がオープンし、平成9年「マンガ喫茶」が出現する。最近では「メイド喫茶」なる業態もあるが、そのブームは刹那的に変遷し、浮沈を繰り返している。
(3) モーニングサービスに「茶碗蒸し」
 喫茶店にモーニングサービスが定着して、全国津々浦々差別化のシンボルとなっている。喫茶代家計支出の多い愛知県や岐阜県でモーニングサービスが常態化し、定番のトースト、サラダ、タマゴに加え「茶碗蒸し」を添える店が出現して地域住民の話題となった。製造コスト面で収支バランスが維持できるかがポイントといえようが、凌ぎを削る差別化競争の一端が見えてくる。
(4) 経営のポイント
 家庭や仕事場で使えるコーヒーサーバーの普及、インスタントコーヒーの拡販、缶コーヒー自動販売機の普及、大手喫茶店や外資系の参入など、多種多様な「喫茶場所」が出現して、喫茶専門店は浸食を受けている。厚生労働省「喫茶店営業の実態と経営改善の方策」(平成16年10月)から、経営のポイントを探ってみたい。
顧客のニーズは何かを再認識する
   「客数の減少」が最大の問題点であることから、何故減少するのかを知り、顧客が求めているものの本質への対応策を見出すことが必要である。
独り善がりの対応策は墓穴を掘る
 販売促進などの方策立案では、「売れれば良い」「売りっぱなし」は禁物である。「顧客」が原点であると認識して「店は事業主のものでない」と受止め、顧客満足度を追求する。
喫茶店営業はサービス業である
・設備上のサービス
高齢化社会を迎え、高齢者や障害のある方などへの設備上の対応を行う。
・人的サービス
店主を含めて従業員全体が研鑽し、人間性に溢れたサービスの在り方を追求する。
・販売促進サービス
新メニューの開発など、客層に応じたサービスの充実を図る。
・情報サービス
ホームページ開設などIT技術を導入して、経営環境を整備する。



資料

    1 総務省「事業所・企業統計調査」

    2 総務省「家計調査年報」

    3 厚生労働省「衛生行政報告例」

    4 厚生労働省「喫茶店営業の実態と経営改善の方策」平成16年10月

    5 厚生労働省「平成15年度生活衛生関係営業経営実態調査(喫茶店営業)」

    6 全国生活衛生営業指導センター「生活衛生関係営業ハンドブック2008」

    7 臼井隆一郎「珈琲が巡り世界史が廻る」

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