喫茶店-1996年
1.概況
1996年
(1) 減少を続ける喫茶店 〜取り巻く環境の変化が要因〜
 平成6年の全国の喫茶店の事業所数は115,417件で、平成3年と比べる と10,837件(▲8.6%)と大幅な減少となっている。一般飲食店の減少 幅が1.6%であるのに対し、その減少幅は大きい。なお、昭和56年調査の ピーク時点の事業所数15万4千件と比べると、およそ25%の喫茶店が姿を 消している計算になる。
 喫茶店が減少している理由としては、喫茶店が果たしてきた役割、存在感が低 下していることが考えられる。かつては、本格的なコーヒーは喫茶店で味わう ものであったが、現在では、抽出器具の普及で家庭やオフィスでもおいしいコ ーヒーが味わえるようになった。また、缶コーヒー、自動販売機の普及や最近 ではオフィスコーヒーサービスの浸透にもめざましいものがある。また、ファ ーストフード店やファミリーレストラン等が「喫茶」の役割を兼ね合わせるよ うになり他の業態との競争が激しくなっていることもあると思われる。
(2) 1世帯あたりの喫茶代支出額は低調
総務庁「家計調査年報」によると、平成7年における喫茶店への1世帯あたり の年間支出額は5,615円で、前年に比べ233円(4.0%)減少した。喫 茶代は平成元年の7,387円をピークに減少傾向にある。一般外食合計が、 平成元年と比較すると、16,368円(11.2%)増加しているのとは対照的 である。
 
事業所数の推移
(単位:件,%) (単位:円)
調査年
従業者規模別
合 計
1〜4人
5人以上
昭和56年
〈77.3〉
119,560
〈22.7〉
35,076
〈 100.0〉
154,627
昭和61年

〈78.7〉
118,864

〈21.3〉
32,187
〈100.0〉
151,051
平成3年
〈78.7〉
99,327
〈21.3〉
26,927
〈100.0〉
126,254
平成6年
(81.1)
93.548
(18.9)
21.869
(100.0)
115.417
資料:総務庁「事業所統計調査」(平成6年は「名簿整備調査」)
   総務庁「家計調査年報」
(注)< >内は構成比である。
2.最近の動向
(1) コーヒーの消費量は増加
 

  喫茶店の商店数は減少の一途をたどっているが、決してコーヒー離れが進んでいる わけではない。農林水産省の調査によると、レギュラーコーヒーの消費量 は、昭和55年に約6万5千トンであったのが、平成5年には約12万トンと着実に増加してい る。なお、総務庁「家計調査年報」の1世帯当たりのコーヒーの年間支出金額は、平成元年の7,140円から平成7年には7,712円に増加している。

 また、近年各飲料水メーカーとも、より本格的なコーヒーの商品開発にしのぎを削 っている背景もあり、缶コーヒーの消費量も前年比で35%増加している。

 全日本コーヒー協会の調査によると、平成7年度コーヒー推定消費量 では、喫茶店 をはじめとする家庭以外での推定消費量は前年比で41%減少しているが、家庭用の 推定消費量は18%増加している。

  このようにコーヒー全体の消費量は増加し、コーヒーがより消費者にとって身近な 存在になっている中で喫茶店が減少していることは、従来喫茶店が果 たしてきた「香 り高いコーヒーは専門の喫茶店で味わう」という役割が薄れつつあることを表してい る。

(2) 「2毛作、多毛作店」の健闘
 

  喫茶店にとどまらず、他の複数の業態をあわせもった「多毛作店舗」が増加してい る。昭和62年に西新宿にオープンした「プロント」が最初であるといわれている。

 昼間はコーヒーを中心とした喫茶、軽食、夜はアルコール類を中心としたパブとい う形式をとることで、客単価の低さを高回転率でカバーするとともにそれぞれの時間帯にマッチした営業を行うことでフルタイムの稼働を可能にしている。

 これらの店は比較的料金を低めに設定するとともに、フローリングやインテリア等 も適度におしゃれにまとめられており、気軽に利用できる雰囲気を創出しチェーン店 を中心に出店が続いている。

  今後、このような「2毛作、多毛作店」にとって、複数の業態展開は強みであると ともに、専門性の観点からは弱みになる可能性もある。今後は、価格競争力はもとよ りメニューの質量両面の向上、サービスレベルの向上等がより求められてくるのでは ないかと思われる。

 

3.経営上のポイント
 コーヒーの需要が増加している中、喫茶店の数が減少しているのは、「ただの喫茶 店」から顧客が遠のきはじめているともいえる。しかしながら、喫茶店の存在価値が なくなったわけではない。次のような顧客のニーズに沿って、喫茶店にしか出せない 持ち味、特色をあらためて見直すことで、再び喫茶店に客を呼び戻すことが可能にな るのではないかと思われる。
(1) コーヒー、紅茶等の味へのこだわり
    第一に喫茶店に求められるのはコーヒー、紅茶等の味へのこだわりである。喫茶店 の専門性を活かした本物の味や香りを追及したり、様々な品ぞろえを豊富にすること が考えられる。オーナーのコーヒー、紅茶に対するうんちくや情熱が感じられるよう な店でありたい。
(2) メニューのオリジナリティーを工夫
    マンネリに陥りやすい軽食メニューに独自色を出すことも重要である。しかし、一 般的に喫茶店の厨房設備は、電子レンジ、ガスコンロ、冷蔵庫等がある程度で、通 常 の飲食店に比べるとはるかに軽装備であり、しっかりとした調理技術を持つ店舗は少 ない。確かに喫茶店で軽食を注文すると、コーヒー卸売業者が扱っている加工食品を あまり手を加えることなく加熱する程度で提供していると覚しき場合がある。メニュ ーは単に広げるのではなく、むしろ特化し、手作りの味を出す等によりその店のオリ ジナリティを工夫したい。
(3) 顧客の価格志向、簡便志向への対応
 

  近年、顧客の価格志向、簡便志向等のニーズの多様化に伴って、ドトールコーヒー 等に代表される150〜200円といった低価格のコーヒー店が急速にチェーン展開 して店舗数を増やしている。また、ファーストフードの店ではいずれも低価格でコー ヒーを提供しており、簡便なコーヒーショップとしての役割を果たしている。

 このよ うな中、相対的に従来の喫茶店のコーヒー価格に対し割高感が高まっているのも事実である。確かに顧客が喫茶店を選択する際に価格や簡便さは重要なポイントである。 しかしながら、顧客は喫茶店に対し、「コーヒー+アルファ」に対し対価を支払うの であり、このプラスアルファの部分が喫茶店でなければ出せないものでありつづけれ ば、今後とも喫茶店の存在価値はなくならないと思われる。

(4)

「喫茶店という空間で過ごす時間」の快適さ
 

  顧客が喫茶店を利用する動機としては、飲食はもとより、待合せや商談、気の合う 友人との談話等の場所として利用したり、読書や休息等自由時間を過ごす目的で利用 するなどさまざまであり、顧客が喫茶店に求めるニーズは多様である。しかしながら これらに共通する点は、「喫茶店という空間で過ごす時間」の快適さ、満足感にある と思われる。そのためには顧客がくつろげる雰囲気をいかにして醸し出すかにかかっ ている。

 まず店舗の清潔感をあらためて見直すことである。また、食器や調度品はもとより 照明、レイアウト等にも気を配りたい。また、喫茶店が顧客にとってホスピタリテイ が感じられる場所であるかどうかも重要である。オーナーとの会話、従業員の接客態 度等が全体に与える影響にも大きいものがあると思われる。

4.繁盛店の事例
(1) 雑誌、漫画の配置を工夫した店作り
   喫茶店にはよく雑誌や漫画が置いてある。しかし古い雑誌等が無造作に積まれており、汚れたイメージを植えつけている場合もみられる。

  東京の下町にあるA店では、集客力の向上に積極的にこの雑誌や漫画を活用して成 果をあげている。まず女性客をターゲットに女性用の雑誌、漫画を充実させることを 考え、女性によく読まれている雑誌を発売日にそろえるとともに、清潔さを考え店に 置く雑誌は直近の2号までとすることとした。その後人気女性漫画の単行本を揃える とともに男性週刊誌も拡充した。その結果、顧客にとって雑誌1冊分程度でお茶が飲めると共に最新の雑誌、漫画等が読めるということが安定した集客力につながってい る。

(2) テイクアウト、出前で売上げ増加
 

  オフィス街にあるB店では、積極的にテイクアウトと出前を展開することで売上増加につなげている。直接のきっかけは店舗付近に、低価格のチェーン店が進出してき たことによる。まず、店内の一部テーブルをつぶしテイクアウト用の窓口を設置する 一方、ベンチやテーブル、花を飾る等によりしゃれた屋外スペースを設けた。

 また、 テイクアウト用の価格は店内価格の半分に抑え、ビジネスマンやOLの支持を得た。 さらに、近隣の企業をこまめに回り、出前のチラシやサービス券、メニューを配った り、得意先には盆、暮れの贈り物をする等でまとまった注文を取ることに成功した。 この結果、企業で大きな会議などがあると一度で100杯以上の注文があることもある。このように待ちの姿勢だけではなく、立地条件をいかし積極的な営業活動を行っ たことが売上の増加につながっている。

【業界豆知識】
● 「インターネット・カフェ」の進出

  店内にパソコンを設置し、インターネットにアクセスできることを売り物にした 「インターネット・カフェ」が都心部に登場している。平成7年6月、東京都渋谷区に開店した外資系の「エレクトロニック・カフェ・トウキョウ」が、国内1号店 である。店内にはアップル社のパソコンを15台置き、そのうち3台はインターネ ットとテレビ会議システムに接続されている。入場料は2,000円で、ドリンク 一杯がつく。

 多くのインターネット・カフェにはバックに大手パソコンメーカーがついているが、経営的にまだ採算がとれていない店が多い。しかし、米国では広く 浸透していることや、インターネットの注目度の高いことなどから、全国に広まっ ていくとみられている。

 

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