喫茶店-1998年
1 概況
1998年
(1) 多い小規模層、15年間で1/3が廃業
平成8年の全国の喫茶店の事業所数は101,937件で、平成3年と比べると24,317件減少、減少率は19.3%(一般 飲食店3.8%減)と大幅な減少となり、他業種に比べ最大の減少幅となっている。なお、ピーク時点である昭和56年調査のの事業所数15万4千件と比べると、この15年間で約3分の1に当たる52,690件の喫茶店が姿を消している。
従業者規模別にみると、1〜4人規模の事業所が全体の79.2%(一般 飲食店全体65.7%)と居酒屋についで小規模層が多く、生業的色彩 の店が多い。 
 
事業所数の推移
(単位:件,%)
 調査年 従業者規模別 合 計
1〜4人 5人以上
昭和56年 ( 77.3)
119,560
( 22.7)
35,076
(100.0)
154,627
昭和61年 ( 78.7)
118,864
( 21.3)
32,187
(100.0)
151,051
平成 3年 ( 78.7)
99,327
( 21.3)
26,927
(100.0)
126,254
平成 6年 ( 81.1)
93,548
( 18.9)
21,869
(100.0)
115,417
平成 8年 ( 79.2)
80,732
( 20.8)
21,205
(100.0)
101,937
資料:総務庁「事業所統計調査」(平成6年は「名簿整備調査」)
(注)( )内は構成比である。
(2) 7年ぶりに反転、1世帯あたりの喫茶代支出額
 総務庁「家計調査年報」によると、平成9年における喫茶店への1世帯当たりの年間支出額は6,116円で前年に比べ8.4%増(一般 外食店合計3.1%増)となり、平成元年のピーク以降、減少傾向にあったものが7年ぶりに反転した。 
 また同調査による昭和62年から平成9年までの10年間の可処分所得の伸び率1.2833に対して喫茶代の支出の伸び率は0.8814と低い。これを喫茶代が急増していた昭和51年と61年との10年間と比較してみると、可処分所得の伸び率1.6256に対して喫茶代の支出の伸び率は2.8969と可処分所得の伸び率を大きく上回って上昇しているのと対照的であり、現状では喫茶需要に構造的な変化が生じているといえよう。 
 (財)東京都環境衛生営業指導センタ−の「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」によると、コ−ヒ−や紅茶を飲む場所は、家庭が65.8%喫茶店41.7%、職場25.5%と、かつてはコ−ヒ−といえば喫茶店だったものが、いまや家庭がその中心となっている。
 世帯主の年齢階級別の支出(総務庁「家計調査年報」平成9年)をみると、支出額のもっとも多いのは55〜59歳代で年間7,190円、最少は2までの世帯で2.651円と2.7倍の格差がある。おしなべて34歳以下世帯では全世帯の平均支出を下回り、35〜64歳層ではそれを上回っていことから、喫茶需要は主に中高年齢層に支えられているといえよう。 
 同調査による都市別の支出額では、「喫茶店好き」と巷間で話題にされるだけに名古屋市が断然トップで18,986円と、全世帯平均の3.1倍、最少額の宮崎市の2、434円の7.8倍となっている。2位 は近隣都市の岐阜市で18,792円と名古屋市と大差なく、3位の大阪市の10,002円を大きく引き離している。名古屋、岐阜の両市では、喫茶店の社会的存在価値が依然として高く、市民が憩いの場としての愛着を感じていることがうかがえる。

2 最近の動向

(1) 存在感低下の一方、他業態との競争が激化
 現在では、抽出器具の普及で家庭やオフィスでもおいしいコーヒーが味わえるようになった。また、缶 コーヒー、自動販売機の普及や最近ではオフィスコーヒーサービスの浸透にもめざましいものがある。また、ファーストフード店やファミリーレストラン等が「喫茶」の役割を兼ね合わせるようになり、純喫茶と呼ばれた専門店の分野が侵食されるなど、他の業態との競争が激しくなっている。このような理由から、本格的なコーヒーは喫茶店で味わうものという社会通 念が後退し、また喫茶店でコ−ヒ−を飲みながらゆっくりとタバコをくゆらせる雰囲気も車社会による駐車場確保難などで少なくなり、喫茶店が果 たしてきた役割、機能が低下していることは否めない。
(2) 「2毛作、多毛作店」の健闘
 喫茶店にとどまらず、他の複数の業態を併せもった「多毛作店舗」が増加している。昭和62年に西新宿にオープンした「プロント」が最初であるといわれている。昼間はコーヒーを中心とした喫茶、軽食、夜はアルコール類を中心としたパブという形式をとることで、客単価の低さを高回転率でカバーするとともに、それぞれの時間帯にマッチした営業を行うことでフルタイムの稼働を可能にしている。これらの店は比較的料金を低めに設定するとともに、フローリングやインテリア等も適度におしゃれにまとめられており、気軽に利用できる雰囲気を創出しチェーン店を中心に出店が続いている。
 今後、このような「2毛作、多毛作店」にとって、複数の業態展開は強みであるとともに、専門性の観点からは弱みになる可能性もある。今後は、価格競争力はもとよりメニューの質量 両面の向上、サービスレベルの向上等がより求められてくるといえよう。
3 経営上のポイント

 昭和61年までの喫茶店のブ−ム的な人気とは対照的に近年では、「ただの喫茶店」から顧客が遠のきはじめ、個別 の喫茶店経営は厳しい時代に入っている。とはいえ、平成9年における喫茶店への1世帯当たり支出額は7年ぶりに前年比で増勢に転じており、喫茶店の存在価値を示す明るい兆しがある。したがって、顧客のニーズに沿って、喫茶店にしか出せない持ち味、特色をあらためて見直すことで、再び喫茶店に客を呼び戻すことの可能性が少なからず期待できる。
(1) 多種多様の利用動機と立地条件を組み合せた経営方針の明確化
 先の「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」によると、喫茶店の利用目的は男性では多い順に「仕事上の打合せ」、次いで「おいしいコ−ヒ−等を飲みたい」、さらに「休息、憩い、やすらぎ」「待合せ」「時間つぶし」などのほか多岐にわたるが、ビジネスに関連した利用が多くみられる。一方、女性では「おしゃべり、雑談」「おいしいコ−ヒ−等を飲みたい」「待合せ」「休息、憩い、やすらぎ」の順位 だが、利用目的は上位のこの4項目に集中している。男女別で利用目的の違いがあるものの、喫茶店の利用動機は多種多様であることがわかる。
 また、喫茶店を利用するときの店の選択方法は、男性ではもっとも多いのが「近隣商店街」次いで「駅前」さらに「デパ−トやショッピングセンタ−内」の順となっているが、女性では「デパ−トやショッピングセンタ−内」が2位 に上がり、「駅前」が3位に後退している。
 このように男女によって利用動機が異なり、また店の選択が異なるので、立地条件や主要顧客層に応じて、店内の雰囲気づくりなどに留意する必要がある。客層が店の立地からみて何を望んでいるのかを把握し、多種多様の利用動機に合わせた経営方針を打ち出し、顧客にアピ−ルすることが必要であろう。
(2) コーヒー、紅茶等の味へのこだわり
先の利用目的でみると「おいしいコ−ヒ−等を飲みたい」は男女とも2位 にあるが、喫茶店で注文するのはホットコ−ヒ−が71.8%と圧倒的に多く、喫茶店に求められるのはコーヒーの専門家がいれた味へのこだわりである。喫茶店の専門性を活かした本物の味や香りを追及したり、様々な品ぞろえを豊富にすることが喫茶店の本命であり、店主のコーヒー、紅茶に対するうんちくや情熱が感じられるような店がコ−ヒ−愛好家に支持されよう。
(3) メニューのオリジナリティーを工夫
マンネリに陥りやすい軽食メニューに独自色を出すことも重要である。しかし、一般 的に喫茶店の厨房設備は、電子レンジ、ガスコンロ、冷蔵庫等がある程度で、通 常の飲食店に比べるとはるかに軽装備であり、しっかりとした調理技術を持つ店舗は少ない。確かに喫茶店で軽食を注文すると、コーヒー卸売業者が扱っている加工食品をあまり手を加えることなく加熱する程度で提供していると覚しき場合がある。メニューを単に広げるのではなく、むしろ特化し、手作りの味を出すなどによりその店のオリジナリティを工夫することが望ましい。
(4) 顧客の価格志向、簡便志向への対応
 近年、顧客の価格志向、簡便志向等のニーズの多様化に伴って、ドトールコーヒー等に代表される150〜200円といった低価格のコーヒー店が、急速にチェーン展開して、店舗数を増やしている。また、ファーストフードの店ではいずれも低価格でコーヒーを提供しており、簡便なコーヒーショップとしての役割を果 たしている。このような新業態の参入が高まるなか、従来の喫茶店のコーヒー価格が相対的な割高感を消費者にもたれており、低価格で気軽にコ−ヒ−が飲める新業態へ喫茶店利用客が移動したり、また新たな需要層を開拓しているのも事実である。
 確かに顧客が喫茶店を選択する際に価格や簡便さは重要なポイントであるが、しかし、顧客は喫茶店に対し、「コーヒー+アルファ」に対し対価を支払うのであり、このプラスアルファの部分を、喫茶店でなければ出せない独特のものとして持続し続ければ、今後とも喫茶店の存在価値はなくならないと思われる。
(5) 「喫茶店という空間で過ごす時間」の快適さ
 顧客が喫茶店を利用するニーズは多種多様である。しかし、これらに共通 する点は「喫茶店という空間で過ごす時間」の快適さ、満足感にあるといえよう。そのためには顧客がくつろげる雰囲気をいかにして醸し出すかにかかっている。
 そこでまず重要なのは、喫茶店が顧客にとって親切なもてなしを感じられる場所であるかどうかであろう。次いで店主の人柄や個性や従業員の接客態度などが大事である。これらは店の雰囲気へ反映されるからである。とくに小規模であればあるほど、店主と顧客とのなごやかな会話の可否が店全体のム−ドに与える影響が大きく、経営面 でないがしろにできない要素である。さらにいうまでもなく店舗の清潔感や、食器や調度品はもとより照明、レイアウト等にも気を配ることが大事であり、これらについては定期点検のスケジュールを組んでチェックすることが望ましい。
4 繁盛店の事例
(1) 高齢者にやさしい喫茶店
 高知市の住宅地にある脱サラによる喫茶店では、今後ますます高齢者が増加し、しかも元気で外歩きすることが多いことに着目し、顧客対象を若年層から高齢者に絞り込む経営方針に転換したところ、客足が増加している。まず、店の内外の段差をなくし、車椅子でも入れるようにスロ−プを取り付けた。それにより、杖をついた老人や、足元のおぼつかない人でも来店するようになった。65歳以上(長寿手帳持参者)および身体障害者に対しては、常時メニュ−の20%引きで商品を提供している。
 主力商品は、コ−ヒ−のほかはジュ−スなどで、親子連れや孫連れの来店者については、子供向けのジュ−スの注文にも対応ができ、また子供には飲食後にあめや菓子を提供し、今後、子供が親や祖父などを連れて来店するよう仕向けている。若年者主体のときには、店舗の改装など新装直後は集客率が高まり、それが少しでも古びると客足が遠のく傾向にあったが、高齢者は店舗の新旧は気にしないので、もっぱら店内のくつろぎの演出などに重点をおいている。
(2) モット−は「店内の良い雰囲気を大切に」
 富山市の繁華街にある喫茶店では、喫茶店はお客に店内の雰囲気も一緒に売っている商売であるとの認識から、「店内の良い雰囲気を大切に」をモット−としている。現在の従業者は7名(うちパ−ト、アルバイト4名)だが、顧客名簿を作成し、年賀状を出すこと等により顧客の名前を記憶し、来店時に名前で呼ぶ努力をしている。また、あるいはお客の好みを記憶しておき、「いつものを」というお客の注文にすぐに反応することにより、この店の常連客であるとの意識をもってもらうことにより、顧客の定着化を図っている。
 店内はすみずみまで衛生的にし、また照明は明るくするなどして専門店としての雰囲気を高めている。とくに女性客に好まれるようにトイレを改善したり、店内を4つのコ−ナ−に区分して空気清浄器を2台設置し、そのうちの1ヵ所を1年前から禁煙コ−ナ−にするなど、店内施設の改善に努め好評を得ている。
(3) 立地条件をいかしたテイクアウト、出前で売上げ増加
オフィス街のある喫茶店では、積極的にテイクアウトと出前を展開することで売上増加につなげている。直接のきっかけは店舗付近に、低価格のチェーン店が進出してきたことによる。まず、店内の一部をつぶしテイクアウト用の窓口を設置する一方、ベンチやテーブル、花を飾る等によりしゃれた屋外スペースを設けた。また、テイクアウト用の価格は店内価格の半分に抑え、ビジネスマンやOLの支持を得た。さらに、近隣の企業をこまめに回り、出前のチラシやサービス券、メニュー表を配ったり、得意先には盆、暮れの贈り物をする等でまとまった注文を取ることに成功した。この結果 、企業で大きな会議などがあると一度で100杯以上の注文があることもある。このように待ちの姿勢だけではなく、立地条件をいかし積極的な営業活動を行って売上の増加につなげている。
5 業界豆知識
 「インターネット・カフェ」の進出
 店内にパソコンを設置し、インターネットにアクセスできることを売り物にした「インターネット・カフェ」が都心部に登場している。平成7年6月、東京都渋谷区に開店した外資系の「エレクトロニック・カフェ・トウキョウ」が、国内1号店である。店内にはアップル社のパソコンを15台置き、そのうち3台はインターネットとテレビ会議システムに接続されている。入場料は2,000円でドリンク一杯がつく。多くのインターネット・カフェにはバックに大手パソコンメーカーがついているが、経営的にまだ採算がとれていない店が多い。しかし、米国では広く浸透していることや、インターネットの注目度の高いことなどから全国に広まっていくとみられている。

   

    資料

    1. 総務庁「事業所統計調査」
    2. 総務庁「家計調査年報」
    3. (財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」
    4. (財)全国環境衛生衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
    5. 金融財政事情「企業審査事典」
    6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
    7. 経営情報出版社「業種別業界情報」’98年版
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