スナック・バー-2008年
1 概況
2008年
(1) 事業所数等の推移
   スナック・バーの事業所数、または施設(店舗)数については、分類単独で実態を表す統計調査が存在しない。総務省「事業所・企業統計調査」により「バー・キャバレー・ナイトクラブ」、警察庁「警察白書」により「深夜酒類提供飲食店」を参考として考察したい。深夜飲食店の大半がスナック・バーに相当することから、警察白書の「深夜酒類提供飲食店」の推移が注目される。
 警察白書「深夜酒類提供飲食店」の推移は、緩やかな減少傾向を示している。ただし、「深夜酒類提供飲食店」については、廃業届を提出せず廃業している場合が多いことから注意を要する。一方で、総務省「事業所・企業統計調査」によると、事業所数は小規模層で大きく減少している。
「深夜酒類提供飲食店」と「バー・キャバレー・ナイトクラブ」の事業所数の推移グラフ
 
「深夜酒類提供飲食店」と「バー・キャバレー・ナイトクラブ」の事業所数の推移表
(2) 最近の動向
飲食を提供する「カラオケボックス」との競合
   カラオケセットを導入し、店内でのカラオケ全盛を築いてきたのはスナック・バーであるが、専門店の「カラオケボックス」が参入し、スナックからカラオケ需要が後退してきた。カラオケ市場が飽和状態になると飲食を提供する業態が出現し、更にスナック・バーから顧客を引き離す大きな要因となった。
廃業や転業が加速
 カラオケ専門店への顧客のシフトや経営者(ママ)の高齢化等によって需要が減退し、更に、主たる客層であった常連客が高齢化して来店頻度が減少するとともに法人需要が激減していったことから、廃業が加速している。一方で新たな営業形態への転業も少なくない。俗に「ラウンジ」と称される接客スタイルや居酒屋への転業が進展している。特に、「酒が従、食が主」の志向によって顧客の離脱が著しく、飲食に対する顧客ニーズの変化の象徴といえる。
新たな賃貸方式による参入
 従来は入居保証金を必要とする賃貸形式であったが、建物所有者やビル管理企業が内装工事費を負担し入居保証金を不要として入居者を募集することが増えている。空き店舗対策もあって賃貸方式が変化してきている。開業資金の負担が少ないことから、楽しみながら飲食店を営業したい若年層の参入が見られるが、従来型営業の減少を補う勢いは乏しい。

2 社交業(スナック・バー)の特性と現状

(1) 脆弱な経営基盤
 少ない資金での開業や経営者(ママ)一人で営業可能であることなど、最小規模で参入ができることから生業的であり、その基盤は極めて脆弱な場合が多い。
(2) 安直な新規参入と撤退
 スナック・バー業界の慣習として、「居抜き」による店舗の譲渡が行われる。現経営者から後継の経営者に対し、店舗入居補償金等を含めた売却が行われることであり、施設を現況のまま使用できるなど、参入に利便性がある一方で撤退も容易である。安直な参入と撤退の繰り返しから、顧客の固定化も進まず、定着性に乏しい側面がある。
(3) 営業の中心は通称「ママ」
 施設設備や飲食に他店との差別化に限界があり、顧客の確保においては「マスター」や「ママ」と称される店主の人的魅力(キャラクター)に頼らざるを得ない場合が殆どである。営業の中心は「ママ」の個人的なキャラクターに依存することになり、“引き抜き”なども存在すると聞く。
(4) ウイスキー離れ、変化した酒の好み
 提供する飲み物(アルコール)は「ウイスキーの水割り」が主流であった。洋酒製造会社の販売競争が激化した昭和50年代に、洋酒製造会社のバックアップによって洋酒「ボトルキープ」制度が積極的に導入された。このことから、スナック・バーでは「ウイスキー」が定番であったが、焼酎やワインなど、アルコール度数の軽いものや料金の安い飲料に好みが変化した。洋酒製造会社との営業上の関係は大きくは変化していないが、仕入れ先などが多様化している。
(5) 把握困難な営業施設(店舗)数
 警察庁「警察白書」による「深夜酒類提供飲食店」については、廃業届のない転廃業が反映されていないと指摘されている。地域の社交飲食業組合の概況報告では、廃業届を提出する廃業は皆無であり、組合員の減少から廃業が進展しているとの声が聞かれる。飲食店が集積する各地の歓楽街においても、スナックビルと称される雑居ビルは空き店舗が多く、中にはビル全体が空室となっているケースも見られる。スナック・バーの施設数は把握困難といえる。
(6) 加速するスナック・バー離れ
 スナック・バー離れの要因として、カラオケボックスとの競合は否定できない。しかも、若年層では軽度数のアルコール飲料へシフトし、中高年にあっても健康志向が進みアルコール消費が減少している。スナック・バーは酒(アルコール)の提供が主体であって主食となる食物や料理の提供が乏しいことから、顧客ニーズの変化による構造的な「客数の減少」要因が見られる。

3 「食品衛生法」による規制

 飲食、食品に関する営業については、営業施設の衛生水準の維持・向上を図るため、「食品衛生法」が昭和22年12月法律施行されている。
(1) 「食品衛生法」の目的
 「食品の安全性の確保のために、公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ること」を目的としている。
主な食品営業の他、食品、添加物、器具、容器包装等を対象に、飲食に関する衛生について規定している。
(2) 営業許可
   「スナック・バー」を営業するためには、都道府県知事(保健所設置市又は特別区にあっては、市長又は区長)に届出し、許可を受ける必要がある。また、その営業施設は、都道府県条例に定める設置基準に合致していなければならない。
営業許可の有効期限は5年以内であり、継続して営業するためには更新が必要である。なお、都道府県等の条例により、施設の堅牢性、耐久性が優れている場合や食品衛生上良好と判断される施設については、条件によって更に長期の有効期限となっている。名古屋市の場合、実地審査により5〜8年の有効期限が決定される。
(3) 食品衛生責任者の設置
 「スナック・バー」の営業にあっては、都道府県知事の定める設置基準に準拠して「食品衛生責任者」を置かなければならない。
(4) 提供する食品に対する規制
 食品保健行政の見地から、提供する食品等について規格基準等が設けられ、違反する食品等の販売などは禁止されている。
規格基準の設定
 添加物、残留農薬、遺伝子組換え食品や器具、容器包装等については、夫々規格基準が定められており、適応していない食品の販売は禁止されている。
表示基準の設定
 アレルギー食品材料、遺伝子組換え食品等のついては、夫々表示基準が定められており、適応していない食品の販売は禁止されている。
添加物の指定
 食品添加物については、成分規格、保存基準、製造基準、使用基準が指定されており、適応しない添加物の使用等は禁止されている。
(5) 食品衛生監視員による監視指導
 都道府県等の保健所には、食品衛生の専門知識を有する「食品衛生監視員」が配置されており、営業施設に対する監視、指導を行っている。

4 「食品衛生法」以外の法的規制等

 「スナック・バー」を営業するには「食品衛生法」の他、関連する法規の規制を受けることになり、様々な制約要件の中で営業することが求められる。
(1) 「食品衛生士」資格の取得
 「主食に相当する」料理の提供が要件であることから、営業に際し「調理師」「栄養士」の資格を有する者が従事しない場合、所轄の保健所が実施する講習を受講して「食品衛生士」資格を取得する必要がある。
(2) 風俗営業許可
   「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(風適法)に該当する営業を兼業する場合、都道府県公安委員会(所轄の警察署)に申請して、場所、構造設備、人的基準に準拠して「風俗営業に関する営業許可」を受けなければならない。ただし、原則として午前零時を過ぎて営業はできない。
(3) 深夜営業の届出
 午前0時を過ぎて日の出までの間の営業を行う場合、風適法の「深夜酒類提供飲食店」に該当することから、都道府県公安委員会(所轄の警察署)に届出する必要がある。なお、この営業を廃する場合、同公安委員会に廃業届を提出しなければならない。
(4) 改正道路交通法による飲酒運転罰則強化
 平成14年の道路交通法改正により、飲酒運転に関して大幅な規制と罰則強化が施行されたものの依然として改善が進まず、平成19年9月施行により「飲酒運転周辺者に対する罰則の整備」が行われている。飲酒者が運転する車両に同乗した者に対する「同乗罪」が適用され、車両の提供者や運転を依頼した同乗者、更には「酒類提供者」に対しても行政処分の対象となっている。酒類提供者の罰則では、運転者が酒酔い運転の場合、3年以下の懲役叉は50万円以下の罰金が科せられる。酒気帯び運転にあっても、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金が科される。
(5) 著作権利用契約の締結
 営業に際し「カラオケ」を客に提供する場合、日本音楽著作権協会(JASRAC)との間で利用契約を締結する必要がある。原則として、年間契約を締結し、月単位で著作権料を支払う義務を負う。スナック・バーの場合、営業面積に応じて3段階に利用料金が設定されており、締結後は「JASRAC契約店」のステッカーが交付される。

5 社交業(スナック・バー)の業界よもやま

(1) 昭和39年、「スナック・バー」誕生
   バーやキャバレーなどの風俗営業は、昭和39年の都道府県条例改正により、24時を超える深夜営業が不能となった。この条例改正を契機として深夜営業の可能な「スナック・バー」が誕生することになる。昭和50年台初め、サラリーマンを中心に、2次会需要の定番として親しまれるようになり、スナック・バー営業への賃貸を目的とする雑居ビルの建設ラッシュが出現した。以降、カラオケ施設を導入するなど全盛期を迎えるが、バブル崩壊など景気変動に伴い、法人の経費削減や顧客ニーズの変化によって需要が後退していく。
(2) 家計支出の「飲酒代」は下降線
   総務省「家計調査年報」による世帯当たりの年間「飲酒代」支出は、平成15年16,851円、16年17,605円、17年17,512円、18年16,664円と推移し、平成5〜11年頃の19,000円台に比べて減少している。「食が主、飲が従」への嗜好の変化が窺える。
(3) 経営のポイント
 バブル崩壊など激しい景気変動によって法人需要が冷え込む中、飲食に関する顧客ニーズの変化や大手居酒屋チェーンの台頭等もあり、経営環境は厳しさを増している。地方都市の経済環境の変動も著しく、顧客ニーズの変化や多様化は構造的な要素を持っており、対応に苦慮するところである。
やや時間の経過した調査であるが、東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」平成11年度において、スナック・バーに対する消費者の意識調査を実施している。
顧客の「どんなイメージを持つか」を直視
   男性では「初めての店に入りづらい」36%、「料金基準が不明確」31%、女性では「初めての店は入りづらい」49%、「一人で入るには不安」44%、「料金基準が不明確」36%となる。顧客の持つ意識を直視することが重要であろう。
閉鎖性の打破
 上記「イメージ」に表れている通り、店舗の構造面においても閉鎖性が強い。経営者側でも「口コミの新規客は歓迎するが、一見客は歓迎しない」といった意識はなかったろうか。店作りや経営者自身の閉鎖性の打破が必要である。
立地環境の整備
 上記調査で顧客が求めるものは、「気軽さ」「安心感」「明るさ」が上位を占める。一部の歓楽街等には、地元住民が出入りしない状況になっているところもあるという。立地環境の整備は必須であり、浄化運動も含めて、業界全体で取り組む課題であろう。



資料

    1 総務省「事業所・企業統計調査」

    2 総務省「家計調査年報」

    3 警察庁「警察白書」

    4 厚生労働省「衛生行政報告例」

    5 全国生活衛生営業指導センター「生活衛生関係営業ハンドブック2008」

    6 東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」平成11年度

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