スナック・バー-1998年
1 概況
1998年

(1) 女性経営者を多く生み出す
  スナック・バーとは、一般的に「スナック」と呼ばれる飲食店を指し、男女、年齢を問わず、気の合う者同士やグル−プでくつろぎ、談話などのために、また送別 会などの2次会などに気軽に利用する洋風飲食店である。飲物は水割り主体で乾きのつまみや簡単な調理品を提供し、大半の店にカラオケセットがある。経営者は女性が圧倒的に多い。スナック・バーの歴史は浅く、昭和39年に施行された都道府県条例により、バ−やキャバレ−などの風俗営業は深夜に営業ができなくなり、そこで新たに深夜にアルコ−ル飲料を提供しても法律に抵触しないスナック・バーが誕生した。今日では通 称「スナック」として幅広い層に親しまれとくに2次会の流れの場としてカラオケブ−ムを巻き起こし、女性客を数多く飲食店に足を運ばせるきっかけをつくった。
 また、女性経営者を多く生み出すなど、女性の社会進出に貢献している。相次ぐ新規参入に伴い、スナック・バーへの賃貸店舗としての飲食ビルが、大都会のみならず地方都市にまで出現するなど、かつては建設投資の誘因ともなった時代もあった。

(2) 店舗数は平成5年をピ−クに微減
  スナック・バーの店舗数そのものだけを示す統計調査は行われていない。深夜飲食店数の大半がスナック・バーに該当すると思われるので、参考までに「警察白書」に掲載されている深夜飲食店数で推移をみてみよう。



深夜営業飲食店数の推移


昭和 
63年
平成 
元年
2年 3年 4年
店 数 261,388 267,247 271,555 274,424 275,203

5年 6年 7年 8年 9年
店 数 275,672 274,206 272,934 272,631 272,100

資料:警察庁「警察白書」



 深夜営業飲食店数は昭和63年以降増加しているものの増加率は年々低下し、平成5年の27万5千店をピ−クにゆるやかに減少しており、9年には前年比0.2%減の27万2千店になっている。これらの店の大半が小規模経営である。

(3) 「スナック・バ−、パブ、飲み屋」への飲食目的の参加人口は減少
    スナック・バ−の需要面の推移を「レジャー白書’98」〔(財)余暇開発センタ−〕の「スナック・バ−、パブ、飲み屋」への飲食を目的とした参加人口の推移をみると、平成3年の4,480万人をピ−クに減少しはじめ、9年の4,260万人まで傾向的に後退し、この6年間で5%減となった。娯楽部門の中で「スナック・バ−、パブ、飲み屋」への参加率(注)は、1位 の外食(67.4%)、2位のカラオケ(52.7 %)に次いで3位(39.8%)である。
 これを男女別でみると、男性の51.7%に対して女性は28.5%と差が大きい。男性の中では、30代(63.6%)、40代(64.4%)の参加率が突出して高く、女性の中では20代が50.2%と2位 の40代の36.4%を引き離して高いのが目立つ。
 男女合わせた年間平均活動回数は15.4回、年間平均支出額は77,500円となり、1回当たりの平均支出額は5,030円である。
 また、余暇活動として、将来のどの業種に食べる、あるいは行動するなどの目的で参加したいかの意向を尋ねた参加希望率では、外食が2位 で58.3%に対して「スナック・バ−、パブ、飲み屋」は17位で27.5%と、9年の参加率実績の39.8%に比べて12.3ポイントも低下しているだけに、今後のスナック・バ−を巡る経営環境はますます厳しくなることが予想される。
 
(注) 参加率= ある余暇活動を1年間に1回以上参加したと回答した人数 ×100÷ 回答総数

2 食品衛生法で見るスナック・バーの法的規制


(1) 若者の「スナック」離れ
  スナック・バーは夜の社交場として長年世代を超えた支持を受けてきたが、カラオケボックスとの競合、余暇の活用・レジャーの多様化、さらに、俗にいわれる新人類の登場による「会社重視」から「自分重視」への価値観の変化により、若者・青年層における「スナック」離れが進んでいる。また、最近では長引く不況のせいか飲食に対しても値ごろ感が浸透し、水割りと乾きのつまみによるスナック・バーの料金が、低料金の居酒屋等で感じる満足度に比べ、相対的に割高に感じるようになったことや、カラオケボックッスが過当競争から料金を下げていることなども、スナック・バーへの足を遠のかせる原因の一つとなっている。
 この状況からみて、水割りと乾きのつまによる無味乾燥なメニュ−、ただ単に若い女性従業員の存在アピ−ルを打ち出しているだけの店、カラオケだけに依存するなどの旧態依然とした店は時代に取り残されかねない。世の中の変化を確実にとらえ、顧客ニーズに合致した特徴のある経営形態への変更や、「スナック・バ−」の新たな魅力づくりに、取り組んでいくことが必要となってきている。
(2) カラオケボックスの飲食提供による競合激化
  カラオケ時代を築きあげたのはスナック・バ−によるカラオケの普及であったが、カラオケだけを専門化した「カラオケボックス」の登場により、スナック・バ−からカラオケ需要の分離が進んでいった。さらに、最近では施設数の増加でカラオケ市場が飽和状態となり、また需要面 ではカラオケ熱が冷え込んできているため、カラオケ個室での飲食の提供を積極的に行い、顧客を誘引する「飲食提供型カラオケボックス」が増えている。
 「カラオケボックス」の飲食売上の割合を「カラオケビジネス」編集部のアンケート調査(レジャー産業資料 96年3月)で見ると、売上に占める飲食売上の割合が30〜40%に及んでいる店舗が41.2%を占めている。また、飲食売上の割合が40%以上の店舗も26.6%もあり、飲食の提供を重視している傾向がうかがわれる。「スナック・バー」の経営にとっては、カラオケ需要の面 だけなく提供する飲食の質・量の双方の差による新たな競争時代を迎えている。

3 スナック・バーの許認可


(1) 時代の変化に対応した経営の革新
  バブル崩壊以降、スナック需要の冷え込みによる同業者間との競争激化に加えて、最近では居酒屋、カラオケボックスなどの異業態との競争も強まるなど、経営環境が急変しているため、旧態依然とした経営から脱皮することが強く望まれる。ここ2〜3年、顧客数の減少から、休業や廃業に追い込まれる個別 事例が少なくなく、また新規開業もかつてのような勢いがみられない。とくに、産業構造の変化への対応が遅れ、地域の経済力が著しく後退している地方都市で、この傾向が強まっている。
 このように、スナック・バ−は、いま大きな曲がり角に直面しており、業界はもちろん個別 店においても、こぞって新しい方向性を視野に入れた対策を具体化すべき時代を迎えている。

(2) 画一的な店舗、特徴のない経営では乗り切れない時代の波
  スナック・バ−の店舗は、どの店を見ても一枚ドア−で閉ざされており、窓ガラスもなく店舗内部が外部とまったく遮断されている密室形式であるため、知らない店には内部の雰囲気や料金などの不安が先立ち、気軽に入れないなどの見方が多い。
 また、経営に対しての不平不満も多い。「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成6年度)」〔(財)東京都環境衛生営業指導センター〕のアンケ−ト回答者の意見欄の中に料金、イメ−ジなどの雰囲気、メニュ−などの料理面 、応対・マナ−等のサ−ビス、カラオケ、衛生面などの設備等経営全般 にわたる不平不満が多く寄せられている。とくに料金と料理に対して、次のような手厳しい指摘がなされているのが注目される。料金については「料金表がないため不安」「料金の基準が分からない」「同じ飲食内容でも料金がその日によって異なる」「大衆飲食店のように飲食した料金のみを請求して欲しい」など、料金の基準不明瞭の指摘が多い。また、料理面 では「工夫がない」「つまみが充実していない」「いつも同じつまみで飽きる」などのほか、「頼まないものが出てきたりして、騙されているようだ」とか「料理らしい料理なしでは接待に使えない」などの意見もある。他の飲食店が内部が見える店舗形態の導入や、大衆飲食店ではメニュ−の価格表を明示し明朗会計に改善しているだけに、スナック・バ−の時代錯誤の経営が一層目に付くらしい。今後生き残るためには、店舗形式をはじめ、経営全般 にわたる大改革を最優先すべき「厳冬の時代」にあることを、十二分に認識すべきである。

(3) なじみ客の条件は明朗会計と良好な雰囲気
  スナック・バ−が固定客を確保することは経営存続上、極めて重要な条件である。「なじみの店」の有無〔「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成6年度」)〕については、「有」と回答した割合は全体で34.1%だが、男性の60.0%に対して女性は22.0%と約3分の1に過ぎず流動的である。「なじみの店」の条件として上位 を占めるのは「明朗会計である」(51.5%)、「客層や全体の雰囲気がよい」(45.8%)、「従業員の接客マナーがよい」(28.1%)などである。これを男女別 でみると、女性客は男性客に比べて、「従業員の接客マナー」や「雰囲気」にこだわりをもつものが多い。これからみても、それぞれの経営者が明朗会計や店内の雰囲気などのよい面 を、いかに未利用者に認知させることが重要かを示唆している。

(4) 対応策の主題は、お客が求める「くつろぎ」と「大衆性」
  先の「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成6年度)」のアンケ−ト調査の結果 によると、スナック・バ−に行くのは「くつろぎたい(話す、歌う)とき」が圧倒的に多く、そこで行くとなると「大衆性のあるところ」が1位 となっている。これらからみて、経営のあり方としては、基本的にはくつろぎの雰囲気をもった大衆的な店づくりを根底に置くべきであろう。それには「ゆとりとくつろぎ」の空間創出に力を注ぎ、定期的な店舗の改装による清潔感の保持、ゆったりとした客席と室内照明の色調の工夫による「安らぎの得られる店舗づくり」により顧客サービスの向上に努めることが大切な要素となってきている。

(5) 開拓の余地が残されている女性市場
  同資料により「スナック・バ−」の利用状況をみると、男性に比べて女性の利用頻度は低い。男性ではもっとも多いのは週1〜2回(22.4%)、次いで月2〜3回(20.0%)、さらに2〜3カ月に1回位 (17.1%)という順になっている。とくに、40代では週1〜2回が36.8%で他の年齢層に比べて突出している。
 女性では「利用なし」がもっとも多くて32.1%と男性の10.6%をかなり上回り、次が2〜3カ月に1回位 (21.3%)、さらに月に1回位(15.9%)となっており、女性の頻度は平均してみれば、半年に1回位 である。これからみれば、女性の需要はまだ未開拓の分野であり、今後、女性の市場開拓の余地が残されている。ただし、女性は男性に比べて「飲みたいとき」よりは「くつろぎたい(話す、歌う)とき」を望み、また「店構えや料理に手作り感があり、こじんまりしている店」を好む傾向が強く、料理や店内の雰囲気についての要望が高いので、きめ細かな対応が必要であろう。

(6) 顧客ニーズの変化を的確にとらえた価格・サービスの提供
  バブル崩壊以降、社用族依存の経営から脱皮を図る店が多い。会社の接待客から中年サラリーマンへの客層の転換を図るため、ボトルキープ制から飲み放題・時間制へ変更するなど、平均的サラリーマンが簡単に気安く利用できる料金システムを導入し、低料金・明朗会計でリピート顧客の開拓を図っているケースが見受けられる。個人的に利用する場合の手ごろな予算については、「5,000円以下」と答えたものが男性61.6%に対し、女性は73.4%と10ポイント以上多くなっている。「スナック・バ−」全盛時代の料金システムを継続していたのでは、「スナックは高い割につまらない」という割高感が強まっているだけに、固定客を引き止めるのにも無理があることを認識すべきであろう。

(7) 従業員教育の充実
  「スナック」の経営は、女性従業員の「質」いかんで売上が左右されるといわれているように、人当たりがよく話題が豊富で対話上手の人材の確保が経営にとって大きな影響力をもっている。
 また、「成熟化」しつつある市場を考慮に入れると、人材の効率的活用によるサービスの提供に目を向ける必要もあり、とりわけ従業員教育は重要な要素となってきている。具体的には、(a)学生アルバイトを中心に調理・接客両面 の教育を行い少数精鋭で効率的な接客サービスを行っていく、(b)女性の特質を考慮した従業員教育の工夫を行う、たとえばマンツーマンによる指導の実施、よい点を誉め意欲をもたせる、さりげなく悪い点をアドバイスする、力量 に応じたノルマの設定など、創意工夫をした取り組みが求められている。

4 スナック・バーの特性


(1) 珍酒・珍味で顧客ニーズに応える
  店周にビジネスホテルが増加し、A店は出張等の利用客が多くなった。夫婦を中心にした小じんまりとした店であるが、スナックの定番化した飲食メニューにこだわらず、地元のお酒やオーナーのバーテンダーとしてのキャリアを活かした珍しいカクテルを提供し、チャームにも地元でとれる山海の珍味をおりまぜながら月毎に違うメニュ−を提供し、店の第一印象を大切にした経営を行っている。
 また、カラオケを置かず、静かに会話を楽しめる雰囲気の店舗としたことから口コミで女性のフリー客も増加傾向にあり、見知らぬ 顧客同士の会話も弾むアットホームな店として、ファンの根強い支持を受け発展を遂げている。

(2) 「頑固」を売り物にし経営の差別化を図る
  通常スナックは、定期改装・リニューアルという宿命を背負っているものだがB店の経営戦略は、常識の裏側をいく発想である。店内の内装は18年間一度も変えず、顧客の郷愁を誘う店づくりを心掛け、他店との差別 化を図っている。
 顧客サービスも「ニコッと笑ってしっかりいただく」ではなく、「カラオケ」をサービスの目玉 商品にし、一点豪華の重点投資を行い、顧客自身が十分に歌うことの楽しさを満喫できる店にするとともに、「歌わないお客は帰って下さい」をキャッチフレーズに顧客の印象に残る店づくりを心掛けている。
    資料
    1. 総務庁「事業所統計調査」
    2. 総務庁「家計調査年報」
    3. (財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」(平成6年度)」
    4. (財)全国環境衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
    5. 金融財政事情「企業審査事典」
    6. 警察庁「警察白書」
    7. (財)余暇開発センタ−「レジャー白書’98」
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