スナック・バー-2005年
1 概況
2005年
(1) 通称「スナック」、画一的な閉鎖型の店舗が主流
  スナック・バーとは、一般的に「スナック」と呼ばれる。店舗は画一的な形式で、どの都市のスナックを見ても、ほぼ同じタイプの店舗が多い。入り口は1枚ドアーで閉ざされ、内部が見えない閉鎖型店舗が多い。店の規模はカウンターだけの小規模なものと、カウンターのほかにボックス席を設け、グループでも使えるよう客席数が多い規模大のものとに2分される。小規模な店舗は、カウンター形式の収容人員10人程度の店舗が主流を占めている。
(2) 客層は大半がなじみ客
 客層は大半がなじみ客であり、閉鎖型で店内の様子が覗けないので、新規顧客の確保は困難である。雰囲気的には、仲間内との談話、カウンター内にいる女性との会話のほかに、カラオケによるくつろぎの場として、また、送別 会などの2次会などグループでも気軽に利用できる場でもあり、多面 的に活用できる便利性を備えている。客層は男女、年齢を問わず、気の合う者同士やグループが多い。ただし、ボックス席がある店舗では、ボックス席に雇用している女性を客と同伴させる場合は、社交業の営業許可をもっていなければならない。
 飲みものは、洋酒、ビール、焼酎、日本酒、ワインなどを提供、食べ物は乾きのつまみ、簡単な調理品、軽食などを提供する大衆的な洋風飲食店である。スナック・バーの多くは、ボトルキープ方式で、カラオケセットを備えている。
(3) 多い自己雇用型の経営者、カラオケブーム生みの親
 スナック・バーの歴史は浅く、昭和39年に施行された都道府県条例により、バーやキャバレーなどの風俗営業は深夜に営業ができなくなり、そこで新たに深夜にアルコール飲料を提供しても法律に抵触しないスナック・バーが誕生した。
 スナック・バーは、客席が10人程度の小さい規模の店舗なら少ない資本で十分に開業できる。また、酒類に関する特別 な知識や高度な調理技術、業務知識は不要であり、未経験でも経営ができるため、経営者は自己雇用型の女性が圧倒的に多い。
 昭和50年代初めころから、通称「スナック」として幅広い層に親しまれ出し、特にサラリーマンの忘年会、送別 会などの2次会の流れの定番の場として親しまれた。
 カラオケブームを巻き起こしたのはスナックであり、また、女性客を数多く飲食店に足を運ばせるきっかけをつくるなど、歌う文化、女性の酒類飲食文化を広めるきっかけをつくるなど、社会的な貢献を果 たしてきている。
(4) 昭和50年代以降急増、だが、ブーム後退、カラオケも下火に
  昭和50年以降、スナックブームの様相を呈した。雨後の筍のように相次ぐ新規参入に着眼し、スナック・バーへの賃貸店舗が、小型のものから大規模のスナック専門飲食ビルまで、大都会のみならず地方都市にまで出現した。大阪ミナミ地区では、スナックへの賃貸を主たる目的とする雑居ビルが林立するなど、昭和50年代前半は建設投資の誘因を果 たした時代もあった。しかし、最近は新業態との競争で劣勢に立たされ、カラオケもカラオケボックスの出現で客層を奪われるなど、一時ほどの勢いがなくなり、スナックブームは過去のものになってしまっている。
(5) 新たな競争相手の出現
  最近では、大阪では北新地もミナミも経営形態がラウンジと呼ばれる業態への新規参入やスナックからラウンジへの転業が増えている。ラウンジは、スナックと同じ10坪前後の店舗で、カウンター内に数人のアルバイトの女性を配置し、その中から接客させる業態である。華麗さを売り物に料金は割高でも人気があり、スナックの顧客がシフトしている傾向があるという。

2 食品衛生法で見るスナック・バーの法的規制

(1)
食品衛生法の目的
  飲食食品関係の業種については、営業施設の衛生水準を維持・向上させるため、食品衛生法が適用される。もちろん、スナック・バーは、食品衛生法の適用業種である。食品衛生法は、昭和22年12月施行であり、戦後いち早く、食品の安全性確保のための公衆衛生の見地から、清潔で衛生的に営業を行うために、必要な規制、その他の措置を講ずることを目的に策定された。また、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、それによって国民の健康の保護を図ることも、その目的に含まれている。
(2)
営業許可
  スナック・バーを開業するのには、都道府県知事(保健所設置市または特別 区にあっては、市長または区長)に開業の届出をし、許可を得なければならない。その場合、営業施設は、都道府県が定めた施設基準に合致していなければならない。営業許可の有効期限は5年であり、営業を継続する場合は、刑業営業許可の更新をしなければならない。また、都道府県知事が定める基準により、食品衛生責任者を置くことが義務付けられている。
(3)
提供する商品に対する規制
 食品保健行政の一貫として、食品、添加物、器具および容器包装について規制が設けられている。スナック・バーに関係のある規制については以下のとおりである。
 規格基準の設定
 添加物、残留農薬、遺伝子組換え食品や器具、容器包装等については、規格基準に違反した食品等の販売などは禁止されている。
 表示基準の設定
 アレルギー食品材料、遺伝子組換え食品など、表示基準に違反した食品等の販売等が禁止されている。
 添加物の指定
 成分規格、保存基準、製造基準、使用基準に適応していない添加物の使用等の禁止
(4)
監視指導
  都道府県等の保健所には、食品衛生に関する専門知識を有する食品衛生監視員が配置されており営業施設に対し監視、指導を行っている。

3 スナック・バーの許認可

 スナック・バーは、次に示すように関連法規が他の生活営業関係業種に比べ多い。
(1)  新規に開業するには、都道府県知事(保健所設置市または特別区にあっては、市長または区長)の営業許可を得なければならない。
(2)  調理師や栄養士の資格を持った人がいない場合、保健所が行う12日間の講習を受けて、食品衛生士の資格を取得しなければならない。
(3)  風俗営業を兼業する場合は、所轄の警察署防犯課に申請し、風俗営業許可の交付を受けなければならない。
(4)  午前零時から日の出時までに営業を行う場合、公安委員会に「深夜における飲食店営業等」に関する届け出をしなければならない。ただし、風俗法許可店は除く。
(5)  カラオケを使用する場合は、日本音楽著作権協会(JASRAC)と利用契約を結び、著作権料を支払わなければならない。支払のない場合は著作権侵害知して訴えられる。原則として年間契約を結び、月単位 で支払う。スナック・バーの場合、使用料は客席面積で3段階に区分されている。利用許諾契約を締結している許諾店である場合、店舗の入り口に貼付する「JASRAC契約店」のステッカーが交付される。

4 スナック・バーの特性

(1) 新規参入、撤退が多く、経営基盤は脆弱
 開業資金が少額でかつ経営者1人でも経営が可能であり、サービスは経営者の属人的な性格に大きく依存するため、最小規模単位 の経営が可能である。このため、新規参入も多いが、些少の原因で廃業してしまうケースが多い。多くは生業的な経営に終始している。
(2) スナッ・バー独特の「居抜き」の慣習が、新陳代謝を加速
 スナック・バー業界には、新旧経営者の店舗の保証金売買の方法に、「居抜き」が多く使われる慣習がある。つまり、前の経営者から新規に開業するものが設備をそのまま引き取り営業を再開する方法である。つまり、権利譲渡による転売を「居抜き」とスナッ・バー業界では呼んでいる。スナック・バーの権利譲渡が業界の慣習になっているので、廃業がしやすく、また新規開業するにしても、ほとんど手を加えないで開業できる利便性が、新陳代謝を加速する要因になっている。
(3) 経営の良否は、通称「ママ」と呼ばれる経営者のキャラクター次第
 設備、飲み物による同業者との差別化には限界があり、顧客の確保は、店主であるママやマスターのキャラクターによる人的なサービスが、固定客確保の決定的な要因となる。それだけに、経営者の個人的魅力の発揮により、なじみ客作りのためのコミュニケーションをいかに図るかが、経営のポイントとなってくる。
(4) ウィスキーの水割りから、焼酎のお湯割りなどに、顧客の好みがシフト
 スナック・バーが提供する飲み物は、昭和50年代以降60年ころまではウィスキー水割りが、黙って座ればすぐ出てくるのが当たり前だった。この傾向は洋酒メーカーのウィスキーの拡販競争にスナック・バーがターゲットとなり、一方、各スナックはメーカーの後押しによりボトル・キープ制を積極的に取り入れた。これが、固定客作りとリピーター確保に結びついた。一方、即金払いでなく、掛け売りを多く生み出す要因になった。しかし、60年ころを境に、スナック・バーでも焼酎割を好む顧客が増えだし、またワインなど、比較的ライトな飲料への嗜好が高まり、ウィスキー水割りは減少している。これらの動向は、家庭におけるウィスキーに対する支出金額の減少、逆に焼酎に対する支出金額の動向にほぼ一致している。

5 実態が把握困難な店舗数

(1) 深夜酒類提供飲食店数は微増
 スナック・バーの店舗数そのものだけを示す統計調査は行われていない。深夜飲食店数の大半がスナック・バーに該当するといわれているので、参考までに「警察白書」に掲載されている深夜酒類提供飲食店で推移をみてみよう。
 深夜酒類提供飲食店は、昭和63年以降増加しているものの、増加率は年々後退している。平成13年の深夜酒類提供飲食店数は27万店で、増加率は前年比0.1%増と12年の増加率と同じであり、伸び率は低いが微増状態にある。
(2) スナックの店舗数は増加か減少か、2分される見方
 現実には、飲食店集積地を夜間歩いてみたり、その周辺の他の飲食店経営者にスナック・バーの状況を聞いたりすると、明らかに空き店舗が増えていることがうかがえる。スナックが多く入っている通 称「雑居ビル」に空き店舗が多くなり供給過剰になっていること、雑居ビル内のスナックの多くが廃業したため廃虚同然となり、雑居ビルを取壊す事例が増えていることなどをみて、スナックが減少をたどりだしたと言う飲食営業関係者が多い。
 深夜酒類提供飲食店数が微増状態にあることは、以下の理由で疑問だという説もある。
 まず、第1に「警察白書」の深夜酒類提供飲食店数が、果たしてスナック・バーを主体とした統計なのか不詳、第2に、廃業届けが提出されないまま廃業しているケースが多く、統計上では、廃業していてもそのまま営業中の店として残っているのではないか等の疑問があるという。
 事実、ある都市のスナック経営者が主体に加入している社交飲食業組合にその点を尋ねたところ、廃業届けを出す経営者は、まず皆無だという。何かにつけ相談にくるスナックのママさんが、廃業の時だけは何も言ってこない人が多いとも言う。
(3) 新規参入を促進の新賃貸方式
 しかし、その半面、スナック向けの空き店舗対策として、賃貸形態の変化が若い女性の新規参入を促進している傾向があり、スナック増加の一因となっているという見方をする説もある。賃貸形態の変化の内容として、次のものがあげられる。
 従来は必ず入居保証金を預かる契約を行っていたが、最近では入居保証金を不要とし、その相当分を毎月の家賃に上乗せする。ビルオーナー、家主などが内装工事費を負担し、入居するスナック経営者を募集する。
 いずれの方法にしても、大きな特徴は創業時に多額の資金を準備しないで済み、少額の開業資金で開業できることである。この種の賃貸形式の普及により、スナックなどへの新規参入が資金負担面 で軽減され、従来型に多く見られた単なる生活のための営業を目的とした経営者と異なり、自分自身でスナックやラウンジを楽しみながら経営したいという、新しいタイプの若い経営者の創業が増えており、これらが従来型スナックの撤退を補っている傾向がある。しかし、雑居ビルの空室状況から見て、従来型スナックの減少分を上回るほど新業態のスナックやラウンジが増えているかは疑問であると言う。

6 スナック・バー業界を巡る経営環境の変化

(1) 進むスナック・バー離れ
 スナック・バーは、夜の社交場として長年世代を超えた支持を受けてきたが、カラオケボックスとの競合、余暇の活用・レジャーの多様化、さらに、俗にいわれる新人類の登場による「会社重視」から「自分重視」への価値観の変化により若者・青年層からスナック離れが始まった。しかし、近年では長引く不況により、財布の紐が固くなったサラリーマンや自営業者までもが飲食に対して値ごろ感を強めだした。水割りと乾きのつまみによるスナック・バーの料金が、低料金の居酒屋や居食屋で感じる満足度に比べ、相対的に割高に感じるようになったことから、スナック・バーへの足が遠のいているといえよう。顧客に「高い割にはつまらない」と思わせない経営を行っていくことが、今後の経営維持のカギを握っている。
(2) 「Hot Pepper」利用のクーポン利用で居酒屋へ
 最近の若者は、リクルートが無料で配布しているHot Pepper(ワタシの街をおトクにするクーポンマガジン)などのミニコミ情報誌を活用して、クーポン(割引券)が使える低料金の居酒屋や居食屋を利用する機会が増えている。従来の飲食に対する行動は、行きつけの店をつくりなじみ客になることが、一つのスティタスのように感じていた。しかし、いまや、一見で安価な明朗会計の居酒屋を選択する若者のグループが圧倒的に多く、スナックに行こうという若者は個人行動を取らざるを得ないほど、飲食に関する行動が変化している。
 ちなみに、「Hot Pepper」の"大阪・心斎橋・なんば編"の2003年12月号をみると、「食べるも、習うも、キレイになるも、ショッピングも、得する」という謳い文句を掲げ、なんとその情報誌の中に1,638枚のクーポンが掲載されている。この「Hot Pepper」は全国42エリアで発行されており、中高年には到底出来ない芸当と思うが、若者の世界では恥も外聞もなく、このクーポンを使うのが当たりまえの生活になっているという。
 しかし、これだけクーポンが若者に利用されているのに"大阪・心斎橋・なんば編"の2003年12月号には、スナックの一大集積地にかかわらずスナックの店の掲載がない。つまり、スナックは若者の世界と無縁になっているといえよう。
(3) カラオケボックスの飲食提供による競合激化
 カラオケ時代を築きあげたのはスナック・バーによるカラオケの普及であったが、カラオケだけを専門化した「カラオケボックス」の登場により、スナック・バーからカラオケ需要の分離が進んでいき、たちまち、カラオケボックスの急増を招き、カラオケ市場は飽和状態となっていった。一方、カラオケ熱が冷え込んできたため、カラオケボックスは飲食提供を行いだした。最近では、飲食メニューの拡充と大衆料金による顧客を誘引する「飲食提供型カラオケボックス」の再生でカラオケ店が再び盛り返しており、スナック・バーの顧客誘因に影を落とす原因に一層拍車をかけている。

7 経営上のポイント

(1) 景気が回復しても再び繁盛時代がこない構造に変化
 バブル崩壊以降、スナック需要の冷え込みによる同業者間での競争激化に加え、最近では大手居酒屋チェーン、カラオケボックスチェーンなどの異業態との競争も強まるなど、経営環境が急変しており、惰性による経営ではじり貧になるだけである。
 このため、旧態依然とした経営から脱皮することが強く望まれる。ここ2〜3年、顧客数の減少から、休業や廃業に追い込まれる個別 事例が少なくなく、また、新規開業も昭和50年代のような勢いがみられない。特に産業構造の変化への対応が遅れ、地域の経済力が著しく後退している地方都市では、従来、主力の顧客対象であった出先企業の従業員数が減少してきているので、スナック・バーへの対象顧客層が大きく減少し、地域ぐるみで衰退を余儀なくされている事例が少なくない。
 ある社交業組合の担当者は、日ごろから見ているスナック・バーの経営について、「この街は、大手の出先企業がどんどん引きあげている。でも、経営者には危機感の認識がない。時代の移り変わりに乗り切る行動を起こそうとしないのだから衰退は仕方ない。なんら新しいことに挑戦しないでお客がこないと嘆いているのでは、自分自身で自分の店を廃業に追い込んでいるようなもの」と、手厳しく前向きの努力をしないことを指摘していた。
 いまやスナック・バー業界は構造的な変化に直面しており、景気が回復すれば顧客がまた戻ってくるという循環型の安直な見通 しや、「そのうち、なんとかなるだろう」という成り行き任せの考え方では、衰退から廃業に追い込まれるだけである。業界の指導者はもちろん、個別 の経営者においても、こぞって新しい方向性を視野に入れた対策を具体化すべき変革の時代を迎えていることを認識し、行動を起こすべきである。
(2) 旧来の枠にとらわれない新しい経営手法への挑戦
 不思議なことにスナック・バーの経営は、ハンコで押したように各店舗も同じような経営システムで個性がなく、画一的である。経営者のキャラクターすら発揮していない店も少なくない。スナックブーム時代ならそれで通 用したが、今日では経営者に企業家としての考え方、行動力が強く望まれる。
 スナック・バーの経営は、大手居酒屋チェーン加盟店のように本部の指示どおりの経営をする必要はない。単独経営であり、経営者の独自の考え方次第で、十二分に柔軟な経営方針が貫ける。自分の店の"売り"をどこに求めるのか、その売りによって顧客満足度をいかに高めることができるのかなど、従来の固定観念にとらわれない独自の経営方法を見つけ出す行動が展開できる可能性をもっているのである。要は、それらをやるだけの意欲と行動力があるかが、繁盛するか、衰退するかの分かれ目となる。
(3) 必要な開放型経営への転換
 「あなたは、スナックにどのようなイメージをお持ちですか」のアンケートの回答(複数回答)は、次のようになっている。
 
  男性 構成比
1位 お酒を飲みに行く 53%
2位 初めての店は入りにくい 36%
3位 料金基準が不明確 31%
4位 カラオケ 29%
  女性 構成比
1位 初めての店は入りにくい 49%
2位 お酒を飲みに行く 46%
3位 不安で一人で入れない 44%
4位 料金基準が不明確 36%
資料:(財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係わる消費生活調査報告書」平成11年度
 
 特徴的なのは、居酒屋、焼き鳥屋なら1人でも飲みに行く男性が、スナックだと「初めての店は入りにくい」を2位 にあげ、女性は「初めての店は入りにくい」と「不安で一人で入れない」が大きな割合を占めていることである。
 これは、店構えに大きな原因があるといえよう。スナック・バーの店舗は、どの店を見ても一枚ドアーで閉ざされ、窓ガラスもなく店舗内部が外部とまったく遮断されている密室形式である。このため、なじみの店ならいざ知らず、知らない店には内部の雰囲気や料金などの不安が先立ち、気軽に入れないことは多く人々が経験しているはずである。
 一方、スナックの経営者側にも問題がある。東京都生活衛生営業指導センターの社交業経営の調査によると、口コミによる新規顧客は歓迎するが、一見客は歓迎しないという考え方が基本的に多いという調査結果 が出ている。もちろん、経営する側にも顧客の好みがあるだろうし、なかには歓迎できない顧客もあるのは事実であるが、商売人にしては、余りにも保守、閉鎖的な面 が強すぎるといえよう。いま、わが国では、少子高齢化が世界一のテンポで進んでいる現状からみて、必要以上に閉鎖性にこだわり固定客のみに満足していると、顧客の高齢化が確実に進み、近い将来、固定客は間違いなく減少していく。
 顧客単価の上昇が期待できない現状では、固定客の減少を補う若・中年層の新規顧客を開拓しない限り、先行きの売上げは減少してしまう。いまや、人口構成の変化に着目し、開放型経営への転換を考えるべき時代を迎えている。
(4) 求めるものは、男性は「手軽さ、気軽さ」、女性は「安心感」
 「スナック等のお店にどのような雰囲気を求めますか」のアンケートに対する回答(複数回答)をみると、次のようになっている。
 
  男性 構成比
1位 手軽さ、気軽さ 60%
2位 明るい 43%
3位 落ち着いた雰囲気 26%
4位 安心感 22%
  女性 構成比
1位 安心感 64%
2位 手軽さ、気軽さ 54%
3位 明るい 50%
4位 おしゃれな雰囲気 27%
資料:(財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係わる消費生活調査報告書」平成11年度
 
  男性、女性とも求めるものは手軽に、かつ気軽に利用できる雰囲気の構成比は大差ないが、安心感は女性は男性に比べ約3倍もあり、女性だけでも安心して入れる雰囲気の店を強く求めている。近年、中高年女性の小グル−プによる行動が多くなっているだけに、女性専用の小部屋を設けるなどの対応策が必要視される。
(5) 「水割りと乾きもので、なぜあんなに高いの?」
「スナック」等のお店にどのようなサ−ビス・施設を望まれますか」の回答(複数回答)をみると、次のようになる。


  全体 男性 女性
1位 低料金 68% 70% 66%
2位 明朗会計 55% 52% 58%
3位 おいしい料理 40% 34% 45%

資料:(財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係わる消費生活調査報告書」平成11年度
 
  3位までの順位は男女とも同じであり、特に1位「低料金」の要望は他の飲食店に比べて割高な状態では経営ができなくなるとの顧客からの警告であり、また2位 の明朗会計は“メニュ−のないのがスナック・バー”では、きちんとメニュ−を提示する大衆酒場に比べお客さんに安心感をもたれないことを物語っているといえよう。また、料理にしても、毎度おなじみの“乾き物”ばかりでは、味気ない。このアンケ−トの女性の回答の4位 は「料理だけでも楽しめる」、5位は「手作り料理」と料理への要望が強く、女性客の多い店では、経営者自身が自分の手による独自のこだわり料理の提供が生き残り策の一つとなる。
(6) 事例で見る経営の差別化
 大阪・ミナミのスナック5店の客単価を聞いたところ、A店8,000〜10,000円、B店8,000円、C店6,000円、D店5,000円、E店3,000円となっており、最高と最低では約3倍の格差がある。巷間いわれているようにスナックの客単価は、必ずしも低料金になっていない。
 この5店の中で最高単価のA店は、セット料金7,000円とし、独自の手作り小鉢類を何種類も作り、付加価値を高めて客単価を高めるよう工夫している。経営方針は家庭的な雰囲気づくりで、客層は30歳から60歳代のサラリーマン主体である。
 B店は、単価のボトルキープを中心に置き、客単価を高値に維持している。店の雰囲気を高級ムードに仕立てあげ、客層は官公庁、会社関係を取り囲んでおり、一見客、自営業者は断っている。
 C店は、ミナミの中心部で個人の固定客主体だが、風俗関係の客引が多く周辺の環境が悪化して客足が遠のいてきており、それにもかかわらず家賃が月40万円(20坪)と高いので、ミナミの他地域で低額の家賃の店舗に移転する予定である。
 D店は、特段経営面では特徴がないが、客層は情報通信の胎動で一躍業績が向上している大手情報機器メーカーや通 信関連企業などの社員が固定化しており、客層の良さを誇りにしている。
 E店は、郷土料理店の飲食の後にカラオケを楽しんでもらう趣旨で郷土料理店の隣で経営しているスナックである。水割りやウーロン杯などにスナック菓子を提供する従来型のスナックである。
 ただし、客席回転数をみると、各店とも異なる。A店0.3回転、B店0.3回転、C店0.5回転、D店0.7回転、E店0.9回転となり、単価が高額になるにつれ客席回転率は鈍化していく傾向にある。
 最近、特に経営をめぐる環境は確実に変化しており、顧客ニーズに合致した特徴のある経営形態への変更や、スナックの新たな魅力づくりに取り組んでいくことが、生き残り策として極めて必要となってきている。
 他の飲食店が、内部が見える店舗形態の導入や、大衆飲食店ではメニューの価格表を明示し明朗会計に改善しているだけに、スナックの時代錯誤の経営が一層目に付くといえる。今後生き残るためには、店舗形式をはじめ、経営全般 にわたる大改革を最優先すべき「厳冬の時代」にあることを、十二分に認識すべきである。
(7) 多い不満等、でも改善が遅遅として進まないのはなぜ?
 前記のアンケートに記入されたスナック利用者の要望、意見、不満をみると、料金、イメージなどの雰囲気、メニューなどの料理面 、応対・マナー等のサービス、カラオケ、衛生面などの設備等経営全般 にわたる要望、意見などが多く寄せられている。最近、進出が著しい大衆飲食チェーン店などに比べ、相当劣勢にあることがうかがわれ、飲食業界において競争力が後退していることが浮き彫りにされている。
 特に料金と料理に対して、次のような手厳しい指摘がなされているのが注目される。料金については、「より安くして欲しい」「明朗会計を望む」「酒類の値段が高い」「店頭で価格がわかるようにして欲しい」など料金の基準が不明瞭の指摘が多い。また、料理面 では、「おいしい料理を用意して欲しい」「オリジナル料理を用意して欲しい」「乾き物だけでなく、いろいろな食べ物を揃えて欲しい」など、メニューに対して経営者の工夫の無さや、他の同業者との安易な横並びの経営に終始している経営態度を指摘する声が圧倒的に多い。
 どれ一つとっても、スナックの経営者にとって、耳が痛くなる指摘であるが、これはいまさら始まったことでなく、昭和50年代から指摘されている問題点であり、改善が遅遅として進んでいないことを意味する。

8 工夫している事例


(1) 企業概要
  ・ 立  地 :北九州市
  ・ 経営者 :女性
  ・ 従業者 :1名
(2) 自作の校歌のカラオケで差別化、ロケ、編集、制作すべて一人で
  スナックは、典型的な横並びの経営が多い業種である。提供する商品、サービスの内容により、他店との差別 化を図ることは至難の技である。それだけに、経営者自身が人生経験の中で培った趣味、特技、キャラクターを生かし、固定客づくりが要求される。この事例で取り上げる女性経営者は写 真撮影、ビデオ撮影に加え映像の編集で自作のカラオケ制作の高度な技術を持っている。しかし、それだけではスナック経営にほとんど役立たない。せめて、撮影した写 真を4つ切りか半切に引き伸ばし、店内に飾り、顧客との会話の材料にするのが席の山である。
 ところが、この女性経営者の目の付け所が素晴らしい。カラオケ用に自分の映像制作技術を使い「校歌」のカラオケを自分自身で編集し、自店で顧客に提供していることである。自分が卒業した効果 ほど懐かしく、昔の学生時代の思い出を甦らせてくれるものはない。
 まだある。懐メロ曲のレーザーカラオケの収集家でもある。自作の校歌のカラオケと懐メロ曲のラオケへの特化により、スナックにありがちな横並び経営から脱却し、これが、他店との差別 化に効果を発揮している。経営は「気力・体力・知力」が必要といわれるが、この事例は「知力」の重要性を教えてくれる。
(3) 校歌のカラオケは女性経営者の手作り
校歌作成の動機
  校歌作成の動機は、開店した翌年、かれこれ10年前のことになるが、同窓会帰りの顧客が生き生きした表情で校歌を歌うのを見て、手作りの校歌のカラオケを作ることを思い立ち、技術的に専門化の世界に挑戦する決心をした。
趣味のビデオ撮影を活用
  これをヒントに旅先でのビデオ撮影という趣味を生かして、校歌のカラオケ制作に乗り出した。もし、ビデオ撮影の趣味がなければ、「出身校の校歌はいくつになっても感動して歌うのだなー」程度で終わっていたかもしれない。
独学でカラオケ制作の専門分野に挑戦、ノウハウ構築
  カラオケ制作は、高度な技術を必要とする。また、校歌の歌詞に合わせた映像編集とメロディーとの調整など、豊かな感性が必要とされる。制作に時間もかかる。分厚い写 真集からの接写や現地ロケの映像などと、歌詞の流れにあったメロディーとの編集など複雑な作業工程が多いからだ。しかし、手作りの校歌のカラオケ制作に取り込んで10年のキャリアを積んでいる。いまでは、店の経営の合間に1局を1週間で完成してしまうまでに、制作技術が向上している。挑戦心と根強い忍耐心で「独自の技」、つまり、長い経験の中で、顧客の満足度を高め、また第3者が容易に真似出来ない独自のノウハウを築き上げている。
校歌のカラオケはすべて手作り、この店でなければ歌えない独自性発揮
  校歌のカラオケは、すべて手作りであり、経営者のオリジナル作品である。素材は、顧客が持ち込む校歌のカセットテープ、卒業アルバム、スナップ写 真などである。場合によっては、ビデオカメラや三脚など、重い器材を背負って現地に撮影に出かける。収録した地元の風景の映像は、校歌の歌詞に合わせ、カラオケに取り組む。現地ロケは重労働で大変だが、カラオケの映像に"ふるさと"を盛り込むことで、顧客の感動は倍増する。顧客に少しでも喜んでもらいたいという気持ちの現れである。歌詞のテロップは高年者が見やすいように、文字は大きめのゴシックにしてある。自作だからこそ、高齢者への温かい思いやりが発揮できる。顧客にとっては「青春回帰」への誘いである。
自作の校歌のカラオケは、すでに100曲余り
  校歌の選定に無駄がない。道楽と言うが趣味の世界だけで終わるのでなく、顧客に楽しんでもらわなければ、苦労も水の泡である。まず、来店する顧客に合わせ地元優先に制作している。地元客のリクエストの頻度が高いからである。福岡県下の大学と高校のほか、地元の北九州市については、小中学校の校歌や、幼稚園歌までも作成してある。すでには廃校になってしまった高校の校歌もこの店では歌うことが出来る。卒業生にとっては、最高のプレゼントかもしれない。次いで、東京、大阪の大学卒業者や転勤者のこと考え、東京6大学、関西の主な大学の校歌のカラオケも作成してある。「カラオケ校歌の宝庫」である。校歌カラオケ・カセットは、現在、映像と音声に優れているDVDに切り替え中である。
 カラオケ制作は、相応のコストがかかる。「わたしの道楽」、だからカラオケ代は無料と代金は一切とらない。キップのよさがさわやかで心地よい。
まだある「別世界」、懐メロ曲のレーザーカラオケの収集家
  この店の売り物は、別にもう一つある。懐メロ曲のレーザーカラオケは「日本映画・心の歌」511曲を始め、1000曲を越す収集を行っていることである。「知力」はこの分野でもはっきされている。並みのカラオケではないという店作りへの執念が見え隠れする。
 この分野でも、持ち前の行動力を発揮する。懐メロ愛好会の仲間や顧客から、古い全集を見た言う情報を入手すると、東京や神戸など、遠隔地の都市であっても足を運んで資料を収集し、著作権に抵触しない範囲内で編集して、新たな懐メロカラオケの追加に余念がない。売り物商品の特化により、当スナックで定期的に「なつめろ愛好会」が開かれ、同好の士が集まるようになり、平成16年秋から「童謡唱歌を唄う会」と「歌手別 特集」などがスタートしている。
 資料:全国生活衛生営業指導センター「生衛ジャーナル」2004年4月号

【トピックス】

・受動喫煙防止措置とは何か
  健康増進法が平成15年5月1日に施行され、それに伴い集客施設などの管理者は受動喫煙(他人のたばこの煙を吸和させられること)の防止が義務付けられている。健康増進法第25条の対象となる施設は「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店、その他多数の者が利用する施設を管理するものは、これらを利用する者について、受動禁煙を防止するために必要な措置を講じなければならない」と定めている。この法律の施行により、ほとんどの生活衛生関係営業者は、受動喫煙防止措置を講ずる必要性が生じている。
・受動喫煙とは何か
  健康増進法によると、受動喫煙とは「室内またはこれに順ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること」と定義している。他人のたばこの煙は「副流煙」といわれ、喫煙者が吸う「主流煙」に比べ、有害物質が何倍もの濃度で含まれていることが報告されています。非喫煙者が副流煙を吸わされることは、さまざまな病気を発症させる一つの要因となっています。特に発ガン物質ジメチルニトロソアミンが副流煙には多量 に含まれている。そこで、非喫煙者を副流煙から守るため受動喫煙防止措置を講ずる必要があるわけである。
受動喫煙防止措置の具体的方法
  受動喫煙防止措置には、大別して@施設内を全面 禁煙にする方法、A施設内を分煙する方法とがある。
@ 全面禁煙
  受動喫煙防止対策の上では、最も望ましい方法である。灰皿の処理コスト、壁紙・エアコンのフィルターの汚れの清掃など費用が不要でコスト削減になる。また、宴会場の畳や床、テーブルクロスなどの焼け焦げの防止につながる。特に、妊婦や幼児、子供連れの顧客に安心感を与え、安心して飲食が出来るなどのメリットがある。
A 完全な分煙
  禁煙エリアにたばこの煙が流れないように、喫煙席(別の部屋)を設置する。特に禁煙エリアや非喫煙者の動線上、例えばトイレに行く通 路、バイキングやフリードリンクコーナー周辺やそこへ行く通路、レジ周辺、禁煙エリアとレジや出入り口との間の通 路などに、たばこの煙が漏れたり、流れたりしないように配慮する必要がある。
・不完全な分煙は違法
 分煙が次のような場合は違法となる。
@ 禁煙エリアが指定されていても、禁煙エリアにたばこの煙が流れてくる場合(喫煙席周囲に間仕切りがないなどによる場合)
A 非喫煙者の動線上にたばこの煙が流れてくる場合
  特に注意しなければならないのは空気清浄機や分煙機が設置されていれば、受動喫煙防止対策が実施との誤解である。これらが設置されていても、たばこの煙の中の有害物質は、大半が素通 りしてしまうからである
・北海道庁の「空気もおいしいお店」の推進事業
  喫煙率が男女とも全国平均を上回る北海道では、平成14年度から飲食店に対する受動喫煙防止推進事業として「空気もおいしいお店」の推進事業を始めている。対象は政令都市である札幌市の俗北海道内にある飲食店が対象であり、認証店は平成18年6月末現在で421店に増えている。
  飲食店に対する同様の認証制度の取り組みは、全国の地方自治体でも行われ出しており、受動喫煙防止策を飲食店の経営者のみに任せるのではなく、行政の仕組みとして整備することで、小規模飲食店への浸透を促進することを狙いとしている。
  資料:国民生活金融公庫「生活衛生だより」No.135 2004年10月
資料
  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」(平成11年度)
  4. 警察庁「警察白書」
  5. 金融財政事情「企業審査事典」
  6. 国民生活金融公庫「生活関連企業の景気動向等調査」
  7. 「生活衛生関係営業ハンドブック2005年」中央法規
  8. 全国生活衛生営業指導センター「生衛ジャーナル」2004年4月号
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