スナック・バー-2001年
1 概況
2001年
(1) 自己雇用型の女性経営者を多く生み出す
    スナック・バーとは、一般的に「スナック」と呼ばれる飲食店を指し、男女、年齢を問わず、気の合う者同士やグル−プでくつろぎ、談話などのために、また送別 会などの2次会などに気軽に利用する大衆的な洋風飲食店である。飲物は水割り主体で、乾きのつまみや簡単な調理品、軽食を提供し、大半の店にカラオケセットがある。経営者は女性が圧倒的に多い。
 スナック・バーの歴史は浅く、昭和39年に施行された都道府県条例により、バ−やキャバレ−などの風俗営業は深夜に営業ができなくなり、そこで新たに深夜にアルコ−ル飲料を提供しても法律に抵触しないスナック・バーが誕生した。今日では通 称「スナック」として幅広い層に親しまれ、とくに2次会の流れの場としてカラオケブ−ムを巻き起こし、女性客を数多く飲食店に足を運ばせるきっかけをつくった。また、自己雇用型の女性経営者を多く生み出すなど、女性の社会進出に貢献している。相次ぐ新規参入で、スナック・バーへの賃貸店舗は小型のものから大規模のスナック専門飲食ビルが、大都会のみならず地方都市にまで出現するなど、かつては建設投資の誘因を果 たした時代もあった。しかし、最近は新業態との比較で劣勢に立たされ、一時ほどの勢いがなく、スナックブ−ムは過去のものになってしまっている。
(2) 店舗数は平成5年をピ−クに微減
    スナック・バーの店舗数そのものだけを示す統計調査は行われていない。深夜飲食店数の大半がスナック・バーに該当すると思われるので、参考までに「警察白書」に掲載されている深夜飲食店数で推移をみてみよう。
 深夜営業店数は昭和63年以降増加しているものの増加率は年々後退し、平成5年の27万5千店をピ−クにゆるやかに減少し、10年には前年比0.6%減の27万店になっている。これらの店の大半が小規模経営である。
(3) 「スナック・バ−、パブ、飲み屋」への飲食目的の参加人口は減少
    スナック・バ−の需要面の推移を「レジャー白書2000」〔(財)余暇開発センタ−〕の「スナック・バ−、パブ、飲み屋」への飲食を目的とした参加人口の推移をみると、平成3年の4,480万人をピ−クに減少しはじめ、11年は3,820万人となり前年に比べ3.3%減となっている。 また、余暇活動として将来どの業種で飲食するか、あるいは行動するかなどの意向を尋ねた参加希望率では、外食が2位 で59%に対して「スナック・バ−、パブ、飲み屋」は26%と少なく16位 である。これからみてスナック・バ−を巡る経営環境は、今後ますます厳しくなることが予想される。
2 最近の動向
(1) 進むスナック・バー離れ
  スナック・バーは夜の社交場として長年世代を超えた支持を受けてきたが、カラオケボックスとの競合、余暇の活用・レジャーの多様化、さらに、俗にいわれる新人類の登場による「会社重視」から「自分重視」への価値観の変化により若者・青年層からスナック離れが始まった。しかし、近年では長引く不況により、財布の紐が固くなったサラリ−マンや自営業者までもが飲食に対して値ごろ感を強めだし、水割りと乾きのつまみによるスナック・バーの料金が、低料金の居酒屋や居食屋で感じる満足度に比べ、相対的に割高に感じるようになったことから、スナック・バーへの足を遠のかせている。顧客に「高い割にはつまらない」と思わせない経営を行っていくかが、今後の経営維持のカギを握っている
(2) カラオケボックスの飲食提供による競合激化
  カラオケ時代を築きあげたのはスナック・バ−によるカラオケの普及であったが、カラオケだけを専門化した「カラオケボックス」の登場により、スナック・バ−からカラオケ需要の分離が進んでいき、たちまち、カラオケボッスの急増を招き、カラオケ市場は飽和状態となっていった。一方、需要面 ではカラオケ熱が冷え込んできたため、飲食提供を行いだした。最近では飲食メニュ−の拡充と大衆料金による顧客を誘引する「飲食提供型カラオケボックス」の再生でカラオケ店が再び盛り返しており、スナック・バーの営業後退に一層拍車をかけている。
3 経営上のポイント


(1) 景気が回復しても再び繁盛時代がこない構造変化、新たな手を打つべき
  バブル崩壊以降、スナック需要の冷え込みによる同業者間との競争激化に加え、最近では居酒屋、カラオケボックスなどの異業態との競争も強まるなど、経営環境が急変している。このため、旧態依然とした経営から脱皮することが強く望まれる。ここ2〜3年、顧客数の減少から、休業や廃業に追い込まれる個別 事例が少なくなく、また新規開業もかつてのような勢いがみられない。特に産業構造の変化への対応が遅れ、地域の経済力が著しく後退している地方都市では、従来主力の顧客対象であった出先企業の従業員数が減少してきているので、スナック・バーへの影響が大きく、地域ぐるみで衰退を余儀なくされている事例が少なくない。
 いまやスナック・バ−業界は構造的な変化に直面しており、景気が回復すれば顧客がまた戻ってくるという安直な見通 しや、「そのうち、なんとかなるだろう」という成り行き任せの考え方では、衰退から廃業に追い込まれざるをえない。業界の指導者はもちろん個別 の経営者においても、こぞって新しい方向性を視野に入れた対策を具体化すべき時代を迎えている。
(2) 女性は「安心感」に傾斜
  スナック・バ−の店舗は、どの店を見ても一枚ドア−で閉ざされ、窓ガラスもなく店舗内部が外部とまったく遮断されている密室形式であるため、なじみの店ならいざ知らず、知らない店には内部の雰囲気や料金などの不安が先立ち、気軽に入れないなどの見方が多い。
 「スナック等のお店にどのような雰囲気を求めますか」のアンケ−トに対する回答(重複回答)をみると、次のようになっている。
  男性 構成比
1位 手軽さ、気軽さ 60%
2位 明るい 43%
3位 落ち着いた雰囲気 26%
4位 安心感 22%
  女性 構成比
1位 安心感 64%
2位 手軽さ、気軽さ 54%
3位 明るい 50%
4位 おしゃれな雰囲気 27%
(財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係わる消費生活調査報告書」平成11年度
 男性、女性とも手軽に、かつ気軽に利用できる雰囲気の構成比は大差ないが、安心感は、女性は男性に比べ3倍弱もあり、女性だけでも安心して入れる雰囲気の店を強く求めている。近年、中高年女性の小グル−プによる行動が多くなっているだけに、女性専用の小部屋を設けるなどの対応策が必要視される。
(3) 要望が多い低料金と明朗会計、おいしい料理も。急がれる対応策
「スナック」等のお店にどのようなサ−ビス・施設を望まれますか」の回答(重複回答)をみると、次のようになる。
  全体 男性 女性
1位 低料金 68% 70% 66%
2位 明朗会計 55% 52% 58%
3位 おいしい料理 40% 34% 45%

資料:(財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係わる消費生活調査報告書」平成11年度

 

 3位までの順位は男女とも同じであり、特に1位「低料金」の要望は他の飲食店に比べて割高な状態では経営ができなくなるとの顧客からの警告であり、また2位 の明朗会計は"メニュ−のないのがスナック・バー"では、きちんとメニュ−を提示する大衆酒場に比べお客さんに安心感をもたれないことを物語っているといえよう。また、料理にしても、毎度おなじみの"乾き物"ばかりでは味気ない。このアンケ−トによる女性の回答の4位 は「料理だけでも楽しめる」、5位は「手作り料理」と料理への要望が強く、女性客の多い店では、経営者自身が自分の手による独自のこだわり料理の提供が生き残り策の一つとなる。
 経営をめぐる環境は確実に変化しており、顧客ニーズに合致した特徴のある経営形態への変更や、スナック・バ−の新たな魅力づくりに取り組んでいくことが、生き残り策として極めて必要となってきている。
 他の飲食店で内部が見える店舗形態の導入や、大衆飲食店ではメニュ−の価格表を明示し明朗会計に改善しているだけに、スナック・バ−の時代錯誤の経営が一層目に付くといえよう。今後生き残るためには、店舗形式をはじめ、経営全般 にわたる大改革を最優先すべき「厳冬の時代」にあることを、十二分に認識すべきである。
(4) 多い要望、意見。改善はできるところから一つずつ実行を
   前記のアンケ−トに記入されたスナック利用者の要望、意見、不満をみると、料金、イメ−ジなどの雰囲気、メニュ−などの料理面 、応対・マナ−等のサ−ビス、カラオケ、衛生面などの設備等経営全般 にわたる要望、意見などが多く寄せられている。最近、進出が著しい大衆飲食チェ−ン店などに比べ、相当劣勢にあることがうかがわれ、飲食業界において競争力が後退していることが浮き彫りにされている。
 とくに料金と料理に対して、次のような手厳しい指摘がなされているのが注目される。料金については「より安くして欲しい」「明朗会計を望む」「酒類の値段が高い」「店頭での価格がわかるようにして欲しい」など料金の基準が不明瞭の指摘が多い。また、料理面 では「おいしい料理を用意して欲しい」「オリジナル料理を用意して欲しい」「乾き物だけでなく、いろいろ揃えて欲しい」など、メニュ−に対して経営者が工夫の無さを指摘する声が多い。
 特に、最近は新興勢力の新業態店がしのぎを削って猛烈な競争を展開しており、スナック・バ−は顧客獲得面 でこの競争の渦に巻き込まれているだけに、経営者がお客さんことを思い、いかに気分よく飲み、食べてもらうかの経営姿勢を強く打ち出すことが要求されている。
(5) 従業員教育の充実
    「スナック」の経営は、女性従業員の「質」いかんで売上が左右されるといわれているように、人当たりがよく話題が豊富で対話上手の人材の確保が経営にとって大きな影響力をもっている。
 また、「成熟化」しつつある市場を考慮に入れると、人材の効率的活用によるサービスの提供に目を向ける必要もあり、とりわけ従業員教育は重要な要素となってきている。具体的には、(a)学生アルバイトを中心に調理・接客両面 の教育を行い少数精鋭で効率的な接客サービスを行っていく、(b)女性の特質を考慮した従業員教育の工夫を行う。たとえばマンツーマンによる指導の実施、よい点を誉め意欲をもたせる、さりげなく悪い点をアドバイスする、力量 に応じたノルマの設定など、創意工夫をした取り組みが求められている。

4 工夫している事例
☆ レストラン店長の経験を生かし料理で女性客を確保
  • 立地:山形市 繁華街
  • 経営者:男性
  • 従業者:2人(うちパ−ト1名)
  • 創業:昭和41年
  • 経営理念:「損して得をとれ」
  • 客席数:21席
  • 現在の稼働率:約1.6回転
  女性を主たるタ−ゲットにして顧客を確保しているが、実践をしていることは下記のとおりである。
  @ 女性顧客向けの定番品で差別化
   女性に受けるように、生地をパイ生地にしたスナック菓子感覚のピザを提供して当店の売り物にし、他店との差別 化を図る手段としている。
  A メニュ−にない料理の提供
   ただ単に乾きもので飲むだけでは飽きられてしまうので、毎日メニュ−にない料理を提供し、顧客を誘因する手段としている。顧客側も来店するごとにメニュ−にない料理が出るのを楽しみしており、固定客化に効果 をあげている。また、口コミの材料になっている。
  B パ−ティ客を積極的に開拓
   女性を対象に3〜20人位の小パ−ティを積極的に開拓。また、10〜30人用の別 室パ−ティ専用の部屋を増築、効率的な経営に寄与している。
   先の「環衛業に係る消費生活調査報告書」によると、スナックに求める雰囲気の1位 は「安心感」であるが、当店の場合、女性客主体にしているため、女性が安心して来店できる雰囲気を演出している。また、女性客のサ−ビスに対する要望では「料理だけでも楽しめる店」「手作りの料理」「おいしい料理を用意して欲しい」などが多いが、当店では、女性の料理に対するニ−ズを先取りして好評を得ている。顧客を女性主体に、料理を手作り中心に、パ−ティ室を設置の3つの差別 化手段で、回転率を高めている事例である。


資料
  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」(平成11年度)」
  4. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環境衛生関係営業の実態と今後のあり方」(社交業)
  5. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  6. 金融財政事情「企業審査事典」
  7. 警察庁「警察白書」
  8. (財)余暇開発センタ−「レジャー白書 2000」
 
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