スナック・バー-2003年
1 概況
2003年
(1) 歌う文化の向上、女性の酒類飲食への進出に貢献
 スナック・バーとは、一般的に「スナック」と呼ばれる。飲みものは、洋酒、ビ−ル、焼酎、日本酒、ワインなどを、食べ物は乾きのつまみ、簡単な調理品、軽食などを提供する大衆的な洋風飲食店を指す。スナック・バ−の多くは、ボトルキ−プ方式で、カラオケセットを備えている。客層は男女、年齢を問わず、気の合う者同士やグル−プが多い。店の規模はカウンタ−だけの小規模なものと、カウンタ−のほかにボックス席を設け、グル−プでも使えるよう客席数が多い規模大のものとに2分される。ただし、ボッスク席を設けていても営業許可は飲食業だけの店が圧倒的に多い。したがって、ボックス席に雇用している女性を、客と同伴させることは社交業の営業許可をもっていなければできない。
  雰囲気的には、仲間内との談話、カウンタ−内にいる女性との会話のほかに、カラオケによるくつろぎの場としての雰囲気をもち、また、送別 会などの2次会などグル−プでも気軽に利用できる場でもあり、多面 的に活用できる便利性を備えている。  スナック・バーの歴史は浅く、昭和39年に施行された都道府県条例により、バ−や キャバレ−などの風俗営業は深夜に営業ができなくなり、そこで新たに深夜にアルコ−ル飲料を提供しても法律に抵触しないスナック・バーが誕生した。
  スナック・バーは、少ない資本で客席が10人程度の小さい規模の店舗で十分に開業でき、酒類に関する特別 な知識や高度な調理技術、業務知識は不要であり、未経験でも経営ができるため、経営者は自己雇用型の女性が圧倒的に多い。
  昭和50年代初めころから、通称「スナック」として幅広い層に親しまれ出し、特にサラリ−マンの忘年会、送別 会などの2次会の流れの定番の場として親しまれた。カラオケブ−ムを巻き起こしたのはスナックであり、また、女性客を数多く飲食店に足を運ばせるきっかけもつくるなど、歌う文化、女性の酒類飲食文化を広めるきっかけをつくるなど、社会的な貢献を果 たしてきている。
 相次ぐ新規参入で、スナック・バーへの賃貸店舗は、小型のものから大規模のスナック専門飲食ビルまで、大都会のみならず地方都市にまで出現した。大阪ミナミ地区では、スナックへの賃貸を主たる目的とする雑居ビルが林立するなど、かつては建設投資の誘因を果 たした時代もあった。しかし、最近は新業態との競争で劣勢に立たされ、カラオケもカラオケボックスの出現で客層を奪われるなど、一時ほどの勢いがなくなり、スナックブ−ムは過去のものになってしまっている。
(2) スナック・バーの店舗数は微増?
スナック・バーの店舗数そのものだけを示す統計調査は行われていない。深夜飲食店数の大半がスナック・バーに該当するといわれているので、参考までに「警察白書」に掲載されている深夜酒類提供飲食店で推移をみてみよう。
  深夜酒類提供飲食店は、昭和63年以降増加しているものの、増加率は年々後退している。平成13年の深夜酒類提供飲食店数は27万店で、増加率は前年比0.1%増と12年の増加率と同じであり、伸び率は低いが微増状態にある。
増加か、減少か2分される見方
  現実には、飲食店集積地を夜歩いてみたり、その周辺の他の飲食店経営者にスナック・バ−の状況を聞いたりすると、明らかに空き店舗が増えていることがうかがえる。スナックが多く入っている通 称「雑居ビル」に空き店舗が多くなり供給過剰になっていること、雑居ビル内のスナックの多くが廃業したため廃虚同然となり、雑居ビルを取壊す事例が増えていることなどをみて、深夜酒類提供飲食店数が下降をたどりだしたと言う飲食営業関係者が多い。したがって、「警察白書」では深夜酒類提供飲食店数が微増状態にあることは、以下の理由で疑問だという。  まず、第1に「警察白書」の深夜酒類提供飲食店数が、果たしてスナック・バ−を主体とした統計なのか不詳、第2に、廃業届けが提出されないまま廃業しているケ−スが多く、統計上では、廃業していてもそのまま営業中の店として残っているのではないか等の疑問があるという。  事実、ある都市のスナック経営者が主体の社交飲食業組合の事務員にその点を尋ねたところ、廃業届けを出す経営者は、まず皆無といっていいだろうと述べていた。何かにつけ相談にくるスナックのママさんが、廃業の時だけは何も言ってこない人が多いという。   しかし、その半面、スナック向けの空き店舗対策として、賃貸形態の変化が若い女性の新規参入を促進している傾向があり、スナック増加の一因となっているという見方をする向きもある。賃貸形態の変化の内容として、次のものがあげられる。
(ア) 従来は必ず入居保証金を預かる契約を行っていたが、最近では入居保証金を不要とし、その相当分を毎月の家賃に上乗せする
(イ) ビルオ−ナ−、家主などが内装工事費を負担し、入居するスナック経営者を募集する
全国屈指の2大飲食店集積地をもつ大阪の動向
(ア) 北新地はスナックの組合加入者数減少、客の好みの変化も影響   北新地といえばミナミと並び、大阪の2大飲食店集積地である。北新地社交料飲支部の組合員の大半はカラオケスナックであったが、近年、カラオケボックスへの顧客のシフトや、経営者であるママの高齢化で廃業が増えているという。
 さらに、常連客である顧客も加齢が進み来店頻度が少なくなっていることも、スナック経営者の廃業を加速しているという。もともと、スナックの経営は、通 りすがりの一見客の把握がむずかしい店舗構造であり、顧客の中心は中高年の固定客主体であるので、早晩、高齢化の進捗による来店客数の減少が予想されていた。
  最近の北新地の飲食の動向は、食べながら飲む「居食屋」タイプに顧客が流れており、飲むよりも食べる飲食店への客数が増加しているという。これも、スナックの顧客減少の一因となっているらしい。また、宴会は飲食店の経営方針で2時間ぽっきりに時間を区切られているので、宴会が早い時間に終わりがちである。しかし、昨今では、スナックへの2次会に流れる傾向が少なく、そそくさと帰路につくサラリ−マンが多いらしい。この傾向も、かつては2次会定番だったスナックへの経営に大きな影響を与えているという。
(イ) ミナミは経営環境悪化もスナック減少の一因に
 一方、ミナミは地元の経済団体の情報によると、スナックが約7,000店も集積、そのうち毎年およそ1,000店が入れ替わり、経営がかなり苦しいスナックが少なくないという。廃業するスナックの多くは、法人需要への依存度が高く、会社の接待の激減が響き廃業に至る店が多いらしい。
  実際にミナミに行ってみると、スナック全盛時代の昭和50年代ころに比べ、かつて演歌で歌われ全国的に有名になった宗右衛門町や、東心斎橋などの中心地は風俗店の無料紹介所が至るところにあり、また、街角には風俗店の客引が多く立っていて、環境がかなり悪化している。以前のように、気軽に「スナックへ行こうか」という雰囲気の街並みではなくなっている。特に、女性同志でスナックに行く街の雰囲気ではない。東京・新宿歌舞伎町の風俗店街がすっぽりとミナミに移転した感じである。このような環境悪化もスナック経営に一抹の影を落としている傾向がある。
(ウ) 新たな競争相手の出現
  最近では、北新地もミナミも経営形態がラウンジと呼ばれる業態への新規参入やスナックからの転業が増えている。ラウンジは、スナックと同じ10坪前後の店舗で、カウンタ−内に数人のアルバイトの女性を配置し、その中から接客させる業態である。華麗さを売り物に料金は割高でも人気があり、スナックの顧客がシフトしている傾向があるという。
(エ) “WANTED“
  大阪府社交飲食業生活衛生同業組合では、スナックの組合加入者数が、平成14年初めころから減少しだしているという。そこで、同組合では、組合員の現状維持を図るため、“WANTED“という、あの懐かしい西部劇映画にでてくるようなチラシを配り、組合員に配布している。その内容を紹介すると「料飲店、スナック、ラウンジなどを経営のお知り合いの方に大阪府社交飲食業生活衛生同業組合への加入をお薦め下さい。ご紹介いただいたお店が入会されましたら報償金として1店舗につき5千円をお支払いします。」というものである。ただし、この会員増強のキャンペ−ンは期間限定となっている。この結果 、わずかではあるが会員が増えている。
 全国屈指の飲食店の2大集積地を抱える大阪府社交飲食業生活衛生同業組合の報償金を出してまで組合員確保という行動をみても、少なくても業者数の減少に歯止めをかけたいという情熱が感じられる。
(3) 「スナック・バ−、パブ、飲み屋」への飲食目的の参加人口は減少
  スナック・バ−の需要面の推移を「レジャー白書2003」〔(財)余暇開発センタ−〕でみると、「スナック・バ−、パブ、飲み屋」への飲食を目的とした参加人口は、14年は3,790万人で前年比5.0%減だが、減少幅は拡大傾向にある。この参加人口は、平成3年が4,480万人でピ−クであったが、その後次第に減少しはじめ、14年に至るこの11年間で690万人も減少している。
 また、余暇活動として将来どの業種で飲食するか、あるいは行動するかなどの意向を尋ねた参加希望率では、外食が2位 で構成比は66%(複数回答)に対して「スナック・バ−、パブ、飲み屋」は18位 で27%と少ない。男女別にみると、男性は12位で34%であるが、女性は20位 以内に含まれていない。これらの状況からみて、スナック・バ−を巡る経営環境は、今後ますます厳しくなることが予想される。

2 最近の動向

(1)
進むスナック・バー離れ
  スナック・バーは、夜の社交場として長年世代を超えた支持を受けてきたが、カラオケ ボックスとの競合、余暇の活用・レジャーの多様化、さらに、俗にいわれる新人類の登場による「会社重視」から「自分重視」への価値観の変化により若者・青年層からスナック離れが始まった。しかし、近年では長引く不況により、財布の紐が固くなったサラリ−マンや自営業者までもが飲食に対して値ごろ感を強めだした。水割りと乾きのつまみによるスナック・バーの料金が、低料金の居酒屋や居食屋で感じる満足度に比べ、相対的に割高に感じるようになったことから、スナック・バーへの足が遠のいているといえよう。顧客に「高い割にはつまらない」と思わせない経営を行っていくことが、今後の経営維持のカギを握っている。
(2)
「Hot Pepper」利用のク−ポン利用で居酒屋へ
  最近の若者は、リクル−トが無料で配布しているHot Pepper(ワタシの街をおトクにするク−ポンマガジン)などのミニコミ情報誌を活用して、ク−ポン(割引券)が使える低料金の居酒屋や居食屋を利用する機会が増えている。従来の飲食に対する行動は、行きつけの店をつくりなじみ客になることが、一つのスティタスのように感じていた。しかし、いまや、一見で安価な明朗会計の居酒屋を選択する若者のグル−プが圧倒的に多く、スナックに行こうという若者は個人行動を取らざるを得ないほど、飲食に関する行動が変化している。
  ちなみに、「Hot Pepper」の“大阪・心斎橋・なんば編”の2003年12月号をみると、「食べるも、習うも、キレイになるも、ショッピングも、得する」という謳い文句を掲げ、なんとその情報誌の中に1,638枚のク−ポンが掲載されている。この「Hot Pepper」は全国42エリアで発行されており、中高年には到底出来ない芸当と思うが、若者の世界では恥も外聞もなく、このク−ポンを使うのが当たりまえの生活になっているという。
 しかし、これだけク−ポンが若者に利用されているのに“大阪・心斎橋・なんば編”の2003年12月号には、スナックの一大集積地にかかわらずスナックの店の掲載がない。つまり、スナックは若者の世界と無縁になっているといえよう。
(3)
カラオケボックスの飲食提供による競合激化
  カラオケ時代を築きあげたのはスナック・バ−によるカラオケの普及であったが、カラオケだけを専門化した「カラオケボックス」の登場により、スナック・バ−からカラオケ需要の分離が進んでいき、たちまち、カラオケボッスの急増を招き、カラオケ市場は飽和状態となっていった。一方、カラオケ熱が冷え込んできたため、カラオケボックスは飲食提供を行いだした。最近では、飲食メニュ−の拡充と大衆料金による顧客を誘引する「飲食提供型カラオケボックス」の再生でカラオケ店が再び盛り返しており、スナック・バーの顧客誘因に影を落とす原因に一層拍車をかけている。

3 経営上のポイント

(1)  景気が回復しても再び繁盛時代がこない構造に変化
  バブル崩壊以降、スナック需要の冷え込みによる同業者間での競争激化に加え、最近では大手居酒屋チェ−ン、カラオケボックスチェ−ンなどの異業態との競争も強まるなど、経営環境が急変しており、惰性による経営ではじり貧になるだけである。
 このため、旧態依然とした経営から脱皮することが強く望まれる。ここ2〜3年、顧客数の減少から、休業や廃業に追い込まれる個別 事例が少なくなく、また、新規開業も昭和50年代のような勢いがみられない。特に産業構造の変化への対応が遅れ、地域の経済力が著しく後退している地方都市では、従来、主力の顧客対象であった出先企業の従業員数が減少してきているので、スナック・バーへの対象顧客層が大きく減少し、地域ぐるみで衰退を余儀なくされている事例が少なくない。
 ある地方都市の社交業組合の事務員さんは、日ごろから見ているスナック・バ−の経営について、「この街は、大手の出先企業がどんどん引きあげている。でも、経営者には危機感の認識がない。時代の移り変わりに乗り切る行動を起こそうとしないのだから衰退は仕方ない。なんら新しいことに挑戦しないでお客がこないと嘆いているのでは、自分自身で自分の店を廃業に追い込んでいるようなもの」と、手厳しく前向きの努力をしないことを指摘していた。
  いまやスナック・バ−業界は構造的な変化に直面しており、景気が回復すれば顧客がまた戻ってくるという循環型の安直な見通 しや、「そのうち、なんとかなるだろう」という成り行き任せの考え方では、衰退から廃業に追い込まれるだけである。業界の指導者はもちろん、個別 の経営者においても、こぞって新しい方向性を視野に入れた対策を具体化すべき変革の時代を迎えていることを認識し、行動を起こすべきである。
(2) 旧来の枠にとらわれない新しい経営手法への挑戦
 不思議なことにスナック・バ−の経営は、ハンコで押したように各店舗も同じような経営システムで個性がなく、画一的である。経営者のキャラクタ−すら発揮していない店も少なくない。スナックブ−ム時代ならそれで通 用したが、今日では経営者に企業としての考え方、行動力が強く望まれる。   スナック・バ−の経営は、大手居酒屋チェ−ン加盟店のように本部の指示どおりの経営をする必要はない。単独経営であり、経営者の考え方次第で十二分に柔軟な経営方針が貫ける。自分の店の“売り”をどこに求めるのか、その売りによって顧客満足度をいかに高めることができるのかなど、従来の固定観念にとらわれない独自の経営方法を見つけ出す行動が展開できる可能性をもっているのである。要は、それらをやるだけの意欲があるかどうかが、繁盛するか、衰退するかの分かれ目である。
(3) 必要な開放型経営への転換

「あなたは、スナックにどのようなイメ−ジをお持ちですか」のアンケ−トの回答(複数回答)は、次のようになっている。

 

  男性 構成比
1位 お酒を飲みに行く 53%
2位 初めての店は入りにくい 36%
3位 料金基準が不明確 31%
4位 カラオケ 29%
  女性 構成比
1位 初めての店は入りにくい 49%
2位 お酒を飲みに行く 46%
3位 不安で一人で入れない 44%
4位 料金基準が不明確 36%
資料:(財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係わる消費生活調査報告書」平成11年度

 

  特徴的なのは、居酒屋、焼き鳥屋なら1人でも飲みに行く男性が、スナックだと「初めての店は入りにくい」を2位 にあげ、女性は「初めての店は入りにくい」と「不安で一人で入れない」が大きな割合を占めていることである。
 これは、店構えに大きな原因があるといえよう。スナック・バ−の店舗は、どの店を見ても一枚ドア−で閉ざされ、窓ガラスもなく店舗内部が外部とまったく遮断されている密室形式である。このため、なじみの店ならいざ知らず、知らない店には内部の雰囲気や料金などの不安が先立ち、気軽に入れないことは多く人々が経験しているはずである。
 一方、スナックの経営者側にも問題がある。東京都生活衛生営業指導センタ−の社交業経営の調査によると、口コミによる新規顧客は歓迎するが、一見客は歓迎しないという考え方が基本的に多いという調査結果 が出ている。もちろん、経営する側にも顧客の好みがあるだろうし、なかには歓迎できない顧客もあるのは事実であるが、商売人にしては、余りにも保守、閉鎖的な面 が強すぎるといえよう。いま、わが国では、少子高齢化が世界一のテンポで進んでいる現状からみて、必要以上に閉鎖性にこだわり固定客のみに満足していると、顧客の高齢化が確実に進み、近い将来、固定客は間違いなく減少していく。
  顧客単価の上昇が期待できない現状では、固定客の減少を補う若・中年層の新規顧客を開拓しない限り、先行きの売上げは減少してしまう。いまや、人口構成の変化に着目し、開放型経営への転換を考えるべき時代を迎えている。
(4) 求めるものは、男性は「手軽さ、気軽さ」、女性は「安心感」
「スナック等のお店にどのような雰囲気を求めますか」のアンケ−トに対する回答(複数回答)をみると、次のようになっている。
  男性 構成比
1位 手軽さ、気軽さ 60%
2位 明るい 43%
3位 落ち着いた雰囲気 26%
4位 安心感 22%
  女性 構成比
1位 安心感 64%
2位 手軽さ、気軽さ 54%
3位 明るい 50%
4位 おしゃれな雰囲気 27%
資料:(財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係わる消費生活調査報告書」平成11年度
 男性、女性とも求めるものは手軽に、かつ気軽に利用できる雰囲気の構成比は大差ないが、安心感は女性は男性に比べ約3倍もあり、女性だけでも安心して入れる雰囲気の店を強く求めている。近年、中高年女性の小グル−プによる行動が多くなっているだけに、女性専用の小部屋を設けるなどの対応策が必要視される。
(5) 「水割りと乾きもので、なぜあんなに高いの?」
  「スナック」等のお店にどのようなサ−ビス・施設を望まれますか」の回答(複数回答)をみると、次のようになる。
 
  全体 男性 女性
1位 低料金 68% 70% 66%
2位 明朗会計 55% 52% 58%
3位 おいしい料理 40% 34% 45%
資料:(財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係わる消費生活調査報告書」平成11年度
   3位までの順位は男女とも同じであり、特に1位「低料金」の要望は他の飲食店に比べて割高な状態では経営ができなくなるとの顧客からの警告であり、また2位 の明朗会計は“メニュ−のないのがスナック・バー”では、きちんとメニュ−を提示する大衆酒場に比べお客さんに安心感をもたれないことを物語っているといえよう。また、料理にしても、毎度おなじみの“乾き物”ばかりでは、味気ない。このアンケ−トの女性の回答の4位 は「料理だけでも楽しめる」、5位は「手作り料理」と料理への要望が強く、女性客の多い店では、経営者自身が自分の手による独自のこだわり料理の提供が生き残り策の一つとなる。
  ちなみに、大阪・ミナミのスナック5店の客単価を聞いたところ、A店8,000〜10,000円、B店8,000円、C店6,000円、D店5、000円、E店3,000円となっており、最高と最低では約3倍の格差がある。巷間いわれているようにスナックの客単価は、必ずしも低料金になっていない。
 この5店の中で最高単価のA店は、セット料金7,000円とし、独自の手作り小鉢類を何種類も作り、付加価値を高めて客単価を高めるよう工夫している。経営方針は家庭的な雰囲気づくりで、客層は30歳から60歳代のサラリ−マン主体である。
  B店は、高単価のボトルキ−プを中心に置き、客単価を高値に維持している。店の雰囲気を高級ム−ドに仕立てあげ、客層は官公庁、会社関係を取り囲んでおり、一見客、自営業者は断っている。
  C店は、ミナミの中心部で個人の固定客主体だが、風俗関係の客引が多く周辺の環境が悪化して客足が遠のいてきており、それにもかかわらず家賃が月40万円(20坪)と高いので、ミナミの他地域で低額の家賃の店舗に移転する予定である。
  D店は、特段経営面では特徴がないが、客層は情報通信の胎動で一躍業績が向上している大手情報機器メ−カ−や通 信関連企業などの社員が固定化しており、客層の良さを 誇りにしている。
  E店は、郷土料理店の飲食の後にカラオケを楽しんでもらう趣旨で郷土料理店の隣で経営しているスナックである。水割りやウーロン杯などにスナック菓子を提供する従来型のスナックである。
  ただし、客席回転数をみると、各店とも異なる。A店0.3回転、B店0.3回転、C店0.5回転、D店0.7回転、E店0.9回転となり、単価が高額になるにつれ客席回転率は鈍化していく傾向にある。
  最近、特に経営をめぐる環境は確実に変化しており、顧客ニーズに合致した特徴のある経営形態への変更や、スナックの新たな魅力づくりに取り組んでいくことが、生き残り策として極めて必要となってきている。
  他の飲食店が、内部が見える店舗形態の導入や、大衆飲食店ではメニュ−の価格表を明示し明朗会計に改善しているだけに、スナックの時代錯誤の経営が一層目に付くといえる。今後生き残るためには、店舗形式をはじめ、経営全般 にわたる大改革を最優先すべき「厳冬の時代」にあることを、十二分に認識すべきである。
(6) 多い不満等、でも改善が遅遅として進まないのはなぜ?
 前記のアンケ−トに記入されたスナック利用者の要望、意見、不満をみると、料金、イメ−ジなどの雰囲気、メニュ−などの料理面 、応対・マナ−等のサ−ビス、カラオケ、衛生面などの設備等経営全般 にわたる要望、意見などが多く寄せられている。最近、進出が著しい大衆飲食チェ−ン店などに比べ、相当劣勢にあることがうかがわれ、飲食業界において競争力が後退していることが浮き彫りにされている。
  特に料金と料理に対して、次のような手厳しい指摘がなされているのが注目される。料金については、「より安くして欲しい」「明朗会計を望む」「酒類の値段が高い」「店頭で価格がわかるようにして欲しい」など料金の基準が不明瞭の指摘が多い。また、料理面 では、「おいしい料理を用意して欲しい」「オリジナル料理を用意して欲しい」「乾き物だけでなく、いろいろな食べ物を揃えて欲しい」など、メニュ−に対して経営者の工夫の無さや、他の同業者との安易な横並びの経営に終始している経営態度を指摘する声が圧倒的に多い。どれ一つとっても、スナックの経営者にとって、耳が痛くなる指摘であるが、これはいまさら始まったことでなく、昭和50年代から指摘されている問題点であり、改善が遅遅として進んでいないことを意味する。

4 工夫している事例

(1) 企業概要
  • 立  地 :和歌山市 商業、住宅混在地域
  • 経営者 :男性(若いころバ−テンダ−の経験あり)  
  • 従業者 :4名(うちパ−ト1名)
  • 創  業 :昭和41年
  • 経営理念:「顧客の立場にたっての経営」
(2) 工夫している内容
 スナックは、提供する商品、サ−ビスの内容がどこの店とも大きな差がないので、細かい気遣いで差別 化を図るよう工夫している。
 経営は顧客主体で考え、行動する。例えば、顧客にカラオケだけを歌わすのではなく、いろいろな話を話しかけ、楽しく気分転換できるような雰囲気づくりに配慮している。これは、店主だけでなく、従業員にも顧客との会話ができるように、常日ごろから、いろいろな情報収集に留意させている。
  質の良い従業員の確保が、同業者との差別化で極めて重要である。飲み物や食べものは、スナックではどの店もほとんど差異がない。差別 化の決定的な要因は人的資源であると思っている。最も注意しているのは、折角教育した従業員の引き抜きである。このため従業員との関係を家族的な雰囲気にし、個人的なことでも話し合えるように努力している。
  スナックで新規顧客を確保するのはむずかしい。たとえ、常連客が知り合いを連れてきても、その客が店の雰囲気に合わなければ、二度と来ない。したがって、常連の固定客は大事にしなければならないので、盆、年末年始のあいさつには必ず行くようにしている。
 新規顧客の獲得にも常に留意している。固定客のみに満足していると、いつの間に1人欠け、2人欠けと常連が少なくなっていく。常連は高齢者が多いので、今後この傾向にますます拍車がかかりそうである。そこで、多くの人が顔を出すような場所には出席するように心掛け、いろいろな人に話かけて新規顧客確保に結びつくよう努力している。また、業界の気心の許せる何人かの友人と、互いの顧客を紹介しあっている。店内の10人以上座れるボックスに団体客が入ったときは、そばに行き一言声をかけ、顧客とのなじみをつくり、次の来店に結びつけるようにしている。

 

資料
  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」(平成11年度)」
  4. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環境衛生関係営業の実態と今後のあり方」(社交業)
  5. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  6. 金融財政事情「企業審査事典」
  7. 警察庁「警察白書」
  8. (財)余暇開発センタ−「レジャー白書 2003」
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