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景気が回復しても再び繁盛時代がこない構造に変化 |
バブル崩壊以降、スナック需要の冷え込みによる同業者間での競争激化に加え、最近では大手居酒屋チェ−ン、カラオケボックスチェ−ンなどの異業態との競争も強まるなど、経営環境が急変しており、惰性による経営ではじり貧になるだけである。
このため、旧態依然とした経営から脱皮することが強く望まれる。ここ2〜3年、顧客数の減少から、休業や廃業に追い込まれる個別
事例が少なくなく、また、新規開業も昭和50年代のような勢いがみられない。特に産業構造の変化への対応が遅れ、地域の経済力が著しく後退している地方都市では、従来、主力の顧客対象であった出先企業の従業員数が減少してきているので、スナック・バーへの対象顧客層が大きく減少し、地域ぐるみで衰退を余儀なくされている事例が少なくない。
ある地方都市の社交業組合の事務員さんは、日ごろから見ているスナック・バ−の経営について、「この街は、大手の出先企業がどんどん引きあげている。でも、経営者には危機感の認識がない。時代の移り変わりに乗り切る行動を起こそうとしないのだから衰退は仕方ない。なんら新しいことに挑戦しないでお客がこないと嘆いているのでは、自分自身で自分の店を廃業に追い込んでいるようなもの」と、手厳しく前向きの努力をしないことを指摘していた。
いまやスナック・バ−業界は構造的な変化に直面しており、景気が回復すれば顧客がまた戻ってくるという循環型の安直な見通
しや、「そのうち、なんとかなるだろう」という成り行き任せの考え方では、衰退から廃業に追い込まれるだけである。業界の指導者はもちろん、個別
の経営者においても、こぞって新しい方向性を視野に入れた対策を具体化すべき変革の時代を迎えていることを認識し、行動を起こすべきである。
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(2) |
旧来の枠にとらわれない新しい経営手法への挑戦 |
不思議なことにスナック・バ−の経営は、ハンコで押したように各店舗も同じような経営システムで個性がなく、画一的である。経営者のキャラクタ−すら発揮していない店も少なくない。スナックブ−ム時代ならそれで通
用したが、今日では経営者に企業としての考え方、行動力が強く望まれる。
スナック・バ−の経営は、大手居酒屋チェ−ン加盟店のように本部の指示どおりの経営をする必要はない。単独経営であり、経営者の考え方次第で十二分に柔軟な経営方針が貫ける。自分の店の“売り”をどこに求めるのか、その売りによって顧客満足度をいかに高めることができるのかなど、従来の固定観念にとらわれない独自の経営方法を見つけ出す行動が展開できる可能性をもっているのである。要は、それらをやるだけの意欲があるかどうかが、繁盛するか、衰退するかの分かれ目である。 |
(3) |
必要な開放型経営への転換 |
「あなたは、スナックにどのようなイメ−ジをお持ちですか」のアンケ−トの回答(複数回答)は、次のようになっている。
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男性 |
構成比 |
1位
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お酒を飲みに行く |
53% |
2位
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初めての店は入りにくい |
36% |
3位
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料金基準が不明確 |
31% |
4位
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カラオケ |
29% |
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女性 |
構成比 |
1位 |
初めての店は入りにくい |
49% |
2位 |
お酒を飲みに行く |
46% |
3位 |
不安で一人で入れない |
44% |
4位 |
料金基準が不明確 |
36% |
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資料:(財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係わる消費生活調査報告書」平成11年度 |
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特徴的なのは、居酒屋、焼き鳥屋なら1人でも飲みに行く男性が、スナックだと「初めての店は入りにくい」を2位
にあげ、女性は「初めての店は入りにくい」と「不安で一人で入れない」が大きな割合を占めていることである。
これは、店構えに大きな原因があるといえよう。スナック・バ−の店舗は、どの店を見ても一枚ドア−で閉ざされ、窓ガラスもなく店舗内部が外部とまったく遮断されている密室形式である。このため、なじみの店ならいざ知らず、知らない店には内部の雰囲気や料金などの不安が先立ち、気軽に入れないことは多く人々が経験しているはずである。
一方、スナックの経営者側にも問題がある。東京都生活衛生営業指導センタ−の社交業経営の調査によると、口コミによる新規顧客は歓迎するが、一見客は歓迎しないという考え方が基本的に多いという調査結果
が出ている。もちろん、経営する側にも顧客の好みがあるだろうし、なかには歓迎できない顧客もあるのは事実であるが、商売人にしては、余りにも保守、閉鎖的な面
が強すぎるといえよう。いま、わが国では、少子高齢化が世界一のテンポで進んでいる現状からみて、必要以上に閉鎖性にこだわり固定客のみに満足していると、顧客の高齢化が確実に進み、近い将来、固定客は間違いなく減少していく。
顧客単価の上昇が期待できない現状では、固定客の減少を補う若・中年層の新規顧客を開拓しない限り、先行きの売上げは減少してしまう。いまや、人口構成の変化に着目し、開放型経営への転換を考えるべき時代を迎えている。 |
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求めるものは、男性は「手軽さ、気軽さ」、女性は「安心感」 |
「スナック等のお店にどのような雰囲気を求めますか」のアンケ−トに対する回答(複数回答)をみると、次のようになっている。 |
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男性 |
構成比 |
1位
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手軽さ、気軽さ |
60% |
2位
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明るい |
43% |
3位
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落ち着いた雰囲気 |
26% |
4位 |
安心感 |
22% |
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女性 |
構成比 |
1位
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安心感 |
64% |
2位
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手軽さ、気軽さ |
54% |
3位
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明るい |
50% |
4位 |
おしゃれな雰囲気 |
27% |
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資料:(財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係わる消費生活調査報告書」平成11年度 |
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男性、女性とも求めるものは手軽に、かつ気軽に利用できる雰囲気の構成比は大差ないが、安心感は女性は男性に比べ約3倍もあり、女性だけでも安心して入れる雰囲気の店を強く求めている。近年、中高年女性の小グル−プによる行動が多くなっているだけに、女性専用の小部屋を設けるなどの対応策が必要視される。 |
(5) |
「水割りと乾きもので、なぜあんなに高いの?」 |
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「スナック」等のお店にどのようなサ−ビス・施設を望まれますか」の回答(複数回答)をみると、次のようになる。 |
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全体 |
男性 |
女性 |
1位 |
低料金 |
68% |
70% |
66% |
2位 |
明朗会計 |
55% |
52% |
58% |
3位 |
おいしい料理 |
40% |
34% |
45% |
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資料:(財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係わる消費生活調査報告書」平成11年度 |
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3位までの順位は男女とも同じであり、特に1位「低料金」の要望は他の飲食店に比べて割高な状態では経営ができなくなるとの顧客からの警告であり、また2位
の明朗会計は“メニュ−のないのがスナック・バー”では、きちんとメニュ−を提示する大衆酒場に比べお客さんに安心感をもたれないことを物語っているといえよう。また、料理にしても、毎度おなじみの“乾き物”ばかりでは、味気ない。このアンケ−トの女性の回答の4位
は「料理だけでも楽しめる」、5位は「手作り料理」と料理への要望が強く、女性客の多い店では、経営者自身が自分の手による独自のこだわり料理の提供が生き残り策の一つとなる。
ちなみに、大阪・ミナミのスナック5店の客単価を聞いたところ、A店8,000〜10,000円、B店8,000円、C店6,000円、D店5、000円、E店3,000円となっており、最高と最低では約3倍の格差がある。巷間いわれているようにスナックの客単価は、必ずしも低料金になっていない。
この5店の中で最高単価のA店は、セット料金7,000円とし、独自の手作り小鉢類を何種類も作り、付加価値を高めて客単価を高めるよう工夫している。経営方針は家庭的な雰囲気づくりで、客層は30歳から60歳代のサラリ−マン主体である。
B店は、高単価のボトルキ−プを中心に置き、客単価を高値に維持している。店の雰囲気を高級ム−ドに仕立てあげ、客層は官公庁、会社関係を取り囲んでおり、一見客、自営業者は断っている。
C店は、ミナミの中心部で個人の固定客主体だが、風俗関係の客引が多く周辺の環境が悪化して客足が遠のいてきており、それにもかかわらず家賃が月40万円(20坪)と高いので、ミナミの他地域で低額の家賃の店舗に移転する予定である。
D店は、特段経営面では特徴がないが、客層は情報通信の胎動で一躍業績が向上している大手情報機器メ−カ−や通
信関連企業などの社員が固定化しており、客層の良さを 誇りにしている。
E店は、郷土料理店の飲食の後にカラオケを楽しんでもらう趣旨で郷土料理店の隣で経営しているスナックである。水割りやウーロン杯などにスナック菓子を提供する従来型のスナックである。
ただし、客席回転数をみると、各店とも異なる。A店0.3回転、B店0.3回転、C店0.5回転、D店0.7回転、E店0.9回転となり、単価が高額になるにつれ客席回転率は鈍化していく傾向にある。
最近、特に経営をめぐる環境は確実に変化しており、顧客ニーズに合致した特徴のある経営形態への変更や、スナックの新たな魅力づくりに取り組んでいくことが、生き残り策として極めて必要となってきている。
他の飲食店が、内部が見える店舗形態の導入や、大衆飲食店ではメニュ−の価格表を明示し明朗会計に改善しているだけに、スナックの時代錯誤の経営が一層目に付くといえる。今後生き残るためには、店舗形式をはじめ、経営全般
にわたる大改革を最優先すべき「厳冬の時代」にあることを、十二分に認識すべきである。 |
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多い不満等、でも改善が遅遅として進まないのはなぜ? |
前記のアンケ−トに記入されたスナック利用者の要望、意見、不満をみると、料金、イメ−ジなどの雰囲気、メニュ−などの料理面
、応対・マナ−等のサ−ビス、カラオケ、衛生面などの設備等経営全般
にわたる要望、意見などが多く寄せられている。最近、進出が著しい大衆飲食チェ−ン店などに比べ、相当劣勢にあることがうかがわれ、飲食業界において競争力が後退していることが浮き彫りにされている。
特に料金と料理に対して、次のような手厳しい指摘がなされているのが注目される。料金については、「より安くして欲しい」「明朗会計を望む」「酒類の値段が高い」「店頭で価格がわかるようにして欲しい」など料金の基準が不明瞭の指摘が多い。また、料理面
では、「おいしい料理を用意して欲しい」「オリジナル料理を用意して欲しい」「乾き物だけでなく、いろいろな食べ物を揃えて欲しい」など、メニュ−に対して経営者の工夫の無さや、他の同業者との安易な横並びの経営に終始している経営態度を指摘する声が圧倒的に多い。どれ一つとっても、スナックの経営者にとって、耳が痛くなる指摘であるが、これはいまさら始まったことでなく、昭和50年代から指摘されている問題点であり、改善が遅遅として進んでいないことを意味する。 |