日本料理店・料亭-2008年
1 概況
2008年
(1) 「日本料理店」及び「料亭」の定義と分類
   総務省「日本標準産業分類」においては、「日本料理店」と「料亭」は別個の分類区分にある。
*日本標準産業分類による定義
 ・日本料理店(中分類「一般飲食店」に属す)
  「主として特定の日本料理(そば、すしを除く)をその場で飲食させる事業所(主として遊興飲食させる事業所を除く)」
  例:すき焼き店、天ぷら料理店、ウナギ料理店、郷土料理店、牛丼店、とんかつ店等
 ・料亭(中分類「遊興飲食店」に属す)
  「主として日本料理を提供し客に遊興飲食させる事業所」
  例:料亭、割烹、待合
(2) 事業所数の推移
   総務省「事業所・企業統計調査」により「日本料理店」「料亭」について事業所数の推移を見ると、日本料理店は小規模層で若干の増減はあるものの事業所数全体では安定しており、料亭については減少傾向にある。料亭における経営環境の変化が伺える。
「日本料理店」と「料亭」の事業所数の推移グラフ
 
日本料理店の事業所数(従業者規模別)の推移表
 
料亭の事業所数(従業者規模別)の推移表
(3) 「飲食店営業」の施設数、営業許可、廃止取消の推移
   「日本料理店」「料亭」各々単独での施設(店舗)数の把握が存在しないことから、参考として厚生労働省「衛生行政報告例」により「飲食店営業」全体の動向を見たい。
施設(店舗)数としては減少傾向にあり、新規参入の営業許可と廃業の廃止取消が拮抗しつつ増減を繰り返していることから、参入し易い反面、撤退も著しい側面が伺える。

・「飲食店営業」の施設数、営業許可、廃止取消件数の推移

年  次

施 設 数

営業許可件数

廃止取消件数

平成17年度

1,503,459

162,322

165,614

18年度

1,496,480

163,026

170,005

19年度

1,479,218

154,278

171,540

資料:厚生労働省「衛生行政報告例」

(4) 最近の動向
知名度の高い日本料理店の大衆化路線
   首都圏の商業地、ホテルや大手百貨店などに知名度の高い日本料理店が出店して、大衆向けの需要に応じている。昼食時間帯には主婦グループの食事の場として賑わいを見せる他、家族やカップルなど幅広い客層に対応している。京都などの著名な料理店も進出して、アイドルタイムである「昼間」を有効活用するものであり、若手調理人の修行の場として機能しているという。
食事代として18%を占める「和食」への支出
 総務省「家計調査年報」により1世帯当たりの「和食」年間家計支出額を見ると、平成15年22,227円、16年21,744円、17年22,169円、18年22,901円と安定的に推移している。「食事代」支出のうち約18%を占め、「そば・うどん」「すし」「中華食」「洋食」等の他の食事代に比較して支出額は多い。
中高年世帯に多い「和食」支出
 総務省「家計調査年報」により世帯主年齢階層別の「和食」家計支出を見ると、「60歳台」が28,357円で最も多く、次いで「50歳台」「70歳以上」が20,000円を超える。「和食」への支出は中高年世帯に多く、「60歳台」では「29歳以下」の2倍に近い。

2 日本料理店・料亭の特性と現状

 前項で述べた通り、「日本料理店」と「料亭」では、産業分類上、一般飲食店と遊興飲食店に分かれ、別個の分類に存在する。しかしながら、京都の料亭や懐石料理店など、明確な区分けが困難な営業実態の存在することも現実である。
厚生労働省の委託により全国生活衛生営業指導センターが実施した「平成15年度生活衛生関係営業経営実態調査」において、「飲食店営業(一般食堂)」調査で「日本料理店」が、「飲食店営業(料理店)」調査に「料亭」の現状が掲載されているので、この結果から各々の業界の現状を探ってみたい。
(1) 経営者の高齢化
 経営者の年齢階層を見ると、「60歳台」層の割合が最も高く、60歳以上では50%を超えている。経験がものをいう業界でもあり、経営者としては高齢層にならざるを得ない。若年の経営者では何代目かの後継者であることも多い。「後継者の有無」の調査では「後継者有り」が70%を超え、他の業種に比べ「有り」の割合が高い。
(2) 1日当たり平均来店客数に差
 営業時間は「10〜12時間」が最も多く、「〜12時台」開店が50%を超えている。ただし、「夕刻からの営業」が20%あり、閉店時刻「21時以降」が多く、「夜の商い」の色合いは依然として残っている。
1日当たりの平均来店客数は、日本料理店では平均77.2人である。料亭では「50人未満」が66.6%と最も多く、来店客数は少なめである。
(3) 1人当たり平均食事単価(客単価)に差
 平均食事単価(客単価)を見ると、2つの業態に差が生まれている。和の専門店である日本料理店の平均は3,245円であり、料亭では「5,000〜10,000円未満」49.1%が最も多く、次いで「10,000〜20,000円未満」23.9%となり、合計で70%を超える。
(4) 経営上の問題点、「料亭」の第3位「法人利用の減少」
 経営上の問題点(複数回答)では、「客数の減少」が80%を超え、次いで「客単価の減少」が高率である。第3位は日本料理店で「諸経費の上昇」23.1%であるが、料亭では「法人利用の減少」61.1%となる。料亭の経営においては、法人企業の「接待需要」が大きなウエイトを占めてきたことが伺える。
(5) サービス等の内容、「高齢者等のメニューに工夫」に意識
 サービス等の内容を見ると、飲食店営業(一般食堂)全体では「高齢者等のメニューに工夫」が39.4%と最も多く、次いで「割引等価格サービス」34.5%となる。料亭や割烹では「高齢者等のメニューに工夫」が40%を超えて多いが、日本料理店では「割引等価格サービス」が49%で最も多い。業態によって、若干意識の差は見られる。

3 「食品衛生法」による規制

 飲食、食品に関する営業については、営業施設の衛生水準の維持・向上を図るため、「食品衛生法」が昭和22年12月法律施行されている。
なお、「料亭」については「食品衛生法」の規制の他、「風俗営業の規制及び営業の適正化に関する法律」の適用を受ける。
(1) 「食品衛生法」の目的
 「食品の安全性の確保のために、公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ること」を目的としている。
主な食品営業の他、食品、添加物、器具、容器包装等を対象に、飲食に関する衛生について規定している。
(2) 営業許可
   日本料理店・料亭を営業するためには、都道府県知事(保健所設置市又は特別区にあっては、市長又は区長)に届出し、許可を受ける必要がある。また、その営業施設は、都道府県条例に定める設置基準に合致していなければならない。
営業許可の有効期限は5年以内であり、継続して営業するためには更新が必要である。なお、都道府県等の条例により、施設の堅牢性、耐久性が優れている場合や食品衛生上良好と判断される施設については、条件によって更に長期の有効期限となっている。名古屋市の場合、実地審査により5〜8年の有効期限が決定される。
(3) 食品衛生責任者の設置
 日本料理店・料亭の営業にあっては、都道府県知事が定める設置基準に準拠して「食品衛生責任者」を置かなければならない。
(4) 提供する食品に対する規制
 食品保健行政の見地から、提供する食品等について規格基準等が設けられ、違反する食品等の販売は禁止されている。
規格基準の設定
 添加物、残留農薬、遺伝子組換え食品や器具、容器包装等については、夫々規格基準が定められており、適応していない食品の販売は禁止されている。
表示基準の設定
 アレルギー食品材料、遺伝子組換え食品等については、夫々表示基準が定められており、違反する食品等の販売は禁止されている。
添加物の指定
 食品添加物については、成分規格、保存基準、製造基準、使用基準が指定されており、適応しない添加物の使用等は禁止されている。
(5) 食品衛生監視員による監視指導
 都道府県等の保健所には、食品衛生の専門知識を有する「食品衛生監視員」が配置されており、営業施設に対する監視、指導を行っている。

4 「食品衛生法」以外の法的規制等

 「日本料理店・料亭」を営業する場合、その営業形態により「食品衛生法」の他、関連する法規の規制を受けることがあり、様々な制約要件の中で営業することが求められる。
(1) 「料亭」に対する営業許可等
 料亭については、接待飲食として「風俗営業の規制及び営業の適正化に関する法律」の規制を受ける。その営業にあっては、都道府県公安委員会(所轄の警察署)に申請して、風俗営業の許可を受ける必要がある。営業の場所、構造設備、人的条件などの要件を満たすことが求められる。
(2) 深夜営業の届出
   午前0時を過ぎて日の出までの間の営業を行う場合には、風適法の「深夜酒類提供飲食店」に該当することから、都道府県公安委員会(所轄の警察署)に届出する必要がある。なお、この営業を廃する場合、同公安委員会に廃業届を提出しなければならない。
(3) 改正道路交通法による飲酒運転罰則強化
 平成14年の道路交通法改正により、飲酒運転に関して大幅な規制と罰則強化が施行されたものの依然として改善が進まず、平成19年9月施行により「飲酒運転周辺者に対する罰則の整備」が行われている。飲酒者が運転する車両に同乗した者に対する「同乗罪」が適用され、車両の提供者や運転を依頼した同乗者、更には「酒類提供者」に対しても行政処分の対象となっている。酒類提供者の罰則では、運転者が酒酔い運転の場合、3年以下の懲役叉は50万円以下の罰金が科せられる。酒気帯び運転にあっても、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金が科される。

5 日本料理店・料亭の業界よもやま

(1) 料亭に望むサービス「もっと安い料金」「気軽な雰囲気」
   東京都生活衛生営業指導センター「平成14年度消費者モニター等事業調査報告書」において、料亭に対して望むサービス(複数回答)が報告されている。
 いずれの年代においても、「もっと安い料金」「気軽な雰囲気」が50%を超えており、次いで「分かり易い料金会計」が続き、60歳以上の高齢層になると「椅子席の増加」が30%を超える。いまだ「敷居の高さ」が残っていることから、この払拭が課題ともいえる。
(2) 経営者の座右の銘「真心」「誠実」「一期一会」
   日本料理店や料亭のイメージとしては、「非日常空間で、家庭で供されない料理を、洗練された応対で味わう」となる。全国生活衛生営業指導センターが収集した「成功事例集」には、他の飲食店経営者にない「真心」「誠実」「一期一会」といった言葉が並んでいる。顧客の立場で経営に臨んでいることは理解できるが、反面、「気軽に」という顧客ニーズとの微妙なすれ違いも垣間見える。
(3) 経営のポイント
 生活衛生関係営業の全ての業態で、経営上の問題点として「客数の減少」「客単価の減少」が上位を占める。日本料理店・料亭においても変わりないが、料亭・割烹においては「法人利用の減少」が続き、客数の減少に直接影響を及ぼしている。従来の限られた客層にとどまらず、如何に幅広い客層の支持を得るかが大きな課題といえる。厚生労働省「飲食店営業(料理店)の実態と経営改善の方策」から、経営のポイントを探る。
営業の基本「もてなし」
   ゆったりした和室でくつろぎ、洗練された器と料理によって、楽しい食事を堪能する。ここで「楽しく」が、営業の基本「もてなし」の根底であることを認識する必要がある。
経営コンセプトの確立
 社会情勢の変化、顧客ニーズの多様化など経営環境は常に変化する。「食の安全・安心」にも適正な対応が求められ、経営資源に基づく的確なコンセプトの確立が必須である。
人材の確保、育成
 飲食店の核心は「味」と「サービス」にある。経営者が一人奮闘しても、この達成には限界がある。優秀な従業員の確保と育成が不可欠といえる。
計数管理の徹底
 売上高や経費支出を正確に記録し、少なくとも月次で原価計算を徹底し、「利益」の確保を追求することが重要である。売上高の確保のみでは経営は成り立たない。



資料

    1 総務省「事業所・企業統計調査」

    2 総務省「家計調査年報」

    3 厚生労働省「衛生行政報告例」

    4 厚生労働省「飲食店営業(料理店)の実態と経営改善の方策」平成16年10月

    5 厚生労働省「平成15年度生活衛生関係営業経営実態調査(飲食店営業・料理店)」

    6 全国生活衛生営業指導センター「生活衛生関係営業ハンドブック2008」

    7 東京都生活衛生営業指導センター「平成14年度消費者モニター等事業調査報告書」

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