日本料理店-1996年
1.概況
1996年
(1) 増加が続く日本料理店 〜店舗の大型化も着実に進展〜
 平成6年の全国の日本料理店の事業所数は36,496件で、一般 飲食店全体の7.8%を占めてている。平成3年と比べると、日本料理店は大幅に増加(+2,962件(+8.8%))しており一般 飲食店全体で減少傾向が続いているのとは対照的である。
 従業者規模別でみると、一般飲食店全体では、従業者数5人以上の事業所が全体の30.0%であるのに対し、日本料理店では49.3%とほぼ半数近くある。また、平均従業者数も8.2人(一般 飲食店全体では5.3人)となっている。
 さらに事業所数の推移を従業者規模別でみると、最近8年間(昭和61年→平成6年)で、従業者数4人以下の事業所の増加率が+23.6%(+3,529件)であるのに対し、従業者5人以上の事業所の増加率(+45.0%(+5,585件))はこれを大幅に上回っている。日本料理店は、増加傾向が続くなかで大型化が着実に進展している業種といえる。
 

事業所数の推移

(参考) 一般飲食店全体
(単位:件,%)
(単位:件,%)
調査年
従業者規模別
合 計
1〜4人
5人以上
昭和61年
〈54.7〉
14,973
〈45.3〉
12.409
〈 100.0〉
27,382
平成元年

〈48.2〉
16,164

〈51.8〉
17,370
〈100.0〉
33,534
平成4年
〈50.7〉
18,502
〈49.3〉
17,994
〈100.0〉
36,496
合 計
従業者5人 以上
〈78.6〉
400,955
〈100.0〉
510,101
〈74.4〉
365,733
〈100.0〉
491,359
〈71.7〉
339,661
〈100.0〉
474,048
資料:総務庁「事業所統計調査」(平成6年は名簿整備調査)
(注) 〈 〉内は構成比である。

(2)

拡大する市場規模
 平成4年における、日本料理店の年間販売額は2兆2,538億円で、元年から+35.1%の増加である。 この間、一般外食費全体が+17.7%の増加であることと比較しても、日本料理店の市場規模の増加が目につくところである (通産省「商業統計表」)。

2.最近の動向
(1) 「特別な日の料理」から「カジュアルな料理」へ
 

 日本料理というと、「ちょっと出かけて軽く食事をする」というよりは「料金も高く、特別 な日の食事」というイメージが一般的である。

 「平成7年度環衛業に係る消費生活調査報告書」((財)東京都環境衛生営業指導センター)でも、「日本料理店の利用」を「特別 な会食」と回答したものが、全体の65.0%を占めており、この傾向を裏付けている。

 景気回復の遅れにより、特に法人需要の減少が著しい現在、日本料理店にとっては個人客を中心とした、幅広い客層の獲得が不可欠である。その際、従来の「特別 な会食」のイメージは、逆に足かせとなっている場合もあるが、このイメージを払拭すべく積極的に営業を行っている店も多い。例えば、今まで、客単価1〜3万円だったところが、客単価1万円以下としたうえに2〜3千円のランチサービスを行ったり、創業100余年の店がデパート内に気軽な雰囲気のカジュアル店を出店するなどの例がこれにあたる。

 このようにファミリー客や女性客など幅広い客層を対象とし、各年齢層に受け入れられる大衆的な店造りを行うところが多くなっている。

(2)

健康志向で女性客を中心に和食人気が再燃

 

 一時は洋食ブームに押されぎみであった日本料理であるが、最近の健康志向を受け「カロリーが低く身体によい料理」としてその人気は再び高まっている。女性誌などでも、ヘルシー料理として「日本料理店」が紹介されることが多くなっており、先に紹介した「カジュアル」化との相乗効果 もあって、友人と連れ立って気軽に食事をする女性客が増えている。

 「平成7年度環衛業に係る消費生活調査報告書」((財)東京都環境衛生営業指導センター)でも、「ここ1年間に日本料理店を利用した」と回答したものが、全体では75.9%と前回調査(平成2年、74.7%)とほぼ変わらないのに対し、特に20才代の女性については、65.8%(前回調査61.7%)となっており、徐々にではあるが、若い女性の間で日本料理店の位 置付けが高まっていることが伺える。

3.経営上のポイント
「ちょっと気取った店造り」、「のれんの味」、「厳しい徒弟制度」など、日本料理店というと一般 に保守的なイメージが先行しがちである。しかしながら、従来のやり方を漠然と踏襲していくだけでは経済環境の変化から取り残される。
(1) 大衆化志向と専門化志向
 

 日本料理の課題は、従来の限られた客層にとどまらず、いかにして幅広い客層から支持を得るかである。そのためには、洋食文化に馴染んだ年齢層にも店に足を運んでもらうことが必要である。

 「平成7年度環衛業に係る消費生活調査報告書」((財)東京都環境衛生営業指導センター)によると、「条件が整えば、もっと日本料理店を利用したい」と回答したものが全体の51.3%と半数以上を占めており、利用頻度の増加は期待できる状況である。さらに「その条件」を尋ねたところ、「値段が安くなれば」、「気軽に入れるようになれば」、「特色のある料理があれば」などの回答が上位 を占めたが、これは日本料理店の今後を考えるうえで重要なヒントといえる。

 今後の店造りを考えるにあたっては、次の2つのキーワードが考えられる。まず、 1つ目のキーワードは「大衆化志向」である。(a)通常の外食料金と比べてもリーズナブルな価格設定(b)ランチや夕食時に気軽に入れる店造り(c)従来の和食の概念にとらわれないアイデアに溢れたメニューの提供などの工夫により、ファミリー層や若者層にも受け入れられる店造りをしていくことが必要であろう。2つ目のキーワードは「専門化志向」である。あえてメニューを絞り、「カニ料理」「鰻料理」などの専門店に特化する代わりに、その素材を生かした独自の味を追及していく。その料理を食べたいと思ったとき、皆から即座に連想されるような店造りがこれに相当するといえる。

 特徴のない中途半端な店は、今後ますます、生き残りが難しくなるといってよい。「健康ブーム」の追い風もうまく利用して、独自の店造りに取組むことが必要と思われる。

(2) 従業員の確保と定着化
 

 「店の雰囲気作り」はもちろん顧客獲得の重要な要因であるが、経営の決め手はなんといっても「料理」と「サービス」である。

 それだけに、板前を始めとした従業員の確保と定着化は経営者の腐心するところである。通 常、どの業種でも従業員確保のためのキーワードとしては(a)労働条件の改善(b)労働環境の整備(c)風通 しのよい職場環境(d)研修の充実などが上げられる。

 これを「日本料理店」で具体的に当てはめると、(a)及び(b)は賃金体系の改善、勤務時間の短縮、休日数の増加、寮制度の充実などであろう。これらは、もちろんおざなりにすべき問題ではないが、企業経営上の制約(手当すべき「資金」の問題等)もあり長期的視野に立って検討していく問題であろう。むしろ、早期に着手すべきは(c)及び(d)である。「従業員の意見が反映された店造り」、「料理技術の向上について、オーナー以下全員で取り組む店造り」などはまさに(c)及び(d)に相当するところであり、活力と魅力ある職場として従業員の定着化に結びつくものである。

 ハード面は長期的視野に立って改善に着手する一方で、ソフト面 は日常的にきめ細かく気配りしていく、従業員に支持される店造りは、裏を返せば、客に支持される店造りといえる。

4.繁盛店の事例
(1) 年1回「懐石料理の集い」を開催
   地方都市にあるA店は、大衆向けの本格料理店として地元でも知名度の高い店である。同店では(a)食材は地元の旬のものを使う(b)食材は十分手を加え、材料も無駄 なく使う(c)昼食膳(1,500円)も含めて、コース料理は必ず食前酒に始まり冷菓子で終わるようにし、客に満足感を味わってもらう、(d)客の来店の楽しみとなるようなその日のおすすめ料理を必ず作るなどきめ細かな経営を行っている。

 また、年1回「懐石料理の集い」を開催するとともに、女性客も含めた常連客には必ずダイレクトメールにより案内するようにしている。「懐石料理の集い」では新品の器を使うほか、あらかじめ、従業員に季節のテーマを与え、開発された新メニューを客席に出すようにしている。このことにより、客、従業員、そしてオーナーが料理について忌憚なく意見を述べ合う場となっている。この「懐石料理の集い」は客から好評なうえに、従業員の創作意欲の向上にも役立っている。

(2) 会席料理から「ふぐ料理」専門店へ
 

 地方都市の繁華街にあるB店は、従来「会席料理」を中心とした日本料理店だったが、立地条件が悪くないにもかかわらず、特筆すべき目玉 料理がないこともあって、客足は思うように伸びない状態が続いた。

 個性的な店造りの必要性を強く感じたオーナーは、周辺に「ふぐ専門店」がないことに目をつけ、新たに調理師免許を取得した後、店舗も全面 的にリニューアルし、業態を「ふぐ専門店」に転換した。まず通行人の目にも止まりやすいように店頭にいけすを配置し、店の独自性をアピールした。また、先の「会席料理」店において、客の不入りに寂しい思いをしたオーナーは、薄利多売をモットーとして、できるだけ多くの人に来店してもらえるよう、仕入れ先の選定に力を入れるなど、極力、客単価を抑える努力をした。

 この結果、地元でも気軽に寄れる「ふぐ」店として、口コミの評判となり、客足も順調に増加している。

(3) 従業員教育として、「試食旅行」や「ホテルへの研修派遣」
 

 地方都市の商店街に面して立地するC店では、従業員の質的向上を目的として次の事柄に取り組んでいる。まず、料理長以下全員で定期的に評判店を訪問して、客の立場で試食を重ねている(時には従業員旅行を兼ねて東京まで出かけることもある)。

 これにより、オーナーと従業員が同じ視点に立って、新メニューを検討する環境が育まれている。又、一定期間、知人の経営しているホテルに従業員を派遣し、他人のなかに混じって接客サービスを研修させている。この結果 、従業員の提案により(a) 夏場はおしぼりも冷した大きめのものを出すようにしたり(b)注文の際には「おすすめ料理をいかがですか」のセールストークを加えたなど、従業員が店の経営に関心を持つようになっている。

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