日本料理店-2001年
1 概況
2001年
(1) 多種におよぶ日本料理店
    総務庁の日本標準産業分類によると、日本料理店とは、「主として特定の日本料理(そば、すしを除く)をその場所で飲食させる事業所(主として遊興飲食させる事業所を除く)をいう」となっている。したがって、料亭・割烹店、お茶屋、待合など主として日本料理を提供するものの、接待客を遊興飲食させる店は含まれない。具体的な業種としては、てんぷら料理店、うなぎ料理店、川魚料理店、精進料理店、鳥料理店、沖縄料理店、とんかつ料理店、郷土料理店、かに料理店などの料理店のほか、釜めし屋、お茶漬け屋、にぎりめし屋、牛丼店、ちゃんこ鍋店、しゃぶしゃぶ店、すき焼き店など、本来日本の在来型の食事提供の料理店を含んでおり、その種類は多く画一的な特性はない。ただし、一般 社会のイメ−ジとしては、懐石料理店、和食店、和食コ−ス料理店などを指すことが多いようである。
(2) 事業所数の増加率が急速に鈍化
平成11年の全国の日本料理店は39,039件で、8年と比べると377件増加、1.0%増(一般 飲食店全体2.9%減)となっている。しかし、増加率は6年8.8%、8年5.9%、11年1.0%と後退し、11年は急速に鈍化しているのが目立つ。従業者数は340,541人で8年に比べ0.5%増(一般 飲食店全体0.3%増)となり、事業所数、従業者数とも増加している。1事業所当たりの従業者数は、8.7人(一般 飲食店全体6.2人)となっており、一般飲食店全体の各業種に比べ抜きんでている。
平成8年から11年までの新設事業所数は2,098件で、一方、廃業事業所数は2,087件となり、両者に大差がない。開業率は5.4%(一般 飲食店全体5.0%)、廃業率5.4%(同5.9%)となり、同率となっている。
平成11年の法・個人別事業所数は、個人が22,945件(構成比57.9%)、法人16,405件(同42.1%)となり、8年に比べると個人が0.9%増に対し、法人は1.1%増となっている。
従業者規模別でみると、4人以下の小規模店は全体の48.0%(一般 飲食店全体65.1%)となっており、平成8年の46.6%に比べ増えている。従業者規模別 に8年対比で増減率をみると、増えているのは4つの階層のみで、なかでも最も伸び率が高いのは100〜199人で21.1%増と大手層が大幅に増加、次いで30〜49人9.5%増、20〜29人3.9%増となっており、中堅層も増加している。目立つのは小規模層の動向である。5〜9人3.0%減、10〜19人3.8%減と減少しているのに比べ、1〜4人層は3.9%増と伸びている。
 
事業所数の推移 (参考) 一般飲食店全体
(単位:件,%) (単位:件,%)
調査年 従業者規模別 合 計
1〜 4人 5人以上
平成3年 (48.2)
16,164
(51.8)
17,370
(100.0)
33,534
平成6年 (50.7)
18,502
(49.3)
17,994
(100.0)
36,496
平成8年 (46.6)
18,029
(53.4)
20,633
(100.0)
38,662
平成11年 (54.7)
18,739
(45.3)
20,300
(100.0)
39,039
従業者 合 計
5人以上
(30.9)
146,746
(100.0)
474,389
(30.0)
140,016
(100.0)
466,835
(34.3)
156,457
(100.0)
456,420
(34.9)
154,790
(100.0)
443,216
資料:総務省「事業所・企業統計調査」
(注)( )内は構成比である。
 総務省「家計調査年報」によると、1世帯当たり和食の年間支出額(平成12年新設項目)は23,502円となっており、一般 外食の内訳項目の中で最も多い。ちなみに和食に次いで多いすし支出(外食)16,929円、洋食支出15,303円と比較すると、和食への支出がこれらをはるかに上回っている。
 世帯主の年齢階級別にみると、最も支出が多いのは60〜69歳で29,562円、次いで50〜59歳が27,708円、さらに70歳以上が20,255円と続く。一方、支出が最も少ないのは29歳以下世帯で15,854円となっている。最多支出の60〜69歳は全世帯平均を25%も上回り、最少支出の29歳以下は逆に33%も下回っており、年齢別 の支出格差が著しい。
2 最近の動向
(1) 手軽な料金で大衆化路線に参入の高級日本料理店
     いまや名の売れた日本料理店もあの手この手で、日本料理の大衆化への参入を図っている。アイドルタイムである昼食時間帯を活用してランチタイムとし、2〜3千円の価格帯で和食を提供し、主婦層のグル−プによる口コミで評判が広がり、潜在需要を掘り起こしている店もある。また創業100余年の老舗では、デパート内に気軽な雰囲気のカジュアル店を出店するなどが増えている。
 また、京都をはじめ関西の知名度の高い高級料理店などが、東京はじめ大阪などの首都圏の高層ビルやシテイホテル内などに出店し、従来の「高料金の日本料理」や「特別 な会食」のイメージを払拭し、一般大衆対象に積極的に営業を行っている店が増えてきている。今までは接待客や中高年の会合などを主体にした高単価客主体から、料金を一般 大衆が手を出せる範囲に変更して、ファミリー客や女性客など幅広い客層を対象とし、各年齢層に受け入れる大衆的な経営手法に転換を行う高級料理店が多くなっている。
 また、OLや中高年女性の小グル−プを対象とした、和風の雰囲気の良い店で手軽な料金で創作和風料理店などを提供する小規模な料理店が数多く出現している。狙いは中高年女性のグル−プ層や若いカップル、あるいはファミリー客を対象とした、日本料理の大衆化路線である。女性グル−プ客や若いカップルが利用しやすいように単価を1万円以下としたり、こぎれいな和風の店構えのカウンタ−席で懐石料理を3,500円で提供するなど、時代の流れに対応した料金設定で人気を呼んでいる店が少なくない。
(2) アンケ−トにみる最近の料理店のイメ−ジ
   一般大衆は料理店にどのようなイメ−ジをもっているのかを「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成9年度)」〔(財)東京都生活衛生営業指導センター〕が行ったアンケ−トの回答(複数回答)でみてみよう。
 1位は「落ち着いた雰囲気がある」が77%、2位は「日本料理が美しい」66%、3位 は「器がすばらしい」43%、4位が「小部屋、個室、堀り込み席がある」38%、5位 が「和室がすばらしい」35%となっている。この回答からは、「落ち着いた雰囲気のある和風個室で、すばらしい器にもられ、見ただけでも美しい日本料理を食べる」という、非日常的でかつ優雅なイメ−ジが描かれている。昔なら料理店といえば、すぐに「芸妓さんによる優雅な接遇」を思い浮かべただろうが、このアンケ−トでは3%のみしか回答がなく、料理店に対する時代の変化をうかがわせる。
 このアンケ−トの回答からは、かつての料理店の「料金が高く特別 な日の食事」や「中高年男性の利用するお座敷料理」というイメージが払拭されている。日本固有のイメ−ジが強調され、一般 大衆にとって日常縁遠い場所ではなくなったという感触の変化が現れている。
(3) 料理店開催のイベントへの高い参加意識
    では、一般大衆は「料理店が行うどのようなイベントなら参加する意思があるのか」を同調査(複数回答)でみると、1位 は「季節料理を楽しむ会」で67%、2位は「日本料理を味わう会」56%、3位 は「日本料理マナ−セミナ−」21%、4位は「お座敷体験入門コ−ス」14%であり、季節料理や日本料理を味わうの2つが突出しており、料理店で料理を味わうことへの関心が相当高いことを示している。
(4) 健康志向で女性客を中心に和食人気が再燃
    一時は洋食ブームに押されぎみであった日本料理であるが、最近の健康志向を受け「カロリーが低く体によい料理」としてその人気は再び高まっている。女性誌などでも、ヘルシー料理として「日本料理店」が紹介されることが多くなっており、料理店のカジュアル化との相乗効果 もあって、友人と連れ立って気軽に食事をする女性客が増えている。
3 経営上のポイント
(1) 「味の求心」と「誠意ある接待」、忘れてはならない「真心」「誠実」
    日本料理店は、日常と違う空間の中で、家庭では味わえない料理を提供し、洗練された応対で営業することが重要である。お客の立場に立てば、ゆったりした和室でくつろぎながら、美しい器に盛られた料理がタイミングよく運ばれ、高級感に浸りながら楽しく食事ができることを求めている。日本料理店は、このニ−ズに応える努力をすることが肝要である。全国環境衛生指導センタ−の「成功事例集」の経営者の座右の銘をみると、他の飲食店には少ない「真心」「誠実」「一期一会」が圧倒的に多く、この努力を象徴しているといえよう。
(2) 保守的な経営からの脱皮、大事な営業戦略
    日本料理店の経営環境は従来に比べて変化してきているだけに、「ちょっと気取った店造り」、「のれんの味」、「厳しい徒弟制度」など、日本料理店がもつ保守的な経営を、漠然と踏襲していくだけでは取り残されてしまいかねない。それだけに、お客のニ−ズに合わせた料理を常に提供できるよう材料の吟味や技術の研鑽、季節変わりの特別 企画料理、旬の味の料理などで個性を発揮することが重要である。また顧客の紹介制度による新規顧客の獲得、ダイレクトメ−ルや季節メニュ−の送付などで固定客化を図るなどの積極的な営業戦略の展開が望まれる。
 景気回復の遅れにより特に法人需要の減少が著しい現在、日本料理店にとっては、個人客や家族連れを中心とした幅広い客層の獲得が不可欠である。また、国際化の進展に伴いヘルシ−食として外国人にも人気が高まっているので、いかに外国人の誘客を積極的に行うかも、営業面 で重要視されよう。
 設備面でも、洗面所などの衛生面の留意はもちろん、高齢化社会に適応した建物の改造、たとえば客室、廊下などのすべての段差をなくしたり、2階へのエレベ−タ−を設置するなどの細かい配慮が必要な時代になっている。
(3) 期待できる利用頻度の増加
    日本料理の課題は、従来の限られた客層にとどまらず、いかにして幅広い客層から支持を得るかである。そのためには、洋食文化に馴染んだ年齢層にも店に足を運んでもらうことが必要である。
 前出の「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」によると、「条件が整えば、もっと日本料理店を利用したい」と回答したものが全体の51.3%と半数以上を占めており、利用頻度の増加は期待できる状況である。さらに「その条件」を尋ねたところ、「値段が安くなれば」「気軽に入れるようになれば」「特色のある料理があれば」などの回答が上位 を占めるが、これは日本料理店の今後を考えるうえで重要なヒントといえるであろう。
(4) 大衆化志向と専門化志向
    今後の店造りを考えるにあたっては、次の2つのキーワードが考えられる。まず、1つ目のキーワードは「大衆化志向」である。(a)通 常の外食料金と比べてもリーズナブルな価格設定、(b)ランチや夕食時に気軽に入れる店造り、(c)従来の和食の概念にとらわれないアイデアに溢れたメニューの提供などの工夫により、ファミリー層や若者層にも受け入れられる店造りをしていくことが必要であろう。
 2つ目は、素材を生かした独自の味を追及していくことである。その料理を食べたいと思ったとき、皆から即座に連想されるような店造りがこれに相当するといえる。特徴のない中途半端な店は、今後ますます生き残りが難しくなるといってよいであろう。「健康ブーム」の追い風をうまく利用して、健康関連の料理も一部提供するなど、何かしらの売り物を主張した個性のある店造りに取り組むことも必要と思われる。
4 工夫している事例


(1) 円滑な人間関係への配慮が繁栄の基本に
  • 立地:長野市 繁華街中心地
  • 創業:昭和28年
  • 従業者:37人(うちパ−ト、アルバイト23名)
  • 経営理念:「一期一会」、「地域一番店を目指す」
 2代目だが、生き残り策として施設面では店舗の増改築を行い、味の面 では調理技術の向上を図るなどして、地域1番店の道を目指している。実践している方法を探ると次のようになる。
@ 専門的な知識の向上に努める
 日本料理は窓口の幅が広く、また奥行きも限りがなく、決まりきった献立では顧客に飽きられるので、可能な限り有力な経営資源を持つ現場を訪れ、自店の経営改善のヒントをつかむことに主眼をおいている。
A 経営者自からトップセ−ルスを行う自覚
 日本料理店の将来性の見通しは厳しく生半可な経営姿勢では生き残れない。生き残る上で極めて重要なのは、なんといっても顧客数の確保である。それには経営者自らがトップセ−ルスを実践する自覚をもち、出来うる限り会合や集会に出席、または各種の団体に参加して、顧客確保の機会をつかむように働きかけている。
B 従業員の人間的魅力を高める
 宴席などで、お客と直接接するのは従業員である。再度の利用客を獲得するのには、施設、料理と並んでお客の応対を担当する従業員の人間的な魅力が必要とされる。それぞれの個性を生かしながら、お客を最高に満足させるためにどうしたらよいのか、研修や自己研鑽を通 して、人間的魅力の発揮に努力するよう指導している。また、宴席に欠かすことのできない酌婦については、専属の酌婦を採用している。
C お客同士の対面を避ける工夫
 人間関係には複雑なしがらみが避けられない面がありがちであり、料亭にはお客同士の対面 を極力避けるような工夫が要求される。当店では裏階段を設けたり、トイレを部屋に設備したりの工夫をして、お客同士の対面 を極力避けるようにしている。
D 満席の場合の対応策を築く
 顧客が宴席を利用する期日は意外と重なりがちになるので、本店の予約が満席でも、顧客に迷惑をかけないよう、支店を設置し対応している。
E ラジオによる宣伝
 民放ラジオを利用して10年間同一の内容を流し、知名度の向上やイメ−ジアップを図り、宴席を利用するような催事が生じた場合、ただちに当店の存在を思い起こす効果 を狙っている。

 当店の経営は、顧客との縁は一生に一度限りであるという「一期一会」の精神をベ−スに、顧客対料亭、顧客対顧客との人間関係を円滑に保つことが、料理を楽しんでもらう上で大事であるという方針を貫いている事例である。
(2) 円滑な人間関係への配慮が繁栄の基本に
  • 立地:静岡市清水市 商店、住宅の混合地域
  • 創業:明治3年
  • 従業者:29人(うちパ−ト、アルバイト10名)
  • 経営理念:「初心忘れるべからず」、行動指針は、すべての顧客、従業員に対して「常に公平にえこひいきなく」
 順調に推移している要因としては、@懐石料理への切り替え、Aお客に好感がもたれる接客態度の徹底、B他店の経営の良い点を導入し、新しい料理を提供、C設備面 は、常に清潔で明るくを心掛ける、D顧客の要望を積極的に取り入れる、E食材の現金仕入れ、F経営の多角化などが指摘できる。
@ 懐石料理への切り替え
 店の改装前は、女性による接待が主体であったので、料理を一度にテ−ブルに出していた。しかし、改装をきっかけに、一品一品を心行くまで味わいながら、時間をかけてくつろいだ雰囲気で一時を過ごしてもらうように改善した。この料理の出し方の切り替えがお客から好評を得ている。
A お客に好感がもたれる接客態度の徹底
 お客から好感を持たれるような接客態度で顧客に接するよう指導を徹底している。仲居など従業員に対しては「うちの息子の嫁さんに来て欲しい」と言われるような接遇を心掛けさせている。
B 他店の経営の良い点を導入し、新しい料理を提供
 料理長には、評判の良い有名な料理店に出向かせ試食の結果、参考になるものがあれば、それらをヒントに常に新しい料理の提供に工夫をこらしている。
C 設備面は、常に清潔で明るくを心掛ける
 店内、客室はすみずみまで清掃を行き届かせ清潔感に伴う明るさを保つようにしている。特にトイレの清掃には一番気をつけている。
D 顧客の要望を積極的に取り入れるく
 お客の接待中に、それとなくお客の意向を聞き出して、以後の料理の提供等に反映させている。
E 経営の多角化
 多角化の一貫としてビジネスホテルを開業、割烹料理の腕を生かした朝食を、宣伝のつもりで格安の価格で提供し、宿泊客から好評を得ている。また、全国の大丸百貨店で当料理店の名前いりの「さくらえび瓶詰」を販売し、当料理店の宣伝にも利用している。
 静岡県民の気質は、消極的と一般にいわれているが、当店の経営者はこの気質に反し積極的な展開を試みている。料理店の業態については、従来の女性の接待を中心とした古いタイプの料理店では、将来性に展望がないという理由で、経営方針をお客のニ−ズに対応したものに変更している。一方、料亭に限らず多くの飲食業に目を向け、他の経営資源の良い点を導入したり、料理店に利益をもたらすことを視野に入れた多角化に乗り出すなど、内部に限らず外部へも積極的な展開をしている事例である。可能な限り挑戦し続ける姿勢はぜひ学び取るべきであろう。


資料
  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成9年度)」
  4. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  5. 金融財政事情「企業審査事典」
  6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
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