美 容 業-2008年
1 概況
2008年
(1) 事業所数の推移
   総務省「事業所・企業統計調査」により「美容業」の事業所数の推移を見ると、前回平成16年調査で減少となっているが一時的なものとなり、平成18年調査では平成8年対比106.6%と増加してきている。
美容業の事業所数(従業者規模別)の推移表
 
美容業全体の事業所数の推移グラフ
(2) 施設数、美容師数、免許交付数の推移
 厚生労働省「衛生行政報告例」により「美容業」の施設(店舗)数、美容師数、年間の美容師免許交付数の推移を見ると、いずれも増加を続けている。
特に免許交付数は安定的に推移しており、施設数の増加以上に技術者の新規参入が続き、やや過剰感が窺える状況になりつつある。

・施設数、美容師数、美容師免許交付数の推移

年次

施設数

美容師数

免許交付数

昭和45年

116,021

216,906

24,687

60年

175,433

296,265

17,020

平成元年

185,452

314,175

17,077

5年

189,975

320,996

12,737

10年度

200,682

345,115

16,428

15年度

201,379

334,932

27,240

17年度

215,719

416,707

29,442

18年度

217,769

431,685

26,880

19年度

219,573

435,275

26,521

資料:厚生労働省「衛生行政報告例」

(3) 最近の業界動向
競合店との差別化激化
   近隣に競合店が存在する場合、当然、他店との差別化に苦心することになる。美容業の施設数は増加傾向が続いており、都市部の商業地域に集中して過剰による淘汰さえも散見される。施術面での絶対的な差別化ができていれば別として、競合店との間でサービス合戦を展開することになる。全国生活衛生営業指導センターが実施した「平成17年度生活衛生関係営業経営実態調査(美容業)」を見ると、競合店のある場合「ポイントカード」「飲み物の提供」「予約優先制度」を主体としたサービスを70%前後の店舗で実施している。競合店のない場合よりも格段と高率であり、更に新たのサービスを検討している店も多い。
男性客の利用が定着
 上記「平成17年度経営実態調査」を見ると、利用者の過半は女性であることに変わりはないが、年齢階層別の利用者の男女割合は20歳台までは男性が肉薄している。割合は少ないが、団塊世代の還暦層も一部利用しており、「男性は理容店、女性は美容院」という通念は既に崩壊しつつある。
就業美容師の増加
 美容師免許交付数は毎年27,000件前後で推移している。美容師数は10年間で2倍近くに増加しているが、事業所数、施設(店舗)数の伸びは美容師数に追い付いておらず、免許を得た美容師は従業員となって業界に留まっている。美容所の開設は届出によって達せられるが、社会・経済の構造変化とともに、営業店の過剰感は否めず、独立開業には消極的になっている。

2 美容業の特性と現状

 厚生労働省の委託により全国生活衛生営業指導センターが実施した「平成17年度生活衛生関係営業経営実態調査(美容業)」から、業界の現状を探ってみたい。
(1) 個人経営など小規模事業所が大半
 「個人経営」が67.7%、「有限会社」29.1%、「株式会社」3.0%であり、総務省「事業所・企業統計調査」から見ても小規模事業所が大半である。
(2) 住宅地区での営業が半数
 営業店舗の立地は、「住宅地区」が47.9%、「商業地区」が39.1%で、2つに大別される。主たる客層をどこに設定するかによって立地を見ているようである。
(3) 経営者の年齢は50歳台が最多
 経営者の年齢では、「50歳台」が41.1%で最も多く、次いで「60歳台」28.1%、「40歳台」16.7%の順となっており、団塊世代が中核となっている。50歳以上の経営者にとって「後継者有り」は52.4%である。
(4) 設置椅子はセット用4台、シャンプー用2台
 美容施設のうち椅子の台数を見ると、セット用で「4台」が24.7%、「3台」が20.4%を占め、シャンプー用では「2台」が42.5%、「1台」が24.7%となっている。顧客1人当たりの施術時間を考慮して配置していることが窺える。
(5) 営業時間は1日に10時間前後
 営業時間を見ると、住宅地区立地では「9〜10時間」が48.4%で最も多く、商業地区立地では「10〜11時間」が44.9%で最も多い。開店時刻は9時、閉店時刻は18時から19時が中心であり、立地による大差はない。
(6) 経営上の問題点、第2位「競合店舗の新規出店」
 経営上の問題点(複数回答)で「客数の減少」が79.1%と最も多く、次いで「競合店舗の新規出店」38.7%、「客単価の減少」24.7%、「諸経費の上昇」23.0%と続く。競合店舗が参入して過当競争が激化しており、生き残りに苦心していることが窺える。

3 「美容師法」に定める規則等

 美容業は人の頭髪の施術や美顔など、高度の衛生施設の維持・向上が要求されることから、昭和32年6月法律施行の「美容師法」が定められている。
(1) 美容・美容師の定義

 美容とは「パーマネントウエーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすること」と定義され、当該美容行為の一環としてカッテイングや染毛も含まれるものとしている。
美容師は「美容を業とする者」と定義され、美容師法に基づき厚生労働大臣の免許を受けることを義務付けている。美容師免許を持たない者が美容を業としてはならないとされており、ここで定める「業」とは、反復継続の意思をもって美容を行うことであり、有料・無料を問わない。

(2) 美容師免許

 美容師免許は、高等学校を卒業した者が厚生労働大臣の指定した美容師養成施設において、昼間課程及び夜間課程のあっては2年以上、通信課程にあっては3年以上の所定の学科、実習を履修した後、美容師試験に合格した者に交付される。
ただし、精神機能の障害により美容師として適正に業務を行うに必要な知識、判断及び意思疎通が適切に行えない者は免許を交付せず、また免許の取消することができるとし、また、伝染性の疾病で就業が適切でない場合、業務停止を命ずることができるとしている。

(3) 美容所(美容を行う施設)
 美容師は、美容所において美容を行うものとしている。ただし、病気等により美容所に出向けない者や婚礼等の儀式に参列するため直前に美容を行う場合、その他都道府県知事が認可した場合には出張して美容ができるとして例外を認めている。なお、出張専門の美容師にあっても、施術対象者が当該条件を満たしている限りにおいて出張による美容を可能としている。
美容所を開設又は廃止する場合、都道府県知事(保健所設置市又は特別区にあっては、市長又は区長)に届出を義務付けている。また、美容所は、届出先の長による使用前の検査確認を受けなければ使用してはならない。
(4) 管理美容師配置の義務
 美容師の複数存在する美容所の開設者は、当該理容所の衛生管理の責任者として「管理美容師」を配置することとしている。管理美容師の資格は、美容師として3年以上の従事経験を有し、かつ都道府県知事が指定した講習を修了した者と規定している。
(5) 環境衛生監視員による検査
 美容師が美容を行う場合、美容師法に定める衛生基準を遵守して運営しているか、都道府県知事(保健種設置市又は特別区にあっては、市長又は区長)は環境衛生監視員を設置し、当該監視員等から報告を求めることとしている。また、監視員は必要に応じて施設等への立入検査ができる。
(6) 閉鎖命令
 都道府県知事(保健所設置市又は特別区にあっては、市長又は区長)は、必要に応じて美容所の閉鎖を命ずることができる。

4 美容業の業界よもやま

(1) 独立志向は強いが、漂流する就業美容師
 美容師免許は年間26,000件超の交付があり、若年層の参入が続いている。男性美容師の参入が著しく、美容界は女性の職場という従前のイメージは払拭されている。
平成5年度の調査でやや時間が経過しているが、全国生活衛生営業指導センターにおいて「従業員の意識調査」を実施しており興味深い。就業美容師の3割以上が独立を志向しており、主に「技術・技能を活かす」「収入の増加」「ゆとりある生活」などが理由であった。一方、経営者に対する希望は「休暇の増加」「労働時間の短縮」が上位を占め、「独立開業のための技術や知識の習得は、勤務時間内に行って欲しい」となっている。この意識動向に大きな変化はないものと思われるが、社会・経済は当時に比べ大きく変化し、容易に独立開業できる環境ではなくなって就業美容師が増加している。
(2) 中高年女性層が需要の中核
 総務省「家計調査年報」により世帯主の年齢階層別に年間家計支出を見ると、「パーマネント代」では「70歳以上」12,325円が最も多く、次いで「60歳台」8,623円と続き、「29歳以下」が2,108円で最も少ない。「ヘアーカット代」では「50歳台」が6,403円で最も多く、次いで「60歳台」6,382円の順で、「29歳以下」が2,795円で最も少ない。「パーマ・カット代」支出は、年齢が高い層の支出額が大きく、美容院を利用する需要の中核は中高年の女性層といえる。
(3) 家計支出、「パーマ代」は減少、「カット代」は横這い
 総務省「家計調査年報」により「パーマ代」の年間家計支出を見ると、平成18年6,745円と平成12年対比71.1%に減少している。「カット代」家計支出は平成18年5,671円であり同対比92.2%と横這いの状況にある。美容に対する顧客のニーズは変化してきており、カットが中心で「パーマネント」需要の減少が進んでいる。
(4) 経営上のポイント
 過当競争の中にあって顧客を繋ぎ止め、新たな顧客の開拓に努めることが必要となっている。奇策に頼らず、きめ細かく対応を積み上げることが必要であろう。厚生労働省「美容業の実態と経営改善の方策」から、経営のポイントを探ってみたい。
流動化する顧客を繋ぎ止める
   東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査」を見ると、利用者の70%が行きつけの店があり、固定化率の低い「20歳台」でも50%に近い。新規顧客の開拓は容易ではなく、新規に来店した客を如何に繋ぎ止めるかが鍵となる。
「口コミ」に勝る新規開拓の方策はない
 最近は無料配布の情報誌が氾濫し、美容院の情報が満載されている。しかし、この情報誌を活用するのは若年層が中心であり、固定化率は低く漂流する客層である。店舗選びの1位は「自宅、勤務先に近い」、次いで「技術、センスが良い」「雰囲気が良い」「接客態度が良く差別がない」となるが、本来の新規顧客開拓の方策は「口コミ」に勝るものはない。「口コミ」は日々の営業努力の積み重ねから生まれてくる。
従業員の定着が顧客確保の原点である
 利便性や技術力もさることながら、重要なことは「顧客との信頼関係」が保たれているかにある。この信頼関係を形成する根幹は、顧客と施術者の意思の疎通にあるといえる。経営者と従業員、顧客と施術者(従業員)の輪の要は従業員にある。頻繁に従業員が入れ替わる店舗に、固定客は育まれない。



資料

1 総務省「事業所・企業統計調査」

2 総務省「家計調査年報」

3 厚生労働省「衛生行政報告例」

4 厚生労働省「美容業の実態と経営改善の方策」平成18年10月

5 厚生労働省「平成17年度生活衛生関係営業経営実態調査(美容業)」

6 全国生活衛生営業指導センター「生活衛生関係営業ハンドブック2008」

7 東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告」平成7年度

8 中小企業リサーチセンター「日本の生活関連サービス業」

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