美 容 業-1996年
1.概況
1996年
(1) 美容業の事業所数は増加傾向 〜小零細規模が中心〜
平成6年の全国の美容業の事業所数は、167,565件で、平成3年と比べ ると3千件増加している。理容業の事業所数が、平成3年の調査から950件 減少しているのとは対照的である。
従業者規模別でみると、従業者5人以上の事業所が、平成3年に比べて1百件 あまり増加しているものの、従業者4人以下の事業所が全体の88.7%を占 めており、依然として零細な規模が多い。1事業所あたりの平均従業者数は、 2.4人(理容業では2.1人)となっている。
また、平成7年の営業許可使用確認新規件数(厚生省「衛生行政業務報告」) は、はじめて1万件を越え10,179件(前年比5.3%増)となっている。 このように、美容業の数は理容業とは対照的に増加傾向にある。また、近年大 手美容業の成長も著しく、これに伴う系列化、チェーン店化の動きも顕著であ る。
(2) 美容師数は過去最高
平成6年12月末日現在の全国の美容師数は、32万4千人で過去最高を記録 した。新規の免許を受ける美容師数は、昭和58年以降減少しているが、転廃 業をする美容師が減少していることから、総体としては増加している。
 

事業所数の推移

 
(単位:件,%)
(単位:件)
調査年
従業者規模別
合 計
(参考)
美容業の
事業所数
1〜4人
5人以上
昭和56年
〈89.4〉
124,475
〈10.6〉
14,744
〈 100.0〉
139,219

127.506
昭和61年

〈88.2〉
137,750

〈11.8〉
18,345
〈100.0〉
156,095

128.203
平成3年
〈88.6〉
145,777
〈11.4〉
18,777
〈100.0〉
164,554

126.978
平成6年
〈88.7 〉
148,665
〈4.9〉
18,900
〈100.0〉
167,565

126.026
美容師数

267,382

301,175

314,704

324,566
資料:総務庁「事業所統計調査」(平成6年は「名簿整備調査」)
厚生省「衛生行政業務報告」
(注)< >内は構成比である。
2.最近の動向
(1) 美容師の高い独立志向
    美容師には独立志向が強く優秀な人材ほど独立する傾向があり、どの美容室も従業員の定着対策には苦労している。(財)全国環境衛生営業指導センターの調査(平成5 年)によると、およそ3分の1の従業員は独立を希望している。独立を希望する理由 としては、「技術・技能を活かしたい」が1位になっているが、「収入の増加」と「 ゆとりある生活を望む」が続いている。従って、従業員の店に対する希望についても 「休暇の増加」「労働時間の短縮」に続いて、「技術等の伝授」が大きなウエイトを 占めている。ただ「独立開業のための技術習得や経験に必要な知識習得に要する時間 は勤務時間内にやって欲しい」が過半を占めており、ドライな面がみられる。
(2) 低迷する家計支出
    平成7年における1世帯あたりの年間支出額は、パーマネント代1万1,084円 で前年比▲7.2%、セット代1,089円で同▲1.9%、カット代4,725円 で、同▲1.1%となっており、理髪料と同様に低迷している。しかし、カット代に ついては平成元年に比べると、1,017円、27.4%増加しており、これは若者 を中心とする「理容離れ」により、美容へシフトしているものと思われる。
 
1世帯あたり年間支出額の推移 (単位:円)
  パーマネント代 セット代 カット代
平元
2
3
4
5
6
7
11,489
11,570
12,276
12,961
12,641
11,948
11,084
1,519
1,465
1,443
1,386
1,257
1,110
1,089
3,708
3,832
4,071
4,330
4,443
4,778
4,725
(参考)理髪料
7,723
8,163
8,939
9,868
9,956
9,810
9,370
資料:総務庁「家計調査年報」
(3) エステティック市場の拡大

エステティックは近年急速に広まった。美容業のみならず異業種からの参入が増加 し、現在の市場規模は4,000億円前後になっているとも言われる。エステティッ クの内容は、従来は脱毛、美顔等が中心であったが、現在は痩身、全身美容等にまで 広がっている。また、「リラクゼーション」といったストレスの解消等の面 も強調さ れ、メンズエステも徐々に増加している。

今後は、美容室を利用する際に、ヘアーだけでなく「総合美容」の要素を求める消 費者が増加することが考えられる。これに応えるため、美容室においては、従来の化 粧品の販売だけでなく、エステテイックに代表される副業部門を拡充するケースが増 加することが予想される。

3.経営上のポイント
(1) 固定客比率を高める 〜約7割が固定客〜
 

 東京都環境衛生営業指導センターの調査(平成5年)によると、約7割の人が毎回 同じ美容室を利用しており固定客化している。特に50代、60代では約9割までが 固定化している。

  一般に繁盛店ほど固定客比率が高いといわれる。競争が激化する中、新規の顧客を 獲得することは容易ではない。固定客は安定した売上を美容室にもたらしてくれるほ か、1人の満足した固定客が口コミで宣伝・紹介してくれることによる販売促進の効 果もある。

 また、顧客の方も自分の大事な髪を預ける以上、自分の髪の特徴、ファッションの 好み等を熟知した信頼できる店の固定客になりたいと思っており、親身で心温まる接 客を受け、ヘアケアに関するパーソナルなアドバイスを受けたいと願っている。1人 ひとりの髪質、ファッションの好み、来店動機等を踏まえた髪の手入れ、アドバイス等、細分化されたニーズに即したヘアケアの管理、顧客サービスが大切である。

(2) 客の帰属意識と従業員の定着化
 

  そこで固定客化の手段として顧客のカルテ作りやDMの活用、メンバーズカード、 各種イベントの開催等が必要となってくる。

  また、固定客の多くは、店とその従業員に帰属意識を持っているといわれる。これ は顧客にとって、技術をベースに従業員の接客も重要なウエイトを占めるということ である。確かに従業員の定着の良い店には固定客がつきやすいといわれている。技術 はもとより従業員が頻繁に変わる店には顧客も親近感や安心感を抱きにくいものであ る。従業員が定着化できるような店づくりが固定客化につながると思われる。

4.繁盛店の事例
(1) 自筆DMで顧客をフォロー
 

 住宅街にあるA店は、オーナーと女性技術者2名の小型店であるが、小型店ならで はの顧客とのきめ細かい交流を大切にしている。その中でも店と顧客とをつなぐもの として自筆のDMを活用して成果をあげている。

 新規客の支払い時に、無料の会員カードをすすめ、氏名、住所を教えてもらうよう つとめ、氏名、住所に基づき施術内容、会話内容、頭髪の特徴、個性等をカルテに書 き込む。その後、施術を担当した者が1週間以内に自筆のDMを発送する。DMの内 容は、来店のお礼に始まり、施術後のヘアスタイル等の状態をうかがうとともに、自 分の名前と再度の来店をお待ちする旨を記入している。

 また、カルテをチエックしカット、パーマごとの周期を見計らって来店勧誘のはが きを手書きで出している。手間はかかるが、心を込めて書くことにより1枚のはがき が顧客の心を動かし来店につながり、やがては固定客化の一助となっている。

(2) 美容室兼画廊で落ち着ける雰囲気を
 

  地方都市にあるB店では、美容室、画廊喫茶、アメリカ製の小物の販売をミックス している。オーナーは「悩んでいる人、心にゆとりがない人は髪を見ればわかる。」 ことから少しでもリラックスした雰囲気を作っていきたいという意図から始めた。

 当初は、美容室兼画廊喫茶であったが、オーナーが直接アメリカから買い付けてきた千円程度から購入できるキッチン用品等を中心に小物の販売も開始し、主婦などから好評を得ている。また、子ども連れの女性客にはパーマ等の合間に喫茶コーナーを担当しているオーナーの奥さんが子供の相手をするなどくつろいだ雰囲気を出すよう心がけている。

(3) コンピューターを活用してヘアスタイルをアドバイス
   美容室が林立し競争が厳しい地区で先行美容室として営業しているC店では、他店 との差別化を図るためにコンピューターを活用してヘアスタイル診断を行っている。 後発美容室が低価格を武器に派手なチラシを活用して参入してきたことに対抗した作 戦でもあった。入口近くに「カウンセリングコーナー」を設け、顧客の要望を入念に 聞くとともに美容師を決めている。その際に顧客の要望に応じてコンピューターを使 ったビジュアルなアドバイスを行っている。具体的には、顧客が持参した顔写 真に顧 客の希望するヘアスタイル、毛髪状態、手入れの状況を入力し、データ化しているヘ アスタイルから適合するものを選択してそれぞれ3パターンのモニター写 真を提示す る。顧客にとってはパーマ等の施術直後のイメージはわかっても1ヵ月先、2ヵ月先 のイメージはわかりにくいものであり、パターンごとに1ヵ月先、2ヵ月先の予想イ メージ図を提示し好評を得ている。
【業界豆知識】
●エステティックの一種としての「セラピー」
 最近では、エステティックの一種として、「セラピー」が注目されている。「セ ラピー」とは、英語で「治療・療法」の意味だが、「美容・痩身」のイメージがクローズアップされ、美容室で実施するところが増えている。香りで体や心を元気にするアロマセラピー、海水や海の泥を使って健康を維持するタラソセラピーなどがある。
 また、平成7年6月に一部改正された理容師法・美容師法の学習要領の中には、伝染病学、皮膚科学などの他に、エステティックが組み込まれており、今後ますますその市場性が高まってくると思われる。

 

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