美 容 業-2005年
1 概況
2005年
(1) 美容師は人気職種、が、急増する就業美容師
  いまや、美容師は人気職種で、免許取得者を大台に乗せているが、免許を取得しても過剰店舗により独立開業が遅れがちとなり、就業美容師が急増している。また、店舗が過剰のため同業者間の競争が激しくなり、低料金を武器に顧客獲得を目指す美容院が少なくなく、美容業界は戦国時代を迎えている。
(2) 美容師免許件数は毎年7,000人台、新規開業数は毎年1万件台で推移
 平成10年4月に施行された改正美容師法で、美容師養成学校の設立が急増、それに伴って平成11年度以降、美容師免許件数は、毎年ほぼ27,000人台と高水準で推移している。これは、バブル崩壊後、4年から8年における毎年の美容師免許件数12,000〜13,000人の2倍以上に及んでいる。
 また、美容施設数は平成11年度200,682店が、5年後の16年度には213,313店(増加率6.3%)と増えている。しかし、新規開業数は、平成11年度以降16年度まで毎年1万件台で横ばいに推移している。一方、この間の就業美容師数の増加率は17.3%と伸張しており、美容施設数、新規開業の伸び率を大幅に上回っている。
 このことは、美容師免許取得者は増えているものの、店舗が過剰傾向にあるため開業率が低くなり、開業予備軍が、就業美容師として増えている傾向がうかがわれる。
 特徴的なのは、常用雇用者なし施設数の状態である。美容業の常用雇用者なし施設数は、生営18業種の中で最高に多い。平成16年度94,204店は、2位 の理容店68,123店、3位の居酒屋66,658店を約40%も上回っている。また、美容業の施設数全体に占める常用雇用者なし施設数の割合は54.5%と、小零細企業が過半数を占めている。これは1位 の理容業56.9%に次いで2番目に多い。
2 「美容師法」で見る美容業界の仕組み
 一般に、小売業、サービス業について、業種の内容などが法律で定められている事例はほとんど見当たらないが、生活衛生関係営業の各業種は例外となっている。生活衛生関係営業の各業種は、日常の経営活動により、国民の日常生活の衛生向上を図ることが要求されているため、小零細規模の分野にかかわらず、業種、企業行動等について、法律で規定されている。つまり、法令順守(Compliance)が強いられているといえる。美容業には美容師法が定められている。以下、美容師法について、概要を見てみよう。
(1) 美容師法の内容
美容業は、「美容師法」(昭和32年6月施行)により、規則や基準が定められている。
 以下、「美容師法」に定められている規則や基準をかいつまんで、説明しておきたい。
美容、美容師等の定義
 まず、美容の定義であるが、「美容とはパーマネントウェーブ、結髪、化粧等の方法により容姿を美しくすること」と定義されている。また、カッティング、染毛も美容行為の範囲に含まれる。
 次に美容師については「美容を業とするもの」と明確に定義している。ここでいっている「業」とは、反復継続の意思をもって美容業を行うことで、有料、無料を問わないとなっており、暗にボランティア活動を容認している。さらに、美容師は、美容師法に基づき厚生労働大臣の許可を得なければならないとし、美容師の免許を持たない者は、美容を業として行うことはできないと定めている。
美容師は美容師免許が必要
 美容師免許は、高等学校を卒業した後に、厚生労働大臣の指定した美容師養成施設で昼間過程2年、夜間過程2年、通 信過程3年以上にわたり、必要な学科・実習を終了し、さらに美容師試験に合格した者に与えられる。ただし、美容師の必要な資格を欠く欠格事由として、美容師が精神機能の障害により、美容師の業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断、及び意思疎通 を適切に行うことができない者である時は、免許を与えないことがあったり、取り消したりすることができると定めている。また、伝染病の疾病にかかり、就業が適切でないときは、業務停止を命ずることがある、とも定めている。
美容師は原則として美容所で施術
 美容師法は、美容師が美容を行う場所について定めている。原則として、美容師は美容所で美容を行わなくてはならないと定めている。ただし、原則の例外として疾病等により美容所に来られない者に対して美容を行う場合や、婚礼等の儀式に参列する者のために、その儀式の直前に美容を行う場合、その他都道府県知事が認めた場合には出張して行うことができると定めている。なお、出張専門で行う美容師も、対象者がこの条件を満たす限り可能としている。
美容施設の開設・廃止届けの義務
 美容所を開設・廃止するときは、都道府県知事(保健所設置市または特別 区にあっては、市長または区長)に届けなければならない。また、美容所は使用前の検索確認を都道府県知事(保健所設置市または特別 区にあっては、市長または区長)により、受けなければならない。
管理美容師配置の義務
 美容師が複数いる美容所の開設者は、美容所の衛生管理責任者と管理美容師を置かなくてはならないとして、管理美容師の配置を義務付けている。なお、管理美容師は、美容師歴3年以上の者であって、都道府県知事が指定した講習会を終了した者でなくてはならないとして、所定の講習修了者に限定している。
環境衛生監視員による検査など
 美容業は、各営業者が美容師法による衛生基準を守るなどして、適切に業務が運営されているか、都道府県知事(保健所設置市または特別 区にあっては、市長または区長)は、任命した環境衛生監視員により、報告・聴取や立ち入り検査をすることができる、と定めている。国民大衆の衛生水準の維持・向上の立場から、法令順守が厳しく義務付けられている。
3 美容業の特性
(1) 1日当たりの美容師1人が扱う顧客数に限界
 美容院におけるサービスの提供は、1人の美容師が1人の顧客に選任で施術を行うという、作業面 におけると特性がある。しかも、施術は大半が手作業であり、また、顧客が、画一的な髪型を嫌い、各人が好みの髪型を要求するため、製造業のように機械が活用できない。このため、1日当たりの従業員1人当たりの施術人数には限界があり、労働生産性は低くならざるを得ない。いわゆる、労働集約型の業種である。
(2) 作用しない規模の利益
 美容業は、手作業主体で高率の良い機械が使えないこと、顧客獲得の範囲が狭い領域に限定され顧客数の増加を図るのが制約されること、美容師や就業美容師の指名が多く、流れ作業による工程ごとに専門化した分業が不可能である。このため、規模の利益が機能しなく、成長阻害要因として立ちはだかっている。
 分かりやすくするために、美容椅子を従来の2倍に、従業員も2倍にしたとしよう。この場合、売上高は2倍になるだろうが、2倍以上にはならないであろう。なぜなら、美容院の場合、美容師、就業美容師が一人で顧客に対応するため、設備、従業員数を拡大しても1人対1人の世界であり、効率向上が結びつかないからである。また、最新の高性能の機械を使い、多くの顧客を一度に画一的なヘアースタイルに仕上げることは、顧客の多種多様の好みからみて、全く不可能である。売上規模の拡大を志向するのなら、同一タイプの支店を逐次増やすこと以外に方法はない。
(3) 新規参入が容易
 美容業は、新規参入のハードルが低い。美容師の資格を修得するのには時間を要し、美容師試験に合格しなければならないが、開業に必要とされる資金は、労働集約型業種だけに設備資金が比較的少なくすみ、また少数従業員で開業が可能である。近年は、他人の髪をきれいに仕上げるのに関心を持つ若者が増え、若年層の新規開業が増えている。特に、目立つ傾向として、かつては典型的な女性の職場だった美容業界に、近年は若手の男性美容師の新規参入が増えていることが指摘できる。
(4) 狭い営業領域、進む市場の細分化
 美容業の営業領域は、顧客の利便性追及の行動により狭くならざるを得ない。顧客側は、美容院に行く時間と交通 費の節約を図るため、顧客の住宅地周辺、日常の買い物の範囲内、繁華街、勤務地圏内など、顧客自身にとって利便性が追求できる美容院を選択する傾向が強い。一方、美容院側も、顧客の美容院選択の行動に対応した立地に店舗を設置するため、美容業の営業領域は、狭くならざるを得ない。最近、新規開業が毎年11,000店もあるので、一段と市場の細部化が進むと同時に、業者間の競争が激しくなっている。
(5) コンビニ顔負けの店舗展開、地で行く「経営戦略とは他の企業の顧客を奪いとること」
 過当競争の大きな要因は新規開業が比較的容易なことにある。が、最近は一軒隣とか、既存店の真向かいに開業するなど、好立地条件の場所が限界に近づいてきており、限られた商圏内での顧客争奪が激しくなっている。
 ちなみに、国民生活金融公庫が平成17年度に作成した「笑顔の女性経営者」の冊子作成に伴う調査によると、同一商圏内に60店とか、半径1.5km以内に69店、人口13,000人に33店舗などの激戦地が見られる。店舗数が少ない事例でも、半径1km以内に10店ないし11店が競争を展開しており、地域によっては、美容院銀座か、コンビニ顔負けの店舗状況にある。
(6) 主体は個人経営、特に女性従業員は理容に比べ8歳も若い
 以上の特性を受けて、美容業界の経営実態を見ると、次のような特色が指摘できる。(「環境衛生関係営業実態調査」厚生労働省 平成12年)
・組  織
個人経営は75.2%で、理容業の91.3%より少ない。従業者9人以下は90.2%(理容業95.7%)で理容業に比べ少ない。が、美容、理容業とも、小零細企業が圧倒的に多い。
・経営者の年齢
50歳代が43.0%で理容業48.6%より平均年齢は若い。常用雇用者は男性28.2歳(理容業30.4歳)、女性31.9歳(同39.9歳)で、特に女性の平均年齢が理容に比べ8歳も若いのが目立っている。
・営業時間
1日9時間以上10時間未満が40.6%で最も多く、理容業の1日10時間以上84.9%に比べ、美容業の営業時間が圧倒的に短い。
・予約制度
予約制度があるのは59.5%であり、理容業の35.8%に比べ圧倒的に多い。1日の平均客数は9.5人で理容業の9.9人と大差がない。土曜日は13.9人(理容業16人)、日曜日13.6人(理容業17人)と、理容業のほうが、土・日曜日の来店客が多い。
4 従業者規模別 事業所数などの動向
(1) 生衛業種の中で最多の事業所数、16年は一転減少に
 表の「美容業の事業所数の推移」を総務省「事業所・企業統計調査」で見ると、平成16年は172,768店と比較可能な15業種の中で最も多い。13年対比では7,317店減少(減少率4.1%)となり、対前回調査比で8年、11年、13年と増加していたものが、一転減少に転じている。
(2) 従業者規模別では中堅規模が順調に推移
 1〜4人規模の事業所数は、16年62,021店で全体に占める割合は86.6%であり、理容業の95.3%に次いで多く、小零細企業の集中度が高い。13年調査に比べると3.6%減少している。8,11,13年とも前回調査を上回っていたものが、一転減少に転じている。
 5人以上規模層は16年23,096店で構成比は13.4%である。16年は13年調査に比べ1,757店減少(7.1%減)している。
 5人以上では20〜49人が3.4%増と依然として増勢をたどっている半面 、50人以上は、店舗数でみると、11年65店に比べ13年は106店と41店も増加したが、16年は83店になり、13年比で23店減少している。1〜4人規模の全体に占める割合は、86.6%で13年に比べごくわずかに増加している。
(3) 従業者数も減少、1事業所当たりは2.6人
 16年の従業者数は、453,029人で11年に比べ5.4%減少。1事業所あたり2.6人で理容業の2.1人に比べわずかに多い。男女別 では女性従業者数が75.7%であり、理容業45.8%に比べ圧倒的に多い。美容業では女性従業員が、理容では男性従業員が主力となっており、棲み分けが見られる。
美容業の事業所数の推移    (参考)理容業の事業所数と美容師数
(単位:店、%) (単位:店、%)
調査年 従業者規模別 合計 理容業の事業所数 美容師数
1〜4人 5人以上
平成8年 (87.4)
149,988
(12.6)
21,614
(100.0)
171,602
(99.6)
125,564
(101.7)
324,564
  11年 (87.2)
151,662
(12.8)
22,316
(100.0)
173,978
(98.7)
123,940
(104.6)
345,115
  13年 (86.2)
155,232
(13.8)
24,853
(100.0)
180,085
(99.1)
122,859
(106.6)
368,057
  16年 (86.6)
149,672
(13.4)
23,096
(100.0)
172,768
(97.5)
119,755
(109.9)
404,674
注1 ( )内は構成比である。
  2 参考欄の美容師数は年度末計算である。
注 ( )内は前回調査比である。
資料:総務省「事業所・企業統計調査」、厚生労働省「衛生行政報告例」

 

5 家計支出に見る美容への支出状況
(1) 増加に転じたパーマネント代とセット代
 「家計調査年報」(総務省)によると、1世帯当たり年間のパーマネント代の支出金額は、平成17年7,249円と前年に比べ414円減少(5.5%減)。パーマネント代の支出金額は6年から減少に転じ、8〜10年は1万円台、11,12年は9千円台、13,14年は8千円台、15、16、17年は7千円台と次第に縮小してきている。
 カット代は、17年6,040円で前年の6,058円とほぼ同じである。カット代は12年まで毎年増え続けてきたが、14年から減少に転じ、16年には持ち直し、17年は横ばいに推移している。
(2) パーマ代支出が最も多い70歳代
 同調査により世帯主の年齢階級別に17年の1世帯当たり年間パーマネント代支出額をみると、最多支出は70歳以上世帯の12,977円である。支出額は、この70歳以上を頂点に年齢が若くなるにつれ少なくなっている。最少金額は29歳以下世帯の2、180円あり、最多支出の70歳以上に比べわずか16%の水準に過ぎない。
 パーマネントの回数は、17年0.9回であり、最多の昭和60年の2.1回に比べ半分に減っている。パーマネントの価格は7,885円で前年の7,784円に比べ微増程度である。
(3) カット代の最多支出は、50〜59歳
 カット代の最多支出は、50〜59歳7,118円であり、40〜49歳6,758円、60〜69歳6,615円の順となっている。最小は29歳以下の世帯で2,605円である。美容業にとって中高年女性市場は、まさに「ゴールデンマーケット」であるといえよう。カットの回数は、17年1.95回で前年と同じである。17年のカット価格は3,093円で前年と横並びである。
(4) 「パーマネント代」を追い抜いた「他の理・美容代」の支出
 「家計調査年報」(総務省)の美容関連の支出項目に「他の理・美容代」がある。この支出の内容は、美顔術料、エステティック、衣装の着付け、化粧代、なでつけ代、毛染め代、洗髪代、サウナ代が含まれているが、大半が美容業に関連する支出といえる。平成17年は13,619円で前年に比べ2,464円も減少、減少率は15.3%に及んでいる。これらに対する支出は、11年以降は支出増に転じており、14年は前年に比べ9.8%増と大幅に増加、16年の支出はパーマネント代の約2倍に達している。ただし、17年は一過性の減少か、その要因が不明だが、今後の美容業界のあり方や変革を示唆するものとして注目されよう。
6 最近の美容業界の動向
(1) 進む業界の変革、主役は若い経営者の参入
 最近の新規参入は、若い経営者による、新しい店舗形態の美容院が圧倒的に多く、美容業界は若い経営者や大手美容業の台頭等によって、旧態依然の経営から脱皮する転換期を迎えており、美容業界の構造変化が着々と進んでいるといえる。
 旧態依然とした美容院は、概して長い業歴をもち、とくに50歳台以上の主婦の固定客を対象とした美容院が多い。立地は住宅街に位 置するものが多く、店舗の入り口はドアーで店舗内が見えない閉鎖型であり、店の面 積は概して狭い。若い美容師が苦手とする付帯業務の着付けが売り物である。経営者1人による零細型が多く、顔なじみの顧客を主体にした生業型経営が比較的多い。
 半面、若い女性や若い男性の美容師による経営は、繁華街、ビジネス街に位 置している傾向が強い。店舗の前面にガラスを多く使い、開放型の明るい感じの店が主流を占める。セット椅子の数も多く、経営者と同年代位 の若い従業員が中心となっている。これらの店は、常に新しい技術の研鑽と提供を行うと同時に、エステティックやネイルサロンなどの付帯業務部門をもち、料金は比較的割高の高級店が多い。また、積極的に多店化を図り、チェーン店に成長している美容院も中にはある。
(2) 独立志向が高い就業美容師
 就業美容師の大半は、独立志向が強く、特に優秀な人材ほど若年齢で独立する傾向がある。最近は、若い男性の就業美容師の増加で、同じ店内で女性就業美容師と恋愛の機会が多くなり、2人で退職して1軒の店を構える傾向が強まっている。かつては、美容師といえば女性の職場だったが、男性の進出が結婚相手を見つける場に変化しており、一層従業員の定着率を低め、どの美容院も従業員の定着対策には苦労している。
 (財)全国生活衛生営業指導センターの調査(平成5年)により、従業員の独立志向を見てみよう。調査年は古いが、現在でも傾向としては大きな隔たりがないと見られる。この調査によると、従業員のおよそ3分の1は独立を希望している。独立を希望する理由は、1位 「技術・技能を活かしたい」、2位「収入の増加」を図る所得動機、3位 「ゆとりある生活を望む」という仕事を通じての自己実現を図るための動機である。
 一方、独立志向が強い割にはドライな一面がうかがわれる。従業員の店に対する希望を見ると、「技術等の伝授」よりも「休暇の増加」、「労働時間の短縮」が上位 にきている。また、「独立開業のための技術習得や、経験に必要な知識習得に要する時間は、勤務時間内にやって欲しい」が過半を占めているからである。自分なりのライフスタイルの実現を図ろうとする意識優先が見え隠れしている。
(3) 拡大一途のエステティック市場
 エステティックが急速に広まっている。美容業のみならず異業種からの参入が増加し、市場規模は拡大している。エステティックの内容も変化している。従来は脱毛、美顔等が中心であったが、現在は痩身、全身美容等にまで広がっている。また、「リラクゼーション」といったストレスの解消等の面 も強調され、メンズエステも増加している。
 今後は、美容室を利用する際に、ヘアだけでなく「総合美容」の要素を求める消費者が増加することが考えられる。これに応えるため、副業部門を従来の化粧品の販売だけでなく、エステティックなど女性の美的向上の役割を演じるための営業展開が、ますます美容院の求められる時代が来ているといえよう。
(4) ヤンママに連れられ幼い男児までが美容院へ
 若い男性が美容院に行くのは、何ら不思議でない社会現象となっているが、最近では住宅街の美容院には若い母親に連れられて、幼い男児までが美容院に行く傾向が増えつつある。本来、幼い男児は、理容店に行くのを拒む傾向が強く、整髪中にぐずる子供が多いのは、昔も今も変わりがない。美容院に行くのを嫌がらせない目玉 は、セット椅子に設置された小型テレビで、アニメなどの好みのビデオが見られることである。このテレビ活用は、テレビの小型化、ソフトの多様化などITを駆使したものであり、一方では子供がもっている整髪を嫌がる盲点をついた商法の展開である。また、母親が施術中、子供が安心して待っていられるように、「プレイルーム」を設けている美容院がある。
 今後、少子化が進捗する過程で、理容業と美容業の業際戦争は、男児の奪い合いにまで発展して行きそうである。
美容業
(1) 女性のみ美容店の利用状況
「2ヶ月に1回程度」30.2%、「月1回程度」27.9%、「3ヶ月に1回程度」19.6%、「まったく利用した事がない」2.9%
(2) 女性のみ入りやすい美容店の条件
「清潔感がある」59.9%、「料金体系が分かりやすい」50.8%、「気軽な雰囲気」42.0%、「評判が良い」40.4%、「店内が見える」38.0%
(3) 女性のみ事前予約の可否
「あったほうが良い」71.6%、「なくても良い」20.7%
(4) 女性のみ美容店で受けてみたいメニュー
「フェイシャルエステ」37.2%、「メイク」25.7%、「ネイルケア」21.2%、「フットケア」19.9%、「頭皮・毛髪診断」18.3%、「着付け」17.8%、「アロマテラピー」16.0%
7 経営上のポイント
(1) 固定客比率を高める
 東京都生活衛生営業指導センターの「環衛業に係る消費生活調査」は平成8年とやや古いが8年以降は行われていなく、現在でも体制に大きな変化がなく、参考になるので用いることにした。この調査によると、約7割の人が毎回同じ美容室を利用しており固定客化している。固定化割合が最低の年齢層は20歳代であるが、それでも50%弱に達しており、特に50代、60代では約8割強が固定化している。
 一般に繁盛店ほど固定客比率が高いといわれるが、競争が激化するなか、新規の顧客を獲得することは容易ではない。固定客は、安定した売上を美容室にもたらしてくれるほか、1人の満足した固定客が口コミで宣伝・紹介してくれるなど販売促進の効果 もある。たとえば、先の調査によると、美容室を探す方法としては、「口コミ」が64.6%で最も多く、2位 の「店構えをみて選択」の32.3%を大きく引き離している。
 顧客の方も自分の大事な髪を預ける以上、自分の髪の特徴、ファッションの好み等を熟知し、信頼ができる店の固定客になりたいと思っている。また、親身で心温まる接客態度で応じてもらいたいとの意識や、ヘアケアに関しては、個人的なアドバイスを受けたいとの願望が強い。一人ひとりの髪質、ファッションの好み、来店動機等を踏まえた髪の手入れ、アドバイス等の細分化されたニーズに即したヘアケアの管理、顧客サービスなどが、固定愛用者の確保のカギを握っているようだ。
(2) 顧客の固定客化は技術、センスと並んで地縁、人縁が優先
 同調査によると、店を選ぶ基準は「自宅、勤務先などに近い」が68%(複数回答)で、距離的・時間的な利便性を重視した選択が圧倒的に多い。次いで「技術、センスがよい」が44%、3位 には「個人的信頼関係がある」、「雰囲気がよい」、「接客態度がよく差別 がない」など3項目が19%で並ぶ。これからみて、固定客化に結び付くのは、利便性、優れた技術・センスもさることながら、「個人的信頼関係・雰囲気・接客態度」の"三位 一体"が重要な要素になっている。
(3) 「個人的信頼関係・雰囲気・接客態度」は人対人とのコミュニケーション
 美容院の主たる業務は手作業によるものであり、人対人の絆が固定客把握に大きな役割を担っている。一般 に店への帰属意識を高め、固定客作りとして使われている方法として、顧客のカルテ作りやDMの活用、メンバーズカード、各種イベント開催への招待等が活用されている。実は、これらは「形」にすぎない。「形」だけでは、顧客の固定化に限界がある。
 固定客作りには美容師なり従業員なりの人間的な魅力が必要であるが、それは「個人的信頼関係・雰囲気・接客態度」に現れ、人と人とのコミュニケーション作りに効果 を発揮する。
 従業員の定着率の高い店には固定客がつきやすいといわれているが、その背景には人対人とのコミュニケーション作りが意識的に行われているからである。つまり、美容師や従業員と顧客との間において、顧客が特定のスタッフに感情や物の考え方などに共感を覚え、それが指名に結び付くのである。固定客の多くが、店とその従業員に強い帰属意識を持つ背景には、このような相関関係が存在している。
 半面、従業員が頻繁に変わる店には、顧客も親近感や安心感を抱きにくいものである。従業員が定着し、「個人的信頼関係・雰囲気・接客態度」が構築され人対人とのコミュニケーション作りが行われて、初めて固定客獲得への道が開けるのである。
 従業員の定着率を高めるのには、技術指導など人材育成が必要だが、社会保障、雇用保険、退職共済など福利厚生に関する待遇面 の改善も必要であろう。ましてや、前近代的な、先生・徒弟の旧式な感覚では、良質の従業員の定着は望めない。
8 工夫している事例
(1) 企業概況

  • 所在地:福島県南会津郡、人口1万3000人の山間地、65歳以上人口3割弱
  • 立地条件:駅、役場から2分、町の中心部。町内同業者32店と人口比で過多
  • 創 業:平成8年8月
  • 経営者:女性
  • 店舗数:1店
  • 店舗面積:155平米(47坪)
  • 美容セット椅子:5台
  • 従業員数:3名(うちパート1名)
  • 駐車場:6台
(2) 経営の基本姿勢

  • 新しい試みにチャレンジ、お客さまを「きらり」と輝かせ顧客の満足度を高める
  • 栄養士として老人ホームで15年間勤めていた経験から、美容と健康との関係を重視した経営に力を注ぐ
  • 自分で体験して良いと思ったものは積極的に導入
(3) 経営者の特徴
美容師になる動機
老人ホームに栄養士として長年勤務していたが、夫の転勤で退職。友人の美容師がイキイキとしているのを見て美容師に魅力を感じ、通 信教育で美容師の資格を35歳で取得。美容師の仕事が、人と人とのコミュニケーションを交わすこと、人の役に立つ仕事であることに、特に魅力を感じた。
自分なりの構想を独立前から練るほど美容業に対する思い入れが強い
見習いとして美容室に勤務しながら、「自分ならこうしたい」というアイデアが膨らんできて、自分の店を持ったときは常に新しいものを取り入れていこうと、構想を練っていた。
最大目標は顧客の満足度
一番の目標は、お客さんが帰るときに「きらきら」と輝いて欲しく、お客さんがきれいになって、自分の違った一面 を見て満足して、"きらっ"と輝いて欲しいことである。つまり「顧客の満足度」をいかに高めるかを最大の目標にしている。
欠かさない自己研鑽、資産はスタッフと共有の研修内容
毎月2回の講習会に出席、技術や知識の向上など自己研鑽に努力、次ぎ次ぎと開発される新製品の動向を把握している。閉店後、週2回実施しているミーティングで、スタッフにその内容を伝え、店主とスタッフが情報・技術などを共用している。お客さんに体験してもらった後は、必ず感想を求め今後の参考にしている。つまり、このフィードバックは、顧客の立場でモノを見る姿勢を貫くためである。
(4) 工夫している事例
 工夫の中身は、あくまでも先に述べた「経営の基本姿勢」がベースになっている。
美容と健康のためには、運動の習慣は極めて重要であるという視点から、店内にフィットネスルームを設け、エアロビクス教室を始めた。面 積は12坪、定員は8名で、指導はインストラクターに委託している。カイロプラクティックの先生でもあるので、予約次第でエアロビクス教室を使いカイロプラクティック施術も行っている。
店内に子供用のプレイルームを設置
小さい子供を美容院に連れて行くと、店の邪魔になるのではという過去の自己体験から、店内にプレイルームを設置。しかも母親の目の届く範囲内に、また子供から母親の姿が見られる中央に設置。プレイルーム内にはおもちゃや子供用のビデオを用意してあり、子供が飽きないよう配慮している。
リラクゼーションカプセルの導入
講習会で、寝ている間に心と体を休めてくれる「リラクゼーションカプセル」を体験。自分で体験して気持ちが良かったので、高価だが思い切って導入。育児に疲れている若い母親には子供の相手をしてあげて、自分の時間を楽しんでもらったり、高齢者は体を温め、血行を良くしたり、夏にはダイエットカプセルに活用できるなど、来店者の間で大変好評であり、導入の成果 を上げている。
バリアフリー対策に取り組み
車椅子の顧客が来店しやすいように、店の入り口にスロープを作り、車椅子が店内でも使用できるよう什器備品の配置を行っている。また、化粧室でも車椅子が十分入れるようにスペースを確保、中で介護が出来る造りにしてある。
高齢者や目の不自由なお客様を、無料で送迎するサービスを行って、外に出る機会が少ない人にも、美容室が使いやすいように配慮している。
結婚衣装を揃え、ヘアーセットとメイク、フィッティングなどの着付けを行っている。ここでユニークなのは、写 真撮影を行うサービスと、結婚衣装の調達方法である。結婚衣装は結婚式場や貸衣装店から安く譲り受けたり、親戚 から貰い受け、調達コストの低減に工夫を凝らしている。現在、112着も揃えてある。結婚式が挙げられなかった母親へ、娘さんからプレゼントとして利用されることもある。
半年が冬の地域なので、住民が曇天、雪空の下で生活をせざるを得ず、お客様に、どうしても閉じ込められている気分になりがちである。これを少しでも跳ね返し「元気が出る店」のアピールのため、店舗のテーマカラーをオレンジとグリーンに決めブラインドもオレンジを使い、明るい感じの店に内外装を作り上げている。
信号がある十字路の角店であり、誰でもが信号待ちの時には、きょろきょろと周辺を見回す人間の心理を考え、店のガラス戸に季節ごとに手作りの飾り付けを行い、店の存在感を高める工夫をしている。
『まとめ』
 経営者は、美容院勤務時代に、「自分ならこうしたい」というビジョン(夢、将来像、理想像)を描いていた。また、「喜びとは自分の思った通 りにできること」との価値観を持っていたが、自分の思った通りにできることは、顧客の満足度、従業員の満足度を高めることである。
 自分の構想を実現するため、平成16年の春に47坪という広い面 積の店舗をようやく見つけ移転した。移転により、自分の夢を次々と実現していった。経営者の信条は「自分の人生は自分のもの」、これが前向きに挑戦をする原動力になっている。夢を実現したいま、それに止まることなく、「次は何をしようか」と新たな挑戦に向け思索中である。「それを見つけるため、こつこつ勉強してきっと見つけ出す」という。新しい事柄にチャレンジする精神の背景に、並々ならぬ 「芯の強さ」を感じる。
【業界豆知識】エステティックの一種としての「セラピー」
最近「セラピー」が注目を集めている。「セラピー」とは、英語で「治療・療法」の意味だが、「美容・痩身」のイメージがクローズアップされ、美容室で実施するところが増えている。香りで体や心を元気にするアロマセラピー、海水や海の泥を使って健康を維持するタラソセラピーなどがある。
 また、平成7年6月に一部改正された理容師法・美容師法の学習要領の中には、伝染病学、皮膚科学などの他に、エステティックが組み込まれており、今後ますますその市場性が高まってくると思われる。
【トピックス】都道府県別 の新規開業件数(平成16年)
多い順

東京都1223件、大阪府679件、神奈川県569件、北海道490件、愛知県488件、

千葉県443件

少ない順 島根県37件、佐賀県60件、鳥取県63件
資料
  1. 総務省「事業所・企業統計調査」    
  2. 厚生労働省「衛生行政報告例」    
  3. 総務省「家計調査年報」    
  4. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」    
  5. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」    
  6. 金融財政事情「企業審査事典」    
  7. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の生活関連サ−ビス業」    
  8. 中央法規「生活衛生関係営業ハンドブック2005」    
  9. 国民生活金融公庫「経営の工夫事例集」(理容業、美容業)平成15年3月
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