美 容 業-1998年
1 概況
1998年
(1) 小零細規模を中心に事業所数は増加
 平成8年の全国の美容業の事業所数は、171,602件で、平成3年と比べると7,048件増加し、増加率は4.3%である。理容業の事業所数が、平成3年の調査から1,310件減少(1.1%減)しているのとは対照的である。しかし増加数7,048件のうち従業者4人以下の増加数が4,211件で59.7%を占めており、小零細規模中心の増加である。
 従業者規模別でみると、従業者4人以下の事業所数は平成8年は3年に比べ2.8%増で、従業員規模が大きくなるにつれて増加率が高まり5人以上で15.1%増となっているが、従業者4人以下の事業所数は全体の87.4%を占めており、依然として小零細な規模が多い。従業者5人以上の事業所が、平成3年に比べて2,837件増加しているものの、1事業所あたりの平均従業者数は、2.5人(理容業では2.2人)に過ぎない。
 
美容業の事業所数と美容師数の推移
(単位:件,%)
調査年 従業者規模別 事業所数
合計
美容師数
(人)
(参考)
理容業の
事業所数
1〜4人 5人以上
昭和56年 (89.4)
124,475
(10.6)
14,744
( 100.0)
139,219
267,382 127,506
昭和61年 (88.2)
137,750
(11.8)
18,345
( 100.0)
156,095
301,175 128,203
平成3年 (88.6)
145,777
(11.4)
18,777
( 100.0)
164,554
314,704 126,978
平成6年 (88.7)
148,665
(11.3)
18,900
( 100.0)
167,565
324,566 126,026
平成8年 (87.4)
149,988
(12.6)
21,614
( 100.0)
171,602
329,995 125,564
資料: 総務庁「事業所統計調査」(平成6年は「名簿整備調査」)
厚生省「衛生行政業務報告」
(注)( )内は構成比である。

(2) 増加する新規参入件数、美容師数は過去最高
営業許可使用確認の新規件数(厚生省「衛生行政業務報告」)は、平成7年に初めて1万件を超え、前年比5.3%増の10,179件となった。8年も引き続き増え10,221件で、増加率は前年比0.4%増と鈍化しているものの、美容業者数は理容業とは対照的に増加傾向にある。また、近年、大手美容業者が系列化、チェーン店化を図る動きも目立っている。
 平成8年12月末日現在の全国の美容師数は、329,995人(前年比0.7%増)で過去最高を記録した。新規の免許を受ける美容師数は、平成7年13,026人で前年比1.2%増だが、8年は前年比4.8%増の13,652人と増えている。理容業の新規免許理容師数は平成8年が4,456人であるから、美容師のそれは3倍に当たる。
(3) 利用回数の変動で左右される売上高
   「家計調査年報」(総務庁)により、1世帯当たり年間のパ−マネント代、セット代、カット代の長期的な推移をみると、もっとも支出額の多いパ−マネント代は平成4年を境に減少し、8〜9年と横ばいに転じている。セット代は家庭で簡単にできる「カ−ルドライヤ−」の普及の影響もあってか傾向的に減少している。一方、カット代は傾向的に上昇している。
 
一世帯当たり各種別の年間支出金額の推移
(パーマネント代、セット代、カット代)

昭和 
50年
55年 60年 63年 平成 
元年
 2年  3年
パーマネント 7,032 10,579 11,548 11,308 11,489 11,570 12,276
セット代 1,948 2,122 1,617 1,624 1,519 1,465 1,443
カット代 3,670 3,708 3,832 4,071

平成 
4年
 5年  6年  7年  8年  9年
パーマネント 12,961 12,641 11,948 11,084 10,572 10,569
セット代 1,386 1,257 1,110 1,089 964 893
カット代 4,330 4,443 4,778 4,725 4,630 5,224
 
各種目別に平成9年の支出金額、利用回数、料金について4年と比較してみたのが下記の表である。
種目別の支出金額、利用回数の比較

支出金額(円) 利用回数(回)
平成 
4年
平成 
9年
増減(%) 平成 
4年
平成 
9年
増減(%)
パーマ代 12,961 10,569 △ 18.5 1.95 1.42 △ 27.0
セット代 1,386 893 △ 35.6 0.62 0.33 △ 45.9
カット代 4,330 5,224 20.6 1.60 1.69 5.6
種目別の料金の比較

料 金(円)
平成4年 平成9年 増減(%)
パーマ代 6,640 7,423 11.8
セット代 2,231 2,654 18.9
カット代 2,694 3,077 14.2
資料:総務庁「家計調査年報」

   この表によると、最近の5年間では料金のみ一様に上昇している。しかし、利用回数はパ−マネント、セットが大幅に減少し、カットのみが増えているが、この差がパ−マネント代、セット代の支出金額を大幅に減少させる主要因となっている。カット代の利用回数の上昇は、男性の若者を中心とする「理容離れ」現象で、カットを目的にした男性客の美容院へのシフトも影響しているものと思われる。
(4)  パ−マネント代を追い抜いた「他の理・美容代」「家計調査年報」(総務庁)の美容関連の支出項目である「他の理・美容代」が、平成7年を境にパ−マネント代を追い抜いた。9年では「他の理・美容代」の12,173円が「パ−マネント代」の10,569円を1,600円も上回っている。この項目の中身は、美顔、エステティック、ヘアダイ、シャンプ−代、着付料のほか、サウナ料金なども含まれるので、どの位 までが美容関連の支出か範囲が判定しかねる面が残る。しかし、中高年女性がヘア−ダイのために美容院へ通 う回数を増やしているなど、高齢化社会への移行につれた変化が生じており、支出項目に含まれている中身からみて、 「他の理・美容代」の増大は、今後の美容業界のあり方や変遷を示唆するものとして注目されよう。
(5) 髪にこだわる高知市の女性
 同調査による都市別のパ−マネント代の支出が多い順では、高知市、札幌市、名古屋市となる。逆に支出がもっとも少いのは那覇市で、支出金額の5,079円はもっとも支出の多い高知市の15,286円のわずか3分の1である。次いで高松市、静岡市、青森市となるが、全国平均の約7割弱に過ぎない。なお、高知市ではセット代も2番目に多い。
 
2 最近の動向

(1) 若い経営者の参入が押し進める業界の変革
 美容院は、立地によってほぼ2分される。概して古い業歴をもち、とくに50歳台以上の主婦の固定客を対象とした生業的な美容院は、住宅街に位 置するものが多い。このタイプの美容院は値ごろ感が売り物で、付帯業務として着付けなども行うが、店の面 積は狭く生活密着型の旧態依然とした経営が比較的多い。
 一方、経営者が若い女性や若い男性の美容師による経営は、繁華街に位 置している傾向が強い。店舗の前面に多くガラスを使い明るい感じの店で、セット椅子の数も多く、若い従業員が中心となっている。これらの店は、常に新しい技術の研鑽と提供を行うと同時に、エステティックやネイルサロンなどの付帯業務部門をもち、料金は比較的割高の高級店が多い。また、積極的に多店化を図り、規模大のチェ−ン店に成長している美容院が少なくない。最近の新規参入は、後者のタイプの美容院が圧倒的に多く、美容業界は若い経営者によって旧態依然の経営から、脱皮する転換期を迎えており、美容業界の構造変化が着々と進んでいるといえよう。
(2) 美容師の高い独立志向
 美容師を志向する従業員には独立志向が強い人材が多く、優秀な人材ほど独立する傾向があるので、どの美容室も従業員の定着対策には苦労している。(財)全国環境衛生営業指導センターの調査(平成5年)によると、およそ3分の1の従業員は独立を希望している。独立を希望する理由としては、「技術・技能を活かしたい」が1位 になっている。続いて「収入の増加」を図る所得動機と、「ゆとりある生活を望む」という仕事を通 じての自己実現を図るための動機が続いている。ただし、従業員の店に対する希望は「技術等の伝授」よりも「休暇の増加」「労働時間の短縮」が上位 となっており、自分なりのライフスタイルの実現を図ろうとする意識を優先させている。この傾向は、技術研鑽の時間の割り振りにも現われている。「独立開業のための技術習得や、経験に必要な知識習得に要する時間は、勤務時間内にやって欲しい」が過半を占めており、独立志向が強い割にはドライな一面 がうかがわれる。
(3) エステティック市場の拡大
 エステティックは近年急速に広まった。美容業のみならず異業種からの参入が増加し、現在の市場規模は4,000億円前後になっているともいわれる。エステティックの内容は、従来は脱毛、美顔等が中心であったが、現在は痩身、全身美容等にまで広がっている。また、「リラクゼーション」といったストレスの解消等の面 も強調され、メンズエステも徐々に増加している。
 今後は、美容室を利用する際に、ヘアだけでなく「総合美容」の要素を求める消費者が増加することが考えられる。これに応えるため、副業部門を従来の化粧品の販売だけでなく、エステテイックなど女性の美的向上を演出するための営業への進出がますます増えることが予想される。

3 経営上のポイント

 

(1) 固定客比率を高める
 東京都環境衛生営業指導センターの調査(平成8年)によると、約7割の人が毎回同じ美容室を利用しており固定客化している。固定化割合は最低が20歳代であるが、それでも50%弱に達しており、特に50代、60代では約8割強が固定化している。
 一般に繁盛店ほど固定客比率が高いといわれるが、競争が激化するなか、新規の顧客を獲得することは容易ではない。固定客は安定した売上を美容室にもたらしてくれるほか、1人の満足した固定客が口コミで宣伝・紹介してくれるなど販売促進の効果 もある。たとえば、先の調査によると、美容室の選択方法は、「口コミ」が64.6%でもっとも多く、2位 の「店構えをみて選択」の32.3%を大きく引き離している。
 また、顧客の方も自分の大事な髪を預ける以上、自分の髪の特徴、ファッションの好み等を熟知し、信頼ができる店の固定客になりたいと思っている。また、親身で心温まる接客態度で応じてもらいたいとの意識や、ヘアケアに関してはパーソナルなアドバイスを受けたいとの願望が強い。一人ひとりの髪質、ファッションの好み、来店動機等を踏まえた髪の手入れ、アドバイス等、細かなニーズに即したヘアケア、顧客サービスが大切である。
(2) 客の帰属意識と従業員の定着化
 固定客の多くは、店とその従業員に帰属意識を持っているとの見方が強いが、客の店への帰属意識を高める手段としては、顧客のカルテ作りやDMの活用、メンバーズカード、各種イベント開催への招待等が常に必要となってくる。また、顧客にとっては、技術をベースにした従業員の接客態度も重要なウエ−トを占める。確かに従業員の定着の良い店には固定客が付き易いといわれている。技術はもとより従業員が頻繁に変わる店には、顧客も親近感や安心感を抱きにくいものである。従業員が定着化するような店づくりが固定客を獲得する道につながる。
 従業員の定着を高めるのには、社会保障、雇用保険、退職共済など福利厚生に関する待遇面 の改善も必要であろう。ましてや、前近代的な、先生・徒弟の感覚では、優秀な従業員の定着は望めない。

4 繁盛店の事例

 

(1) 自筆DMで顧客をフォロー
 住宅街にあるA店は、オーナーと女性技術者2名の小規模店であるが、小規模店ならではの顧客とのきめ細かい交流を大切にしている。そのなかでも店と顧客とをつなぐものとして、自筆のDMを活用して成果 をあげている。
 新規客の支払い時に、無料の会員カードをすすめ、氏名、住所を教えてもらうように努め、氏名、住所にもとづき施術内容、会話内容、頭髪の特徴、個性等をカルテに書き込む。その後、施術を担当した者が1週間以内に自筆のDMを発送する。DMの内容は、来店のお礼に始まり、施術後のヘアスタイル等の状態をうかがうとともに、自分の名前と再度の来店をお待ちする旨を記入している。
 また、カルテをチエックしカット、パーマごとの周期を見計らって来店勧誘のはがきを手書きで出している。手間はかかるが、心を込めて書くことにより1枚のはがきが顧客の心を動かし来店につながり、固定客化を促進させる一助となっている。
(2) 美容室兼画廊で落ち着ける雰囲気を
 地方都市にあるB店では、美容室、画廊喫茶、アメリカ製の小物の販売をミックスしている。オーナーは「悩んでいる人、心にゆとりがない人は髪を見ればわかる」ことから、少しでもリラックスした雰囲気を作っていきたいという意図から始めた。
 当初は、美容室兼画廊喫茶であったが、オーナーが直接アメリカから買い付けてきた千円程度から購入できるキッチン用品等を中心に小物の販売も開始し、主婦などから好評を得ている。また、子ども連れの女性客には、喫茶コーナーを担当している店主の奥さんが子供の相手をしたり、客が安心して施術を受けられように心配りするなど、店内にくつろいだ雰囲気を醸しだすよう努めている。
(3) コンピューターを活用してヘアスタイルをアドバイス
 美容室が林立し競争が厳しい地区で先行美容室として営業しているC店では、他店との差別 化を図るためにコンピューターを活用してヘアスタイル診断を行っている。後発美容室が低価格を武器に、派手なチラシを活用して参入してきたことに対抗した作戦でもあった。入口近くに「カウンセリングコーナー」を設け、顧客の要望を入念に聞くとともに担当の美容師を決めている。その際に顧客の要望に応じてコンピューターを使ったビジュアルなアドバイスを行っている。具体的には、顧客が持参した顔写 真に顧客の希望するヘアスタイル、毛髪状態、手入れの状況を入力し、データ化しているヘアスタイルから適合するものを選択して、それぞれ3パターンのモニター写 真を提示する。顧客にとってはパーマ等の施術直後のイメージはわかっても1ヵ月先、2ヵ月先のイメージはわかりにくいものであり、パターンごとに1ヵ月先、2ヵ月先の予想イメージ図を提示し好評を得ている。

【業界豆知識】
 エステティックの一種としての「セラピー」
 最近では、エステティックの一種として、「セラピー」が注目されている。「セラピー」とは、英語で「治療・療法」の意味だが、「美容・痩身」のイメージがクローズアップされ、美容室で実施するところが増えている。香りで体や心を元気にするアロマセラピー、海水や海の泥を使って健康を維持するタラソセラピーなどがある。
 また、平成7年6月に一部改正された理容師法・美容師法の学習要領の中には、伝染病学、皮膚科学などの他に、エステティックが組み込まれており、今後ますますその市場性が高まってくると思われる。

    資料

    1. 総務庁「事業所統計調査」
    2. 総務庁「家計調査年報」
    3. (財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」
    4. (財)全国環境衛生営業指導センター「成功事例調査」
    5. 金融財政事情「企業審査事典」
    6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の生活関連サ−ビス業」
    7. 経営情報出版社「業種別業界情報」’98年版