ホテル・旅館業-2008年
1 概況
2008年
(1) 事業所数の推移
   総務省「事業所・企業統計調査」により事業所数(民営)を見ると、「旅館ホテル」を中心に減少傾向にあるが、減少続きの「簡易宿所」が若干増加に転じている。
ホテル・旅館の事業所数(民営)の推移表
 
ホテル・旅館の事業所数の推移グラフ
(2) 施設数の推移

 厚生労働省「衛生行政報告例」によりホテル及び旅館業について、施設数と客室数の推移を見ると、ホテル営業が増加、旅館営業が減少の傾向が顕著に見られる。旅館営業の平成元年前後(バブル期)の客室数の増加は、旅館施設の巨大化現象を現わしており、当時の記憶が戻る。以降の経緯は、数字が現実を表わしている。

・ホテル旅館業の施設数及び客室数の推移

調査年次

ホ テ ル 営 業

旅 館 営 業

施設数

客室数

平均客室数

施設数

客室数

平均客室数

昭和45年

454

40,652

89.5

77,439

763,091

9.9

50年

1,149

109,998

95.7

82,458

902,882

10.9

55年

2,039

178,074

87.3

83,226

964,063

11.6

60年

3,332

267,397

80.3

80,996

1,022,005

12.6

平成元年

4,970

369,011

74.2

77,269

1,024,287

13.3

5年

6,633

485,658

73.2

73,033

1,010,072

13.8

10年度

7,944

595,839

75.0

67,891

974,036

13.3

15年度

8,686

664,460

76.5

59,754

898,407

15.0

17年度

8,990

698,378

77.7

55,567

850,071

15.3

18年度

9,180

721,903

78.6

54,107

843,197

15.6

19年度

9,422

766,297

81.3

52,295

822,568

15.7

資料:厚生労働省「衛生行政報告例」

(3) 最近の業界動向
多様化する所有形態、運営方法
   旅館業の施設所有は、リースにより賃貸するケースや信託会社からの信託など、営業者が旅館施設所有者でない場合等、多様化が進展している。また、運営方法も自社運営せず、同業他社などに経営委託する方式やFCシステムの傘下として運営することなども増加してきている。
経営破綻した旅館業の再生事業
 温泉地、観光地等の経営破綻した老舗旅館の再生事業に新たなビジネスとして参入が見られ、再生事業専門の企業グループも存在する。低廉な評価で施設、資産を買い取り、徹底的にコスト削減した運営で、大量の宿泊者を取り込む経営手法が一般的である。需要と供給の関係がどこまで継続するか、評価を待ちたい。
小規模事業体の減少
 総務省「事業所・企業統計調査」を見ると、旅館業の従業者数1〜4人層の小規模事業所が減少している。他の業界においても同様の傾向にあるものの、旅館業は装置産業であり、その維持や接客サービスにおいても従業員は必需品であり、固定費負担が常時伴う。人的サービスに過度に依存しない営業で如何に対応するか、損益分岐点分析を的確に実施することが求められる。
簡易宿所の需要増加
 欧米中心に海外からの旅行者の宿泊施設は、関東では「東京都台東区」、近畿では「大阪市浪速区」「京都市下京区」等の交通利便な簡易宿所を利用することが増加している。理由は一に「為替変動=円高」の影響による、宿泊費負担の軽減目的と推定される。この状況に即して、施設の拡充や改築、会話の可能な従業員の確保など対応策を講じている簡易宿所営業が増加している。

2 ホテル・旅館業の特性と現状

 厚生労働省の委託により全国生活衛生営業指導センターが実施した「平成18年度生活衛生関係営業経営実態調査(旅館業)」から、ホテル・旅館業の現状を探ってみたい。
(1) 固定化する産業としての特性
ホテル・旅館業の産業としての特性は、これまでの分析結果から次のように類型化される。
・資本集約型の装置産業的性格を持ち、多額の設備投資が必要であること。
・投下資本の回収に長期を要すること。
・収入は客室数によって制約を受け、一方で、価格が硬直的で弾力性に欠けること。
・施設の維持、接客など人件費等の固定費負担が大きいこと。
・需要に季節性があり、結果として収入に波があること。
(2) 施設1日当たりの平均宿泊客数は約90人、客単価は10千円
 1日当たりの宿泊者数は「30人以上」が57.7%を占め、平均客数は90.7人でホテル営業を含めての調査であることから平均値が大きくなっていると推定される。
宿泊客1人当たりの平均利用単価は10,377円となっている。ホテルや簡易宿所営業では「7千円未満」の割合が高く、旅館営業では「10〜15千円」の価格帯の割合が高い。
(3) 宿泊予約は旅行代理店依存
 宿泊申込方法の状況については「旅行代理店等の斡旋」の割合が高く、旅館営業では57.9%、ホテル営業では51.6%を占め、依存度が依然として高い。簡易宿所営業では「電話等での予約」、「固定客」が高い。「インターネット予約」は、ホテル営業で最も高いが2.3%に過ぎず、定着は今後といえる。
(4) 高齢者等に配慮した設備の設置は80%弱
 高齢者や車椅子の方に配慮した設備の設置では、76.7%が何等かの対応をしている。「階段に手摺の設置」70.2%、「出入口や廊下に段差解消」55.4%、「トイレに手摺の設置」345%の順であるが、高齢化社会に向けた対応としては万全とは言い難い状況といえよう。
(5) 経営上の問題点は「客数の減少」「設備の老朽化」
 経営上の問題点としては、「客数の減少」56.1%、「設備の老朽化」53.5%、「燃料費の上昇」47.3%、「客単価の減少」47.2%の順である。上位2点は自己努力の範疇であり、経営者自身がどう対応するのかが課題である。

3 「旅館業法」に定める規則等

 「旅館業の業務の適正な運営を確保し、業の健全な発達を図り、利用者の需要の高度化及び多様化に適応したサービスの提供を促進し、もって公衆衛生及び国民生活の向上に寄与すること」を目的に、「旅館業法」が昭和23年7月に施行されている。
(1) 旅館業の定義
 旅館業は、「宿泊料を受け入れて、人を宿泊させる業」と定義され、また、宿泊とは「寝具を使用して施設を利用すること」としている。宿泊料を徴することが必須要件であり、その料金には施設や寝具等の使用料とみなす、休憩料、寝具賃貸料、寝具等の洗濯料金、光熱水道料、施設清掃費用等が含まれる。
(2) 旅館業の種類
   法律では、旅館業を「ホテル営業」「旅館営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の4種類に区分し、各々の内容を定めており概要は次のとおりである。
ホテル営業
 洋式の構造及び設備を主とする施設で営業し、宿泊者との面接に適する玄関帳場その他これに類する設備を有し、簡易宿所及び下宿営業以外のもの
・客室は10室以上、面積は1室9u以上で、他室等との境は壁であること。
・寝具は洋式のものを備え、出入り口及び窓は施錠できること。
・適当数の洋式浴場又はシャワー室を設け、洗面設備と暖房設備を有すること。
・便所は水洗式かつ座便式であり、共同で利用する場合は男女の区別があること。
・学校等の周囲から概ね100m以内に施設を設置する場合、射幸心をそそる恐れのある施設を見通すことをさえぎる設備を有すること。
旅館営業
 和式の構造及び設備を主とする施設で営業し、宿泊者との面接に適する玄関帳場その他これに類する設備を有し、簡易宿所及び下宿営業以外のもの
・客室は5室以上、和式構造の部屋面積は7u以上、洋式構造の部屋面積はホテル営業の基準に該当すること。
・公衆浴場に近接していない場合、需要に適する規模の入浴施設を有すること。
・適当な規模の洗面設備と適当な数の便所を有すること。
・学校等の周囲から概ね100m以内に施設を設置する場合、射幸心をそそる恐れのある施設を見通すことをさえぎる設備を有すること。
簡易宿所営業
 宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設で営業し、下宿営業以外のもの
・客室の延べ床面積は33u以上であること。
・階層式寝台を設置する場合は、上段と下段の間隔は概ね1m以上であること。
・公衆浴場に近接していない場合、需要を満たす規模の入浴施設を有すること。
・適当な規模の洗面設備と適当な数の便所を有すること。
下宿営業
 1月以上の期間を単位とする宿泊料を受け、施設を設けて人を宿泊させる営業
・公衆浴場に近接していない場合、需要に適する規模の入浴施設を有すること。
・適当な規模の洗面設備と適当な数の便所を有すること。
(3) 営業の許可及び運営上の衛生基準等
 旅館業を営業する場合、都道府県知事(保健所設置市又は特別区にあっては、市長又は区長)の許可を受ける必要がある。当該許可は旅館業法施行令に定める構造設備基準に準拠するものでなければならない。
また、旅館業の運営は、都道府県条例に定める換気、採光、照明、防湿、清潔等の衛生基準や構造設備に準拠しなければならない。
(4) 宿泊せることの義務と宿泊者名簿の備付
 旅館業を営業する者は、宿泊しようとする者が伝染性の疾病が明らかな場合や違法行為又は風紀を乱す恐れのある場合等を除き、宿泊を拒んではならない。
また、宿泊者名簿を備え、宿泊者の氏名、住所、職業等を記載し、求めに応じて提出しなければならない。
(5) 環境衛生監視員による検査
 旅館業の営業する場合、旅館業法等に定める構造設備、衛生基準を遵守して運営しているか、都道府県知事(保健所設置市又は特別区にあっては、市長又は区長)は環境衛生監視員を設置し、当該監視員等から報告を求めることとしている。また、監視員は必要に応じて立入検査ができる。
(6) 業務改善命令、営業許可の取消又は営業停止
 都道府県知事(保健所設置市又は特別区にあっては、市長又は区長)は、営業施設の構造設備が政令等で定める基準に適合しなくなったと認める場合は改善命令を、この法律若しくはこの法律の処分に違反した場合は許可の取消又は営業停止を命ずることができる。また、刑法、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律、売春防止法、児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律により罰せられた場合についても、許可の取消又は営業停止を命ずることができる。ただし、許可の取消を行う場合、公開による聴聞会を開催する。

4 ホテル・旅館業の業界よもやま

(1) 氾濫するホテル・旅館の商業ベース呼称
   旅館業法の分類とは別に、ホテルや旅館の営業用の呼称が様々飛び交っている。商業ベースの逞しさが窺えるが、特徴を的確に表現している他、歴史的な変遷を物語る呼称であり興味深い。
ホテル営業
  ・シティホテル
宴会場等の付帯設備を完備し、宿泊以外に会議や婚礼等に対応する複合型の多機能ホテル
・コンベンションホテル
大規模な会議場や展示場を備えた複合型の多機能ホテル
・コミュニティホテル
観光や商用での宿泊の他、地域住民の小規模会議や講演等の交流の場として機能するホテル
・エコノミィホテル
駅前等の交通至便な立地で、早朝チェックアウトなど、利便性優先の低料金ホテル
・ビジネスホテル
駅前等の交通至便な立地で、清潔・快適感が売り物の1人用客室を主体に、出張旅費の範囲で宿泊可能な低料金・単機能ホテル
・リゾートホテル
海浜や高原等の観光地や保養地に立地し、ゴルフ場、スキー場等のレクリエーション施設が併設又は隣接した行楽滞在型ホテル
旅館営業
  ・温泉旅館
温泉湧地にあって、観光の他、保養や療養等の湯治に利用される旅館
・観光旅館
地域の観光資源に依存しつつ、観光客に宿泊場所を提供する旅館
・割烹旅館
地域の食材を主体とする日本料理を主に提供する旅館
・ビジネス旅館
商用で滞在する者などに、サービスを省力化し、低料金で宿泊機能に特化した旅館
(2) 観光立国推進基本法
 平成19年1月「観光立国推進基本法」が施行され、「観光事業者は、住民の福祉に配慮するとともに、主体的に取り組むものとすること」と規定している。
(3) 平成17年度観光消費額24兆円
 国土交通省「観光白書」により「平成17年度観光消費額」を見ると、宿泊旅行16.1兆円(前年比1.4%減)、日帰り旅行4.6兆円(前年比2.7%増)、訪日観光1.6兆円(前年比3.9%増)となり、合計24.4兆円で前年と同程度で推移している。日帰り旅行は愛知万博の後押しで増加している。
(4) 経営のポイント
「団体ツアー」から「少人数グループ」に移行する旅行形態、価格競争の激化、宿泊需要の減少等、経営環境の変化が著しく、借入金負担の重圧もあって、経営面での課題は山積している。厚生労働省「旅館業の実態と経営改善の方策」から経営のポイントを探ってみたい。
地域資源の活用
   立地する観光資源や産地食材の取り込みなど地域資源を再認識し、その活用から付加価値・満足度の向上を図ることで、差別化をさらに推進させる。
多様化する顧客ニーズの把握
 非日常空間の提供、「おもてなし」コンセプトの再認識が不可欠であり、顧客満足度の分析など自社の置かれている実態を直視し、対応策を常に見直していく。
IT活用による情報発信と利便性向上
 ホームページ開設等により、施設、サービス内容を正確に伝達することで顧客に向き合い、予約システムを構築するなど、利便性の向上を図る。
経営者の意識改革と人材育成
 厳しい環境下にあって、その変化に対応するには経営者の意識改革が不可欠である。更に、経営の実際を共有する従業員の存在が重要であり、人材の育成に注力が必要である。



資料

    1 総務省「事業所・企業統計調査」

    2 総務省「家計調査年報」

    3 国土交通省「観光白書」

    4 厚生労働省「衛生行政報告例」

    5 厚生労働省「旅館業の実態と経営改善の方策」平成19年12月

    6 厚生労働省「平成18年度生活衛生関係営業経営実態調査(旅館業)」

    7 全国生活衛生営業指導センター「生活衛生関係営業ハンドブック2008」

     

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