ホテル・旅館業-2003年
1 概況
2003年
(1)
多様化する旅館業
    総務省の「日本標準産業分類」によると、ホテル・旅館営業は「旅館、その他の宿泊所」に分類される。この中には、一般 公衆に提供する営利的宿泊施設、特定の団体の会員のみに限定された宿泊施設、会社、官公署、学校、病院などの事業体付属の宿泊施設およびキャンプ場が含まれる。
  このうち旅館業は、主として短期間宿泊(通例、日を単位)、または宿泊と食事を一般 公衆に提供する営利的な事業所をいう。具体的には、旅館、ホテル、観光ホテル、ビジネスホテル、宿屋、温泉旅館、割ぽう旅館、国民宿舎、民宿、モ−テル、国民旅館が含まれる。
(2) 減少傾向に歯止めがかからないホテル・旅館の事業所数
  平成13年の全国のホテル・旅館の事業所数は、総務省の事業所・企業統計調査によると56,824軒で、11年と比べると3,307軒減少となっているが、8年対比11年の4,251軒減少に比べ減少数が縮小している。減少率は5.5%減で、減少傾向に歯止めがかかっていない。
  従業者数は731,227人で、11年に比べ2.4%減少しており、8年対比11年の6.3%減に比べ減少幅が少なくなっている。1事業所当たりの従業者数は12.9人で11年の12.5人とほぼ同じである。
  業態別の営業施設数を厚生省「衛生行政報告例」でみると、13年度末の旅館数は63,388軒で11年度末に比べ5.1%減、ホテル数は8,363軒で3.1%増となっている。旅館数は、昭和55年を境に減少傾向にある半面 、ホテル数は比較可能である昭和50年以降のデ−タでみると増勢傾向にある。
  平成13年の法・個人別事業所数は、個人が30,627軒(構成比53.9%)、法人は26,119軒(同46.1%)となっており、経営の近代化は遅々として進んでいない。事業所数を11年と比べると個人が8.4%減に対し、法人は1.7%減と個人の減少率の方が圧倒的に高い。
  事業所数を従業者規模別でみると、4人以下の小規模店が全体の52.0%となっており、11年の54.2%に比べ減少している。11年と比べると全体で3,307軒(9.3%減)減少しているが、規模別 にみると1〜4人規模が3,027軒と全体の減少数の91.5%を占め、小零細規模の整理淘汰が進捗している。
  規模別増減率を11年対比でみると、増加しているのは20〜29人0.1%増、300人以上4.0%増の2区分に過ぎず、他の規模はいずれも減少している。とくに、50〜299人規模層では、50〜99人4.1%減、100〜199人6.6%減、200〜299人19.2%減と規模が大きくなるにつれ減少率が拡大している。これを実数でみると、50〜299人規模層は11年2,418軒から13年には2,266軒へと152軒も減少しており、中堅以上の規模層でも競争激化に伴う撤退の様相がうかがわれる。

  また、13年の業態別の平均客室数(B÷A)をみると、旅館営業では平均客室数が14.9室にとどまっているが、ホテル営業はこれをはるかに上回り、平均客室数は78.6室を持って営業している。このように、ホテル・旅館業は平均客室数でみても業態による二極化が顕著となっている。


 事業所数の推移
 ホテル・旅館
調査年 施設数
営業全体
平成 6年 (96.8)
66,752
平成 8年 (96.4)
64,382
平成11年 (96.4)
60,131
平成13年 (96.4)
56,824

 (参考) 業態別の推移
  ☆ホテル営業 ☆旅館営業
施設数A 客室数B 平均客室数
(B÷A)
(118.6)
6,923
515,207 74.4
(107.1)
7,412
556,748 75.1
(109.4)
8,110
612,581 75.5
(103.1)
8,110
637,850 78.6
施設数A 客室数B 平均客室数
(B÷A)
(96.6)
72,325
1,004,790 13.9
(97.3)
70,393
1,002,024 14.2
(97.3)
66,766
967,645 14.5
(96.4)
60,131
943,377 14.9

資料:事業所数全体は総務省「事業所・企業統計調査」、業態別 は厚生省「衛生行政業報告」
注1 ( )内は対前回調査比である。
  2 業態別の内訳は営業許可区分による。
  3 事業所数と業態別合計とは一致しない。
  4 業態別推移のホテル営業、旅館営業の平成13年の数字は、年度の合計である。

 

(3)
頭打ちとなった旅館への需要
  総務省「家計調査年報」によると、平成14年の1世帯当たり国内パック旅行費は42,925円である。前年増減比をみると、9年には3.2%増と増加に転じたが、10年1.5%増、11年0.4%増と増加率は縮小から、12年には10.1%減と大幅減、13年は増加に転じたが、わずかに0.1%増と微増に過ぎなく、14年には6.4%と減少している。国内のホテル・旅館への需要は、頭打ち状態になっている傾向にある。
  しかし、かといって海外旅行にシフトしているわけではない。平成13年9月のニュ−ヨ−クのテロ事件、さらにSARS問題、イラク戦争発生などで海外渡航が制約を受け、海外パック旅行費は13年20,614円(前年比19.5%減)、14年17,306円(16.0%減)と大幅に減少している。
  同調査で、国内パック旅行費を年齢階層別世帯でみると、最多支出の60〜69歳は62,836円、次いで70歳以上が51,771円で、60〜69歳は全世帯平均の1.5倍にもなっている。なお、60〜69歳以下の層でみると、50〜59歳4万円弱、40〜49歳3・5万円台、30〜39歳3万円弱、29歳以下1・5万円と年齢が若くなるにつれ支出が減少している。最多支出の60〜69歳は、29歳以下の3.9倍と年齢間の格差が著しい。
  参考までに、海外パック旅行費の最多支出は、70歳以上世帯で24,991円、次いで60〜69歳が22,290円であり、70歳以上は最小支出の30〜39歳9,834円の2.5倍になっている。海外旅行でも、高齢者層の支出水準が高いのが目立っている。
  同調査による都市別支出の国内パック旅行費をみると、最多支出は京都市63,326円、次いで甲府市62,954円、千葉市56,894円となっている。一方、支出が少ない順では、長崎市17,668円、次に青森市19,551円、宮崎市23,192円となっている。最多の京都市は全国平均の1.5倍、最小支出の長崎市の3.6倍に及んでいる。
  参考までに外国パック旅行費を多い順にみると、佐賀市45,636円、岡山市41,113円、千葉市37,991円となっている。
2 最近の動向
(1)
海国内観光市場は後退傾向
  国民1人当たりの宿泊観光旅行回数は、平成3年の3.06回をピ−クに下降をたどり、14年は2.24回と少なくなっている。また、宿泊数も3年1.73回が14年には1.41回に後退している。(国土交通 省総合政策局観光部調べ)
  国内旅行の主流は、年々団体旅行から個人旅行あるいは小人数のグル−プ旅行に移りつつある。主な旅行先としては、北海道、沖縄方面 が増えているほか、若い人たちの間では、温泉ブ−ムの兆しがうかかがわれる。
(2)
テロの余波で伸び悩む海外旅行
 海外旅行者数は、昭和61年551万人を境に急速に伸びて、平成12年は1,781万人と3.2倍に増えた。しかし、13年はテロの影響で1,621万人と前年を9.0%も下回っている。14年はテロの余波で1,652万人と前年比1.9%増にとどまっている。(国土交通 省総合政策局観光部調べ)
  海外旅行者の訪問先を平成14年でみると、1位はアメリカで362万人(前年比12.1%減)、2位 中国で298万人(前年比25.2%増)、3位韓国232万人(前年比2.4%減)、4位 タイ123万人(前年比5.2%増)となっている。   外国旅行者数国際ランキング(2000年)では、日本は世界第10位 で、アジアランキングでは、マレ−シアに次いで2位である。
  最近の海外旅行の特徴は、低価格の団体ツア−よりも低価格の個人旅行が増えており、またリピ−タ−が多い。特に中国は高齢者を主体に人気が続いている。男女別 の海外旅行者の割合を見ると、平成14年は男性55.2%、女性44.8%となっている。(国土交通 省「観光白書」平成15年)
(3)
訪日外国人旅行者数は韓国が1位
  平成14年における訪日外国人旅行者数は、523万人(前年比9.8%増)で、このうち一時上陸客を除いた滞在者は510万人(前年比10.2%増)となっている。滞在者の目的別 では、観光目的が310万人(前年比13.9%増)、業務その他の目的が201万人(前年比5.0%増)となっている。
 国別・地域別の訪日外国人旅行者数ランキングを見ると、1位は韓国で127万人(前年比11.2%増)、2位 は台湾87万人(同8.7%増)、3位はアメリカ73万人(同5.7%増)、4位 が中国45万人(15.6%増)、5位香港29万人(同10.8%増)となっている。対前年比でみて伸び率が最も高いのはメキシコで97.7%増、次いでアイルランド66.8%増で、この2国は飛び抜けて高い増加率を示している。
  訪問率上位の都道府県は、平成13年度でみると、1位は東京都で56.5%、2位 が大阪府25.2%、3位は京都府15.8%、4位は神奈川県15.6%、5位 は千葉県11.2%の順となっている。
  世界各国の外国人旅行者受入れランキング(2001年)では、日本は9位 であり、1位中国3,317万人の14%に過ぎない。(国土交通省「観光白書」平成15年)
(4)
最近の観光レクリエ−ション活動の特徴
    政府が5年ごとに実施している「全国旅行動態調査」の平成8年の調査結果 をもとにした最近の観光レクリエ−ション活動の特徴は、以下のようになっている。
女性の観光旅行が増加、見られなくなった男女差
 国内、海外の旅行を問わず女性の観光旅行が増加し、昭和61年以降、国内、海外とも旅行回数に男女差がみられなくなっている。国内観光旅行では、20代の女性が男性を上回って大きな伸びを示している。海外旅行でも、やはり20代の女性が一番多く、次いで30代と50代の女性が続いている。また、幼児を連れた若い母親の海外旅行が増えているため、人数は少ないものの9歳以下(特に6歳以下)の子供が大きく伸びているのが目立っている。
国内旅行か海外旅行か
  海外観光旅行者に対し「海外旅行を選択した理由」について尋ねたところ、「海外旅行の方が国内旅行に比べて割安だから」と答えたものが57.2%と最も多く、次いで「観光資源が魅力的」40.5%の順となっている。「平成8年度観光白書」(総務省)によると、国内観光旅行が頭打ちとなった原因として、@海外旅行と比べて割高感のある価格設定、A新鮮味の乏しい国内観光資源などを指摘している。
増加する若年層と中高年層の観光旅行
 国内観光旅行の伸び率を年代別にみると、男女とも15歳までの層と50代、60代の伸び率が高い。15歳までの層は家族旅行の増加が原因と考えられている。一方、中高年層は2人だけの旅行が多い半面 、15人以上の団体旅行にも参加が多く、また、定年後の夫婦での旅行など、多種多様な旅行を楽しんでいる。
団体旅行、小グル−プ旅行から家族旅行にシフト
  職場、学校、地域等の団体旅行が減少している半面、家族の同行者があるものが増えている。同行者の種類別 構成比では、「家族同行者有り」が全体の51.8%と過半数を超えている。この傾向は、「余暇時間の活用と旅行に関する世論調査」(総理府広報室、平成11年8月調査)でもうかがえる。国内旅行の同行者は「家族」が最も多く(複数回答)44.2%、2位 が「友人・知人」36.1%、3位「夫婦」22.4%、続いて「職場・仕事関係の人」11.0%、「地域やグル−プの人」9.8%となっている。
  平成3年、6年、11年の調査を通じて割合が増えているのは、「家族」「夫婦」であり、「友人・知人」「職場・仕事関係の人」「地域やグル−プの人」は、前回調査の6年に比べ11年は減少している。特に「職場・仕事関係の人」の減少幅が大きいのが目立っている。
(5) 顧客ニーズの異なる「ホテル」と「旅館」
 「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」〔(財)東京都生活衛生営業指導センター〕によると、「宿泊する際にホテルと旅館のどちらを選ぶか」との質問に対し、「ホテル」と答えたものは54.8%、「旅館」と答えたものは43.5%という結果 となっており、男女ともほぼ同様の傾向となっている。
  また、年齢階層別に見ると「ホテル」と答えたものは20歳代では全体の4分の3を占めるのに対し、年齢が上がるにつれて、その割合は30歳代が68.9%、40歳代が47.4%、50歳代が36.6%に低下し、60歳代では全体の3分の1となっている。
  さらに、これを前回調査(平成2年)と年齢別・性別に分けて比べると、「ホテル」と答えたものは30歳代男性(62.0%→71.8%)と20歳代女性(69.0%→77.2%)、「旅館」と答えたものは50歳代の男女(男性35.0%→68.4%、女性48.0%→57.9%)で、それぞれ大幅に増加している点が特徴的である。
  次に、ホテル派と旅館派にそれぞれ「選んだ理由」を尋ねたところ、ホテル派は「プライバシーが保たれる」(41.8%)、「食事が自由にできる」(25.6%)が上位 を占め、旅館派は「くつろげる」(31.8%)、「風呂が大きい」(25.3%)の順であった。このように、ホテル営業と旅館営業では、支持年齢層や顧客ニーズに違いがあることがうかがえる。
  (注)「環衛業に係る消費生活調査報告書」は、平成7年度以降行われていない。
3 経営上の問題点
   国民生活金融公庫の「生活関連企業の景気動向等調査」によると、小規模のホテル・旅館業の経営上の問題点は、1位 が「客単価の低下・値上げ難」、2位が「利用者の好みの変化」、3位 が「店舗施設の狭隘・老朽化」、4位が「大企業の進出による競争の激化」となっている。1位 の「客単価の低下・値上げ難」は、11年10〜12月期調査以降、期を追うにつれ、他の問題点に比べ急速に割合が高まっており、客単価の低下が採算面 を圧迫していることがうかがえる。
  規模が大きい主要登録ホテルの採算面を(社)日本ホテル協会調べで見ると、赤字ホテルの割合は14年度で40.8%である。また、主要旅館の赤字旅館の割合は、(社)国際観光旅館連盟調べによると14年度47.3%で、ホテル・旅館とも依然として採算面 は厳しい状況が続いている。採算面の悪化は、規模の大小を問わず経営上の大きな悩みであり、客数の減少を料金値下げによる誘客で対応する経営が採算割れに結び付くというパタ−ンが広範囲に及んでいるといえる。
4 経営上のポイント
 

 

今後の経営を考えるに当たっては、次の3つのキーワードが考えられる。まず1つ目は、「リーズナブルな料金設定」である。国内旅行は海外旅行に比べて割高感が出ており、ありきたりのものを提供したうえで割高の価格では客足は遠のくばかりである。対価以上のサービスの提供と手ごろと感じさせる料金の設定に努め、客から「リーズナブル」だと思われるような経営をすることが必要であろう。   2つ目は、「旅先であることの演出」である。非日常的な時間を求めてやってくる宿泊客に対し、自店でさまざまなイベントを催したり、地元の観光名所を積極的に紹介するなどの取り組みは有効な手段と考えられる。観光白書による調査でも、国内観光資源の魅力の乏しさがあげられているだけに、今後は既存の観光資源に依存せず、新たな観光資源を築きあげていく姿勢も大切である。

  3つ目としては、「従来から求められてきた施設のさらなる充実」である。消費者はホテルであれば「プライバシーが保たれる空間」を求めており、旅館であれば「大きくてくつろげる風呂」を選択の大きな要素として挙げている。例えば、群馬県の伊香保温泉にあるT旅館では、平成14年に従来の大浴場とは別 に新たに趣向を凝らした男女別の大浴場を造ったところ、旅行業者に「お風呂を楽しむならT旅館」の評判が広まり、旅行業者からの斡旋による日帰りの昼食付き入浴の団体客、若い女性の小グル−プ宿泊客、母娘連れなどが増えている。大浴場の収容能力が向上したことにより、一度に観光バス3台の日帰り団体客受け入れが可能となるなど、従来に比べ入り込み数が急増している。このように、従来からある施設にもう一度目を向けて長所と短所を見直し、より充実したものとなるよう改善に取り組むことは、成長するためには欠かせない。

5 工夫している事例
(1)
  • 業  種 :観光地旅館
  • 立  地 :関東地方 交通の便の良い山間部清流沿いにある日本でも有数の温泉郷
  • 企業形態 :有限会社(資本金850万円)
  • 創  業 :昭和40年 法人設立:昭和43年
  • 設備状況 :旅館建物13棟、客室151室、定員600人
(2) 経営の現況と競合状況
  バブル期、当温泉郷は近隣にあるテ−マパ−クに来る団体客目当てに、都市型ホテルや団体客主体の大型ホテルが建設され、山間にある静かな温泉郷は、新旧50軒に及ぶリゾ−ト型温泉地帯に変質した。ところが、バブル崩壊後は、団体客中心に入り込み数が激減し、顧客獲得競争が激しくなっていった。
  当旅館は、後発の旅館であったため、従来から既存の老舗旅館すべてと競合状態にあり、さらにバブル期に新規参入した大型のホテルとの競争も加わり、地域全体の減少する入り込み客の確保を巡り、生き残りをかけた競争は一段と激しさを増した。
  当旅館は、創業時に団体客用の客室棟とコンベンションホ−ルから出発した中規模旅館であり特に大きな団体客獲得のル−トをもっていたわけではなく、独自性を発揮する売り物にも乏しく、競争激化に伴い旅行代理店へのル−ト開拓や集客に懸命に努力するが、経営環境の変化には勝てず、入り込み客は激減していった。
(3) 問題解決に向けての経営戦略の展開
   最重要の課題は、大型ホテル・旅館との競合からの脱却と、顧客の好みの変化への2つの対応策であった。そこで、構想として打ち出したのは、従来型の温泉旅館にはない独自性を強調した旅館への転換策であった。具体的な手段としては、旅館棟を分散させて変化をもたせること、もう一つは、それぞれの旅館棟の特性に応じた接客方法を開発することであった。以下に取り組んだ具体的な策略を掲げてみよう。
 まず最初に着手したのは、客層、特に女性層が小人数グル−プで旅行する傾向が増えてきている点に着目し、小人数層を対象にした純和風客室棟28棟の建設であった。
  次いで、若者グル−プや家族旅行者に人気があるロッジ風コテ−ジを40室造った。これは、近年、他の顧客から分離された場所で、誰にも干渉されずに自由気ままに自分のペ−スで余暇を過ごしたいという若者層や家族のニ−ズに対応させることを意図した施設である。
 さらに、昔ながらの長逗留の湯治をし、ゆっくり骨休みをしたいというニ−ズに応えるために、格安の湯治客用の温泉旅館を建設した。
  最後に着手したのは、宿泊料金が高くても豪華な雰囲気に浸りたい熟年夫婦を対象にした料亭風離れ家12室の建設であった。
 当旅館所有の湧出量豊富な源泉から、各室群に温泉を引き、いずれの施設にも露天風呂、貸し切り風呂を設け、多様化する顧客のニ−ズに対応している。風呂だけでなく、接客面 でも客室のグレ−ドに応じた工夫を行っている。独立的な行動を好むコテ−ジや湯治客の施設には人手をかけず、半面 、高級感を楽しみたい料亭風離れ家には、入り口、客室、浴室、座敷に至るまで生け花を生け、調度品にも配慮している。
  旅館は酸も甘いも噛み分けたベテランの従業員が存在して成り立つとの代表者の考え方により、同業旅館が固定費削減のため中高年の従業員を整理しているのに、当館では、逆に高齢の従業員に長年の経験者として重要な役割を担当してもらい、プロの応接者としての手腕を発揮させている。
(4) 複合的な効果の発揮
  コテ−ジから料亭風高級旅館までに及ぶ個性的な施設を造ったことにより、当温泉郷の大型ホテル同士が値引き競争を展開しているなかで、代表者の「安売りはしない」との経営方針が旅行代理店に浸透していった。この結果 、旅行代理店側も各グレ−ドに応じた宿泊客を紹介するようになっていった。多くの階層が好みの施設を選択できる運営により、旅行代理店経由が65%を占めるようになっていった。特に小人数グル−プの客層は年間にわたって平準化し、売上げの75%を占めるまでになっている。幅広いさまざまな工夫を具体的に実現させたチャレンジ精神が、安定した成長を生み出している。

資料

  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. 厚生労働省「衛生行政報告例」
  4. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書」平成7年度
  5. 金融財政事情「企業審査事典」
  6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本のレジャ−関連産業」
  7. 国民生活金融公庫「生活関連企業の景気動向等調査」
  8. 国民生活金融公庫「経営の工夫事例集」(旅館業)平成13年3月
  9. 国土交通省「観光白書」平成15年
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