(1) |
多様化する旅館業 |
総務庁の「日本標準産業分類」によると、ホテル・旅館営業は「旅館、その他の宿泊所」に分類される。この中には、一般
公衆に提供する営利的宿泊施設、特定の団体の会員のみに限定された宿泊施設、会社、官公署、学校、病院などの事業体付属の宿泊施設およびキャンプが含まれる。このうち旅館業は、主として短期間(通
例、日を単位)宿泊または宿泊と食事とを一般公衆に提供する営利的な事業所をいう。具体的には、旅館、ホテル、観光ホテル、ビジネスホテル、宿屋、温泉旅館、割ぽう旅館、国民宿舎、民宿、モーテル、国民旅館が含まれる。
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(2) |
減少する旅館営業、増加するホテル営業、業態による二極化が顕著
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ア) |
平成8年の全国のホテル・旅館の事業所数は64,382件で、平成6年と比べると2,370件減少し、3.6%の減となっている(総務庁「事業所統計」)。
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イ) |
参考までに厚生省「衛生行政業務報告」により業態別
にみると、旅館営業が平成6年に比べて2.7%減となっているのに対し、ホテル営業は7.1%と伸び率は鈍化しているが、一貫して増加傾向が続いている。
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ホテル・旅館の事業所数の推移 |
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昭和61年 |
平成3年 |
平成6年 |
平成8年 |
事業所数 |
73,533 |
(93.7)
68,926 |
(96.8)
66,752 |
(96.4)
64,382 |
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資料:総務庁「事業所統計調査」(平成6年は名簿整備調査)
(注) ( )内は対前回調査比である。
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(参考)業態別の推移 |
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☆ホテル営業(単位:件、%) |
☆旅館営業(単位:件、%) |
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施設数A |
客室数B |
平均
(B÷A) |
昭和61年 |
3,730 |
290,505 |
77.9 |
平成3年 |
(156.5)
5,837 |
442,211 |
72.3 |
6年 |
(118.6)
6,923 |
515,207 |
74.4 |
8年 |
(107.1)
7,412 |
556,748 |
75.1 |
|
施設数A |
客室数B |
平均
(B÷A) |
80,062 |
1,026,199 |
12.8 |
(93.5)
74,889 |
1,015,959 |
13.6 |
(96.6)
72,325 |
1,004,790 |
13.9 |
(97.3)
70,393 |
1,002,024 |
14.2 |
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資料:厚生省「衛生行政業務報告」
(注) 1 業態区分は営業許可区分による。
2 ( )内は対前回調査比である。 |
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ウ) |
また、業態別の平均客室数(B÷A)をみると、旅館営業では平均客室数が14.2室にとどまっているが、ホテル営業はこれをはるかに上回り平均客室数は75.1室を持って営業している。このように、旅館業は平均客室数でみても業態による二極化が顕著となっている。
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(3) |
頭打ちとなった旅館への需要 |
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ア) |
総務庁「家計調査年報」により、1世帯当たり宿泊料とパック旅行費(国内パック旅行費と国外パック旅行費の合計)の推移をでみると、両者とも平成4年までは基調として右上がりのトレンドを描いている。
しかし、平成4年以降は宿泊料は一進一退で足踏み状態が続き、パック旅行費は4年から7年にかけて9.1%減少したが8年には反転している。1世帯当たり宿泊料は、平成9年は23,117円で前年比2.8%増、同パック旅行費は75,767円で前年比5.8%増と宿泊料の伸びを上回っている。平成9年のパック旅行費のうち、国内パック旅行費は49,918円で前年比3.2%増、国外パック旅行費は25,849円で前年を8.6%も上回った。構成比は国内パック旅行費が65.9%を占めている。
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宿泊料及びパック旅行費の推移 −1世帯当たり年間支出額−
(単位:円) |
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昭和
55年 |
56年 |
57年 |
58年 |
59年 |
60年 |
61年 |
62年 |
63年 |
宿泊料 |
8,016 |
8,226 |
8,679 |
9,369 |
10,226 |
11,410 |
11,931 |
12,860 |
14,223 |
パック旅行費 |
37,054 |
38,860 |
41,705 |
40,720 |
47,531 |
49,851 |
52,144 |
50,613 |
57,922 |
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平成
元年 |
2年 |
3年 |
4年 |
5年 |
6年 |
7年 |
8年 |
9年 |
宿泊料 |
15,713 |
18,585 |
20,267 |
21,715 |
19,734 |
22,295 |
20,544 |
22,482 |
23,117 |
パック旅行費 |
56,975 |
65,750 |
71,077 |
78,738 |
75,604 |
72,973 |
71,330 |
72,178 |
75,767 |
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イ) |
国民1人当たりの平均宿泊数は、に平成3年以降年間5泊を上回る水準で推移してきた。しかし、平成7、8年は5泊を下回り、9年には再び5.26泊と対前年比8.0%上昇するなど、このところ不安定な推移をたどっている。旅館業に対する需要は所得水準の向上や余暇時間の増加等に伴い、戦後一貫して拡大を続けてきたが、バブル崩壊を転機として、頭打ちとなりつつあり、先行きの動向が注目される。
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国民1人当たり平均宿泊数 |
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平成
3年 |
4年 |
5年 |
6年 |
7年 |
8年 |
9年 |
宿泊料(泊) |
5.47 |
5.30 |
5.44 |
5.26 |
4.83 |
4.87 |
5.26 |
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資料:内政審議室「平成10年度観光白書」
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(4) |
売上の低迷が続く旅館業 |
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ア) |
(社)日本ホテル協会の資料によると、主要登録ホテルの客室利用率は、平成5年の67.1%を底に、6年には67.7%に上昇したが、その後7年67.8%、8年70.4%、9年70.3%と足踏み状態にある。 |
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イ) |
また、(社)国際観光旅館連盟の資料では、主要登録旅館の平成8年度の赤字旅館の割合は46.3%に及んでいるが、7年度の52.7%からみれば改善されている。また(社)日本ホテル協会の資料によると、主要ホテルの平成8年度の赤字ホテル割合は52.2%で、7年度の57.3%より少なくなっている。
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ウ) |
客室利用率の低下が旅館業の経営を圧迫している。低下の要因としては、(a)施設数が減少する一方で客室数そのものは増加しており、それだけ競合が激しくなっていること、(b)景気低迷により、企業が経費削減のため宿泊の伴う出張を減らしていること、(c)同じく実質収入の目減り感から個人の国内旅行が減少傾向にあることなどが挙げられる。
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(注) |
1. |
主要登録旅館・ホテルとは、国際観光ホテル整備法に基づき登録された旅館・ホテルのうち、(社)日本ホテル協会、又は(社)国際観光旅館連盟に加盟している先である(全体の約半数程度)。
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2. |
客室利用率=
全旅館・ホテルにおいて1年間に宿泊に利用された延べ客室数
÷365
÷全旅館・ホテルの総客室数
×100 |
(1) |
海外旅行が大きく伸び、国内観光市場は停滞傾向 |
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戦後一貫して増加してきた国内観光旅行者数は、平成3年の21,500万人をピークに減少傾向であったが、8年には前年比1.6%増と反転し、9年には20,500万人で前年比7.9%増となり、ピ−ク時の95%の水準に戻っている。しかし、トレンドとしては足踏み状態にあって、3年までの上昇トレンドの勢いがない。
海外旅行者数をみるとほぼ毎年順調に伸び、9年には1,680万人とバブル最盛期の昭和62年の2.5倍となり、国内観光旅行者数の推移と様相を異にしている。
伸びる海外観光で国内観光旅行は頭打ちの観があり、国内の旅館業は海外観光地との競争激化に巻き込まれている。
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平成
元年 |
2年 |
3年 |
4年 |
5年 |
6年 |
7年 |
8年 |
9年 |
国内旅行者数 |
17,400 |
19,000 |
21,500 |
19.500 |
20,400 |
20,200 |
18,700 |
19,000 |
20,500 |
海外旅行者数 |
966 |
1,099 |
1,063 |
1,179 |
1,193 |
1,357 |
1,524 |
1,669 |
1,680 |
資料:内政審議室「平成10年度観光白書」 |
(2) |
最近の観光レクリエ−ション活動の特徴 |
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政府が5年ごとに実施している「全国旅行動態調査」の平成8年の第8回調査結果
をもとにした、最近の観光レクリエ−ション活動の特徴は以下のようになっている。
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ア) |
女性の観光旅行が増加、見られなくなった男女差 |
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|
国内、海外の旅行を問わず女性の観光旅行が増加し、昭和61年以降は、国内、海外とも旅行回数に男女差がみられなくなっている。国内観光旅行では、20代の女性が男性を上回って大きな伸びを示している。海外旅行でも、やはり20代の女性が一番多く旅行しており、次いで、30代と50代の女性が続いている。また、幼児を連れた若い母親の海外旅行が増えているため、人数は少ないものの9歳以下(とくに6歳以下)の子供が大きく伸びているのが目立つ。
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イ) |
国内旅行か海外旅行か |
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海外観光旅行者に対し「海外旅行を選択した理由」について尋ねたところ、「海外旅行の方が国内旅行に比べて割安だから」と答えたものが57.2%と最も多く、次いで「観光資源が魅力的」40.5%の順となっている。
このことからも、国内観光旅行が頭打ちとなった原因が、(a)海外旅行と比べて割高感のある価格設定、(b)新鮮味の乏しい国内観光資源などであることが裏づけられる。(総理府内政審議室「平成8年度観光白書」)
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ウ) |
増加する若年層と中高年層の観光旅行 |
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国内観光旅行の伸び率を年代別にみると、男女とも15歳までの層と50代60代の伸び率が高い。15歳までの層は家族旅行の増加が要因と考えられている。一方、中高年層は2人だけの旅行が多い半面
、15人以上の団体旅行にも参加が多く、また定年後の夫婦でも旅行するなど、目的や交友関係に合わせて、多種多様な旅行を楽しんでいる。 |
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エ) |
郡部に居住する人の観光旅行が増加 |
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人口規模別の国内観光旅行回数の伸び率を昭和56年と平成8年とを比較すると、最大の増加率は郡部で1.7倍、続いて15万人以上の都市1.5倍、15万人以下の都市1.3倍、大都市が1.3倍となっている。海外旅行の回数を8年調査でみると、最高が大都市で0.188回、15万人以上の都市0.136回、15万人以下の都市0.093回、郡部0.088回となっており、人口規模による格差の解消は進んでいない。
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オ) |
団体旅行から家族旅行、小グル−プ旅行に変化 |
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平成8年の調査でみると、職場、学校、地域等の団体旅行が減少している半面
、家族の同行者があるものが増えており、同行者の分類別構成比では、「家族同行者有り」は全体の51.8%と過半数を超えている。
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(3) |
顧客ニーズの異なる「ホテル」と「旅館」 |
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「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」〔(財)東京都環境衛生
営業指導センター〕によると、「宿泊する際にホテルと旅館のどちらを選ぶか」
との質問に対し、「ホテル」と答えたものは54.8%、「旅館」と答えたもの
は43.5%という結果となっており、男女ともほぼ同様の傾向となっている。,
また、年齢別でみると、「ホテル」と答えたものは20歳代では全体の4分の3を
占めるのに対し、年齢が上がるにつれて、その割合は30歳代が68.9%40歳代が
47.4%、50歳代が36.6%に低下し、60歳代では全体の3分の1となっている。
さらに、これを前回調査(平成2年)と年齢別・性別に分けて比べると、「ホテル」
と答えたものは30歳代男性(62.0%→71.8%)と20歳代女性(69.0%
→77.2%)、「旅館」と答えたものは50歳代の男女(男性35.0%→68.4%、
女性48.0%→57.9%)で、それぞれ大幅に増加している点が特徴的である。
次に、ホテル派と旅館派にそれぞれ「選んだ理由」を尋ねたところ、ホテル派は、
「プライバシーが保たれる」(41.8%)、「食事が自由にできる」(25.6%)
が上位を占め、旅館派は「くつろげる」(31.8%)、「風呂が大きい」(25.3%)
の順であった。
以上のように、ホテル営業と旅館営業では、支持年齢層や顧客ニーズに違いがある
ことがうかがえる。 |
(4) |
公的施設の充実の半面、利用客数は減少 |
先の「平成10年度観光白書」によると、公的施設である公営国民宿舎の営業施設数は平成4年には279あったものが、次第に減少し、8年には256となっている。宿泊数は平成4年の438万人が傾向的に後退し、8年には370万人となっている。ただし、休憩者数は4年の453万人から8年には479万人と微増している。割高感のある民営旅館を避け、公共の施設を選択する傾向は宿泊実績が後退してるものの、根強い需要がいまだに見受けられる。
|
「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」によると、「ホテル・旅館でサービス、施設面
で何を求めるか」の質問に対し、「料金割引」「個性ある料理」「観光案内サービス」「イベント等の提供」「ゆったりした浴場」などの回答が上位
を占めたが、これは旅館の今後を考える上で重要なヒントといえる。今後の経営を考えるに当たっては、次の3つのキーワードが考えられる。
まず1つ目は「リーズナブルな料金設定」である。国内旅行は海外旅行に比べて割高感が出ており、ありきたりのものを提供したうえで割高の価格では客足は遠のくばかりである。対価以上のサービスの提供と手ごろだと感じさせる料金の設定に努め、客から「リーズナブル」だと思われるような経営をすることが必要であろう。
2つ目は「旅先であることの演出」である。非日常的な時間を求めてやってくる宿泊客に対し、自店でさまざまなイベントを催したり、地元の観光名所を積極的に紹介するなどの取り組みは有効な手段と考えられる。先の観光白書による調査でも、国内観光資源の魅力の乏しさがあげられているだけに、今後は既存の観光資源に依存せず、新たな呼び物を企画していく姿勢も大切である。
3点目としては「従来から求められてきた施設のさらなる充実」である。先の(財)東京都環境衛生営業指導センターによる調査でも、消費者はホテルであれば「プライバシーが保たれる空間」、旅館であれば「大きくてくつろげる風呂」を選択の大きな要素として挙げている。従来からある施設にもう一度目を向け、より充実したものとなるよう取り組むことも必要である。
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(1) |
宿泊料金に食事代を含めたうえで「地元飲食店めぐり」(イベント)を企画 |
地方都市にあるA旅館は大手ホテルの出現による客足の減少を抑えるため、地元の商店街、旅行会社とも連携のうえ、「地元飲食店めぐり」を企画した。これは宿泊料金に食事代を含めたうえで、宿泊客には宿の食事と数十店ある地元飲食店の料理を選択させるというものである。「宿の部屋でゆっくりと心尽くしの料理を食するもよし」、「散策がてらに町に出て、地元の店の中から好きなところを選び、宿泊客用の特選料理を食するもよし」という、このシステムは客からも好評を得ている。
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(2) |
若者客向けに1泊朝食付きでリーズナブルな料金設定、温泉設備も豪華に |
創業40数年のB旅館はニーズの多様化に対応するため、従来の1泊2食付きの和風旅館(本館)のほか別
館を新設した。この別館では特に、ガイドブック片手に積極的に観光する若者客や女性客を念頭に置いたサービスに心がけた。
具体的には地元飲食店での外食による夕食を前提として、あえて1泊朝食付きのサービス体系とし、その分、料金も7,000円弱とビジネスホテル並みに設定した。また地元飲食店に関する「お食事処マップ」を作成することにより、案内サービスも充実させた。
さらに女性を中心とした最近の温泉嗜好を汲み取るため、通常の大浴場に加えて「薬湯」や「サウナ」などの温泉設備の充実に努め、日ごろ味わえない温泉での開放感が充分満たされるように工夫した。この結果
、さまざまな年齢層の異なるニーズに対応することが可能となり、売上の増加に結びついている。
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(1) |
「旅館業法」の改正、振興法的性格が明確に |
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昭和23年に施行された旅館業法が、約半世紀ぶりに改正された。改正のポイントとしては、(a)従来から「時代にあってなく差別
的である」として業界サイドから改正が強く求められていた第1条の「……旅館業によって善良の風俗が害されることがないように、これに必要な規制を加え……」の部分の表現を削除したこと、(b)「旅館業の健全な発達を図るとともに……」と旅館業の振興についての記述が加わったこと、(c)国や地方公共団体が旅館業に対して、資金の確保、助言、情報の提供等を図ることを促した「資金の確保等」の条文が新設されたことなどが挙げられる。旅館業法の改正は業界の永年の要望もあり、今回の改正を高く評価している。
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(2) |
「シルバースター・ホテル」制度と「ナイス・イン」事業 |
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旅館業界が、現在、取り組んでいる事業に「シルバースター・ホテル」制度と「ナイス・イン」事業がある。「シルバースター・ホテル」制度とは、高齢化社会への進展を踏まえ、高齢者向けサービスの充実を目的としたものである。具体的な取り組みとしては、
(a)申し出があったホテル・旅館に対して、施設・衛生面等にかかる審査を行った後、「シルバースター・ホテル」を認定する、(b)認定されたホテル・旅館には、金融面
での助成(環衛公庫の特例貸付である「障害者・高齢者用施設貸付」の申込にかかる推薦等)
に加え、厚生省許可の統一看板表示の設置、全国規模の共同PR活動への参加などの特典が与えられるというものである。平成5年9月にスタートし、現在全国で約300軒のホテル・旅館が登録されている。
「ナイス・イン」事業とは、中規模以下のホテル・旅館におけるサービス面
の向上を目的とするものである。具体的な内容としては、(a)中小規模ならではのきめ細やかな心配りによる家庭的なサービスをベースとしたうえで、(b)宿泊料金の上限設定、
(c)「泊」料金と「食」料金の分離による明朗会計などにより、安心して泊まれる旅館づくりに取り組むものである。現在その環境づくりがなされている段階であり、近い将来、具体化していく予定である。
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- 資料
- 総務庁「事業所統計調査」
- 総務庁「家計調査年報」
- (財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書 (平成7年度)」
- (財)全国環境衛生営業指導センター「成功事例調査」
- 金融財政事情「企業審査事典」
- 中小企業リサ−チセンタ−「日本のレジャ−関連産業」
- 経営情報出版社「業種別業界情報」’98年版
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