そば・うどん店-2008年
1 概況
2008年
(1) 事業所数の推移
   総務省「事業所・企業統計調査」により「そば・うどん店」の事業数の推移を見ると、小規模(従業者1〜4人)層にあっては現状維持の状況にあり、従業者雇用の多い事業体にあっては減少傾向に転じているものの安定的に推移している。国民食として市民生活に根強い需要が窺える。
そば・うどん店の事業所数の推移グラフ
 
そば・うどん店の事業所数(従業者規模別)の推移表
(2) 施設数の推移

 そば・うどん店単独の施設(店舗)数の把握が存在しないことから、参考として、厚生労働省「衛生行政報告例」により「飲食店営業」全体の動向を見たい。施設(店舗)数としては減少傾向にあり、新規参入の営業許可と廃業の廃止取消が拮抗しつつ増減を繰り返していることから、参入し易い反面、撤退も著しい側面が窺える。

・「飲食店営業」の施設数、営業許可、廃止取り消し件数の推移

年  次

施 設 数

営 業 許 可

廃 止 取 消

平成17年度

1,503,459

162,322

165,614

18年度

1,496,480

163,026

170,005

19年度

1,479,218

154,278

171,540

資料:厚生労働省「衛生行政報告例」

(3) 最近の動向
「脱サラ」開業の興廃
   住宅街の自宅の一部を店舗として、蕎麦やうどんの暖簾を掲げる「脱サラ」営業が見られる。一般的には「そば好き」「うどん好き」が高じて、定年を機に開業することが多いようであるが、中には早期退職している場合もある。退職金の何がしかが開業資金となることが多く、家族の全面支援があればともかく、いつの間にか暖簾が降ろされている。麺類が好きだけで開業し、それで「商い」が維持できれば、「そば・うどん店」は経営に苦心することはない。
世帯当たり家計支出額は一進一退
 総務省「家計調査年報」により「日本そば・うどん」1世帯当たり家計支出額を見ると、平成15年5,359円、16年5,327円、17年5,413円、18年5,282円と一進一退であるが安定的に推移している。「中華そば」とほぼ同程度の支出額である。
中高年層が支出の中核
 総務省「家計調査年報」により世帯主の年齢階層別に「日本そば・うどん」家計支出額を見ると、「60歳台」が6,400円と最も多く、次いで「70歳以上」「50歳台」が5,500円で続く。「中華そば」が若年層であるのに対し、「そば・うどん」は中高年の支出が中核となる。

2 そば・うどん店の特性と現状

 厚生労働省の委託により全国生活衛生営業指導センターが実施した「平成19年度生活衛生関係営業経営実態調査(そば・うどん店)」から、業界の実情を探ってみたい。
(1) 創業50年以上が30%
 創業年別の構成では「50年以上」が30.7%で最も多く、次いで「30〜39年」21.3%、「20〜29年」16.9%の順となり、いわゆる老舗が多い。平成元年以降は16.0%である。
経営者の年齢階層では「60歳台」が38.7%で最も多く、次いで「50歳台」31.4%、70歳以上」15.6%の順となり、60歳以上で54.3%と高齢化が伺える。50歳以上の経営者にとって「後継者あり」は52.1%であり、4割以上に後継者が定まっていない。
(2) 「出前」が主流、来店客数平均104人
 営業形態で「出前」に差が出る。全体では「出前なし」50.7%、「出前あり」48.9%であるが、「出前あり」の営業形態では「そば店」16.7%、「うどん店」25.9%、「そば・うどん店」53.6%となり、そば・うどん併給型の麺類店では「出前」が未だに主流を占めている。
1日の平均来店客数では全体で104.5人であり、一施設当たりの平均食事単価(客単価)では913円となる。
(3) 営業時間は「8〜11時間」
 1日の営業時間は「9〜10時間未満」28.2%、「10〜11時間未満」20.6%、「8〜9時間未満」18.5%の順であり、「8〜11時間」で67.3%を占め長時間営業となっている。
開店時間は「11時台」が79.5%で最も多く、閉店時間は「20時台」が35.4%で最も多く、次いで「21時台」24.6%である。
(4) 専門店は自家手打ち
 営業形態別に使用麺の自家製、仕入れの別を見ると、「そば店」で「自家手打ち」74.2%「自家製麺機」27.3%、「うどん店」で「手打ち」51.9%「製麺機」33.3%、「そば・うどん店」で「手打ち」34.1%「製麺機」61.0%となり、いずれも「仕入れ」を上回るが、専門店では「自家手打ち」が高く、併給型店では「自家製麺機」が高い。
(5) 経営上の問題、第3位「立地条件の悪化」
 経営上の問題点(複数回答)では「客数の減少」66.3%、「材料費の上昇」48.3%が上位を占めており、第3位に「燃料費の上昇」28.9%となる。食材や燃料などの高騰が経営上の課題として浮上してきており、最近の景気変動や流通上の懸念材料が伺える。

3 「食品衛生法」による規制

 飲食、食品に関する営業については、営業施設及び用材の衛生水準の維持・向上を図るため、「食品衛生法」が昭和22年12月法律施行されている。
(1) 「食品衛生法」の目的
 「食品の安全性の確保のために、公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ること」を目的としている。
主な食品営業の他、食品、添加物、器具、容器包装等を対象に、飲食に関する衛生について規定している。
(2) 営業許可
   そば・うどん店を営業するためには、都道府県知事(保健所設置市又は特別区にあっては、市長又は区長)に届出し、許可を受ける必要がある。また、その営業施設は、都道府県条例に定める設置基準に合致していなければならない。
営業許可の有効期限は5年以内であり、継続して営業するためには更新が必要である。なお、都道府県等の条例により、施設の堅牢性、耐久性が優れている場合や食品衛生上良好と判断される施設については、条件によって更に長期の有効期限となっている。名古屋市の場合、実地審査により5〜8年の有効期限が決定される。
(3) 食品衛生責任者の設置
 そば・うどん店の営業にあっては、都道府県知事が定める設置基準に準拠して「食品衛生責任者」を置かなければならない。
(4) 提供する食品に対する規制
 食品保健行政の見地から、提供する食品等について規格基準等が設けられ、違反する食品等の販売などは禁止されている。
規格基準の設定
 添加物、残留農薬、遺伝子組換え食品や器具、容器包装等については、夫々規格基準が定められており、適応していない食品の販売は禁止されている。
表示基準の設定
 アレルギー食品材料、遺伝子組換え食品等については、夫々表示基準が定められており、適応していない食品の販売は禁止されている。
添加物の指定
 食品添加物については、成分規格、保存基準、製造基準、使用基準が指定されており、適応しない添加物の使用等は禁止されている。
(5) 食品衛生監視員による監視指導
 都道府県等の保険所には、食品衛生の専門知識を有する「食品衛生監視員」が配置されており、営業施設に対する監視、指導を行っている。

4 そば・うどん店の業界よもやま

(1) 長い歴史に息づく庶民の食文化
   引き延ばすか細切りした「うどん」は室町時代には存在したといわれ、調理の初めであったろうか。「そば切り」は江戸時代からといわれ、屋台売りでの営業が始まる。関東以北は「そば」、西は「うどん」の食文化といわれる。歴史から見れば当然、うどん食の「西」から興り、関東に都市が発達し人が集積するのは江戸時代である。また、関東は寒冷な地域特性もあって「麦」の生産が後発であり、庶民にとっては代用の「そば」が広まることになる。何れにしても、長い歴史に息づく庶民の食文化である。
(2) 類型化される経営形態
 「そば・うどん店」の経営形態は大きく4態に類型化され、成熟した業界といえる。
・専門店
そば又はうどんを専門に提供する営業形態であり、多少の飲酒を伴うこともある。「老舗」として地域に定着しているものや、新規参入も見られる。独自の食味の提供にこだわる。
・大衆型麺類店
そば・うどんを中核メニューとし、かつ丼、玉子丼、親子丼等の丼物や稲荷寿司、カレーライス、握り飯等を組み合わせた定食等を提供する営業形態で、一般的な大衆店である。
・立食店
企業の集積地や駅周辺など人口集散の顕著な立地にあって、そば・うどんを中核メニューに「早く、手軽に」食事ができ低価格でありながら、店舗や味など質的な向上が著しい。
・ファミリーレストラン
和食を幅広くメニューに取り入れ、その構成要素として「そば・うどん」を提供する営業形態である。セットメニューが中心で、画一的な側面もあるが、工夫も見受けられる。
(3) 「うどん」と言わない「きしめん」
 尾張・名古屋の「きしめん」は、三河国芋川(現・愛知県刈谷市今川町)の「芋川(いもかわ)うどん」が起源ではないかという。“ひもかわ”うどんの起源ともいわれ、細帯状の平打ちが特徴で“きしめん”に相当する。「きしめん」の語源は「紀州の者が作った“紀州めん”が訛った」「キジの肉を添え“キジめん”として藩主に献上した」など、諸説あって定まらない。茹で麺に出汁の利いた温かい汁を多めにかけ、葱とカツオの削り節をたっぷり載せた「うどん料理」である。シンプルだが自我を持ち、名古屋の地域食文化として「うどん」とは言わない。
(4) 経営のポイント
 歴史が長く成熟した業界であるが、庶民的飲食店として現代日本の市民生活に不可欠といえる。しかしながら、「客数の減少」など経営上の問題点もあり、厚生労働省「飲食店営業(そば・うどん店)の実態と経営改善の方策」から経営のポイントを探ってみたい。
経営者自身の意識改革
   顧客の意識が変化しているにも関わらず、経営者自身が変わっていないのではないか。政治・経済・社会の構造改革が進展する中、顧客ニーズ(嗜好や意識など)は多様に変化しており、これまでの成功体験や横並び意識は通用しなくなってきている。無愛想な職人気質が売り物の時代ではなくなっており、経営者自身の意識改革が求められる。
業績不振を外部環境要因に求めない
 「客数の減少X客単価の減少=売上高の減少」を経営上の問題点として挙げている。外部環境条件を悪化要因に求める経営姿勢では、根本的な問題解決につながらない。経営環境は変化するものとして視点を内部環境に切り替え、自店の姿を直視することによって経営方針を見直すことが求められる。
経営方針を明確にして計画的に取り組む
 経営者自身の創意工夫と従業員の協力によって、共有できる経営目標を明確にすることから始まる。「顧客ニーズの変化に迅速・的確に対応する戦い」に勝ち抜くには、自社の強み、特色、専門性を明確に打ち出し、販売力を高めていく差別化戦略の確立が不可欠である。また、経営戦略に基づく対応案を計画的に実践していくことが求められる。
「食の安全・安心」へ信頼関係を構築する
 食に対する「安全・安全」が問われており、売れれば全ての時代ではない。消費者の視線は厳しさを増している。顧客、取引先、従業員等に対し、経営方針を簡潔明瞭に開示し信頼関係を構築していくことが求められる。営業の基盤として信頼関係の構築こそが重要であり、「商い」の原点となる。



資料

    1 総務省「事業所・企業統計調査」

    2 総務省「家計調査年報」

    3 厚生労働省「衛生行政報告例」

    4 厚生労働省「飲食店営業(そば・うどん店)の実態と経営改善の方策」平成21年1月

    5 厚生労働省「平成19年度生活衛生関係営業経営実態調査(そば・うどん店)」

    6 全国生活衛生営業指導センター「生活衛生関係営業ハンドブック2008」

     

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