そば・うどん店-2003年
1 概況
2003年
(1)
再度増加に転じた事業所数、従業者数、事業所規模は拡大
  そば・うどん店は、通称「そば屋」、「うどん屋」と呼ばれ、主としてその場所でそば、うどんを飲食させる店をいう。従来型の店は、単独店が主流を占め、そば、うどんだけでなく、親子丼、カツ丼、天丼など丼類を扱う店が圧倒的に多い。しかし、近年はチェ−ン店による新業態の出現で提供するメニュ−の分化が進み、そば・うどん専門店、そば、うどんと牛丼のみを扱う店などメニュ−を絞り込んだ店が増えている。立地も既存店の多くは駅前や中心商店街、住宅街が多かったが、近年は車社会に対応した駐車場を有する郊外の大型チェ−ン店などが増えている。
  平成13年の全国のそば・うどん店の事業所数は35,086店で、11年と比べると560店増加、1.6%増(一般 飲食店全体0.1%減)となっており、11年の減少から再度増加に転じた。従業者数は211,452人で、11年に比べ3.7%増(一般 飲食店全体6.5%増)となり、従業者数も事業所数と同じく増加に転じている。1事業所当たりの従業者数は、6.1人(一般 飲食店全体6.6人)となっている。
  平成13年の法・個人別事業所数は、個人が22,945件(構成比66.5%)法人は11,513件(同33.5%)となり、11年に比べると個人が1.3%増に対し、法人は2.3%増と法人の伸び率の方が高くなっている。

事業所数を従業者規模別でみると、4人以下の小規模店が全体の55.6%(一般 飲食店全体62.7%)となっており、11年の65.7%に比べ減少し、総じて規模が拡大している。11年と比べた増減率でみると、49人以下の層がいずれも増加しており、従業者規模が大きくなるにつれ増加率が上昇している。ちなみに、1〜3人層は0.3%増だが、30〜49人層は13.1%増となっている。一方、50〜99人層は32.0%減と大幅に減少しているのが目立っている。


事業所数の推移 (参考)一般飲食店全体
(単位:店、%) (単位:店、%)
調査年 従業者規模 合計
1〜4人 5人以上
平成 6年 (59.4)
19,479
(40.6)
13,319
(100.0)
32,798
平成 8年 (55.8)
19,516
(44.2)
15,480
(100.0)
34,996
平成11年 (56.3)
19,453
(43.7)
15,073
(100.0)
34,526
平成13年 (55.6)
19,518
(44.3)
15,568
(100.0)
35,086
従業者
1〜4人
合計
(70.0)
326,819
(100.0)
466,835
(65.7)
299,963
(100.0)
456,420
(65.1)
288,426
(100.0)
443,216
(62.7)
277,694
(100.0)
442,883
 (注)( )内は構成比である。
 資料:総務庁「事業所・企業統計調査」

 

 

(2)

成熟状態にあるそば・うどん店、年齢別・都市別の利用状況に格差

  総務省「家計調査年報」によると、平成14年におけるそば・うどん店への1世帯当たりの年間支出額は5,483円で、前年比1.3%増となっている。7年を底に緩やかな増加傾向から11年以降は一進一退をたどっている。また、一般 外食費に占めるそば・うどんの支出割合は、昭和55年の4.6%をピ−クに後退してきたが、14年には3.5%まで低下し、主食的外食の地位 が後退傾向にある。
同調査による可処分所得の伸びに対して、そば・うどんの支出の伸びは、明らかに鈍化している。そば・うどんの支出がピ−クだった2年から14年までの12年間の可処分所得の伸び率1.03倍であるが、そば・うどんの支出の伸び率は先に見たように0.95倍と逆の方向を示しており、所得の伸びに対する支出反応が鈍い。ちなみに、昭和55年から平成2年の10年間の可処分所得の伸びは1.44倍に対して、そば・うどんの支出の伸びは1.19倍と、所得の伸びにそば・うどんの支出が反応し、増加している。
  一般論としていえることは、今後、可処分所得が増加しても、そば・うどんへの支出の増加は多くを望めず、消費者の好みの変化などから、成熟状態を迎えているといえよう。
  同調査で、平成14年について世帯主の年齢階級別にそば・うどんへの支出をみると、50歳以上の世帯の支出が多く、1位 は60〜69歳で6,296円、2位は50〜59歳で5,881円、3位 は70歳以上5,887円である。半面、支出が少ないのは29歳以下の世帯で2,978円であり、全世帯の5,483円の約半分強と少ない。これらの状況からみて、外食そば・うどん店の客層は、50歳代以上の中高年世帯が主体であり、若年世帯では他の主食的外食への嗜好を強めていることがうかがわれる。
同調査で都道府県庁所在地等の49都市別に平成14年のそば・うどん店への支出状況を支出の多い順位 でみると、1位高松市、2位宇都宮市、3位水戸市となっている。少ない順では、最も少ない那覇市を筆頭に、長崎市、鳥取市の順になっている。1位 の高松市の支出金額は12,225円で全世帯の2.2倍、最少支出の那覇市は1,021円で全世帯の約5分の1に過ぎない。総じて、そば・うどんの支出は都市別 に大きな格差がある。
2 最近の動向
(1)
既存店に食い込む新業態店
  そば・うどんの経営形態は、顧客ニーズの変化に伴って多様化している。一般 にそば・うどん店は、伝統的な一般専業店の経営形態が圧倒的な数を占めているが、近年になってからは、民芸調や山間部に残されていた昔の旧屋を移築したりして個性的な店造りに凝った店や、讃岐うどん、きしめん、うどんすきなど地方特有の味わいを売りものにした専門店が出現している。特に、ここ2〜3年は全国的に讃岐うどんブ−ムに沸いており、地元の味は地元で味わうのが最高とばかりに、首都圏から香川県まで讃岐うどんツア−が仕立てられるほどの過熱現象が起きている。
  サラリ−マンの乗降客の多い首都圏の駅周辺、駅構内などでは、早朝から営業している朝食、昼食客対象の低価格の立ち食い店そば店が多く分布している。一方では、ロードサイドに立地する駐車場完備の郊外店は、車で来店するファミリ−客のほか、グル−プ客、観光客などの流動客に焦点を合わせ、メニュ−も天ぷらなどを組み合わせたセットメニュ−中心に価格も手ごろに設定されている。これらには、在来店に比べ近代的な経営を追及したチェーン店などの新業態店が多いが、大型そば・うどん店として定着してきている。
(2)
多様化する経営形態
 そば・うどん店の各経営形態別の特徴は、下記の通 りである。
専門店
永年にわたって築いた「味」と落ち着いた店舗イメージを売り物としている。メニューは本来のそばかうどんのいずれかを専門とし、少種類の天ぷらを天種として扱うなどメニュ−の数は少ない。良質の材料を用いているので、一般 店に比べ高単価となっている。既に地元の「老舗」として評判が定着している店が多い。
  しかし、このような店舗はかつての中心商店街の中にあるものが多く、車社会化に伴う立地条件の変化に直面 している。このため、広い駐車場を備えた郊外のショッピングセンターや集客力の高いデパート内の食堂街や駅ビルなどに、最近のグルメ志向、本物志向の追い風を利用し、「老舗」ののれんを売りものにして新たに出店するなど多店舗展開を進めているものもある。これらの店では、伝統的な純和風や民芸調など日本の伝統をイメージさせるものが多いが、最近では通 行客が気軽に入れるようガラス窓を多く設置したり、なかには若者や女性層の獲得を目的として、モノトーン調や洋風の店造りとしているところもある。
兼業店
  いわゆる大衆めん類店であり、現在、そば・うどん店のなかで最も多いのがこの業態である。メニューは、そば・うどんに加え、伝統的に「つき物」としてかつ丼やたまご丼など丼物を扱かっている店舗が中心だが、最近では、そばかうどんにおにぎり、混ぜごはん(関西では「かやく」という)、いなり寿司、カレ−ライスなどごはん物をワンセットにした「そば定食」「うどん定食」などのセットメニューを扱う店舗が増えている。
  地域密着型の店舗では、かつて、店舗周辺地域の固定客を中心に出前で顧客をつかんでいたが、人手不足から来店客を待つ経営形態に移行してきていた。しかし、最近は競争激化により、一部の店では他店との差別 化の手段として、再び出前が見直されている傾向がある。
 また、既存型の大衆めん類店は、かつての好立地といわれた駅前商店街や中心商店街に位 置する店が多く、繁華街自体が駐車場不足のため人通りが少なくなり、地域環境の変化に業績が大きな影響を受けている小規模店が少なくない。
立ち食い店
  従来、立ち食い店では「早く、安く」をモットーに廉価サービスに徹してきたが、競争激化に伴い「価格」よりは「味」を求める顧客が増える傾向が強まっており、低価格が必ずしも競争条件でなくなっている。これに対応して茹でめんを避け「自家製めん」や「店内での釜上げ」、また、おにぎりも新潟県の農家直送米で作るなど、味の質的向上に工夫する店が多くなっている。立ち食い店の多くはチェ−ン店であり、清潔な店舗維持の徹底、製法の統一、仕入れのシステム化に努めるなど、ファーストフ−ド店として、機能的な経営に取り組む店が多くなっている。
そば、うどんをメニュ−に加えた和食ファミリーレストラン
 和食ファミリーレストランとして、幅広いメニュ−構成にするため、そばやうどんも提供している店舗が多い。フランチャイズ店を中心に、最近、増加している業態であって、最新厨房設備の導入、セントラルキッチンによる味付けの統一など、従来店の職人的な経営とは異なる近代的な経営を行っている。  これらの店舗は、通常ロードサイドに立地しているため、駐車場スペースや店舗面 積が広いところが多い。ファミリー層が客層の中心であるため、店内イメージを明るい色で統一したり、和食とそば・うどんなどのセットメニューを多数取り入れ、しかも手ごろな価格で提供するなどの工夫が多くみられる。洋食系のファミリーレストランと競合しているが、洋食に飽きた客層の吸収に成功している店も少なくない。
3 経営上の問題点と対応策
  そば・うどん店の経営上の問題点について最近の傾向をみると、1位 は「利用者の好みの変化」で、食生活水準の上昇から消費者の嗜好の変化が複雑になり、かつての1位 「客単価の低下」に変わり1位に浮上している。「客単価の低下」が2位 に低下したことは、そば・うどん店が独自の需要分野を確保しており、また、他の外食産業の低価格競争に巻き込まれず、価格の設定が大きく変動していないとの見方もできる。3位 は「新規参入業者の増加」であり、5位の「大企業の進出による競争の激化」と併せてみると、そば・うどん業界は、小・中堅企業入り乱れての新規参入で、競争が一段と激化しているといえよう。(国民生活金融公庫「生活関連企業の景気動向調査」)  
  今後の経営改善の方法を(社)日本麺類業団体連合会が行った「平成11年度麺類店の経営動向調査」のアンケ−ト回答(複数回答)でみると、1位 は「新しい商品の開発」48.5%、2位は「サ−ビス内容の充実」と「仕入れの工夫」が36.0%と同率で並び、次いで「従業員の質的向上」26.5%、さらに「店舗の改装・改築」21.3%となっている。
4 経営上のポイント
(1)
取り残される旧態依然の店舗、求められる消費者の好みの変化への対応
 人気を集めているのは、個性的な店造りを行っている店であり、一方では、伝統的な商売だけに業界の旧習にどっぷりとつかっている店も少なくない。漫然と惰性で営業している店は、多様化する消費者の嗜好に対応しきれず、また、他業界からの新規参入や消費者のそば・うどんの外食への支出の後退から、競争への対応策に遅れをとらざるをえない。今後、生き残るためには、消費者の嗜好がいかに変化しているか、車社会における顧客の吸収をどうするのか、消費者のニ−ズの変化に関心をもち、常に怠りなく工夫を重ねることが必要である。
(2)
具体的な経営上のポイントを参考までにいくつか掲げてみよう。〔以下に用いているアンケ−ト結果 の数字は、(財)東京都生活衛生営業指導センターの「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」によるものである。〕
店独自のお勧めメニューの開発
 オリジナルメニュ−の提供は、常連客の定着化、口コミによる新規顧客の獲得などに大きな効果 を発揮する。店を選ぶときの基準をメニュ−についてみると、1位は「セットメニュ−が多い」で全体の49.9%、2位 は「季節感を出している」が39.8%、3位は「女性向けのメニュー」が14.8%の順となっており、決め手はセットメニュ−と季節感である。
 この調査結果からみると、顧客把握のためには従来の「もり・ざる」「たぬ き・きつね」「丼物」などの単品だけを列挙したメニュ−表では、魅力に乏しいといえよう。日替りの「当日のおすすめメニュ−」を店頭に張り出すなど、店に入りたくなる雰囲気作りも大事である。メニュ−表が色あせたままテ−ブルの上に置いてある店が少なくないが、清潔感に欠けるので、新しいメニュ−表に差し替えるなどの配慮も必要である。
  消費者の好みの変化が激しくなっているだけに、いかにお客のニ−ズを汲み取るのか、そのニ−ズに合わせたセットメニューの考案が重要な時代を迎えている。メニュ−の季節的な変更、オリジナルメニュ−の開発、健康志向に対応したヘルシーメニュ−、塩分控え目メニュ−など、伝統的なメニュ−のほかに工夫されたメニュ−の投入が欠かせなくなっている。専門店であっても、専門店ならではのメニュ−の変化をもたせることが大事である。
 また、総人口に占める65歳以上の人口が2014年には4人に1人となることから、高齢者に好まれる新メニュ−の開発が差し迫った課題となる。
店内の雰囲気づくり
 外食時にそば・うどん店を利用する理由は、「軽い食事にしたい時」が50.2%と最も多いが、だからといって店の雰囲気を軽視しているわけではなく、飲食を楽しみたいというニ−ズがある。調査結果 によると雰囲気に関してどういう店を選択するかというと、「落ち着いて食事ができ、味を楽しめるなど雰囲気のよい店」が63.5%と圧倒的な割合を占めている。従来型の店では、小型の椅子の設置で膝を突き付けるほどの詰め込み主義が多いが、いかにゆったりとした空間を創出するか、落ち着いた雰囲気をいかに演出するかなどのほか、ファミリ−向けの広いスペ−スをいかに作り出すかの対応策が要求されている。
 禁煙席の設置、空気清浄器の設置などで店内の清潔感を盛り上げることも重要である。兼業店では、家族的な接客方法でくつろぎ感を出すことが、常連客をつなぎとめる手段となる。要は顧客にとって自分の店のどのような点がセ−ルスポイントなのか配慮すべきである。店の雰囲気次第が、客単価を高めるポイントとなることも忘れてはならないであろう。店舗イメージの改善による他店との差別 化が、客へのアピールにつながり、客層の拡大に結びつくのである。
従業員教育の徹底と接客サービスの充実
  パートの女性従業員のぶっきらぼうな応対、顧客がいるのに私語を交わしながら顧客に対応するなど、そば・うどん店の従業員の接客マナーに不満を持つ人は少なくない。ファミリ−レストランや外食のフランチャイズ店が、マニュアルにしたがって接客マナー水準が向上しているために、それらと比較されやすくなっている点にも注意すべきである。
  店舗イメージは、ハード(店舗の外観や内装等)とソフト(接客マナー)の相乗効果 によって構成される。どちらかが欠落してもリピート客の確保はおぼつかない。いやな経験を一度すれば、その客は2度と店の入り口をくぐらない。マニュアルづくりやミーティングにより従業員教育に取り組むとともに、絶えず顧客の立場に立って、接客マナーの向上に努めることが必要である。 「環衛業に係る消費生活調査報告」は平成7年度以降は行われていない。
5 工夫している事例−県外からの新規参入ながら地元志向の味の開発に努力−
(1)
企業概況
  • 立地  :東北地方 相当数の農家が点在する開発途上にある田園地帯の新国道沿い
  • 従業者: 3人(うちパ−ト1名)
  • 創業  :平成7年 * 店舗数:1店
  • 客席数:55席 * 従業者:9名(家族従業員3名、パ−ト6名)
  • 駐車場:25台
(2)
ビジョンは「味、価格、量、雰囲気」の四位一体
  郊外型の脱サラそば店。平成7年開業以来、業歴は浅いが「味、価格、量 、雰囲気」のビジョンの下に、業績を順調に伸ばしている。工夫している事柄は、次のとおりである。

事柄は、次のとおりである。
  開業時に、鎌倉市で修業した味を創業地の東北地方の嗜好に合わせるため、無料のサンプルによるモニタリング試食会を15日間連続で実施。店主自らが、顧客と直接対話で得た意見を参考にしながら、毎日、調理内容や品質改良等に取り組み、地域密着の味を開発していった。顧客の意見をアンケ−ト調査で実施しなかったことが生の情報入手に役立ち、味など調理面 の改善に大きく貢献した。
  近隣は、開発途上地域であり集客面で極めて不利な立地にあった。サラリ−マン当時の経験を生かし、開業当初から新聞、テレビ、ラジオ、雑誌等の取材を積極的に取り込み、マスコミによる自店の存在をアピ−ルして近隣地域への周知度を短期間に高めた。
そばは、そば粉9、つなぎ1の手打ちそばで、そば粉は信州、茨城、岩手産を各3分の1ずつ配合し、風味に富んだ味を引き出している。また、他店より価格は安く、量 は若干多い目にするなど、独自性を打ち出している。
パ−ト6人を雇用して満席の状態でも、待ち時間を10分以内に厳守。このことが“待たせない店”として顧客から評価されている。
  従業員の心のこもった接遇と、店主が顧客に気さくに話かけることが、店の雰囲気をなごやかにし、再利用客の確保に寄与している。
 以上、時代にマッチした「味、価格、量、雰囲気」の三位 一体ならぬ四位一体のビジョンを営業面で着実に実現させていることが、口コミとなって、不況下ながら売上げ増に弾みをつけている。
資料
  1. 総務省「事業所・企業統計調査」
  2. 総務省「家計調査年報」
  3. (財)東京都生活衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活査報告書」平成7年度
  4. 全国生活衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
  5. 金融財政事情研究会「業種別貸出審査事典」第9次新版
  6. 中小企業リサ−チセンタ−「日本の飲食業」
  7. 国民生活金融公庫「生活関連企業の景気動向調査」
  8. 国民生活金融公庫「経営の工夫事例集」飲食店営業(そば・うどん、すし店)平成14年3月
  9. 中小企業動向調査会「業種別業界情報」2003年版
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