食肉・食鳥肉販売業-2008年
1 概況
2008年
(1) 事業所数の推移
   総務省「事業所・企業統計調査」により、食肉販売全体から食肉卸売業を分離した「食肉小売業」について事業所数の推移を見ると、減少傾向は依然継続している。最近はやや横這い状況となり、減少に歯止めがかかりつつあるかに見える。
食肉小売業の事業所数(従業者規模別)の推移表
 
食肉小売業の事業所数の推移グラフ
(2) 「食肉販売業」の施設数、営業許可、廃止取消件数の推移
   厚生労働省「衛生行政報告例」により「食肉販売業」の施設数、営業許可、廃止取消件数の推移を見ると、参入の営業許可件数は大きな変動のない状況であるのに対比して、廃業件数は増加傾向であり許可件数を上回って推移している。事業所ベースでは減少傾向が収まったかに見えるが、施設数では減少が続いている。

・「食肉販売業」の施設数、営業許可、廃止取消件数の推移

年  次

施 設 数

営 業 許 可

廃 止 取 消

平成17年度

150,397

11,549

13,469

18年度

148,324

11,885

13,958

19年度

144,981

11,373

14,716

資料:厚生労働省「衛生行政報告例」

(3) 最近の動向
「食の安全・安心」を揺るがす産地偽装
   輸入ウナギを国内産と偽装したことで流通業者が摘発され、肉製品加工業者が原材料を偽って製品出荷して検挙され、老舗料亭の食材牛肉産地偽装が発覚して経営破綻に至った。消費者を偽る様々な偽装事件が頻発し、流通業界全般に国民の厳しい視線が集中している。「食の安全・安心」が叫ばれ続けて久しいが、結果は既報のとおりである。消費者のブランド志向偏重も問題であるが、流通を担う業界にとって、一部業者の心ない軽挙は市場を混乱させてしまう。モラルハザードは悪い結果しか生まない。
「牛肉」の消費需要は減少傾向
 総務省「家計調査年報」平成18年により世帯当たりの生鮮肉年間購入数量を見ると、「牛肉」が6,891gで減少傾向、「豚肉」が17,305gで横這い、「鶏肉」が11,985gで横這いの状況にある。支出金額では「牛肉」20,705円、「豚肉」23,249円、「鶏肉」10,871円となっており、このところ横這いで推移している。「鶏肉」の平均単価が低下傾向を示している。

2 食肉・食鳥肉販売業の特性と現状

 厚生労働省の委託により全国生活衛生営業指導センターが実施した「平成16年度生活衛生関係営業経営実態調査(食肉販売業)」及び「同経営実態調査(食鳥肉販売業)」から、「食肉・食鳥肉販売業」の現状を探ってみたい。
(1) 進む経営者の高齢化
 食肉販売業における経営者の年齢階層を見ると、「60歳台」が41.7%で最も多く、次いで「50歳台」27.0%、「70歳以上」17.5%と続く。50歳以上で86.1%となる。
食鳥肉販売業における経営者の年齢階層を見ると、「60歳台」が46.4%で最も多く、次いで「50歳台」20.4%、「70歳以上」18.8%と続く。50歳以上で85.6%となる。
経営者の年齢階層は、食肉販売業、食鳥肉販売業ともに50歳以上が85%を超えており、高齢化が進んでいる。50歳以上での後継者有りは食肉販売業56.1%、食鳥肉販売業51.9%であるが、共に約30%が後継者無しとしている。
(2) 卸売との併業が半数以上
 食肉販売業における営業形態では、卸売業と小売業の併業が59.3%を占め、小売り専業を大きく上回る。食鳥肉販売業においては併業が48.6%、卸売業のみが19.9%であり、食鳥肉の卸売りのウエイトが高い。長年の営業継続の過程で併業による仕入コストの軽減を含めた経営効率化の努力が伺える。
(3) 店舗の立地は商業地が大半
 食肉販売業の店舗立地は「商業地」51.1%で最も多く、次いで「住宅地」34.2%と続き、合計85%となる。食鳥肉販売業においても同様であり、消費者の身近な立地での営業が主体である。複合商業施設内の立地は3%程度で、食品スーパーとの競合を回避する状況にある。小規模な事業体では独立店舗や公設市場等での営業が主体であり、規模の大きな法人営業では百貨店やスーパーへの入居が増加する。
(4) 10〜12時間の長い営業時間
 小売部門の営業時間は、商業地、住宅地ともに「10〜12時間」が最も多く60%前後を占める。開店時刻は「10時台」が60%であり、長時間営業となっている。卸売部門の開店時刻は小売部門開店前に作業が必要であり、早朝からの始業となる。
(5) 経営上の問題点
 食肉販売業における経営上の問題点(複数回答)は、「客数の減少」が70.6%と最も多く、次いで「施設設備の老朽化」41.1%、「諸経費の上昇」38.4%と続く。
食鳥肉販売業では、「客数の減少」75.7%、「諸経費の上昇」48.1%、「施設設備の老朽化」47.0%となり、同様の問題点を挙げている。

3 「食品衛生法」による規制

 食品、飲食に関する営業については、営業施設及び用材の衛生水準の維持・向上を図るため、「食品衛生法」が昭和22年12月法律施行されている。
(1) 「食品衛生法」の目的
 「食品の安全性の確保のために、公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ること」を目的としている。
 主な食品営業の他、食品、添加物、器具、容器包装等を対象に、飲食に関する衛生について規定している。
(2) 営業許可
   食肉・食鳥肉販売業を営業するためには、都道府県知事(保健所設置市又は特別区にあっては、市長又は区長)に届出し、許可を受ける必要がある。また、その営業施設は、都道府県条例で定める設置基準に合致していなければならない。
営業許可の有効期限は5年以内であり、継続して営業するためには更新が必要である。なお、都道府県等の条例により、施設の堅牢性、耐久性が優れている場合や食品衛生上良好と判断される施設については、条件によって更に長期の有効期限となっている。名古屋市の場合、実地審査により5〜8年の有効期限が決定される。
(3) 食品衛生責任者の設置
 食肉・食鳥肉販売業の営業にあっては、都道府県知事が定める設置基準に準拠して「食品衛生責任者」を置かなければならない。
(4) 提供する食品に対する規制
 食品保健行政の見地から、提供する食品等について規格基準等が設けられ、違反する食品等の販売は禁止されている。
規格基準の設定
 添加物、残留農薬、遺伝子組換え食品や器具容器包装等については、夫々規格基準が定められており、適応していない食品の販売は禁止されている。
表示基準の設定
 アレルギー食品材料、遺伝子組換え食品等については、夫々表示基準が定められており、適応していない食品の販売は禁止されている。
添加物の指定
 食品添加物については、成分規格、保存基準、製造基準、使用基準が指定されており、適応しない添加物の使用等は禁止されている。
(5) 食品衛生監視員による監視指導
 都道府県等の保健所には、食品衛生の専門知識を有する「食品衛生監視員」が配置されており、営業施設に対する監視、指導を行っている。

4 食肉・食鳥肉販売業の業界よもやま

(1) 生鮮肉の家計支出に地域性
   総務省「家計調査年報」により主要都市別の生鮮肉「平成17〜19年年間平均家計支出」を見ると、主たる生産地に主たる消費地が重なる「地産地消」の傾向が鮮明に表れる。冷凍設備などの流通手段が未整備であった頃からの、地域の食生活や食文化が浮かび上がって興味深い。
生鮮肉の合計では関西圏中心に西日本
   全国平均59,572円であり、都市別で「和歌山」80,519円が第1位、以下「大津」「津」「神戸」「京都」「奈良」「北九州」「広島」「大阪」「徳島」の順となって、関西圏を中心に西日本が圧倒的に多い。
「牛肉」は関西圏を中心に西日本
 全国平均20,966円、都市別で「津」42,098円が第1位、以下「和歌山」「神戸」「大津」「京都」「徳島」「奈良」「大阪」「北九州」「広島」の順となって、関西圏から西日本に多い。
「豚肉」は関東圏を中心に東日本
 全国平均23,454円、都市別で「甲府」26,967円が第1位、以下「さいたま」「福島」「仙台」「川崎」「横浜」「新潟」「東京区部」「千葉」「秋田」の順となって、関東圏を中心に東日本に多い。
「鶏肉」は九州地区を中心に西日本
 全国平均10,972円、都市別で「福岡」14,818円が第1位、以下「北九州」「大分」「鹿児島」「大津」「熊本」「佐賀」「京都」「宮崎」「山口」の順となって、九州地区を中心に西日本に多い。
(2) 加工肉の家計支出
   総務省「家計調査年報」により主要都市別の加工肉「平成17〜19年年間平均家計支出」を見ると、全国平均16,239円、都市別で「富山」18,912円が第1位、以下「横浜」「大津」「さいたま」「川崎」「金沢」「福井」「名古屋」「山形」「千葉」の順となって、生鮮肉に見られない北陸地区が上位にある。加工肉はハム、ソーセージ、ベーコンその他であり、地域性があるとは考えられないが中部圏から東日本に幾分家計支出が多い。
(3) 経営のポイント
 生鮮食品の買い回り先が食品スーパーにシフトして以来、野菜、魚介、食肉等の専門小売店は経営環境に大きな変化が生まれている。実態調査の結果を踏まえ、厚生労働省「食肉販売業の実態と経営改善の方策」及び「食鳥肉販売業の実態と経営改善の方策」から、経営のポイントを探ってみたい。なお、経営上の問題点がほぼ同じであることから取りまとめて検討してみる。
顧客ニーズの再認識
   食肉に関わる諸問題が噴出し、安全性の問題や業界の体質まで消費者に知られるようになって、消費者対応は今後も避けて通れない。商売の原点である「顧客ニーズ」の現状を再認識することが求められる。
・価格志向
家計支出の動向からも商品価格に敏感であり、品質とのマッチングが問われている。
・高品質志向
単に低価格だけでは納得しない消費性向が顕著になっており、品質選択に厳しくなっている。
・安全健康志向
健康志向に加え、「安全・安心」に関する消費者の厳しい視線は、今後も継続する。
少子高齢化への対応
 若年層や高齢層を中心に非調理世帯が拡大しつつあり、惣菜への需要が増大する可能性がある。必要とする年齢層に適応したメニューの開発が求められ、食品スーパーにない専門店としての独自性を発揮した差別化戦略が問われるが、ここに活路の一つが存在している。
損益分岐点の検証
 売上の急激な回復を望むには困難な状況であり、商品の流れ等を今一度見直し、損益分岐点を検証する必要がある。売上増大を妄信する状況ではないことを認識する。
「食の安全・安心」への対応
 輸入牛肉の残留農薬、BSE感染牛、偽装表示等、業界を取り巻く経営環境は厳しい状況が続いており、消費者との信頼関係の再構築が喫緊の課題である。従業員と共有する適正な経営方針を明確にし、顧客、取引先等関係者に開示するなど、「食の安全・安心」への真摯な取り組みが求められる。



資料

    1 総務省「事業所・企業統計調査」

    2 総務省「家計調査年報」

    3 厚生労働省「衛生行政報告例」

    4 厚生労働省「食肉販売業の実態と経営改善の方策」平成17年10月

    5 厚生労働省「平成16年度生活衛生関係営業経営実態調査(食肉販売業)」

    6 厚生労働省「食鳥肉販売業の実態と経営改善の方策」平成17年10月

    7 厚生労働省「平成16年度生活衛生関係営業経営実態調査(食鳥肉販売業)」

    8 全国生活衛生営業指導センター「生活衛生関係営業ハンドブック2008」

     

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