食肉・食鳥肉販売業-1998年
1 概況
1998年
(1) 淘汰と経営合理化の時代を迎えた食肉小売店

  食肉専門小売店は、いわゆる生鮮3品専門小売店の一角を占め、野菜、鮮魚専門小売店と並び家庭料理の素材を提供する主婦の買物にもっとも密着した専門店である。戦後、食の洋風化や日本経済の成長に伴う所得水準の高まりから消費生活の高度化が進み、食肉消費は従来の豚肉に加え牛肉の消費が急速に拡大した。とくに豚肉の消費が主体であった地方にも牛肉の消費が普及していったため、食肉専門小売店は全国的に増加していった。しかしながら、共稼ぎ世帯の増加に伴い、主婦の生鮮3品を用いた料理機会の後退や、外食産業の発展による外食の増加などから家庭での食肉の消費が後退し、食肉購買量 は次第に減少していった。また、主婦の買物行動も、日・祭日にス−パ−で生鮮3品を含めたワンストップショッピングによるまとめ買いに変化していったため、大型小売店と生鮮3品の専門小売店との間で業態間競争が激化し、旧来型の食肉小売店は、厳しい経営環境に置かれ、淘汰と経営合理化の時代を迎えている。
(2) 激減の食肉小売業者数

  平成9年の全国の食肉小売業(食鳥肉小売業を含む)の事業所数は21,046店で、6年に比べ14.9%も減少している。昭和54年の43,874店をピークに減少傾向をたどり、ピーク時の5割の水準まで減少している。このうち食鳥肉小売業は3,187店あり、6年に比べ14.0%減少、ピークの昭和49年(8,445店)の約4割弱の水準にまで後退している。
 また、商店数の推移を従業者規模別でみると、従業者数4人以下の店が全体の82.6%と大半を占めており、6年との比較では14.5%減、この3年間に2,955店が転廃業している。5〜9人層でも6年に比べ17.2%減と従業者4人以下を上回る減少率となっている。
(3) 減少幅拡大の売上高

  食肉小売業(食鳥肉小売業を含む)の平成9年の年間販売額は9,748億円と6年に比べ18.0%の減少となっている。長年増加してきた年間販売額は、昭和57年をピ−クに一進一退をたどったが、平成6年は3年に比べ大きく落ち込み12.6%減、9年は6年比で18.0%減とさらに減少率が拡大している。このうち食鳥肉小売業の年間販売額は762億円であり、6年に比べ12.6%減となっている。
 食肉小売業(食鳥肉小売業を含む)の9年の1店舗当たり年間販売額は4,632万円で、前回調査を2.0%下回った。これを、食肉小売業と食鳥肉小売業とに分けてみると、前者は5,031万円(前回比4.0%減)、後者は2,392万円、(前回比1.6%増)となっている。
 なお、食肉卸売業の平成9年の年間販売額は7兆3,692億円と6年に比べ6.7%増となっている。牛肉の輸入自由化と円高の進行による価格破壊、健康志向による食生活の変化等が影響し、6年は3年に比べて9.4減だったものが盛り返している。
食肉小売業(食鳥肉小売業を含む)の商店数の推移
(単位:店,%)
調査年 従業者規模 合計
1〜4人 5〜9人 10人以上
昭和 60年 (85.5)
30,936
(12.3)
4,434
( 2.2)
801
(100.0)
36,171
昭和 63年 (83.6)
27,561
(13.7)
4,506
( 2.7)
912
(100.0)
32,979
平成3年 (84.3)
24,293
(12.8)
3,695
( 2.9)
820
(100.0)
28,808
平成6年 (82.3)
20,349
(13.8)
3,423
( 3.8)
951
(100.0)
24,723
平成9年 (82.6)
17,394
(13.5)
2,835
( 3.9)
817
(100.0)
21,046

食肉小売業(食鳥肉小売業を含む)の年間販売額等の推移

昭和60年 昭和63年 平成3年 平成6年 平成9年
年間の販売額
(億円)
13,537 13,384 13,611 11,885 9,748
1店舗当たり年間販売額
(万円)
3,742 4,058 4,725 4,807 4,632
資料: 通産省「商業統計表」
(注)( )内は構成比である。
2 食品衛生法に見る食肉販売業の仕組み
(1) 落ち込み目立つ食肉消費需要
  総務庁「家計調査年報」によると、平成9年における生鮮肉(牛肉、豚肉、鶏肉、合いびき肉のほか他の生鮮肉を含む)に対する1世帯あたりの年間の消費支出は69,788円で前年に比べ4.0%増加し、近年のピ−クである平成3年の78,549円以降平成8年まで5年間連続の減少に歯止めがかかっている。しかし、9年の支出金額は昭和53年以降3番目に低い水準となっている。
  同資料により種類別に長期的な支出金額の推移をみると、牛肉は昭和56年に豚肉の支出金額を追い抜き、それ以降、牛肉は生活水準の向上と輸入自由化により右上がりの増加トレンドをたどったが、平成3年を境に下降をたどり、漸く9年に反転した。
 豚肉は昭和55年をピ−クに63年まで下降し、63年を底に再度緩やかな増勢に転じたあと再度下降をたどり、平成7年を境に再び上昇している。支出金額が長期的に下降トレンドをたどりながら循環を描いている点は、豚肉の消費需要にhog−cycle(成育食用豚の支出循環)の存在がうかがわれ、牛肉と異なる支出パタ−ンとなっている。鶏肉は、牛肉とほぼ同じ足取りをたどっている。
 豚肉、鶏肉は50年代をピークに消費が伸び悩み傾向にあり、総じて一般 家庭における消費需要は頭打ちの感がある。他方、外食産業の発展や肉を使った加工食品の増加により、近年業務用の需要は増加傾向にある。
 
牛肉・豚肉・鶏肉の支出金額の推移 (単位:円)
(1世帯当たり年間支出金額)

昭和 
50年
55年 56年 57年 58年 59年 60年
牛 肉 18,566 28,313 29,171 30,978 30,426 31,365 31,324
豚 肉 25,233 28,630 29,116 29,521 29,202 28,981 27,296
鶏 肉 11,394 14,375 14,641 15,111 14,606 14,794 14,242


昭和 
61年
62年 63年 平成 
元年
2年 3年 4年
牛 肉 31,836 33,181 33,986 34,444 35,570 36,779 36,100
豚 肉 26,440 25,000 23,886 24,048 24,421 24,136 24,063
鶏 肉 13,791 13,037 12,230 12,052 12,221 12,530 12,487


平成 
5年
6年 7年 8年 9年
牛 肉 34,101 32,905 32,385 29,425 30,632
豚 肉 22,922 21,413 21,175 21,980 22,875
鶏 肉 11,800 11,212 11,020 11,322 11,654

資料:総務庁「家計調査年報」
(2) 都市別格差が著しい食肉支出
    平成9年における生鮮肉の1世帯当たり年間の消費支出(総務庁「家計調査年報」)を都市別 にみると、消費支出が多い順では、神戸市、和歌山市、大津市、少ない順では前橋市、長野市、盛岡市となっていて、最大支出の神戸市の支出金額98,690円に対して最少支出金額の前橋市は42,529円と神戸市の半分以下である。
 牛肉では、支出金額の多い順では、和歌山市、神戸市、京都市、少ない順では札幌市、前橋市、長野市である。最少支出の札幌市13,873円は最大支出の和歌山市58,623円に対して約4分の1に過ぎない。豚肉では多い順に横浜市、甲府市、福島市、少ない順では山口市、高知市、長崎市である。最大支出の横浜市29,334円に対して最少支出の山口市15,405円は約半分であって、牛肉ほどの格差はない。調査対象都市別 の分布は、牛肉が西高東低、豚肉は東高西低の傾向にある。
(3) 食肉の購入先はス−パ−が6割
    「季節別食肉動向調査」(日本食肉消費総合センター 平成6年12月調査)によると、食肉の購入先は、スーパーが6割近くを占め、生協が2割弱を占めている。専門店では牛肉が3割弱であるものの、豚肉・鶏肉では2割前後となっており、高級和牛肉の販売等商品の差別 化を図りうる牛肉に対し、豚肉・鶏肉は価格競争が激しく大型店における購買行動が強くなっている。
 また、購入先の選定理由をみると、専門店は「品質」が60%、「好きな量 が買える」が45%となっているのに対し、スーパーは「ワンストップショッピング」が35%、「安い」が29%、「品数が多い」が22%となり、利便性・経済性が大きな理由となっている。
(4) 銘柄鳥ブーム
    全国展開の大手スーパーで独自の銘柄鳥を扱う動きが弾みとなって、銘柄鳥の大衆化が急速に進んできている。全国食鳥新聞によれば、平成7年以降小売店で扱っている銘柄鳥の種類は、それ以前に比べ50%以上も増加しているといわれており、ブロイラー中心の単一チキン文化から、地鶏・銘柄鳥の多様なチキン文化への兆しが見えてきている。銘柄鳥の代表としては、名古屋コーチン、三河どり、あか鳥、一風変わったところではハーブチキンなどがある。
3 経営上のポイント
 従来、食肉小売専門店は、日用品・最寄り品的な存在基盤を確保してきたが、大型店の進出等による競争環境の変化により、客待ちの経営から攻めの経営への転換が求められている。そのためには、経営の基本方針として、従来にも増して顧客ニーズを踏まえた自店の独自性を発揮していくことが必要である。
4 繁盛店の事例
【1】 常に新しいものに挑戦、経営方針は「顧客本意の店」
立地条件:商店街に位置せず立地は良くない。
(1) 良質の牛肉が中心商品

すべて枝肉仕入れ。「タチ」に出向いて調査し、良質なら産地農協経由で直接仕入をする。
(2) 積極的な商品開発でヒット商品を数多く開発

・自家製特製コロッケ 40年間研究の成果で地元の話題商品となっている。店頭で揚げて提供。
・特製焼豚 特注の調理機を使用し、燃料は桜の木のチップを使用独自のタレは秘伝。
・近くの飲食店と
 ステ−キ肉を共同開発


このステ−キ肉は、その飲食店のメインメニュ−になっている。
・チキンそう菜群 ショッピングセンタ−内店はチキンに特化し30種類を陳列。若い主婦に人気がある。
(3) 知恵を絞った販売方法

・売出し ロ−スの日、テキ肉の日、最優秀賞牛肉の日等を予め定めチラシで周知。
・包装パック 肉をビニ−ル袋に入れ酸素を抜きガスを注入して7〜10時間の鮮度保持が可能。
・陳列の工夫 高級感を演出するためブロックでの陳列を主体とする。
・試食会 隔月毎にマネキンによる産地明示の焼肉試食会を実施。客の反応分析の結果 を仕入れの改善に活用している。
・カ−ド会員制の導入 ショッピングセンタ−内店のみ実施。多種類のサ−ビスを実施。顧客名簿は1000名程度。
(4) 人材育成、接客には厳格

従業員をあらゆる機会を通じて研修に参加させている。

気持ちの良い明るい挨拶の励行を徹底。
【2】 起死回生の挽回策は自家製加工品で。製造技術の勉強が思わぬ効果 を
立地条件:1キロの距離に大型ス−パ−出店で、売上高はみるみる半減。
(1) 大型店が取り扱いしていないオリジナル商品の開発、多いヒット商品

大型店と競合の主力商品の鳥肉は縮小。商品差別化を徹底するため試作研究を継続

商品差別化のメイン 20種類の自家製ハム、ソ−セ−ジと30種類の手作りそう菜
(2) 消費者から信頼を得るための工夫−−「納得販売」

自家製の信用を得るため製造場所を通行人から見えるようにガラス張りに改造

販売の際必ず試食をしてもらい、納得したら買って貰う。これが口コミとなり贈答品としての需要も増加
【3】 肉をベースにした新業態開発による経営の活性化
販売力低下 従来型の精肉店による経営では、販売努力を重ねても来店者数が減少
(1) 来店者数が減るなかで一念発起

新しい事業をやる気持ちで「肉」と向かい合い、長年蓄積してきた技術サービスと 顧客の結び付きを課題にして模索を続ける。

「小売店でおいしい肉料理」のコンセプトにたどりつき「食肉→おかず→ごはん→お弁当」へと発想を膨らませる。
(2) 営業の原点は心をこめた「手づくり」・「手助け」

・発想 お客様の料理時間を省き食事のお手伝いをする。さらに、食肉から弁当に至る各段階ごとに当店の味を楽しんでもらう。
・食肉素材段階 山形牛を素材とした特製味噌漬、庄内豚を素材とした庄内産豚肉味噌漬(主にギフト用)の開発。
・食肉調理段階 おかずは手間暇がかかるものを優先する。半調理・料理済の手作りそう菜約10種、オードブル2種、そして弁当約20種(「手作り」を守るため一日200食に限定)。味つけは化学調味料を使わない。
・販売促進 広告チラシ等、値引き販売は一切行わず、10年間値上げなし。口コミながら顧客へ確かな信頼を築き、業績は好調に推移している。
【4】 商品と販売戦術で大型店との差別化を図る
立地条件:人口2万人足らずの小さな商圏内にあり、大手スーパー等競合店が7店に及ぶ激戦地。
(1) アイデアは若夫婦、販売は家族全員で各々の長所を生かす

大正年間創業で創業者・息子夫婦中心の家族従業員で構成、職人気質の創業者は商品の仕入・加工を、若い感性にあふれた息子夫婦は商品づくりのアイデアを、販売は家族全員でというように、各々の長所を生かしつつ家族経営の持ち味を遺憾なく発揮している。
(2) 商品の差別化

大型店等競合店が取扱わない「馬さし」の販売を主力。牛肉は和牛と特殊ルートによる輸入肉に品揃えを限定し、商品のロス率の低下、効率化にも目を向けている。

惣菜類は、レトルトビーフカレー(パック入り)をはじめとし自家製品を主力におき、独自性を強調している。
(3) 販売上の差別化

メンバーズカードの発行により、一定の買上げ額に達するごとに、サービス券の発行を実施。また、遠距離からの車によるまとめ買い客向けには、ステーキ一枚一枚の真空パックによる包装、冷却剤を同封した馬さし等鮮度品の販売にきめ細かい心配りを行っている。
【その他の特徴事例】
(1) コミュニケ−ションの場を提供

 来店する顧客には近所の奥さん、お年寄りなどが多く、立ち話をゆっくりしたい客同士のために店内の窓際にソフア−とテ−ブルを置き、コミュニケ−ション・コ−ナ−を設置したところ好評。
(2) 顧客の身になって対面販売

 お年寄りは店に気を遣い少量では申しわけないという気持ちから余計買おうとする傾向がある。普段から家族数にも気配りしているので、必要量 に留めるようアドバイス。良心的な店として人気がある。
(3) 他店に真似できない品づくり

 「専門店ならその店独自の精肉、加工品でフアン層を把握しなければ生き残れない」が信条。牛・豚とも限定銘柄を枝肉で仕入れている。ハム・ソ−セ−ジ、そう菜からソ−スに至るまで自家製という特異な商品づくりを徹底し、店舗も純和風スタイルで両開きのオ−トドア−でモダンなイメ−ジを築いている。
(4) 食肉小売店兼弁当店の新業態への取り組み

 共稼ぎの増加という時代の変化に応じ、食肉小売店らしい肉料理弁当を提供している。一般 の持ち帰り弁当と異なる点は、隣に陳列してある精肉がそのまま弁当の原材料となっていることである。したがって、食材はすべて一流品を使用している。1人分ずつであるとそう菜でも何でも買いにくいし、また高くついてしまう。そこで、もっと顧客にとって便利なものは何かを追求した結果 、この肉料理弁当が生まれた。
 

    資料

    1. 通産省「商業統計表(一般飲食店)」
    2. 総務庁「家計調査年報」
    3. (財)東京都環境衛生営業指導センター「環衛業に係る消費生活調査報告書(平成7年度)」
    4. (財)全国環境衛生営業指導センタ−「成功事例調査」
    5. 金融財政事情「企業審査事典」
    6. 経営情報出版社「業種別業界情報」’98年版
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